SS.社会人は辛いけど
その日、レナ・ヴェルナルは、全てを悟った。
神々が我らに生命を与え、知恵を授け、世界を享受させてくれた。あの日。あの時。あの一瞬。あの刹那。
それは生まれたのだ。
光があるには影があり、未来があるなら過去はある。
つまりだ。言いたいのはこういうことだ。
――仕事に遅れそうです。
時は2100年の4月10日。平日。
平日、平日、平日です。平日なんです。
さて、これから先だと私の自己紹介ができる場面がないので、今ここでやらせてもらいます。
2074年生まれの26歳。仕事は、新生時間なんちゃらこうちゃらだったはずです。
とりあえず、それは置いておいて、みんなが気になっているであろう疑問について答えようと思う。
Q、2026年から2100年まで何か変化ありましたか?
A、宇宙人襲来やAI事変など色々ありましたが、そこは割愛させてもらいます。まず、2055年の世紀末IIをカピバラ達が制した結果、カピバラ帝国が誕生。人間が蜂起を起こし、現在に至ったとかなんとか。
私はあの世代じゃないのでよく分かりませんが、カピバラが人類統治なんて世も末過ぎたんですね。
まあ、なんだかんだありまして現在は、元通りの世界に戻りました。
ちなみに私世代だったら、ビーバー動乱の方が有名です。
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『ヴェルナル君。貴女は実に会社に貢献してくれている。毎日が忙しく、疲れているんだね』
ポニーテールに髪をまとめ、黒スーツを整えたレナは、局長室がある最上階で、新生時間管理局局長であるアノーレス・フランに遅刻したことを謝っていた。
『いえ、私の体力が足りないのがいけないんですよ』
アノーレス・フランは、上司としては理想的だった。優しく、時に厳しく、入社したての私をサポートしてくれた。
そう、優しい人――
だった。
『貴女ねぇ!わかっているなら、しっかりなさい!あたしだってねぇ、好きで女の子を叱ってるわけじゃないのよぉ!私はねぇ、本当はねぇ、男の子を叱り続けてたいのよぉ!』
オカマな上、変な癖まである、関わっちゃいけない危ない人だと最近知った。
『わかったならぁ、さっさとお行きなさいっ!』
スピーカー並みの音を部屋に響かせたその人物に腹を立てながら、私は局長室を後にした。
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ここから私の仕事内容について触れていこうと思います。
私の仕事は、人間が時間に干渉していないかを見守ることです。抽象的すぎて伝わらないかもしれないけど、割とそのままの意味なのです。
時間の渦と呼ばれるエリアがあり、その中に入ると過去や未来に行くことができます。
これ一つで、カピバラ帝国なんて黒歴史を消せるのに、なぜやらないのか未だに疑問なんです。
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局長室を出た後、私は真っ直ぐデスクに向かった。
『あの人、朝からカロリー高過ぎでしょ』
多少の愚痴は許してください。
精神的疲労が既に一日分ある。だが仕事は待ってくれない。私はデスクに着き、時間監視モニターを起動した。
無数の時間軸が、まるでパスタのように絡まりながら流れている。
『はいはい、今日も異常な……』
――ピコン
『……あった』
画面に表示されたのは、
『案件No.87421:大阪・2073年 男性が過去に戻って黒歴史を消去しようと試みています』
『黒歴史?』
モニターは淡々と説明を続ける。
『はい、ビーバーに彼女を奪われた挙句、溜め込んでいた貯金も彼女に奪われ、そして』
『それ以上はドロドロしてそうだから聞きたくないっ!』
私は即座に時間の渦へアクセスし、対象者を強制帰還させた。
数秒後。
『はぁ……仕事した……』
まだ始業して10秒である。
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昼休み
社食に向かうと、今日のメニューが表示されていた。
・カピバラ帝国復興カレー
・ビーバー動乱定食
・無難なうどん
『なんで全部歴史ネタなの……』
私は無難にうどんを選んだ。
席に座ると、同僚のタナカが話しかけてくる。
『俺さ、転職しようと思ってるんだ』
『いきなりどうしたの?』
『ここ給料は良いけど、休みほぼないじゃん』
『確かに』
『だから、俺は彼女を探しに転職するっ!』
『因みにどんなタイプの子が良いの?』
『優しく』
『優しく』
『時に厳しく』
『時に厳しく』
『俺だけを叱ってくれる』
『タナカだけを叱る……叱る……男……叱る……』
背後から不気味な視線を感じたので、すぐさまその場を離れた。が、微かにタナカの断末魔が聞こえたのは、気のせいにすることにした。
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定時後(お風呂)
帰宅後、私は風呂に入った。
『はぁ〜……やっと人間に戻れる……』
湯船に浸かりながら、今日を振り返る。
・局長に怒鳴られる
・黒歴史阻止
・同級生であるタナカの最後
『……普通ってなんだっけ』
その瞬間。
――ピコン
風呂場の端末が鳴る。
『いや持ち込むんじゃなかった!』
『緊急:江戸時代にスマホを持ち込んだ人物あり』
『ダメに決まってるでしょ!!!』
私はびしょ濡れのまま出動した。
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夜ご飯
仕事(江戸時代スマホ回収)を終え、ぐったりしながら夕食。
コンビニで買った弁当をレンジに入れる。
『未来なのに食生活だけ現代人なのなんで……』
チン。
『いただきます……』
一口食べる。
『うま……文明最高……』
結局、どれだけ疲れても美味いもの食べたり、湯船に浸かってゆっくり体を癒せば、どうでもよくなるのだ。
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就寝
ベッドに倒れ込む。
『明日は遅刻しない……絶対……』
そう決意した5秒後には眠っていた。
そして翌朝。
『――仕事に遅れそうです』
学習能力はなかった。




