覚醒
現場監督「おい、フリードリヒ何を休んでいるんだ」
このような怒号の声がこの炭鉱山で響く。そしてこの怒号の持ち主はフリードリヒという名の持ち主へ詰め寄る。
普通このような権力上うえな人間へ詰められたら平謝りするしかないだろう。しかしフリードリヒはそのようなことはせず、沈黙を貫いたまま反抗的な目で相手のことを睨みつけていた。もちろんだがそのようなことをすれば現場監督の機嫌を損ねる。
現場監督「なんだその反抗的な目は。目上の人間に向ける目ではないだろう」
そう男が発した直後、この炭鉱全体に聞こえてるのではないかと錯覚するほどの轟音が響いた。そう、男がフリードリヒを働かせるために暴力によって屈服させようとしたのである。普通の人間ならばこの時点で反省の意思を形上だけでも見せて、労働を再開することによってこの暴力から逃れようとするだろう。
いや、普段のフリードリヒだってそうしただろう。しかし今日のフリードリヒはそのまま親の仇の如き睨めつき続けた。そして小さな声だが、確実にフリードリヒは一言吐露した。
フリードリヒ「もう俺は限界なんだ…」
フリードリヒ(言ってしまった…でも限界なんだ!!この劣悪な生活も、無能で愚かな自分自身に対しても!!なんで俺には才能も環境も劣悪なんだよ!!)
フリードリヒはそう叫ぶしかないほど無力な存在であった。彼は物心つく前に両親を亡くし、幼少期は教会で過ごしていた。このころはまだ世界に希望を見出すことができていた。しかし彼には魔法の才能がなかったのだ。彼は何度本を読み、何度も魔術を唱え、何度人に教えを乞えても彼は魔法をまともに使うことができなかった。彼は嘆いた。
幼い頃のフリードリヒ「なぜ僕は魔法を使えないのだ!!どんなに才能がない人間でも魔法は打てるといわれているのに…なんで努力しても撃つことができないんだ!!!」
しかし、彼はこれだけで折れるような男ではなかった。彼はその後宗教を深く信じ、懸命に学問を励んだ。
彼は数学において才能あふれており、彼は学問によって生きると希望を見出していた。
ただ、現実は幼い彼が思っているほど簡単ではなかったのである。彼が居た教会は彼が10歳のころ財政が悪化し、別の教会へ行くことになった。 しかし、その教会は資本家との癒着が強く、彼は安値で奴隷として資本家へ引き渡され、炭鉱山で働くことになった。
ついに彼は心が折れてしまった。彼は自分が励んだ学問もここでは使えず、だれよりも神を信じ愛していたと自負していたのにも関わらず、このような仕打ちを受け、神がいないことを悟ったのである。
それでも彼は生きることを諦めなかった。彼は生きるためにできるだけさぼった。彼はどんだけが頑張っても魔法を多少なりとも使える労働者や他の奴隷と同レベルの仕事をすることはできないと悟っており、どれだけ懸命に働いても能力がないことを理由に白い目で見られるのはわかっていた。なので彼はいくら白い目で見られようとさぼった。まだ成長しきっていないこの体で働くことも、成人男性であろうと人体に悪影響のある粉塵を吸うことも死に直結することをわかっていたのだ。
なので、ばれて怒鳴られようと多少たたかれようと彼はさぼり続け、平謝りし、なるべくばれなよう表面上だけでも働いてるふりをし、ほかの労働者の石炭をくすねて成果をカサ増しすることもあった。
しかしもう心が持たなかったのである。社会への不信感や憎悪を止めることができなかったのである。4年間という期間は子供の彼にとって4年という莫大な時間は心を壊すのに充分すぎる時間だったのである。
しかし、そんな背景など現場監督にとっては関係ない 彼は炎の魔法を使い、彼の肌を軽く炙った。彼の肌が爛れるのに比例して彼の声がどんどん悲痛なものへと変化する
フリードリヒ「うぅ…あああああああああああああ」
1分間のその拷問を耐えたフリードリヒに対して監督はこう放つ
現場監督「次さぼっているところを見たらこんなものでは済まないからな」
フリードリヒはその言葉に対し怒りを感じた。彼は何も力を持っていない人が自分自身によって苦しんでるのを見て何も思わなかったのだろうか? フリードリヒは悟ったのである。彼は仕事によって仕方なくやっているのではなく、根っこから悪人であり、人の皮を被った悪魔であると。
そして彼に対して憎悪を持ち、そしてぶちまけた。
フリードリヒ「弱い人間をいたぶることに何も思わないのか!!?おまいなんて死んでしまえばいい!!」
そういいながら彼は現場監督を殴った
フリードリヒはその行為を後悔した。このようなことをしてしまえばどんなひどい目に会うかわからないからである。
しかし、現場監督はあり得ないほど苦痛な顔を浮かべ、地面をのたうちまわっていた。
フリードリヒは理解していた。彼に対してここまでダメージを与えるほど自分の体術に威力はないと。
しかし、現実は現場監督はそのまま息絶えてしまった。しかも白骨化しているのである。
彼はパニック状態になってしまった。 いくら深い憎悪を向けていたとはいえ殺してしまったという事実と、自分にすら把握できないこの力に。