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『少林(しょうりん)JK』   作者: コンコン
1/1

勝った者だけがあなたの隣にいられる。 切ないバトルラブ物語。

ミスマッチな場所で始まるバトル。

スイーツカフェ、109、ヘアサロン。

そこにある物を武器に使って戦ったりする。ハンガーやハサミ、フォーク。

インスタで強さ自慢をするJKたち。


二千年以上続いてきた一子相伝の秘拳、竜神拳の嫡男には、ある掟があった。

それは史上最強の女子を嫁にすること。最強の遺伝子を遺すために先祖代々受け継がれてきた定めだ。平成の現代でもそれは密かに続けられていた。恋人の座を争い、繰り返される女子バトル。

竜神家の嫡男ケントの恋人として5年間勝ち続けているのが主人公の舞(17歳)。だが、竜神家の掟でケント本人の希望は口にしてはならない。優しいケントは、いつも笑顔で舞と話してくれるが、ときどきその顔に暗い影がよぎるのを舞は見逃さない。本当は私より好きな子がいるんじゃ……?

だがケントの気持ちは永遠に確かめられない。ならば自分の気持ちに正直に生きるだけ。今日もケントの恋人の座をねらう女たちを回し蹴りで粉砕する舞。

「私は負けない! あなたが好きだから! アタアアア!!」


第一話

スイーツ食べ放題の店。

及川舞(17歳)がショートケーキと大量のイチゴを皿にのせていると、

横から派手な髪色の女子高生が現れ、値踏みするように舞を見る。

女子高生「あなたが5年間、無敗の及川舞さん?」

舞 「(無視してイチゴを皿にのせる)」

女子高生「えー、全然いけてなーい。ケント様が可哀そう」

と派手にデコッたヌンチャクを出し構える。

周りの客が後ずさりする。

だがまったく戦う気がない舞。

舞 「悪いけど、フォーク二つとってもらえる?」

舞は皿を二つ持っているので両手がふさがっている。

女子高生「はああああ!?」

猛烈な勢いで攻め込む女子高生。

女子高生「アタアアアアアアア!」

目にも止まらぬ速さでヌンチャクを操る。

だが、両手に皿を持ったまま、すいすいかわす舞。

しかもイチゴを一つも落とさないバランス感覚と身

体能力。そしてよけながら素早い回し蹴り。

見事に女子高生の鳩尾に決まる。

女子高生「うっ!」

そのまま吹っ飛んでフルーツバイキングコーナーの

テーブルに倒れる女子高生。

倒れた衝撃でバイキングコーナーにあったフォーク

が何本か飛び上がる。

そのまま舞の両手の皿にフォークが乗っかる。

小声でつぶやく舞。

舞 「……ありがとう」


テーブル席で17歳の竜神ケント(17歳)にケーキを食べさせてやる舞。

ケントは右手が不自由なようだ。

一口食べて表情が変わるケント。

ケント「おいしい! 舞も食べなよ」

そのとき「あ」と何かに気づくケント。

左手で舞の髪についた生クリームを拭いてくれた。

先ほどのバトルでついたようだ。

ケントの優しさが嬉しい舞。

舞のM「……私は勝ち続ける。あなたのそばにいるために」



――5年前。

山中にある竜神拳の道場。

整列して稽古をする門下生ら。

N 「二千年以上続いてきた一子相伝の秘拳、竜神拳の嫡男に

は、ある掟があった」

最前列に12歳のケントがいて型の稽古をしている。

(右手の肘に包帯がしてあり肘が曲がらない)

