エピローグ 永遠のロード・ソング
ウェス・モンゴメリーが急逝してから、四年が過ぎた。
だが、彼が適応の果てに掴み取った音楽と哲学は、決して風化することはなかった。
1972年10月。
インディアナポリスの秋空の下、かつての
煤けた街並みを見守るように、34エーカーもの広大な敷地を持つ市営公園が、その名を『ウェス・モンゴメリー・パーク』へと改めた。
かつて彼が、家族のために、そして自分の音を探すために歩き続けたこの町は、今や彼を誇り高き息子として永遠にその地図に刻んだのだ。
公園には、毎年この季節になると特別な音が響き渡る。
世界中から名だたるミュージシャンたちが集い、この偉大なギタリストに捧げるコンサートが開催されるようになったからだ。
彼らが奏でるのは、ウェスが切り拓いた、自由で、美しく、そして誰の心にも寄り添う音楽だ。
町の変化は、形あるものだけではなかった。
地元のマーチャント・ナショナル銀行は、若き才能ある若者たちを支援するため、
新たに『ウェス・モンゴメリー奨学金制度』を発足させた。
それは、かつて金銭的な苦境の中で音楽を続けたウェスの苦労を、次の世代には繰り返させないという町の意志でもあった。
発足にあたり、人事担当のクリフォード・B・スペアーズ氏は、力強い声明を寄せた。
「今後とも、我々はこの奨学金制度を続けていくべく、努力を惜しむことはありません。彼が遺した精神を支え続けることは、この町の義務なのです」
「美というものは、色んなやり方で表現できる」
ウェスが最期のレコーディングで辿り着いたその言葉は、今や公園を吹き抜ける風になり、奨学金を得て夢を追う若者のノートに書き込まれ、コンサートで爪弾かれる旋律となって生き続けている。
かつて、親指一本で世界を変えた男がいた。
彼は周囲の糾弾を恐れず、変化に適応し、学び、そして愛する人々のために弾ききった。
その足跡は、今もインディアナポリスの乾いた土の上に、消えることのない確かなロード・ソングとして響き渡っている。
(完)
【著者あとがき】
本作『インディアナポリスの静かな朝に』を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
本連載は、稀代のジャズ・ギタリスト、ウェス・モンゴメリーの激動の生涯を、残された記録や証言に基づき構成したものです。
しかし、一人の男の魂の軌跡をより鮮明に描き出すため、一部の場面や会話、登場人物の描写においてフィクションを交えたドラマチックな装飾を施しております。
史実と異なる点が含まれていることを、あらかじめご了承いただければ幸いです。
ウェスが家族のために命を削り、その指先に刻んだ「愛」という名の物語。
この連載を通じて、長年のジャズ・ファンの皆様には、彼の遺した音色の奥にある情熱を再発見していただけたなら、これに勝る喜びはありません。
また、もし「ジャズという音楽に触れてみたいけれど、どこから聴けばいいのか分からない」と足踏みをされている方がいらっしゃいましたら、ぜひ、彼の代表作である『The Incredible Jazz Guitar of Wes Montgomery』や、本作でも触れた『Bags Meets Wes!』を手に取ってみてください。そこには理屈を超えて心に響く、温かくも力強い「本物の音」が息づいています。
彼の奏でたバラードが、皆様の日常に優しく寄り添う一曲となることを願って。
(追記)
なお、本作第18話においてウェスが欧州遠征に船を用いた描写は、彼の有名な「飛行機恐怖症」という実話に基づいた本作独自の劇的演出です。一部の記録では、スケジュールの都合上、彼が恐怖を押し殺して空路を選んだとする説もありますが、本作では「家族のために最も安全な道を選ぼうとした」という彼の信条を優先し、船旅としての旅路を描きました。
作品は、ここまでですが、次のエピソードとして、参考文献と主要ディスコグラフィー、Youtubeでご覧になれる映像をご紹介致します。どうか御存分に堪能下さい。




