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動物ファースト 振り返り

 野口親子に見送れられ自宅へ入る。すぐにばあちゃんに声をかけられた。


「遅かったわね」


「クゥン」


 僕より先にワンコが返事をする。それを聞き、ばあちゃんは直ぐ様、ワンコの側にしゃがみこむ。


「ワンコ。元気ないわね?何かあった?」


「クゥン。ワン。ワン」


「そう。幹夫に意地悪されたのね。よしよし。ばあちゃんが幹夫にガツンっと言ってあげるからね」


 ばあちゃん。何やってるんだ。僕が悪人になっている。ワンコは『クゥン』と『ワン』しか吠えてないだろ。


「勝手に悪者にしないでくれるかな」


 とりあえず反論する。


「何、言っているの。幹夫は怪我をしているワンコを一日中連れ回したのよ。ばあちゃんは心配で心配で」


 ばあちゃんは心配そうにワンコの手を撫でる。


「ワンコ。お手。おかわり。ワンコ。お利口さんね」


 ばあちゃんは僕の方は見ず、ワンコと戯れながら話を続ける。要はワンコが居なくて寂しかったのね。少し悪いことをした気がした。


「ごめん。色々あって」


「ワンコ。ご飯前におやつあげるわね。はい。煮干」


 ばあちゃんは相変わらずマイペースだ。僕の話は後回し。ワンコ、ファースト。煮干しを与えたあとにばあちゃんは立ち上がり僕の方を見る。


「幹夫。色々って。あら。猫ちゃん。まあ。まあ。可愛い。どうしましょう」


 ばあちゃんは僕に話しかけようとして僕に抱かれているユキちゃんに気づいた。


「この子はユキちゃん。僕から離れなくなって預かることにした」


「猫ちゃんおいで」


 ばあちゃんは両手を広げユキちゃんを呼ぶ。だがユキちゃんは離れなかった。


「ばあちゃん。怖がられてる」


 ばあちゃんは残念そうな顔をする。こればかりは仕方がない。動物慣れをしている野口さんでさえ抱っこしに行かなかった。


「幹夫。甘いわ。動物に好かれているばあちゃんの実力を見せてあげるわ」


 ばあちゃんはタオルを取り出しその中に手を入れる。タオルの中で手をゆっくり動かす。すると僕に抱っこしていたユキちゃんがタオルの前に降りた。


「え?嘘。野口さんにも懐かなかったのに」


「猫はハンターよ。獲物を狩る習性があるからね。ほら捕まえた」


 手を動かし続けるばあちゃんにユキちゃんはあっさり捕まった。さらにはばあちゃんの指に体を擦り付ける。なんだこれ?


「よし。よし。で、何でこんなに遅くなったの?」


「夕飯を食べながら話すよ」


「そう。ご飯にしましょう。今日のご飯はメザシよ」


 ばあちゃん。おかずセレクトが昭和だ。もう少し肉とか食べようよ。何か作ろうかと冷蔵庫を覗く。ろくな物が入っていなかった。諦めメザシを食べながら今日の出来事をばあちゃんに話す。


「あら。翔子ちゃん。不思議っ子ね。悪い子ではないのでしょうけど」


 これがばあちゃんが野口さんに対するイメージだ。『不思議っ子』か。確かに的を得ている。不思議なんだよ。行動が唐突過ぎて。でも面倒見が良い優しい女の子だと思う。その事を口に出してばあちゃんに伝える。


「面倒見が良い優しい子だよ」


「あらあら。愛ね」


「ゲホゲホ。ばあちゃん!」


 思わぬ突っ込みに魚の骨が喉に刺さる。


「うん。良い子ね。幹夫の初めての彼女」


「彼女じゃない!学校の友達」


「はい。はい。その女の子の友達と一日中一緒にいたのね」


「そうだよ」


「一日中一緒にいて手を繋いだりキスしたり抱き締めたりHなことしたいと思わなかったの」


「お、思うわけないだろ!」


 いえ。本当は少し、いえ。かなり色々したいと思いました。特に意識したのは交番へ行った後、駅前で見たカップルのキスのせいだ。凄かった。僕もあんなふうにしたいと思った。

 隣に座る野口さんもあのカップルは見えていただろう。場に流されてキスを迫っても良かったかも知れない。その場合、彼女は受け入れていた気がする。


 あれ?明日も野口さん来るだよね。ワンコにご褒美って言ってたけど。彼女が僕の部屋に入る。キス以上が出来たりする。ヤバ。部屋の掃除しないと。


「幹夫。順番は大切よ。まず相手に気持ちも伝えないとね」


「そ、そうだね」


 ばあちゃんには僕の考えを見透かされている気がする。


「あら、ただの女の友達に何をするつもりだったのかしら」


「くっ。風呂行って来る」


「あぁ~。拗ねちゃた。からかい過ぎたわね。頑張れ。幹夫」


「うっさい」


 僕は勢い良く食卓を立つ。自分の気持ちにイラつく。僕は野口さんをどう思っているんだ?好き。嫌い。性の対象。動物好き仲間。クラスメイト。あー良くわからん!心惹かれるだけは確かだ。


 風呂に入り今日の出来事を振り替える。僕は朝から野口さんと行動を共にしていた。


 朝、病院でワンコを診察してもらう。


 その後、野口さんに食事に誘われた。桜さんが野口さんと僕に寅次郎を探した時のお礼をしたいとのことだった。


 桜さんの店に行く途中、ユキちゃんが野口さんの胸に飛び込んで来た。その後に野口さんが暴走して人の家のガラス割って中に侵入して犯罪だよ。でもおじいさんが倒れていたんだよな。


 食事会が流れる予定が、まさかの野口さんから連絡。仕切り直しで駅前で待ち合わせ。勝に会ったな。後でフォローしないと。勝に手は繋いだと報告出来るぞ。しないけど。


 桜さんの店で無くなった寅次郎を拝み。お好み焼きを食べた。野口さんが動物と話せるとか冗談言って。また行きたいな。お好み焼き。


 そのまま帰る予定がまこと君に会ってペンダント探し。そのあとの駅前交番。 そしてあのカップルのキス。


「ああああああ!」


 僕は頭ごと風呂に突っ込む。冷静なれ。冷静に。


「ブファ」


 風呂から顔を出す。

 ......野口さん嘘ではなく、動物と会話出来るよね。そう考えると辻褄が合うことがある。


 ユキちゃんがおじいさんが倒れてことを伝え野口さんに助けを求めた。そうとでも考えないとやはりおかしい。

 お好み焼き屋の告白は自分のことを伝えたかった。嘘と言って無いことした?

 ペンダントはあれも何か違和感がある。美容師さんから話を聞き名探偵のように情報を整理して推理した見たいだけど。ワンコを使った理由?


 流石に動物と話せるは無理があるかな?何となくわかる程度。イヤそれだとユキちゃんの時の野口の行動が説明出来ない。やはり野口さんは動物との会話が出来る。そしてその事実は知られたくない。


「聞けないなぁ」


 僕は風呂の天井を見上げる。

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