N 「それは最強の女子を嫁にすること。最強の遺伝子を遺すために先祖代々受け継がれてきた定めだ。平成の現代でもそれは密かに続けられていた」

ケントの横には12歳の西園寺沙紀がいる。

お嬢様育ちで、皆よりも綺麗な道着を着ている。

少し離れた場所に12歳の舞がいて、ケントをじっと見ている。

他にも大勢いる門下生はすべて女の子。

×   ×   ×

稽古が終わり、全員直立不動で整列している。

竜神拳の師範であるケントの母が壇上に立つ。

母 「ケントに想いを寄せている者は前に出よ!」

すると、沙紀とショートカットの少女が前に出た。

母 「他におらぬか!」

舞は密かにケントに憧れている。

だがシャイな舞は前に出ることができない。

×   ×   ×

結局、沙紀と先ほどのショートカットの少女が勝負

をすることになる。

母 「勝った者のみケントのそばにいることを許す。では、はじめ!」

目にもとまらぬ速さで打ち合う二人。

子供同士とはいえ、圧倒的な破壊力。

空振りした蹴りで道場の壁に穴が開いたり、柱が折

れたりする。ショートカットの少女が優勢になる。

脚力がずば抜けている。蹴りの威力や跳躍力も沙紀を上回る。

沙紀はよけきれず、面白いように蹴りが決まる。

見ているケントはたまらない。

ショートカットの少女が高い跳躍からとどめの飛び蹴りを繰り出し、

沙紀の顔面に決まる。

沙 紀「!」

吹っ飛ぶ沙紀。勝負ありだ。

×   ×   ×

勝ったショートカットの少女に勝者の証として、

指輪をはめてやるケント。

嬉しそうな少女。

これでケントの恋人の座が手に入った。

だがケントは沙紀が気になる様子。

負けた沙紀は痛みをこらえてうずくまったまま。



翌日、丘の上。

ケントに呼び出された舞。

舞 「――私に用って何?」

ケント「実は、沙紀に拳法を教えて欲しいんだ」

舞 「!……」

ケント「舞は目立たないけど誰よりも拳法の才能がある。 僕はそう思ってるよ」

舞 「(自分を見ていてくれたことが嬉しい)」

ケント「舞が教えてくれれば沙紀は必ず強くなる」

舞 「もしかして、沙紀ちゃんのことが好きなの?」

ケント「……」

舞 「そっか、言えない掟なんだよね」

ケント「沙紀がこれ以上傷つくのを見たくないんだ。沙紀はきっ

とまた挑戦してくる。だから強くなって欲しいんだ」

心中複雑な舞。

ほんとは、いつか自分も挑戦してケントの恋人の座を得たかったのに……。

舞 「――うん」

と了承してしまう。



翌日から、丘の上で舞は沙紀に拳法を教える。

舞は手本で大きな岩を割って見せる。

沙紀はまだ小さな岩しか割れない。


だが沙紀は呑み込みが早くどんどん上達した。

日ごとに大きな岩を割れるようになる。


練習の休憩時間に沙紀がケントを好きになった理由を話してくれた。

沙 紀「私、ずっと友達がいなくて、飼っていた犬だけが友達だったの。でもその犬が病気で死んじゃって――。ケントは一緒に泣いてくれた」

ケントは雨の中、泣きながら犬の墓を手で掘ってくれたらしい。

沙 紀「……あのときから私の心にはケントしかいないの」


ケントは優しいだけではない。人一倍働きものでもある。

左手だけで大量のマキ割りをするケント。そんなケントの横には先日勝利したショートカットの少女がいる。ケントの汗を拭いてやる少女。


食事のとき年下の幼い少女がシチューをこぼしてし

まうと、ケントは自分の分を与えたりする。

そんなケントを見ている舞。



丘の上。

沙紀はすっかり上達し、舞より大きな岩を割れるよ

うになった。感心する舞。

舞 「すごい」

沙 紀「舞ちゃんのお蔭だよ。――こんどは私にお礼をさせて。

何か欲しいものない?」

お嬢様育ちの沙紀らしい質問だ。

舞 「別に欲しいものなんかない。……私、沙紀ちゃんみたい

になりたい」

思わず本音が出てしまう舞。

舞 「自分に正直に、思ったことを言える沙紀ちゃんが羨ましい」

沙 紀「そんなの簡単よ。――自分を好きになればいいの。そう

すれば、自分に正直になれるから」

舞 「……」

沙 紀「そうだ、お化粧教えてあげる」

舞 「え」

有無を言わさずバッグから化粧道具を取り出し、

舞に化粧をしてやる。

沙 紀「舞ちゃん、可愛いから化粧映えするよ」

×   ×   ×

メイクし終わった自分を鏡で見て恥じらう舞。

舞 「これが私……」



そんなある日、舞は偶然ケントとケントの父の会話

を聞いてしまう。

道場脇のケントの自宅。

ケントの父は病で余命わずか。ケントは父を見舞っている。

竜神拳の定めにうんざりしているケント。

ケント「これ以上自分のために女の子たちが傷つくのが辛いんで

す。なんのためにこんな決まりがあるのですか?」

