第10話 デート(3)
食後のティータイムも終わり、再び庭園内の散策に戻ることになった。
事前に聞いていた通り、午後からは案内なしでレオン様と二人きりでの散策となる。
「ところで、屋敷での暮らしはどうかな?
さっきは手作りのお菓子を食べさせてもらったし、お菓子作りというか、料理を始めたということは聞いているけれど」
のんびりとしたペースで庭園内の散策を続け、しばらくしたところで隣を歩くレオン様から話しかけられる。
「どう、と言われると、どうなんでしょう?
今のところ、特に不便を感じていませんが」
やることがなくて少し悩んでいたけど、それについては料理を趣味にしてみるという形で解決した。
その料理に使う食材についても、今のところ変な嫌がらせが入るわけでもなく、こちらが希望したものをきちんと用意してもらえている。
まあ、設備については、アリアに言わせると少し古いということらしいけど、私からすると普通にしっかりとしたものなので不満はない。
そもそも、屋敷の設備については、そう簡単に入れ替えることができるものだとは思っていないし。
「そうなのかい?
正直、僕からするとかなりの不便を強いている感覚だったから、色々と不満があるかと思っていたのだけれど」
「うーーん。
あまり不便を強いられているという感覚はありませんが、レオン様がそうおっしゃるなら、これからそういうことも感じるようになるのでしょうか?」
「まあ、今の生活を始めてからそこまでの期間が経っているわけでもないから、まだ気づいていないのかもね。
もしそうなら、何か不便や不満を感じるようになったときに、いつでも言ってくれるといいよ。
可能な限り、すぐに対応させてもらうから」
「わかりました」
とはいえ、何かしらの不便や不満を感じるようになることがあるのかな?
実家の男爵家にいた頃を考えると、色々と周りの環境が恵まれたものになっている気がするからイマイチそういう気持ちにならないような気がするけど。
いや、そう考えると、可能性があるのは人間関係的な何かかな?
実際、今の時点だとアリアとレオン様くらいしかまともに話をする相手がいないわけだし。
「……そういえば、社交的なことは何かした方がいいのでしょうか?
結婚するときには、そういうことはやらなくてもいいという話でしたが」
「うん?
もしかして、そういうことをやりたいという希望があるのかい?
ああ、料理を始めたし、誰かを招いてお茶会を開きたいということかな?」
「あっ、いえ、特にそういうことではなく。
ただ、何となく今後私が不満を持つようなことがあるなら、人間関係の何かになるのかなと思っただけですので」
まさか、自分から誰かを招いてお茶会を開くという発想になるとは思わなかった。
とはいえ、これも貴族的には普通の感覚なのかな?
「ああ、そういうことか。
ただ、僕も人間関係のことには自信があるわけではないからね。
……そうだね、もし何か悩むようなことがって、僕やアリアに相談しにくいというのであれば、ご家族を招くのもいいかもしれないね。
確か、お姉さんがいたよね?」
「えーっと、確かに姉が二人いますが、構わないのですか?」
「もちろん構わないよ。
なんなら、君が里帰りという形で実家に遊びに行くというのも構わないしね。
まあ、どちらも、あまり頻繁に、ということは難しいだろうけれど」
……実は、思っていたよりも自由に行動して問題なかったりする?
何というか、結婚前の詰め込み教育のときに色々とあれをやるな、これをやるなみたいなことを言われていたから、それなりに身構えていたのだけど。
「……失礼かもしれないですが、レオン様は今のお立場についてどう思われているのですか?
結婚前に聞かされていた話と色々と違っていたので、少し気になったのですが」
「うん?
あー、もしかして伯爵家にいた頃に色々と言われていた感じなのかな?
そうだね、僕としては、今の立場については特に気にしていないかな。
色々と面倒なこともあるけれど、それをどうにかしようと動いてもさらなる面倒が降りかかってくるというのが目に見えているからね。
まあ、そのせいで君にも色々と不自由をかけているのは申し訳ないと思うけれど」
「さらなる面倒ですか?」
「そうだね。
一応、これでも形式上は公爵家の当主になるから、色々と強権を発動しようと思えばできなくはないんだよ。
ただ、その場合、叔父たちと争うことになるし、それを退けたとしても、僕の場合は他家から当主と認めないとか言われて、色々と妨害を受けることになるだろうからね。
そのことを考えると、さっさとこの立場を譲って子爵家の当主として、のんびりと自分のやりたいことをやる方がいいと思っているんだよ」
そういえば、レオン様の“魔力なし”というのは貴族としてかなり致命的なんだっけ。
私としては、魔力がなかろうが、貴族家の当主としての仕事をしっかりと務められるなら、全く問題ないと思うけど。
「やりたいこと、というと、何かの研究をされているというアレですか?」
「そう、それだね。
一応、僕はポーションに関する研究をしているから、そちらの研究に専念したいと思っているんだよ。
これでも、ポーション研究についてなら、それなりに成果を出しているからね」
確か、お父様からは若き天才だと聞いていたし、それのことかな?
とはいえ、ポーション研究か。
何というか、少し意外かもしれない。
「ふふ、ポーション研究というのは意外だったかな?」
「えーっと、はい、少しだけ」
「まあ、僕以外でポーションの研究をしている貴族出身の人間は珍しいだろうね」
私が意外だと感じたのが表情に出ていたのか、レオン様からからかうような問いかけがやってくる。
なので、素直に答えを返したのだけど、レオン様からは苦笑とともにそんな言葉が返ってきた。
というか、やっぱり貴族でポーションを研究するのは珍しいんだね。
「君がイメージするように、貴族は基本的に魔法の研究に回ることが多いよ。
これは、貴族としての責務に領民を守るというものがあるから、そのための力として魔法を研究することが多いからだね。
そしてもう一つ、ポーションというか、錬金術は平民が研究するものだという考えを持つ貴族が多いからでもある」
「錬金術は平民が研究するものだとする理由はあるのですか?」
「単純にこれまでの慣習からそう思われているだけだね。
ただ、貴族はこうした慣習を重視することが多いし、そもそも平民だと魔力量の問題で魔法の研究を行うことが難しいという理由もあるよ」
ああ、なるほど。
確かに、魔法の研究をするなら魔力量が多い方がいいだろうしね。
とはいえ、別に魔力量が少なくても、やってやれないことはないと思うけど。
「それで、ポーションの研究というのは、具体的にどういうことをされているのですか?」
「おや、興味があるのかい?」
「そうですね。
実家のある男爵領だとポーションもそれなりに高価なものだった関係で、あまり馴染みがありませんでしたから。
なので、よく知らないポーションについて、少し興味があります」
まあ、さすがに実家の男爵家でポーションを買えないというほど高価なものではなかったはずだけど。
とはいえ、普段使いできるほど安いものでもなかったので、ポーションというのはそこまで身近なものではなかった。
「なるほどね。
まあ、ポーションは基本的に軍などの戦闘を行うところが利用することが多いからね。
一応、外傷だけでなく病気を治すようなポーションもあるけれど、そちらは一気に価値が跳ね上がってしまうし」
そんな言葉をきっかけに、少し楽し気な様子のレオン様からポーションに関する色々な話を聞くことになった。




