戴冠者
いつもありがとうございます。それではごゆっくりお楽しみください。
どれ程の間、私はこの廃坑を走っているのだろう。
ヴィオラさんに導かれ。
サリナさんに背中を押され。
ペリドットさんに今一度の信頼を託し。
マーキュリーさんにもう1つの大役を押し付けながら、その支えをスピネルさんやアンドレアさん、クリスタルさんにお願いした。
私の身体は、あらゆるモンテドーロの民の為に。
私の存在は、全ての想いを絶やさない為に。
その重みを確認するように、剣を再び握り締める。
青紫色の陽光と赤色の月光が、染み出すように残影を残した。
「……」
私は、ふと立ち止まった。
怖気付いたから?
いや、そうではない。ただでさえ濃厚だった血の香りが、より濃くなったのだ。
これは何の合図か。その答えを、所狭しと通路を埋め尽くす怪物達が教えてくれている。
彼らは、柔らかな少女の肉に喰らい付くのを、今か今かと待ち望んでいたのだ。
獰猛な光の宿る無数の相貌が、私を捉えた。
「……ふぅ」
深呼吸。
横隔膜が上下し、肺胞が膨らむ。
お世辞にも美味しい空気とは言えない。
だが、心を落ち着けるにはこれだけ汚いものでも十分だった。
「じゃぁやあああらららら」
「づ、る、るるるる」
言葉にもならない声。
あと、5歩。4歩、3歩。
すぐにでも、彼らは私に喰らい付くだろう。
「ふふ。これらは、等活さんの置き土産ということで良いのでしょうか?」
笑いが込み上げてきた。
最後まで、やってくれるものだ。
私は早く。何よりも早く、金鉱の奥底に辿り着かねばならないというのに。
ただ。
まぁ、オードブルとしては悪くないかもしれない。
グッと腰が沈み、身体の重心が下がる。
岩床が抉れ、それはスタート板のように私の足裏を支えてくれた。
「……はっ、あああああッ!!!」
柄にもなく。大声を挙げて、最前列で牙を立てんとしていた巨躯の鬼を袈裟斬りにする。
そしてそれは、蹂躙の合図でもあった。
この苛立ちも、焦りも、寂しさも、静けさも、全ては私のものなのだ。
「ふっ、はぁっ!」
一度剣を振るえば、2頭の獄卒が立ち消える。
走り抜ける勢いそのままに刃を前に突き出せば、立ち塞がるように固まっていた化け物どもは、溶けるアイスのように弾け飛ぶ。
《技》は、私の脳神経を焼きながら、イメージ通りの岩を、水を、火を、生成してくれた。
今にも崩れ落ちそうな鉄橋は、このアレキサンドライトの意思に従って、自ら落ちまいと傷を修復するのだ。
「邪魔!!!」
しかし、もし私が。
抵抗しないでいれば、四肢が解体され、内臓という内臓を引き摺り出されるまできっと1秒と掛からないはずだ。
思いがけず、もしそうなったらどうなるかと考えてみた。
私1人の死など、どうでもいい。
きっと、天輪を戴冠したオーラムが、マグマを噴き出すザ・グレート・モンテドーロと共に都市へ終焉を齎すのだろう。
なぜ、そのような真似をするのか。
なぜ、そのような真似をしなければならないのか。
答えも、動機も、感情も、迷いも、何もかも知ることはなく。
私は、無惨に消化されてなんでもない土塵と一体になるのだ。
そして、流転する世界に帰っていく。
《技》は生々流転の世界を見守るものだと、かの老魔術師は述べていた。世界の秩序に則って、矛盾の調和を指向し続ける一種の調停者。それはきっと、本来自我など必要としないシステムじみた存在なのだろう。
もしかすると、そうなってしまうのも悪くないかもしれない。
「が、ぎゃらら」
——いやだ。
不意に、強烈かつ粘らかな感情が湧き上がってきた。
いやだ。いやだ、いやだ。
オーラムが葛藤を抱くならば、私も葛藤していたい。
オーラムが迷うならば、私も迷っていたい。
オーラムが怒るならば、私も怒るべきだ。
そこに理屈も理由も根拠もない。
そうあるべきだと思うから、私はそうあるべきなのだ。
かつて、そのチャンスを私は放棄した。
それを今も後悔している。
「……」
怪物の鎌が、私の首筋に迫る。
だが、それは赤い花を散らす寸前でくしゃくしゃに折れていった。
