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第13話 三人の騎士とグルーヴの庭

 1961年1月、ニューヨーク。


ラジオ・シティ・ミュージックホールの6階にある「プラザ・サウンド・スタジオ」に、モンゴメリー三兄弟が集結していた。


プロデューサーのキープニュースは、ウェスの成功を確信し、満を持してこの家族のアンサンブルをレコードに刻もうと考えていた。


 スタジオの床にはいくつもの太いケーブルが這い、真空管アンプの灯りがオレンジ色の小さな太陽のように、薄暗い部屋を照らしている。 


長男のモンクは、巨体を丸めるようにしてエレクトリック・ベースを構えていた。


彼は弦を弾くたびに深く頷き、地を這うような重低音の余韻を身体全体で確かめている。


その表情は、末の弟を支える大黒柱のような、厳格さと慈愛に満ちていた。


 次男のバディは、ピアノの鍵盤を指先で確かめるように遊ばせている。


彼が和音を鳴らすたびに、春の陽だまりのような柔らかな光がスタジオに満ちた。


彼は時折、隣でギターを構えるウェスにいたずらっぽい目配せを送り、音楽の会話を心から楽しんでいた。


 末っ子のウェスは、愛機ギブソンL-5を、宝物のように大切に胸に抱きかかえている。


彼の肉厚な親指が弦を捉えると、アンプからは芳醇な葡萄酒のような、深みのある音が溢れ出した。


それは、インディアナポリスで家族が囲む食卓の賑わいや、子供たちが駆け回る健やかな足音といった、日々の暮らしが育んだ豊かな呼吸を、ニューヨークのスタジオに再現する魔法のようだった。


 スタジオの防音ガラスの向こう側、サブブースの隅にはセレーンの姿があった。


彼女は、ウェスが工場で旋盤を回していた頃のひたむきな背中を静かに思い出していた。


今のウェスは、その時と同じ熱量を持ちながらも、全身から音楽を奏でる喜びに満ち溢れている。


セレーヌと過ごした静かな夜の対話、子供たちの寝顔を見守った穏やかな時間。


そのすべてが、ウェスの親指を通して、豊かなオクターブの響きへと変換されていく。


 名曲『グルーヴ・ヤード』の録音が始まる。


モンクが重厚なリズムを奏で、バディが優雅に舞うような旋律を重ねる。


その中央で、ウェスは目を閉じ、家族という名の深い根から吸い上げた生命力を、黄金色のギブソンに注ぎ込んだ。


一音ごとに空気が密になり、スタジオ全体が生命を宿した豊かなヤードへと変貌していく。


ウェスの額には一筋の汗が光っていた。


それは労働の汗であり、同時に芸術を紡ぎ出す者の誇りの輝きでもあった。


 演奏が終わり、スタジオに静寂が戻ったとき、ウェスはギターを抱えたまま、真っ先にセレーンを見た。


「今の、どうだった?」


 子供のように感想を求める夫に、セレーヌは目元を拭いながら微笑んだ。


「ええ……世界で一番、優しい音がしたわ」


 モンクとバディがウェスの肩を叩く。


「聞いたか、ウェス。奥さんが太鼓判を押してくれたんだ。これ以上のテイクはないぜ」


 三人の騎士が奏でる音楽は、血の繋がりという名の究極のアンサンブルとなって、冷たいニューヨークのスタジオを、インディアナポリスの家の温もりに替えていた。


こうして作り上げられた『グルーヴ・ヤード』は、ウェスのソロ作とはまた違う、深い安らぎを帯びた名盤となった。





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