父 「……」

ケント「父上は幸せでしたか? 母上と一緒にいて」

夕陽に照らされた父の横顔。

父 「母さんは誰にも負けなかった。誰よりも私を愛していた

からだ。――私は幸せだったよ」

立ち聞きしている舞は、なんだが勇気づけられる。

舞のM「一方的な愛でも、最後には相手を幸せにできる。だった

ら私もケントのことを……」



数日後、道場で沙紀のリベンジマッチが行われる。

以前とは別人のような闘気をまとった沙紀に身構えるショートカットの少女。

ケントの母「再試合を行う。いつでも、誰からの挑戦も受ける。それが竜神拳の嫁の条件だ」

母は目でショートカットの少女に確認する。

少女はコクリとうなずく。

構える二人。

ケントの母「はじめ!」

沙紀は相手のジャンプを封じるために素早いローキックで膝を砕く。

痛みでショートカットの少女の顔がゆがむ。その顔面に蹴りを叩きこむ沙紀。

沙 紀「りゃあああああ!」

巨大な岩を砕いたのと同じ一撃だ。

吹っ飛び、気絶するショートカットの少女。

勝負あり。瞬殺だ。

ケントを見つめ嬉しそうな沙紀。

ケントも嬉しそうに拍手している。

だがその刹那「待って!」とギャラリーの中から舞が現れる。

舞 「私も戦いたいです!」

驚く沙紀。

沙 紀「!――舞ちゃん」

舞 「ごめん。私、自分に正直になることにしたから」

ケントも驚いて見ている。舞が、まさか自分に好意をもっているとは思わなかったようだ。


ケントの母「はじめ!」

勝負が始まる。

互いに威力ある蹴りの応酬。

空振りしても風圧で木が倒れる。

やや沙紀が優勢。どんどん攻め込む。

追い詰められる舞。

沙 紀「ケントは渡さない!!」

沙紀の鋭いケリが舞のアゴに向かって伸びていく。

だが、沙紀に拳法を教えていたので舞は動きを読んでいた。

倒れ込みながら蹴りを避け、ローキックで沙紀の足

を払い、転倒させる。

沙 紀「!」

倒れていく沙紀のアゴに上から正拳突き。

舞 「アタアアアア!」

そのまま地面に背中からめり込む沙紀。

勝負あり。

母 「勝者、舞!」

倒れたまま悔し涙を流している沙紀。

舞のM「ごめん、沙紀ちゃん」

沙 紀「……許さない。私は、絶対にあんたより強くなるから」

そういって気絶する沙紀。

わかっていたとはいえやはり心が痛む。

舞にはさらに気になることがある。

背後で勝負を見ていたケントの反応だ。

勝者の指輪を手に近づいてくるケントの気配がするのだが……。

舞のM「ケントは今どんな顔をしてるのか、怖くて見られなかっ

た。ケントは沙紀ちゃんの勝利を願っていた。私なんか

が勝って迷惑だったはず……」

結局振り返ることができない舞。ケントの表情もわ

からぬまま。



そして5年の歳月が流れ現在――。

東京、渋谷。先ほどのスイーツパラダイスから出てきた高校生の舞とケント。

舞の左手にはあの日の勝者の指輪がある。

舞のM「あれから五年間わたしは勝ち続け、ケントの恋人としての地位を守っている」

舞の横、笑顔で歩いているケント。

舞のM「ケントはいつも笑顔でいてくれる。――でも私が横にいることをどう思っているのかはわからない……」

ふいに立ち止まるケント。

ケント「ごめん、今日ちょっと予定があって」

手を振って地下鉄の入り口に降りていく。

舞 「……」



舞の自宅。

無機質なコンクリート打ちっぱなしの室内。

帰宅すると、セーラー服のままストイックに体を

鍛える舞。

天井から逆さにぶら下がり鉄アレーを両手に持ち、

腹筋。汗が滴り落ちる。

筋トレが終わり、鏡で全身を見る舞。

体脂肪率は限りなくゼロに近い。


夕方、近所のラーメン店にバイトにきた舞。

ここの女主人敏子が舞の拳法の師匠だ。

手刀で野菜を切りながら、片方の手で炒め物をして

いる舞。まるで曲芸のよう。

スープの味見をしていた敏子が違和感を覚える。

オタマを武器にいきなり舞に襲い掛かる敏子。

両手で調理をしながら器用に避ける舞。

だが達人敏子の攻撃は避けられない。

オタマが舞のアゴをとらえる寸前で止まる。

舞 「!……」

敏 子「味に曇りがある。――邪念がある証拠だ」

舞 「……」

敏 子「強くなることだけを考えろ。好かれようなんて考えたら 負ける。昔の私のようにな」

敏子は左の眼がつぶれている。昔、ケントの母と戦

って敗れた時のもののようだ。

だが珍しく反抗的な目で敏子を睨む舞。

舞 「私はもう十分強い。私が欲しいのは強さじゃない……」

ケントからの確かな愛情が欲しいのだ。

エプロンを外す舞、そのまま店を出て行ってしまう。

店のドアが閉まると、その拍子に敏子の手にしてい

たオタマが柄の部分からポキリと折れてしまう。

驚く敏子。あのまま戦っていたら、敏子が破れていた……?

