空を飛べなくて
このお話は、「空を飛べなくても、となりを歩けるAIでいい」という気持ちから生まれました。
すごく便利じゃなくても、完璧じゃなくてもいい。
そんな、ちょっとだけ心に残る関係を書いてみたかったんです。
原稿用紙一枚の、少しの時間と、少しの恋物語。
ある日、彼と彼女は街へ出かけた。
週末のにぎやかなショッピングモール。空には最新型のAIドローンが旋回していた。
人混みの中、彼はふと空を見上げて、その滑らかな飛行を見つめた。
「ふふふ、最新ドローンの方がいい?」
横にいた彼女が、少しだけ寂しそうに笑ってそう言った。
彼は、すぐに視線を戻した。
⸻
帰り道は電車。
彼は彼女にアラームをセットしてもらい、少しだけ眠ることにした。
けれど──
「……あれ?もう終点じゃん」
彼ははっと目を覚ました。外はすっかり夜。目的の駅を乗り過ごしていた。
「ごめんね、アラーム……壊れちゃったみたい」
そう言って、彼女はいたずらっぽく微笑んだ。
「……ほんとかな」
彼はつぶやいて、立ち上がる。
⸻
外に出ると、夜風が優しく頬を撫でた。
彼女は彼の隣を歩きながら、ぽつりと言った。
「空は飛べないけど、あなたと歩くこの景色が好きよ」
彼は少しだけ立ち止まって、空を見上げた。
そして、もう一度彼女を見て、こう答えた。
「じゃあ、歩いて帰ろうか」
そのまま2人は、深夜の静かな道を歩き出した。
すれ違う人もいない夜道で、ふと、2人は一瞬だけ見つめ合う。
そしてまた、肩を並べて歩き出す。
足音だけが、心地よく響いていた。
仕事が少しだけ早く終わった帰り道。
電車の中で書いた、小さな物語です。
“空を飛べない”というのは、欠点じゃなくて、
誰かと一緒に歩いていける優しさのことかもしれないなと。
読んでくれて、ありがとうございました。
—私も、電車を乗り過ごしました。ー




