第三話
球団からオファーがあるといわれているピッチャーの末長君。
ピアノで全国コンクール銀賞に輝いた須田さん。
末永君とも、須田さんとも出席番号が隣なので仲がいい。同じ高校にも進学する。
一方で私、鈴木実は、勉強は中の中、運動も中の中、なんら取り柄はない。
あるのは、このおなかの肉をもうちょっとどうかしたいだとか、おいしいものを食べたいだとか、ありふれた欲である。
もちろん、玉の輿もありつきたい。
ちなみに私の家、鈴木家は、弟、お母さん、お父さんを含めた4人家族である。年に一回ぐらい旅行にいったりして、仲はいいと思う。
お父さんも仕事を頑張っているし、現状に不満など……あるけど、言ってはいられない。ちなみに私のフルネームは日本一多い。
みのりんという可愛らしいあだ名は気に入っているのでよしとする。
そんな私も高校受験を終えて、今日で晴れて高校生となる。
高校デビューを飾ろうと思ったが、私がやると痛い子になりそうなので思うだけで留めておく。
入学式に浮かないように入学前に情報戦を一戦交えた。
知り合いの先輩に、何が必要か聞いたり、友達と連絡をとりあって皆と同じような格好にした。
鏡を覗くと、そこには紺色を基調としたセーラー服を着た、至って普通の新一年生が映されていた。
変に垢抜けてもいないからこんなもんで大丈夫だなと軽く息を吐いた。
ローファーを履き、いってきますと、先輩に言われた通りの持ち物、友達と一緒の格好で家を出た。
―――
先輩のうそつき。
新しい校舎の校門で、ふわふわした雰囲気の中、私はそうつぶやいた。
新しく同級生になる皆は私が両手に抱えている10キロはあろう教科書類をまったく持っていない。
浮いている。まずい。いきなりやらかしてしまった。
まずは、この独りという状況から脱出しなくてはと、周りを見渡すが、友達、知り合いはまだ来ていないようだった。
余裕をもって登校したのが仇になったか……と俯くと、急に視界が青空に向き、白色の教科書たちが宙に舞った。