第3話 結婚式
新公爵様との顔合わせから数日、気付けば結婚式当日になっていた。
「……私はなぜここにいるのだろう?」
新婦用の控え室でひとりごちる。
これがマリッジブルーという奴なのだろうか。
「いや、もうすぐ本番なんですから、今更になっての現実逃避はやめてください」
華やかに飾り立てられた花嫁衣装に身を包み、たそがれた雰囲気を出していたらアリアから呆れたようにそんなことを言われる。
いや、これくらいの悪ふざけくらいは許して欲しいのだけど?
さっき、こっそりと結婚式の会場を覗きにいったらありえないくらい豪華な会場だったし。
そんなところで結婚式を挙げるとか、たかだか1ヶ月の準備期間だけで田舎娘の覚悟が決まるわけがないでしょうが!?
「いや、すまないね。
僕たちの都合で君には苦労をかけるよ」
内心で愚痴っていると、いつの間にか未来の旦那様である新公爵様が部屋へと来ていたらしい。
困ったような顔で謝られてしまった。
「いえ、少し愚痴りたかっただけですので、気にしないでください。
あっ、でも何か失敗したらフォローはよろしくお願いします」
「ははは、まあこれでも公爵家に生まれた者として最低限の教育は受けているからね。
跡継ぎから外されていたとはいえ、君のフォローくらいは任せてくれていいよ」
うーん、美形は得だなぁ。
やさしく微笑みかけられただけで、許してしまえると思えるのだから。
「さて、そろそろ時間みたいだし、準備はいいかな?
僕の美しい花嫁さん」
くっ、さらに畳み掛けてくるなんて。
でもまあ、おかげで少しは気が楽になったかな。
実際、何かとちったとしても彼がフォローしてくれるだろうし、もしそういうことになったらこの美形に気を取られたからだと割り切ってしまおう。
新公爵様にエスコートされて、会場である教会の中へと入場する。
お淑やかさを装うように伏し目がちにしたまま会場の様子を窺うと、私たちが歩く中央の通路の左右に招待客が並んでいた。
どうやら家格によって席が決まっているようで、家格が高い招待客から順に前の席が割り当てられている。
ちなみに、仮にも公爵家の結婚式ということで、最前列には学園の同級生であったという王子様、王女様が参列していたりする。
で、私たちは後ろの扉から入場したわけなんだけれど、そうなると当然、家格の低い招待客が一番に目に入ってくるわけで。
(うわー、お父様の顔がヤバイくらい緊張で蒼白になってる……)
まあ、私の生みの親である両親も一応招待されていて、申し訳ないくらい顔色を悪くしていた。
とはいえ、お母様については少し緊張しているという程度に見えたけど。
「大丈夫かい?」
お父様の様子を見たことで手に力が入ってしまったのか、新公爵様から小声で確認されてしまった。
「すみません、父の様子があまりにもアレだったので」
ひとまず、こちらも小声でそんな風に返しておく。
というか、もし私がミスをしでかすとお父様の心臓は止まってしまうのではないだろうか。
「あぁ、君のご両親にもずいぶんと無理をさせてしまったね」
隣を歩く新公爵様にも両親の様子は見えていたのだろう。
普通に謝罪の言葉を返されてしまった。
でもまあ、ほぼほぼ断るという選択肢がなかったとはいえ、この縁談を受けたのは私であり、当主である父なのだ。
嫁ぐことになる私はともかく、実家である男爵家には支度金という形で相当な額の援助があったはずだし、この期に及んであそこまで顔色を悪くするのもどうかと思う。
そう考えると、地味に怒りがわいてきた。
決断をした以上、最後までしっかりと責任を持ちなさい。
そんな風に怒りの感情がわいたことで、気付けば私の覚悟も決まっていた。
背筋を伸ばし、新公爵様――レオン様の隣を歩く。
正直、縁談の話を聞いてからずっと流されてばかりだったけど、巻き込まれたとはいえ、これは私自身の結婚式なのだ。
今後の人生がどうなるかはわからないけど、おそらく一生に一度の機会なのだし、この状況を楽しむとまではいかないまでもしっかりと記憶に刻んでおこう。
そんな覚悟とともに、神官の待つ壇上へとたどり着く。
会場内の視線を一身に集め、レオン様へと向き合って顔を上げる。
今までの流されるだけだった状況から覚悟を決めた顔を見せたことで、レオン様がかすかな驚きを見せる。
けれど、すぐさま見惚れるような笑みを見せて告げてきた。
「これからよろしくね、プリムラ」
「こちらこそよろしくお願いします、レオン様」
正直、先のことに関しては不安も多い。
それでも、これは紛れもない私の新たな門出となるはずなのだから、精いっぱい前を向いていこう。




