ep.5 協力者
昼休み。あれほど人気だった焔を差し置いてクラスの人気は輝夜一人に集まっていた。
「すごい美人だよなー!」
「……そうだな」
周囲の席はクラスメイトに占領され、使えないでいる。
焔はと言うと相変わらず学校中では人気だが、このクラス内では輝夜に引けを取っていた。
だがこいつは純粋だ。嫌味なんて言った所を見たことが無い。むしろ、騙されていないか少しだけ心配になるくらいだ。
「なあ、志」
「なんだ?」
「お前、今朝輝夜さんになんか言われていなかったか?」
「あー……」
言葉を濁して輝夜の方をちらりと見やる。普通の女子高生の様に同級生と楽しげに話しているが、その正体は焔と同じ戦隊側の人間だ。
そして表舞台には立てない理由と言うのがあるらしい、と言うかいつ説明とやらをしてくれるのかすら知らない。
それを加味して言えることは……。
「気のせいじゃないか?」
誤魔化すことだ。
下手に言い訳をしても事実確認をされれば噓がばれる。ならここは誤魔化した方が後々楽になる。
「でも」
「第一、俺と輝夜さんは初対面だ」
「いや、隣の席だから話しかけられたってこともあるんじゃ」
「気のせいだよ、気のせい。俺はなんも話しかけられちゃいねえよ」
「でも、あれ」
焔が人混みを指さす。
そこには当然輝夜がいるのだが、何故かにこやかにこちらに手を振っている。
輝夜の注目が俺に移った事で周りに集まっているクラスメイトから嫉妬の眼差しが向けられる。
(あいつ隠す来ねえのかよ!)
「向こうはお前に挨拶してくれているみたいだぞ」
「……嫌な挨拶だな」
協力してほしいと言う割には俺との関係性を隠す気は無いようだ。
書き終わった反省文を持って席を立つ。
「どこ行くんだ」
「職員室、それから保健室にサボりに」
「ほどほどにな、広ちゃんに怒られるぞ」
「うるせえよ」
本当は嫉妬の眼差しをこれ以上浴びたくないが理由だが、席を立つならついでに昨日できなかった仕事の続きをしに保健室でサボろう。
「――失礼します」
「おや、志くんじゃないか、またサボりかい?」
「仕事です」
「そうかい」
反省文を提出した後、保健室に入る。
椅子に腰かけている月読先生と軽く話す。
黄金 月読。保健室の先生でこの学校屈指の人気を誇る先生だ。
黒いロングの髪に赤い瞳、青白い肌と生徒を思いやる優しさから人気だ。特に女性でありながらイケメンとも称される程の整った顔立ちから女子生徒からの告白が絶えないらしい。
「そんじゃ、いつも通りベット借りますね」
「それなんだが、君にお客さんだよ」
「客?」
保健室にサボりに来たと言うのに客が来ていると言うのはおかしい。先生なら職員室に行った時に何か言うはずだし、焔なら教室を出る前に話していた。他なら広なのだが、あの真面目な性格ならこんな昼休みギリギリに会いに来るはずはない。
心当たりがあるのは……。
「だーれだ」
突然、背後から視界を塞がれる。その声には聞き覚えがあった。
「……なにしてるんですか、輝夜さん」
「正解。クイズだよ」
両手を離し、回り込んだ輝夜が視界に写る。
「クイズって……」
「それより、君が気になってた闇の力についてだけど」
「ちょっ!おま!」
まったく何を考えているのかわからない。今、この場に居るのは俺と輝夜、そして第三者である月読先生まで居るのに、いきなり説明を始めるとか……本当に何を考えているんだ。
「あ、大丈夫だよ。ママは私達戦隊側の人間だから」
「ま、ママ?」
「そう、ママ」
「ママだよー」
(先生、既婚者だったのかよ!!)