私が、それよりも早く彼の手に触れたのだ。
触れられたのなら、素材にすれば良い。
土も、石も、肉も、紙も、噛み砕いていけば全て同じものだ。
ただ、規定された動きと性質を示す粒子に過ぎないのだから。
私は、そのように表面的な美しさを慈しむことにしている。
「どうして、こんなことになってしまったのでしょう」
剣を振り上げながら、私は崩れゆく牛頭の怪物に問いかけた。
否、答えなど明らかである。
全てが理由だ。
彼女の出自。
父の独断専行。
地底に眠る四獣の遺産に、オストラコン。
無論、私も。
単純明快な理由などない。しかし、確かに言えるのは、解決の糸口が眼前に垂れ下がっているということ。
なれば、向かわなければならない。
「あなたも、私の邪魔をするんですか?」
悪趣味なものだ。
地中から、見覚えのある顔ぶれの何かが這い出してくる。
「行くな」
私はあなたを切り倒して先に進むだろう。
「行ってはなりません」
私がその助言を耳に入れることは永遠にないだろう。
「どうしてそんなに急いでいるのですか?」
急がなければならないから、急いでいるのだ。
それ以上でもそれ以下でもない。
剣を振るう。
双色の閃光が、闇夜に一時の光明を齎した。
「……これで、最後ですか」
それは、金色の髪の毛を生やしていた。
怯えた様子で縮こまり、泣き声を挙げている。
いや。ある意味、鳴き声に過ぎないのだろう。
これは、彼女ではない。
もしかすると、涙を湛えた小麦色の瞳は、私から多少の罪悪感を引き出すかもしれない。
しかし、それ以上に心中を席巻しているのは、怒りと使命感だった。
今すぐにでも引き返し、あの痩せぎすの大男を殴りつけてやりたいところだが、私にはやるべきことがある。
「進みましょう」
刃を下ろすと、いつも以上に多量の血と腐った内臓が飛び散った。
私は、それを踏み越えていく。
荒野より、私はあなたに呼びかけよう。
あと少しであなたの元に辿り着くと。
しかしこれは、あなたの眼の前で跪き、その震える手を優しく包むためではない。
少しばかりの甘さと、酸っぱさ、それととびきりの苦味を。
決着の為に私はこの一歩を踏み出すのだ。
視線の先には、赤い光が見える。
この景色を見るのはこれで2度目だ。
あの時はオーラムに連れられて。
横には、沢山の仲間達が立っていた。
今は違う。
私は1人だけで、彼女に懲罰を与えなくてはならない。
果たして、できるだろうか?
「……ふふ」
決意は揺るがない。
雨が降り、それから固まった地面は以前に増して固くなるように。
私は改めて、強く剣を握り締めた。
*
どくん。どくん。
鼓動が響き、アレキサンドライトの頭蓋を震わせる。
仰ぎ見れば、想像していた通りの光球が毒々しい赤を放っていた。
そして、その中には。
「……」
こうして、彼女の裸をまじまじと見つめるのは何年ぶりだろう。
最後に一緒にお風呂に入ったのは何年前だったか。
少女時代の終わりは、唐突にやって来たように思える。ただ、それが具体的にいつだったのかと問われれば、答えに窮してしまう。
気づいた時、2人は時代の波に飲み込まれていた。
進化と破滅を齎すその波に抗うことなど誰にもできないのだ。
そして、されるがままにされる内、かつて未来を誓った彼女らは道を違えてしまった。
「アウレリアちゃん」
オーラム。またの名を、アウレリア。
彼女をオーラムと初めて呼んだ時、アレキサンドライトの心の内に芽生えたのは嫉妬でも羨望でもなく。
強烈な慕情だった。
やはり、私の憧れはあなた以外にあり得ない、と。
そして改めて、彼女はかつての呼び名を口にする。
それは、紛れもなく、アレキサンドライトとしてのヴェールを脱いだ本来の彼女の姿だった。
「私の声が聞こえますか?」
「……」
依然として、オーラムは“紅き血潮の天輪”の中で膝を抱えながら眠っている。
その頭上では、禍々しくも神秘的な紅色の王冠が形成されようとしていた。
きっと、それが完成を迎えた時、彼女らの望みは全て灰燼に帰すのだろう。
モンテドーロに住まうあらゆる人々の生活と共に。
