ばあちゃんとワンコ
三上さんの家を出て夕食の買い物をする。その日の夜ばあちゃんが帰宅予定だ。帰ってくるばあちゃんのために夕食を作る?違うかな。だいたいばあちゃんは旅先から帰って来て食べるのはお茶漬けなんだよな。どちらかと言うとばあちゃんがワンコと戯れるためのエサを買いに行く。奴の好物はニボシだ。
「ワンコーワンコー」
ばあちゃんは帰って来るなりワンコを呼ぶ。ワンコはばあちゃんに呼ばれもダッシュで飛び付く。お前、骨折は?
「ああ。良かったーワンコー寂しくなかったかい?」
「クゥン」
ばあちゃんも飛び付くワンコを抱きしめた。
「ばあちゃん。お帰り」
僕もワンコを追い、ばあちゃんを出迎える。
「ワンコ。足は大丈夫?」
「クゥン?」
ばあちゃんはまじまじとワンコの左前足にかかるサポーターを見る。その反応にワンコは何それ?意味わからないって感じの反応をする。
「ご飯はちゃんと食べた」
「ワン!」
「そう、良かったわね。見つけた人にお礼しようね」
「いや、お礼と言うか謝って来た」
ばあちゃんに謝って来たと報告する。
「ハッハッハッ」
「ワンコ可愛い。お手!」
ばあちゃんはワンコから一度離れワンコを座らせお手をさせる。ワンコもその動きに素早く反応。
「おかわり!」
ワンコは反対の前足はゆっくりと出した。サポーターがしてある、ヒビが入っているほうだ。やっぱりダメージがあるようだ。そのことにばあちゃんも気づく。
「大変!病院行かないと」
「いや、さっき自分で確認したでしょ。治療済みだから」
一度はワンコの足を確認したはずだが、戯れているウチに忘れてしまったようだ。頼むよ。そこからばあちゃんの暴走は止まらない。
「骨折にはカルシウムとらないとね。ニボシ。ニボシ」
「はい。これ」
僕は準備しておいたニボシをばあちゃんに差し出す。ばあちゃんは僕の手からニボシを奪い取りワンコの前に置く。
「待て。よし」
「待て。よし」
「待て。よし」
ばあちゃんはワンコと戯れる。久しぶりだし仕方がないか。でもその『待て。よし』意味がある?一秒も待ってないだか。
「ワンコお利口さんね」
「ばあちゃんお帰り。夕食は食べた?」
ワンコのことは一通り確認したと思い、ばあちゃんに声をかける。
「ワンコはホント可愛いね」
「バウッ」
「ホントお利口さんね。今日は私と一緒に寝る?」
「ブルブルブル」
「あら、一緒に寝るのーさみしがりやなんだから」
僕は軽く無視される。ばあちゃん。ワンコの反応は一緒に寝てくれないと思う。仕方なくもう一度ばあちゃんに声をかける。
「ばあちゃん。お帰り」
「そうそう。旅先でね。ワンコに似合いそうなスカーフ見つけて来たの。似合うかしら?」
「クゥン」
「早速つけてみましょうか」
ばあちゃんは旅行の荷物より真っ赤なスカーフを取り出しワンコの首に取り付ける。ワンコもされるまま待つ。
「キャ。すごい似合うわ」
おい。余り無視していると孫が泣くぞ。
「ばあちゃん。飯は何を食べるんだ?」
ちょっと気合を入れて声を張り上げる。ばあちゃんの身体がビックっと動く。そしてこちらに顔を見せる。
「幹夫。そんな大きな声出さなくても聞こえてますよ。しかも藪から棒にご飯ってなんですか。まずはお帰りでしょ!」
このばばあ。完全に今までのこと聞いてなかったな。でもここで怒ってはいけない。冷静に対処しよう。言われたまま声をかける。
「ばあちゃん。お帰り。晩御飯は何にしますか?」
「はい。ただいま。幹夫。悪いだけど疲れていて食欲がないの。悪いんだけど夕御飯はお茶漬けでお願い」
「了解です。速く部屋で着替えて来たら?荷物はあとで運んでおくから」
「そう?宜しく。ワンコまたね」
ばあちゃんは部屋に着替えに行った。疲れるのはコッチ。少しだけワンコに当たる。ほっぺを軽くつねる。
「ワンコーばあちゃんなんとかならないか?」
「クゥン?」
ワンコに話しかけたところで解決はしないのだが、ついやってしまう。その後、玄関に置かれた荷物を取りあえずリビングまで運ぶ。
リビングにばあちゃんが戻って来た所で夕食を出す。二人と一匹のささやかやディナーが始まる。食事中に玄関先でワンコの見つかった経緯を改めて話す。
「え?じゃあ。ワンコの子供達が生まれるの?ワンコすごいじゃない!立派なパパね」
ばあちゃんは椅子から降りワンコを撫でる。イヤ誉めるとこじゃないから。僕はそのまま話を続ける。
「ああ。しかも三上さん以外の他の家でも頑張ったらしい」
「あら。 あら。ワンコ頑張ったわね。男の子はそれぐらいモテないとね」
他人に迷惑掛け過ぎだ。でも他の家で頑張ったと言う情報は野口さんからしか聞こえてこない。今思えば野口さんの冗談だったかも。すると被害者はミナミちゃんだけかな?
「幹夫。男の子はモテた方が良いわよ。早く彼女を紹介して頂戴。三上さんとか野口さんとか」
「ぶっ。ゲホゲホ」
僕はお茶漬けを空に飛ばす。ばあちゃんのとんでも発言にむせてしまった。
「ばあちゃん。野口さんも三上さんとは何もないぞ。ただのクラスメイトだ」
「あら?クラスメイトなの。丁度良いじゃない。ばあちゃんに紹介して」
「嫌だ」
「あら。独占欲?」
「ちがーう。苦手なの!カーストの上位にいる三上さんのようなイケイケタイプ」
どちらかと言うと野口さんの方が安心出来る。僕が三上さんを否定するとばあちゃんはため息をつきながらワンコに話しかける。
「ワンコ。幹夫へたれなんだって。少しぐらい強引の方が女の子も喜ぶのに」
「いや。アレは無理」
僕は腕をクロスさせ無理という動きを取る。ワンコと戯れていたばあちゃんも自分の席に戻り御茶をすする。
「幹夫。ばあちゃんは生きているウチにひ孫の顔を見たい」
「高2の僕には無理です。あと10年頑張って生きて下さい」
僕の回答にばあちゃんが拗ねる。これは僕を弄り捲るつもりだ。僕は頭の中で何を言われても良いように準備をする。
「幹夫、ひ孫は我慢するけど、あんたいつ彼女作るの?折角の良い男がもったいない。意識を変えてアタックするのよ。三上さん可愛いんでしょ?」
ばあちゃんの突っ込みに僕は言葉がでない。彼女いない歴16年。彼女か。緊張して何も出来ないだろ。同性のヤローとつるんでいる方が楽だ。そもそも三上さんは敷居が高い。アタックするなら玉砕したくはない。アタックして玉砕して見るのも良いのか?
「イヤ、三上さんは彼氏いるし」
咄嗟に嘘をつく。あながち嘘ではないか。彼女はいつもスーパーエリートの猿谷といる。何処から見ても似合いのカップルだ。
「あら、残念。でも略奪愛もあるわよ」
「ないから」
「じゃあ、野口さんは?」
「.......どうでも良いだろ」
突然の話題変換に僕は言葉が詰まる。
「そう」
ばあちゃんは野口さんのことには追及してこなかった。そのかわり三上さんのことで僕を弄り徹した。