第7話 やりたいこと
レオン様との昼食を終えた後、自室へと戻って一息ついたところで気がついた。
結局、私の趣味を見つけるという当初の目的が果たせていないではないかと。
「うーん、結局何をすればいいんだろう?」
「どうかされましたか?」
そうして、改めてやりたいことを考えていると、お茶を用意してくれたアリアから声をかけられる。
「いや、結局私の趣味というか、やりたいことは見つからなかったなと思って」
「そういえば、プリムラ様の趣味を見つけたいという相談でしたね」
「そうなんだよね。
なのに、何故かデートの約束をするだけで終わってしまったから、どうしようかと思って」
まあ、今後のレオン様との関係を考えると、デートをすること自体は問題ない。
ただ、それはそれとして、当初の目的である私のやりたいことが見つかっていないというのが問題なだけで。
「では、旦那様がおっしゃっていた刺繍やガーデニングというのはいかがですか?
ガーデニングは準備に少しお時間をいただきますが、刺繍ならすぐに用意ができますよ?」
刺繍かぁ。
別に嫌いというわけじゃないけど、イマイチ乗り気にならないんだよね。
それだったら、まだガーデニングという形で好きな花を育てたり、飾り立てたりする方がいい気がするし。
「どちらかというと、ガーデニングで色々な花を育てる方がいいかな。
そういえば、この屋敷にも庭園があるそうだけど、見に行くことはできるの?」
「えーっと、もちろん見に行くこと自体は可能ですが、場所や管理しているのが母屋側なのであまりお勧めはできないかもしれません」
「もしかして、嫌がらせをされるとか?」
「そのあたりは何とも。
ですが、先に調整のためのお時間をいただきたいので、今すぐに見に行くというのは難しいかと思います」
うーん、面倒くさいね。
いやまあ、離れの屋敷に隔離されている時点で今更かもしれないけど。
とはいえ、公爵家ともなれば、色々と珍しい花とかもあるかもしれないと期待していたのだけどね。
まあ、そのあたりのことは、レオン様が連れていってくれるという王家の庭園に期待しましょうか。
「それにしても、このままだとしばらくは時間を持て余しそうだね。
ガーデニングにしても、準備に時間がかかるのでしょう?」
「そうですね。
プリムラ様がお使いになられる場所の選定や育てる花の用意に時間がかかると思いますので。
もちろん、屋敷に既にある種類を育てられるのであれば、そこまで用意に時間はかからないと思いますが」
この屋敷に既にある種類といっても、さっきの話では、それを確認するのにすら調整のための時間が必要という話だったし。
というか、そのことを考えると、ガーデニングに限らず、何か趣味を持とうとする行為に対してすら妨害が入りそうな気がしてしまう。
そんな風に、趣味に関して少し後ろ向きな考えになりそうになっていると、アリアから追加で提案をされた。
「そういえば、芸術的な趣味というのもありますね」
「芸術的?」
「正直、私も貴族の教養的なイメージが強かったのですが、音楽や絵画、ダンスなどを趣味にするというのもありだとは思います」
「あぁ、確かにあれらも趣味にはできるのか。
完全に義務のような形で詰め込まれただけだったから、私もそういう対象だとは思ってなかったよ」
とはいえ、私に芸術的な才能はなかったんだよね。
どうにか最低限のことをこなして合格をもらっただけだったし。
いやまあ、趣味としてやるなら才能の有無ではなく、楽しめるかどうかなんだろうけど。
ただ、そういう意味でも、あまり向いてはいないかな。
「うーん、せっかくだけど、あまり乗り気にはならないかな」
「そうですか。
音楽や絵画であれば、以前プリムラ様がお使いになったものが残されていますので、すぐに用意できたのですが」
そんなアリアの言葉を最後に会話が止まる。
どうやら私もアリアもすぐには何も思いつかないみたいだ。
まあ、私はこれまで趣味だなんだというのはあまり考えたことはなかったしね。
そんなことを考えつつ、テーブルの上のお茶へと手を伸ばす。
「……うん?