「はは。私としたことが。聞こえるわけありませんよね。それなら——」
ならば、手筈通りに。
そうして視線を下げた瞬間。彼女の脳髄を、誰かの声が震わせた。
「ダーちゃん」
「!?」
身体が硬直し、瞳孔が開く。
思わず見上げれば、そこには眼を瞑っていたはずの彼女が。
「オ、オーラムさん……?どうして」
「オーラム?まぁ、その名前も嫌いじゃないっすけど……。今、懐かしい名前が聞こえてきたんすよね。だから、試しにアタシも昔の呼び方を口にしてみたんす」
ダーちゃん。
昔の呼び方。
「エスメラルダ=デ=サンクティス。懐かしい響きです。再びその名前を思い出すことがあるとは思いませんでした」
それは、アレキサンドライトの称号を継いだ時、永劫の別れを済ませた名前だ。
誇り高きジェムストーンマフィアのボスを輩出したサンクティス家の令嬢。
先代オーラムの実子。
かつて、彼女はそのような身分だった。
「こうやって2人きりになるのって何年ぶりっすかね?」
「10年前のあの時は、いつも付き人が居ましたね。お互いに」
「それなら、もっと前っすか。懐かしいっすね。ダーちゃんをダーちゃんと呼んでいたあの頃が」
「そうですね。私もアウレリアちゃんの名前を久々に口にしましたから」
アウレリアちゃん。ダーちゃん。
鼓膜の中であの頃の思い出が囁く。
「でも」
全て、過去の記憶に過ぎない。
「私たちにとって一番大事なのは、現在と未来です」
暫し手放していた剣をしっかりと握り、真っ直ぐ掲げる。
その切先は、胎動する王冠に向かって。
「今から、私はオーラムさんを。アウレリアちゃんを、殺します」
「……」
彼女は、どこか悲しげな面持ちでアレキサンドライトを見つめていた。
今こそ、かつての憧れに別れを告げる時だ。
「ダーちゃん」
「なんですか?」
「本当に、アタシを殺せると思うんすか?」
「思う、思わないではありませんよ」
そう。とっくのとうに、疑問と不安は肉霊の餌にしてしまった。
「やるんです」
彼女は今、やるべきことをやるためだけにここに居る。
「楽しみにしていてくださいね。今すぐ、あなたの元に向かいますから」
「ふふっ」
ここまで強情なアレキサンドライトの姿など見たことがないとばかりに、オーラムは笑った。
刺さるような光に更なる苛烈さが宿る。
「分かったっす。それなら、いつまでも待ってるっすよ」
その瞬間、無数の小さな光の粒が振動を始めた。
「仮にアタシがダーちゃんを殺しちゃっても。アタシは待ってるっすから」
煌めく粒子が至る所で収束し、輝きを放つ。
全ての砲口は、双色の剣を掲げる少女に向かっていた。
「ふふ」
お互い、健気なものですね。
果たして、アレキサンドライトの皮肉は彼女に届いていただろうか。
瞬きの内に充填を終えた光球は、流れ星が夜空の暗黒を穿つように。
「……」
その着弾点には、既に彼女の姿などなかった。
オーラムの視線が動く。
このドームは、“紅き血潮の天輪”が収まって余りある程の広さを持っている。
例えば、家屋を駆けずり回る害虫は捉え難いのと同じように。
少女の姿を見つけ出すのはそう簡単なことではなかった。
「はぁッ!」
そうだ。
まず、アレキサンドライトはオーラムを翻弄し、隙を窺わなくてはならない。
駆け回る彼女の手が、赤褐色の岩石でできた床に触れた。
すると、岩は褶曲し、浮き上がり、螺旋階段じみた塔を形成する。
最後の段は、まさしくオーラムの方へとその冷たい手を差し伸べていた。
「ふふ。成る程、そういうことっすか」
足を止めてはならない。
さすれば、一瞬にして彼女の存在は地面に焼きついた影となるだろう。
圧倒的な熱量が収束した光輪の閃光は、掠るだけで組織を破壊し得る。
「アタシに近付いて……」
3回目、4回目の胎動。
ねずみ算式に複製されていく小さな光球は、それぞれがアレキサンドライトを捉えようと追う。
「天輪の外に引き摺り出すことが目的っすね!?」
「ハハッ!」
どうしてかは分からないが。不思議と、笑いが込み上げてきた。
