第9話 デート(2)
「ようこそ、お越しくださいました」
庭園へと到着すると、さっそく庭園の人と思しき女性に出迎えられる。
おそらく、この人がレオン様が手配したという案内の人なのだろう。
「ああ、今日はよろしく頼むよ。
妻はここに来るのが初めてだから、そこも考慮して案内してほしい」
「かしこまりました。
では、さっそくご案内させていただきます」
そう言って歩き出す女性に続き、レオン様と一緒に庭園内へと歩き出した。
「この庭園を見て回った感想はどうだったかな?
もし期待外れだったというのであれば、午後からの予定を変更することも可能だけれど」
女性の案内で庭園内を巡り、昼食をとるために庭園内の東屋へと移動したところでレオン様から感想を求められる。
「そうですね、色々と珍しい花なども見れて楽しかったです。
なので、午後からも予定通りでお願いします。
レオン様のお気に入りの場所というのも気になりますし」
「そう、楽しんでもらえたなら良かったよ。
じゃあ、午後も予定通りに庭園の散策をすることにしようか。
午後からは二人きりでの散策にするつもりだから、これまであまりできていなかった色々な話も聞かせてもらいたいしね。
――まあ、準備もできたみたいだし、まずは昼食にしようか」
私の答えに対し、レオン様が少しほっとしたような表情を見せた。
何だろう、こういうことには色々と慣れていそうなのに、レオン様も不安だったりするのだろうか?
そんなことを思いつつ、アリアたち侍女が用意してくれた昼食へと手を付けていった。
「ようやく、君の手作りのお菓子を味わえることになるんだね」
昼食もとり終え、食後のお茶の時間となったタイミングでレオン様がそんなことを言い出す。
いや、そんなに期待されるほどのものではないですが。
「そんなに期待されてしまうと、少し申し訳なくなりそうです。
本当に、極々普通のものですから」
「いや、女性から手作りのお菓子をもらうのは初めてだからね。
自分でも思っていた以上に、わくわくしていたみたいだ」
「……学園にいた頃にいくらでもプレゼントされたのではないですか?」
何というか、本当に楽しみにしているように見えて不思議に思ってしまう。
アリアの話でも、以前のレオン様の話でも、学園にいた頃はかなりモテていたというような話だった気がするのに。
「あー、まあそれなりにちやほやされたりはしていたけれどね。
そういったプレゼントをもらうようなことは、ほとんどなかったんだよ。
まあ、特に手作りのものともなると、色々と面倒なことになりかねないから仕方ないだろうけれどね」
「そうなのですか?
物語などだと、割と気軽にプレゼントしているイメージでしたが」
「まあ、僕が微妙な立場だったということもあるけれど、物語ほど気軽にプレゼントしたりということはないよ。
貴族だと個人というより家同士という感じになったりもするから、特に手作りのものみたいな特別感のあるようなものはないね。
それに、当時はあまり周囲と積極的にかかわることもなくて、人を遠ざけるような感じだったこともあるし。
だから、遠巻きに容姿を褒められたりというのはあったけれど、直接プレゼントをもらったりということはなかったんだよ」
あー、確かに手作りのものとなると、かなりの特別感というか親密さが出てきそうな気がするね。
そう考えると、いくら学園の中だからといって気軽にプレゼントしたりということはできないか。
というか、学園にいた頃は周囲を遠ざけるような感じだったんだね。
いやまあ、来るときの話だと、今はそういったものも吹っ切れているみたいだけれど。
「まあ、そういうわけで、女性からの手作りの何かというのは初めてなんだよ」
「そうですか。
……正直、レオン様が初めて味わうのにふさわしいかはわかりませんが、どうぞお召し上がりください」
そう言って、私が作ってきたお菓子をテーブルの上へと並べてもらう。
本当に何の変哲もないカップケーキで、唯一公爵家で用意された食材の良さで戦えるかどうかというレベルのものだ。
まあ、その食材の良さですら、公爵家に生まれたレオン様相手には一切通用しないのだけど。
「うん、美味しいよ」
並べられたカップケーキの一つへと手を伸ばし、それを口にしたレオン様が笑顔でそんな感想をくれる。
その後も、レオン様は二個三個とカップケーキへと手を伸ばして笑顔を見せてくれた。
かなり不安だったけど、どうやら私が作ってきたお菓子に、とりあえずは満足してもらうことができたみたいだ。