もしかして、料理を趣味にするのもありだったりする?
でも、公爵夫人みたいな立場にもなると、そういうのはマズかったりするのかな?」
お茶と一緒に用意されていたクッキーに目を向けたところで思いつく。
料理を趣味にするのも悪くないのでは、と。
ただ、それと同時に公爵夫人という微妙な立場による懸念にも思い当たってしまったけど。
「いえ、昔はあまり良く思われていなかったそうですが、最近は高位貴族であろうと料理を趣味にすることは珍しくありませんよ。
確か、先々代の王妃様が当時の国王陛下に手作りの料理を差し入れたとかで、ブームになったそうですから。
その名残もあって、料理を趣味にするというのは、昔ほど拒否感のあるものではなくなっています」
「ということは、料理を趣味にするのは問題ない感じ?」
「そうですね、この屋敷にもその頃のブームの影響か、趣味で料理するための設備がありますので、やること自体は可能です。
ただ、ご自身で料理されるだけでなく、誰かから教わるとなると、人を用意するのに時間がかかるかもしれません」
あー、普通にこの屋敷にも専属の料理人がいるから大丈夫だと思っていたけど、私に教えるとなると妨害が入る可能性があるのか。
とはいえ、簡単な料理なら実家にいた頃もやっていたし、最悪食材だけでも用意してもらえればそれでいい気もするけど。
「それは、教わる相手だけでなく、食材の用意に関しても難しいの?
もし、相手を用意するのが難しいだけなら、とりあえずは自分で料理できる環境だけでも構わないのだけど」
「えーっと、普段使いされているような食材であれば、用意することは可能なはずです。
ただ、珍しい食材や、大量の食材が必要になる場合は事前の準備が必要ですが」
まあ、それはそうだろうね。
いくら公爵家だろうと、ないものをすぐに用意しろというのは無茶だろうし。
「大丈夫よ。
何か簡単なお菓子でも作れたらと思っているだけだから。
あっ、もし用意できるなら、お菓子や料理の本があると嬉しいかも」
「かしこまりました。
お菓子や料理の本は手配することになりますので、少しお時間をいただくことになると思います」
「わかったわ。
ちなみに、料理ができるようになるのはいつごろになりそう?」
「そうですね。
本については間に合いませんが、食材や場所の用意だけでしたら、明日にでも使えるようになるはずです」
「あっ、そんなにすぐに使えるようになるんだ」
「設備に関してはプリムラ様が来られる前に確認していますし、食材については屋敷にあるものを回してもらうだけですから」
……嫌がらせのように隔離されていても、きちんと屋敷の設備の確認はされているのか。
まあ、あくまでも嫌がらせであって、私のことを本当にどうこうしたいというわけではないのであれば、そういう確認はしっかりするか。
「では、さっそく手配に向かわせていただきます。
……それにしても、プリムラ様の手料理とは、旦那様もきっと喜ばれますね」
「えっ」
手配のために部屋を出ていくアリアが残した言葉に驚きの声をあげる。
けれど、こちらの反応を気にすることなく、アリアは既に部屋の外へと出ていってしまっていた。
「……」
いやまあ、さっきの話の流れだと、確かにそういう風にとらえられても仕方がないのかもしれないけど。
ただ、アリアは私にそんなつもりがないとわかった上で言い残していったような気がする。
「どうしようかな?
別にレオン様に手料理を振る舞うことがイヤなわけではないけど」
ただ、特にイヤではなくても、人様にプレゼントできるほど料理に自信があるわけではないんだよね。
とはいえ、レオン様も私との関係を良くしようと考えてくれているみたいだし、こちらも歩み寄る努力をするべきなのかな?
それに、レオン様に料理を振る舞うという目標があった方が、料理の腕も上がりやすい気がするしね。