もしかしたら、誰にも気を使わず、感情のままに行動する行為の気持ちよさを長いこと忘れていたのかもしれない。
いつもいつも、誰の為に、何の為に、と考え続けて。
全ての行動には、後悔と反省が伴う。
ただ、今は違った。
「よく分かりましたね、アウレリアちゃん」
思い切り剣を投げつけ、正面に立ち塞がる光を叩き潰す。
「今すぐ、撃ち落としてあげますよ!!!」
そうだ。
あなたは、そのような高い視座であまねくを見下げる存在であってはならない。
無理矢理にでも、同じ場所まで引き摺り下ろしてやる。
……ふふ。
こんな言い方、どっちが悪者か分かったものじゃないが。
「……初めて見たっす。そんな、楽しそうなダーちゃん」
「そうですか?」
大きく盛り上がった岩を台にして、跳躍する。
アレキサンドライトは今、まさしく《技》を使いこなしていた。
それは、長年の鍛錬の賜物でもあるだろう。
そして、きっと、こういう時を待ち望んでいたのだ。
「私は、ただ必死なだけですよ」
そう。必死なのだ。
やぶれかぶれ、或いは背水の陣といっても良い。
失敗すればどっちにしろこの作戦は土台からひっくり返る。
ならば、気楽に、それでいて必死になるしかないではないか。
螺旋階段を駆ける。
急造りだったからか、一段一段の段差の大きさはまちまちで、走りにくい。
しかし、確実に、彼女はオーラムに近付いていた。
宙に浮く、ラクリモサの残滓。四獣の遺物。
天輪を戴冠した今、その力は彼女の頭上に宿ろうとしている。
アレキサンドライトはまさしく、これを殺す者であった。
「この、コソコソと……!」
小型の光輪が、アレキサンドライトを取り囲む。
そして、光線が照射されるまで1秒と掛からない。
「ぐっ……」
3つは、切り落とした。
4つは、避けた。
その他は……分からない。
だが、確実に、1つは彼女の足首を掠めていった。
傷跡からは、血すら吹き出さない。ただ、そこには何もなく、瞬時に身体のバランスが崩れていく。
「……」
彼女は、背中から崩れかけの階段の上に倒れ込んだ。
すぐ横には、奈落が広がっており、沸き立つマグマがいたいけな少女の入水を歓迎している。
不思議と痛みはなかった。
右手で、消失した片足に触れる。
「これで——」
「いいえ」
視界を、赤い光が覆った。
「甘いですよ……アウレリアさん」
胃の中身がひっくり返るような感覚。
かの老爺に言われたことを思い出した。
全ての男女は星である。
故に、人体の錬成とは、星そのものを錬成するのとほぼ同義。
それは、一部であろうと変わりない。
相応の負荷が伴うだろう……と。
知るか。そんなもの、気にしていては仕方がないじゃないか。
「があッ!!!」
歯を食いしばり、立ち上がり、地面を蹴る。
溶解したはずの右足は、再生していた。
無論、纏うものは何もない。しかし、無いよりはずっとマシだ。
もし、星を創れというのなら、喜んで創ろうではないか。
傲慢と言われようと、やってやる。
「……」
オーラムは、右手を前に伸ばしながら彼女を見つめていた。
足は吹き飛ばしたはず。正直、侮っていた。
身体の一部でも欠損させれば、諦めてくれるだろうと。
過去、幾度となくオーラムは、アレキサンドライトを、エスメラルダを、煙に巻いてきた。
出自のことだってそうだ。
亡国の王女様などと誤魔化してみたりして。
でも、今は。
「はぁッ!」
どれだけ光を浴びせても、足場を崩しても、彼女に届かないのだ。
その歩みは、少しずつ、それでいて確かにオーラムの元へ向かっている。
気づけば、虫ほどの大きさでしかなかった彼女の姿は、視界と意識の大半を覆うほどになっていた。
「……ダーちゃん」
握れば潰えそうな光だ。
しかし、どうしてもその眩さは無視できなくて。
「アウレリアちゃん!!!」
少女が触れた岩は、その意志に従って形を変え、橋を掛けた。
「歯ぁ、食いしばって——」
その手には、何かカプセルのようなものを握られている。
オーラムがその正体を理解するよりも先に、アレキサンドライトはカプセルそのものを……試験管を、握り潰した。
「くださいね!!!」
彼女の手に、ガラスが突き刺さる。