突然の告白に驚く。
確かに名字は同じだが、輝夜と月読先生が親子関係だったとは……ってそこじゃねえ!。
「待て!戦隊側って事は、月読先生は……先代バクレツゴールドってことか!?」
「違うよ、ママは怪人」
「かい……え?なんて?」
「怪人」
「怪人……マジで?」
「うん」
更なる衝撃が襲ってくる。
怪人?月読先生が?ならなんで戦隊側にいるんだ。志は混乱する。
(お、落ち着け……きっと何か事情があるんだ、そうに違いない……!でなければ俺は今すごい事態に巻き込まれている事になる)
そのすごし事態に巻き込まれている志は一度深く深呼吸をして落ち着く。
「どうしたの?いきなり深呼吸して、すごい汗だよ」
(お前のせいだよ!)
出掛かった言葉を飲み込み、内心ツッコミを入れる。
いや、ほんと、お前のせいだよ……。じゃなきゃ怪人だって告白されて落ち着こうとしねえよ。
「それじゃあ、本題に入るよ」
俺が少し落ち着いたのを見計らって切り出す。今、この空気を支配しているのは輝夜だ。赤い綺麗な瞳を真っすぐ向ける。
この空間に居るのは俺含めて三人。これで全員らしい。
「まず、君が知りたいと言っていた”闇の力”についてだけど、実は私も詳しくは知らないんだ」
「……は?」
「ママとおじさんから教えられただけだから本当に知らないんだ」
開口一番、輝夜の言葉に志は呆然とする。
(知らない?じゃあ、なんで俺はこの力に選ばれたんだよ。それにおじさんって誰だ?)
「混乱してるみたいだね」
「当たり前だろ!そもそも月読先生から教えられたって、先生なにもんなんだよ……」
いろんなことが頭の中で混ざり合う。月読先生は怪人で何かを知っている。そしておじさんと呼ばれる人物も同様に輝夜も知らない事実を知っている。
「わたしかい?わたしは元・ゴクアクの怪人だよ」
「ゴクアクの……じゃ、じゃあなんで戦隊側に」
「逃げて来たんだよ」
「逃げて……来た?」
「そう、逃げて来た。元々わたしは彼らとは敵対関係にあったんだ」
「だってママは初代バクレツゴールドだからね」
「初代……バクレツゴールド」
淡々と進む話に恐怖すら感じる。
月読先生はゴクアクから逃げて来た怪人で、初代バクレツゴールド。そして娘の輝夜は現役のバクレツゴールド、数日前の俺が聞いたら正気を疑う話だ。
「だいたいの話はわかった。要するに俺の質問は先生が答えてくれるってことか」
「そう言うこと」
「なるほど、じゃあ先生」
「なにかね?」
「”闇の力”ってなんですか」
「それは”怪人の力”だよ」
「怪人の……力?」
先生の口から発せられた言葉はにわかにも信じられない情報だった。
驚く俺を差し置いて先生は懐かしむように答えて行く。
「昔、わたしが初めてバクレツゴールドになった時、暗黒戦士の力を使っていたのは怪人さ」
「じゃあ、なんで俺が選ばれたんだ……」
「さあ?それについてはわたしもお手上げだ」
両手を上げ、首を横に振る。
この力の正体について知ってはいても、俺が選ばれた理由までは知らないらしい。
「さて、これで君が知りたかった”闇の力”については教えたから今度はこっちの要件からね」
「おい、待て。まだ戦隊の情報を――」
勝手に話を進める輝夜を制止して戦隊の情報を聞き出そうと肩に触れる。
「あー、そうだったね。でも、その前にまずは志くんが本当に信頼できるかどうかのテストだけさせてくれないかな?」
「テストだと」
「そう、テスト。私から誘っておいてなんだけど、志くんって戦隊側からしたら危険な存在なんだ」
「危険って、この力が怪人の力だからか」
「そういうこと」
怪人の力と呼ばれる闇の力をもつ俺の存在は戦隊側からすれば未知数の存在だ。それに先生の話を聞く限り元々はゴクアク側の力らしい、簡単には信用できないって訳だ。
「テストって言っても、すぐに終わるわけじゃない。こっちの匙加減で合格か否か決められる」
「要するに、気にいられるかどうかって話か」
要するに媚びを売れるかどうかの話、戦隊のテストに比べれば楽な条件だ。
「それで、テストって言うのは何をするんだ」
「それはね」
輝夜の手に握られているスマホには『おじさん』と表示された通話画面が映し出されていた。




