表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

映るけれど、いない(2/4)

あの学校の裏庭には、

雨の日だけ現れる、小さな水たまりがあります。


コンクリートの片隅。

ひび割れに沿ってできる、深くもない、浅くもない、

なんでもないはずの場所。


でも、あれだけ晴れていた日の放課後に、

なぜか、そこだけが濡れていたことがあって――


覗いてしまった子が、


「見たことのある顔が映っていた」と言ったことがありました。


ほんとうかどうかは、わかりません。


でも、それ以来、

雨が降った日の昇降口や廊下が、

いつもより静かになる気がするんです。


みんな、何も言いません。


でも、ときどき、

窓の外をじっと見ている子がいる。


なにかを思い出しているような、

なにかを待っているような。


……ねえ、あなたは、

その水たまりを、

覗いたことがありますか?


……ひとの記憶って、不思議ですよね。


忘れたと思っていても、

気づいたら、目に映るものが“思い出すきっかけ”になってしまう。


それが――葉の影であっても、砂利の模様であっても。


陸斗くんは、それから少しのあいだ、

“あの子の顔”を探すようになりました。


 


意識しているわけじゃないんです。


廊下の窓。

黒板のすみに残ったチョークの跡。

水の入ったバケツの底。


……どこかに、また映るかもしれないって。

そんな気がしてしまっただけなんです。


 


でも、それって、こわいことじゃないでしょうか。


本当は、もういないはずの子が――

そこに“映って”しまったとしたら。


 


放課後。

教室にひとり残った陸斗くんは、

黒板のすみに、ふと目をとめました。


白いチョークの線。

こすれた跡が、まるで――


「……笑ってる?」


そんなふうに、見えたんですって。


 


すぐに目をそらしました。

その線は、もうただの擦りあとにしか見えなかった。


でも、

その日の帰り道、

陸斗くんのかばんの端が、すこし濡れていたんです。


 


その日は、晴れていたのに。


 


ふふ。

不思議なことって、ありますよね

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