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異世界恋愛・短編小説

白い結婚をした後、夫の浮気調査をした結果

作者: 地野千塩
掲載日:2026/09/13

「俺は君を愛するつもりはない。お互い、世間体と打算の上で成り立っている結婚でいいだろう」


 結婚式の時から、夫に言われている言葉。今、思い出してもため息が出てくる。無表情で、冷たい声で言うんですもの。


「はぁ……。退屈だわ」


 今の私、一応伯爵夫人という立場だけれども、何もやることがない。編み物も刺繍も読書も飽きてしまった。だから夫のハンネス・アルベルトの言葉なんて思い出したのかもしれない。


 ハンネスと私、それ以外はろくに会話もしたこともない。結婚といっても、指一本触れられたこともないし、いわゆる白い結婚というもの。そもそもハンネスは、ろくに屋敷に帰って来ない上、何人もの女性と浮気しているという噂。顔は整っていたが、無表情だし、とっつきにくい。正直、怖い。


「はぁ……」


 ハンネスの氷のような目を思い出すと、さらにため息が出てくるが、私にも事情があった。


 男爵令嬢として何不自由なく育った私だけれども、父が事業に失敗し、多額の借金を負った。おかげで私の縁談もままならず、弟は落馬で怪我をしてしまい一生歩けなくなった。母は実家に逃げてしまい、私も没落令嬢だとクスクス笑われていたわけだが、なんとハンネスから縁談の話があった。しかも父の借金も肩代わりしてくれるという。


 正直なところ、浮気男とか無表情で怖いという悪評しかないハンネスとの結婚は躊躇したが、相手も同じ貴族で、年齢、容姿、血筋がつりあう「都合の良い令嬢」を探していたらしい。つまり利害が一致し、結婚まで至ったというわけ。


「いくら白い結婚でも、あんな浮気性という噂の男性と結婚して良かったのかしら……」


 そんな後悔まで浮かぶが、生活は何不自由ない。食べ物も服も湯水のように豪華なものを与えられている。今住んでいる屋敷だってメイドが何人もいて、お姫様みたいな扱いを受けているけれど……。


 そんな時だった。メイドの一人が弟からの手紙を持ってきた。


「ありがとう」


 すぐに手紙を読むが、弟はなぜかハンネスを絶賛していた。一緒に遊んでくれたり、色々気にかけてくれる等、弟の手紙を読みながら、首を傾げた。


 弟は歩けないことで貴族の連中から見下されていたし、半分引きこもりのような生活を送っている。なんでハンネスがそんな弟を気にかけるんだろう。ハンネスは弟に良くしたところで何の得もないじゃない。


「本当に酷い噂通りの人? 浮気性の男性がする行動じゃないわ……」


 やっぱり退屈だから変なことばかり考えてしまうのだろうか。


「でもなんか気になるわ……」


 ということで、噂が本当確かめることにした。浮気や愛人調査専門の探偵事務所も噂で聞いていた。確かフローラ・アガターという公爵夫人が経営している探偵事務所だ。フローラもかつては浮気をされている身分だったが、愛人調査のスキルを活かし探偵業を始めたという公爵夫人だ。


「へぇ、夫の浮気調査をしてほしいのね」


 フローラは美人だが、悪役女優のようなキッツイ顔立ちだ。私、すっかりフローラの顔の圧に押されてしまったが、なんとか事情を話す。


「なるほど。ハンネス・アルベルト。伯爵ね。確かに噂では浮気性とか、冷たい男とか聞くけど……」


 なぜかフローラはあんまり乗り気では無さそうだが、依頼を引き受けてくれた。しかも、調査結果も早かった。一週間後には調査結果報告書を受け取っていた。


「な、何これ……」


 それを読みながら、困惑した。予想外のことが書いてあったから。


 結果から言うと、ハンネスは浮気をしていなかった。フローラの調査でもその証拠は一つも出なかったというが、噂はわざと彼が流しているという。


「うそ、ハンネスも探偵だったの……?」


 そんな事実に目が丸くなってしまう。ハンネスもフローラと同様、浮気や不倫調査専門の探偵だったが、そういった噂を流していた方がターゲットに怪しまれない上、「同類」として接近もできるからだという。


「正直、同業者のハンネスのことなんて調べなくてもわかったけどね」


 調査結果報告書を渡してくれたフローラは苦笑しいた。こうしてみると顔立ちがキツいだけで、中身はそうでも無さそうだ。ハンネスももしかしたら、フローラと同じかもしれない……?


「妻のあなたには悪いことしているって言っていたわ、ハンネス。良かったわね、あなたは私と違ってサレ妻じゃなくて」

「い、いえ……」


 フローラの目元、少し寂しそうに見えるのは気のせいだろうか。


「それにハンネス、あなたのこと、可愛い令嬢だとも言ってたわぁ。あなたを舞踏会で初めて見かけた時……」

「フローラ夫人、今、なんて?」


 フローラは「しまった!」と言う風に口を押さえていたが、ハンネスが私のことを可愛い令嬢……?


「聞き間違いですかね?」

「知らないわ。あなた、こんな浮気調査を私に依頼するんじゃなくて、噂を鵜呑みにするんでもなくて、本人に直接聞いてみたらどう?」


 フローラは睨み、圧をかけて来た。忙しいから今すぐ探偵事務所から帰って欲しいという。


「わ、分かりました! ありがとうございます!」


 フローラにお礼を言うと、早歩きで探偵事務所を後にする。本当のハンネスは一体どんな人なのだろうか。


 もう退屈じゃない。夫に会いたくて仕方ないから。

ご覧いただきありがとうございます。作中のフローラ主役の毒妻探偵という話から作った短編でもあります。毒妻探偵はライトなミステリーですが、本作はほのぼの恋愛ものです。

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