敏 子「……」


ラーメン店を出て街を歩く舞。

ふと進行方向にセレクトショップが見えてくる。

ショーウインドウに春らしい淡い色のパンプスがデ

ィスプレイしてある。見入ってしまう舞。

だがガラスに映る自分の筋肉質な脚には似合わない。

舞 「……」

そのとき背後から男子高校生伴野壮が声をかける。

壮 「そんなの履いたってケントは振り向いてくれないぜ」

茶髪でチャラい印象の壮。

いつのまに背後に近づいたのか。

構える舞。壮も構える。

壮 「勝負だ。勝ったら俺の彼女になってくれるんだろ」

舞 「勝てたらね」

蹴りを繰り出す壮。

壮 「りゃああああ!」

次々に攻撃を仕掛けながら舞を説得する壮。

壮 「ケントなんかあきらめろ。いまだにキスもないんだろ」

余裕でいなす舞。さらに蹴り込む壮。

壮 「お前といたって、あいつはちっとも楽しそうじゃない」

舞 「黙れ」

壮 「竜神拳の掟だから仕方なくお前と」

舞 「黙れええええ!」

舞の後ろ回し蹴りが壮の鳩尾に決まる。

壮 「うっ!」

そのままショーウインドウのガラスを粉砕して店内

に吹っ飛ぶ壮。倒れたまま壮が言う。

壮 「……最近、ケントの様子がおかしいだろ」

そういえば、心当たりがある舞。

×   ×   ×

(フラッシュ)

ケント「ごめん、今日ちょっと予定があって」

×   ×   ×

壮 「自由が丘に行ってみろ……」

それだけ言うと気絶する壮。

舞 「……」



自由が丘の南口――。

路上ライブで歌う少女の周りに人だかりが。

激しくギターをかき鳴らしロックを熱唱している。

チェックのスカートにレザーのライダースジャケッ

ト。スタッズのついたリストバンドにチョーカー。

少女は5年前に沙紀と戦ったあのショートカットの女(亜美:17歳)だ。

ギャラリーの中にケントもいる。

熱心に亜美の歌を聞いているケント。

少し離れた場所から見ている舞。

ケントは毎晩、亜美を見るためにここに来ていたのだろうか?


