ep.4 転校生
翌日。珍しく早めに家を出た俺は、昨日輝夜と別れる前の出来事を思い出す。
「それじゃあ、また明日説明するね」
「明日……って、うわ!」
謎の黄色い閃光に包まれて輝夜は姿を消してしまった。
結局、輝夜が何をしたかったのか、また明日とはどういう意味なのか、あれから一睡もできずに朝を迎えた。
(昨日と同じ場所に行けってことか?)
意味は解らないが、要するに今日のどこかで輝夜を見つけて説明を聞くって事か……いや、結局それって俺が動かなきゃいけないってことか。
ダルい。おかげで、今凄く眠たい。
§ § §
思い足を引き釣りながら、教室のドアを開ける。
「おはよー」
「おはよう!志!」
席へ着くとクラスの中心人物たる焔に挨拶する。
予想通り、焔に話しかけようと学年中の生徒が朝から教室に集まってきている。
席について机に突っ伏すと眼鏡をかけた黒髪の少女に話しかけられる。
「志!あなた、なんで昨日学校に来なかったの!」
「そうかっかすんなって委員長」
「あのね、私だって怒りたくて怒ってるわけじゃないの、あなたが心配だから怒っているの!」
「はいはい、心配どうもー。俺はマイペースにやるとするよ」
「幼馴染だからって調子に乗らないでちょうだい!」
「のってないって……」
さっきから怒っている眼鏡の少女は幼馴染の二院 広。このクラスの学級委員長にして、見ての通りの気難しい性格、クラスからは真面目ちゃんと呼ばれている。
「いいえ!調子に乗ってるわ!その証拠にグレてるじゃないの!」
「グレてねえよ」
「昔はもっと真面目だったでしょ!」
「過去は過去、今は今だ。俺は俺らしく生きるとするよ」
説教がましく怒ってくる広を適当に流す。そうすると決まって広の方が折れてくれる。
「はぁ……もういいわ」
「落ち着いたか?」
「誰のせいだと……!」
まずい、収まっていた火に油を注いでしまったらしい。
「あ、そう言えば昨日先生が探してたわよ」
「知ってる。さっき滅茶苦茶怒られた」
「あなた、懲りないわね……」
教室に来る前、校門前で職員室に呼び出され、担任の山中先生に叱られて反省文を出された。
「今回は10枚だと」
「10って……4000文字じゃない!」
「そうだよ、あーめんどくさい」
別に今回が初めてと言う訳ではない。今までに何回か学校をさぼったり遅刻してきたことは何回かあった。
そのたびに叱られ、反省文を書かされてきたが10枚を出されたのは今回が初めてだ。まさに新記録と言うやつだ。
「あー、ダル」
「ほら、やる気出して、手伝ってあげるから」
カバンから渡された反省文を取り出し、広と一緒に書き始める。
用紙は10枚。1枚書くごとに広に確認してもらう方式だ、こうでもしなければやり直しをくらいそうだ。
「終わらねー」
「何言ってるの、手を動かしなさい」
「へーい」
書き始めてから3分。3枚ほど書き上げたところでめんどくさくなる。
反省の為とはいえ本当にめんどくさい。いつもの様に数枚程度ならすぐ終わるのだが、2桁は流石にめんどくさい。
「そう言えば聞いた?」
「なにがだ」
「転校生が来るって話」
「転校生?」
めんどくさそうにしていたのが伝わったのか、広が話題を持ち出す。
「そう、このクラスに今日転校生が来るらしいのよ」
「へー」
「……興味なさそうね」
「そりゃまあ、誰も話題にすら挙げていないからな」
焔の席に視線をやると微笑み返された。
あの人気に比べたら、転校生の話題なんて些細な事なのだろう。なんせ、地球を守ってくれる戦隊様だ、見ず知らずの転校生より人気なのも頷ける。
「焔くんと比べれば、ね」
「それで、その転校生って言うのはこの空いている隣の席の事か」
「そうなんじゃない」
書き終わった4枚目の反省文を広に渡し、新たな反省文を渡される。
負の無限(残り半分)ループだ。
「男?女?どっちだ」
「知るわけないでしょ」
無駄口を叩いているとHRの呼び鈴が鳴る。
騒がしかった教室は静まり、各々は自分の席に着く。
(これはどっかでサボって続きを書くか)
「おはよー」
終わらない反省文を机にしまい、前を向く。
黒板側のドアが開き、担任の山中先生が挨拶しながら教壇に立つ。
委員長である広は号令の合図を出す。
「起立!気をつけ!礼!」
どこの学校でもある一連の動作を終え、HRが始まる。
「えー、今日はHRを始める前に一つ連絡がある。今日からこのクラスに転校生が来る」
転校生と言う言葉に少しだけクラスがざわつく。
反応からして本当に知らないようだ。
(コイツら焔の情報に気を取られ過ぎて、知らなかったのかよ……)
「先生!その転校生って女の子ですか!」
「黙れ、北村」
「えー……」
山中先生の辛辣な返しにお調子者の北村は困惑する。
見た目こそはおさな……若々しい先生だが、性格はだいぶと厳しい。
「入れ」
廊下に向かてそう言うと、教室に一人の少女が入ってくる。
「っ!?」
金色のロングヘア―に青い瞳、整った顔立ちに凛とした佇まい。そして滲み出る異様な雰囲気、その姿に誰もが息をのむ。
教室のあちこちから小さく誉めたてる声が聞こえてくる。容姿だけ見れば間違いなく美少女だ……。
「自己紹介」
「はい」
黒板に白いチョークを使い綺麗な字で名前を書く。
クラス中の注目が一点に集中する。
「黄金 輝夜です。どうぞ、よろしくお願いします」
自己紹介を終えると同時に一つ、小さな拍手が起こる。それにつられて二つ、三つと次々に拍手の嵐が教室を包み込む。
間違いない。昨日会った少女、輝夜だ。この異様な雰囲気、怪人とは違う正体不明の未知による怖さは間違えようがない。
「席なんだが、あそこの空いている席な」
コツコツと足音をたて、指定された隣の席に輝夜が近づいて来る。
(なんで、あの女がここに……)
内心かなり驚いているが顔に出さない様ポーカーフェイスを決め込んでいる。
即席とは言え、我ながらナイスな反応だ。これなら、向こうに気付かれにくいはずだ。
興味ない風に無視を決め込んでいると隣の席に座った輝夜がこっちを見つめ微笑む。
「よろしくね、こ・こ・ろ・くん」
「!」
全身に悪寒が奔り、ゾッとする。
その言葉に意味は無いのだろうが、昨日と同じ光の無いその目とあざ笑うかのような行動は俺自身が何かを試されている感覚にさせる。
いつもなら気分が良くなりそうだが昨日の今日だ、考え方が違う。
突如現れた異様な雰囲気を放つ少女、俺はそんな彼女の手のひらで踊らされているのかもしれない。