同時に、赤く光る何かがアレキサンドライトの血液を励起させ。
「これは、きっとトランプスに辿り着くまでの時間を稼いでくれる」
これを彼女に手渡した男……アンドレアの言葉が思い出された。
「本当のことを言うと、これを渡すつもりはなかった」
——これは何ですか?まるで、研究所で見せていただいた……
「そうだ。“紅き血潮の天輪”のレプリカの一部だ。これは、トランプスと同様のエネルギーで構成されてる。ボスの力を使って分解し、純粋なエネルギーに変換できれば、光球に傷くらいはつけられるはずだ」
——傷……
「あくまで傷に過ぎない。結局、倒す為にはトランプスが不可欠になる。お守りみたいなもんさ」
お守り。
ありがたく、いただきます。
流れ落ちる温かな血を感じながら、炎を熱量に変換する。
そして、川のように巡る波動は握り込んだ剣の先に。
「あなたは……」
「はああああああッ!!!」
赤黒い電流が走り、刃に亀裂が入った。
しかし、同様に天輪の外殻に瑕疵が生じていく。
「堕ちて!来い!」
そして、根本から剣が折れると同時に、殻は破られた。
一層強い閃光が溢れ出す。
それはまるで、子宮を満たす羊水のようで。
王冠を被った赤子は、切開によって再びの生を受けた。
「グッ……くっ」
衝撃を正面から受け止め、遥か下の岩床に叩きつけられるアレキサンドライト。
高所を怖がる余裕もなかった。
口端から流れ落ちる血を拭い、澱んだ色の痰を吐き出す。
剣など何度でも作り出せるとばかりに床から引き抜くと、どろりと垂れ落ちる黄金の液体の源を見遣った。
「……あなたは凄いですね、本当に」
「アウレリアちゃん」
その表情に、余裕はない。
いや、こうして初めて、アレキサンドライトの思いが伝わったと考えるべきか。
「まさか、ここまで私に抵抗するとは思いませんでした」
「ふふ」
逆に、アレキサンドライトから思わず笑いが漏れてしまう。
「出会ったばかりの頃を思い出す口調だね、アウレリアちゃん」
「お互い、多くのものを着飾ってきましたから。私は、在るべき私を。逆にあなたは、在るべきあなたを。そうでしょう、ダーちゃん」
「そうだね。すっかり癖になったはずなのに……」
こんなにもすんなりと、敬語を外せるなんて。
子供のような笑顔。
一方澄ました表情のアウレリアは、粘度のある光を纏い、地に降り立った。
頭上には、形成途上の紅色の王冠を。
手には、真っ赤な長刀を。
まるで、エスメラルダの剣に対抗するように。
「私は今や、“紅き血潮の天輪”を戴きし戴冠者となりました。この王冠が完成した暁には、モンテドーロを。この、忌まわしい歴史に蓋をした都市を滅ぼします」
「そんなことだろうと思ってたよ」
再び、彼女は剣を掲げる。
「事情は聞くよ。理由にも、絶対耳を傾ける。でも、その罪をアーちゃんに負わせるつもりはさらさらないから」
エスメラルダのオッドアイに、炎が宿った。
「ここで、止めるね」
「そうですか」
アウレリアは一歩前に踏み出す。
その足元からは、戴冠者に相応しい褐色の光が溢れている。
「ならば、止めてみなさい。私の大事な義妹よ」
静寂。呼吸。鼓動。
半壊した外殻の下、運命は交差する。
「行きますよ」
両手で長刀を構えるアウレリア。
そして、2つの刃が同時に閃きを放った。
お疲れ様でした。
最初から最後まで、たっぷりアレキサンドライトさんのための回でした。
アレキサンドライトさんからも、オーラムさんからも、思いの矢印が大きすぎて渋滞を起こしてます。
特に、長きにわたって悶々とした感情を押さえつけていたアレキサンドライトさんの方は、ようやく解放の時を迎えたという点で感情が大爆発してますね。
互いを思うが故の殺し合い。純粋に会話を交わすことのできない身分となってしまった2人にとって、それはかけがえのないコミュニケーションなのでしょう。
最後になりますが、感想やレビューなどいただけると本当に嬉しいです。
執筆の励みになりますし、1つ1つじっくりと読まさせていただきます。
それでは、りんどうでした。