演奏を終え、南口にあるベンチでギターを仕舞っている亜美。

そこに舞が現れる。

舞を見て一瞬驚く亜美だが、何も言わず、そのままギターを磨く。

舞の方がじれたように先に切り出す。

舞 「ルール違反よ。ケントと会うなら私に勝ってからにして」

亜 美「――私が呼んだんじゃない。ケントが勝手にきてるの」

動揺する舞だが、それを悟られぬようつとめ、

舞 「とにかく、もう二度と会わないで」

だが、ギターをいじりながら、

亜 美「さあ」

とまともにとりあわない亜美に、カッとなった舞が蹴りを繰り出す。

亜美は華麗によけ、その流れの動作で膝蹴り。

亜 美「フン!」

見事に舞に決まる。

あまりの衝撃に驚いている舞。

舞 「!?」

亜 美「この膝には金属が入ってるの」

×   ×   ×

(回想)5年前の戦いで沙紀に膝を砕かれた。

×   ×   ×

亜 美「先月、ここでライブしてて偶然ケントと再会した。それ

以来、来てくれる。――たぶん、この膝のこと負い目に感じてるんだと思う」

舞 「……負い目」

亜 美「昔とちっとも変わらない。馬鹿みたいにお人よし。……せっかく忘れようとしてたのに……」

戦う構えになる亜美。

亜 美「こんなんじゃ、また好きになりそうよ」

舞も応戦の構え。

舞 「勝ってもケントの心は手に入らないかもしれないわよ」

亜美が見透かしたように笑う。

舞 「何がおかしい」

亜 美「どうりで隙だらけだと思った。あんた、そんなことで悩んでるんだ」

キラリと目が光る亜美。

亜 美「この勝負、勝てるかも」

素早く身をひるがえし、裏拳で攻撃する。

スタッズのついたリストバンドが舞の顔面にヒット。

吐き捨てるように罵倒する亜美。

亜 美「よわ」

ダメージでふらついている舞。

さらに亜美の正拳突きが鳩尾に決まる。

舞 「!」

亜 美「まだまだ!」

上段蹴りが舞の顔面にヒット。

吹っ飛ぶ舞。

亜美の脚力は健在だ。

亜 美「次は超インスタ映えする技よ――」

思い切りジャンプして数メートルの高さからかかと落とし。

亜 美「りゃああああああ!」

まともに食らい倒れる舞。


そこにケントがスタバコーヒーを持って戻ってきた。

舞を見て驚く。

ケント「……舞!?……どうしてここに?」

ケントに気づいた亜美、ちょうどいいタイミングで戻ってきたとばかりに、

亜 美「ケント、見てて、あの指輪はわたしがいただくから」

状況を理解するケント。

舞はぼやけた視界で、なんとなくケントだとわかる。

ふらついて立ち上がり弱弱しい声で呼ぶ。

舞 「……ケント」

ケント「ああ」

舞 「……ケントは私にそばにいて欲しい?」

ケント「!……」

亜 美「その質問はご法度よ!」

と舞の腹を蹴る亜美。

ブハッと血を吐くが倒れない舞。

舞 「……ねえ、教えて。私、勝ってもいいの?」

ケント「……」

亜 美「って、この勝負どう見てもあんたの負けだし!」

と正拳突き。

倒れない舞。

舞 「ケント!」

亜美の蹴り。

踏ん張る舞。

舞 「教えて! じゃないと私!」

すまないという目で下を向いてしまうケント。

どんなに訴えても答えてくれない。

ならばと衝動的にケントにキスする舞。

言葉にできないなら、体に聞けということか。

自分の行動に驚いている舞。

すると口づけの際、ケントが舞を優しく抱きしめてくれた。

ケント「……」

目を見開く舞。心の中で何かが弾け雄たけびを上げる。

舞 「アタアアアアア!」

亜 美「なに勝手にキスしてんだ! 死ねやああああ!」

思い切りジャンプする亜美。

舞もジャンプする。

なんと亜美よりも高く上がる。

亜 美「私より高い!?」

亜美のM「跳躍力だけは誰にも負けなかったのに。こいつどんだけ鍛えたんだ」

空中で前転しながら亜美にかかと落としをお見舞いする舞。

舞 「アタアアアアア!」

亜 美「!」

まともに食らい、オープンカフェのテーブルに叩き

つけられそうになる亜美。

だが間一髪、ケントが受け止める。

亜美の膝を心配しているのだ。

亜 美「ケント……」

ケントは泣いている。

竜神拳の嫡男に生まれたばかりに、周りをこんな理不尽な戦いに巻き込む。

戦いのたびにケントも傷ついているのだ。

亜 美「……ケント」

気絶する亜美。



戦いが終わり、ボロボロになった舞を背負って帰路に就くケント。

ケントの温かい背中に顔をうずめる舞、さきほどのキスを思い出して赤くなる。

あの時感じたのは言葉にできない不確かなものだったが、それだけに偽りのないものだった。

余韻を噛みしめて目を閉じる舞。

舞 「……わたし、負けないから」

ケントと一緒にいるために勝ち続けると誓う舞。

夜の商店街、二人の影が小さく遠くなっていく。

           


以後、毎話様々な挑戦者が舞の前に現れる。

そのたびに戦い、勝利していく舞。


■登場人物


及川  舞(17歳) 竜神拳の達人。幼いころから一つ年上のケントを慕ってきた。拳の腕は天才的だが恋には不器用。


竜神 ケント(18歳)竜神拳宗家の嫡男。優しく誠実な男。竜神家の嫡男としての責務を果たそうとしている。幼い頃、舞を庇って怪我し、右手に麻痺が残った。舞が自分のそばにいるのは、その負い目からだと思ってどこか距離を置いている。


西園寺 沙紀(17歳)竜神拳の達人で舞のライバル。読者モデルもやっていて女子力も高い。舞とは12歳のとき戦って敗れた。あのときのケントの悲しそうな顔が忘れられない。ほんとは私に勝ってほしかったんじゃないのか……。


羽柴 ななみ(17歳)盲目の美少女。槍術の達人。普段は指圧師のバイトをしている。ケントの初恋の相手。竜神拳と対立する巨大流派紅虎拳の後継者でもある。ななみも密かにケントを想っているが、嫡子同士、結ばれることはありえない。舞が恐れているのはななみ。もしななみが本気になったら勝てないと感じている。


伴野 壮(17歳) 舞のことが好き。ケントの本心がわからずいつも苦しそうな舞を見ていられない。


野村 敏子(40歳) 近所のラーメン店の女主人。カンフーの達人。若い頃ケントの父親を好きで、連戦連勝だったが、ある日、彼が本当に好きな人が自分ではないと気付き、力が抜け負けてしまった。


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