寄り道
楽しかった時間が終わるのは早い。野口さんとのお好み焼きデートは終わりを告げた。少しはお近づきになったと思うがまだ微妙な距離間だ。最初で最後のデートの可能性が高い。
「今日はご馳走様でした」
僕らは帰る前に桜さんと優子さんに挨拶をする。
「いいの。いいの。寅次郎の件でたくさんお世話になってるから」
挨拶が終わり二人で店を出る。途中までは一緒に帰れそうだ。何か何か彼女と付き合い続ける方法はないか?
「ヴニャ?」
そして、ユキちゃんが僕から離れなかった。かごにも入らす僕の胸に抱かれていた。引きはなそうとしても爪を立てて剥がれなかった。そこでワンコのリードは野口さんに持ってもらっている。彼女とワンコも色々ありそうだし。
「野口さんは犬と猫どっちが好き?」
「どっちも好きですよ」
聞いた僕がバカだった。動物病院の娘だ。どっちも好きに決まってる。
「ユキちゃん離れませんね。松下君は動物に好かれるタイプですよね」
「そう?結構逃げられてるけど」
ユキちゃんだけが珍しく懐いているのだ。道端で声をかける連中は逃げ出すか、シャーだ。
「そんなことはないですよ。ちょっとタイミングが悪いだけです」
「タイミングね。でもコレどうしようか?」
僕は胸に張り付いて離れない猫を指差す。
「本当はウチで預かるつもりでしたが、松下君にそこまで懐いているなら一晩預けて様子を見ようかと思いますが。いいですか?」
「大丈夫かな」
「じゃあ。ワンコ君と共々一緒に送りますね」
「ワン」
僕の代わりにワンコが了承の返事をする。お前は何にでも積極的だよな。少しは見習わないとダメか?でもユキちゃんのおかげで野口さんとはこれからも連絡が取れそうだ。
「宜しくお願いします」
ワンコに数秒遅れで返事を返す。僕が野口さんに家まで送ってもらう。本来は女の子を家まで送り届けるのが筋なのでは?とは思ったが流に身を任せることにした。
改めて思う。僕らが二人で並んで歩くと会話が続かない。どうしても話題がてでこない。必死に話題を考えていたら目の前に車の下を覗き込む子供に出会った。
「どうしたの?」
野口さんはしゃがみこみ、その子に声をかけた。
「うぉ。イテ」
声をかけられた少年はその声に驚き後頭部を強打した。頭を抑えながら車の下から出て野口さんの前に立ち上がった。少年は短髪。半袖短パンと活動的な容姿をしていた。
「大丈夫?」
「おぉ。犬とお姉さん?お姉さんが突然声をかけるからびっくりしたよ」
「どうして車の下なんか覗いていたの?」
「妹が無くしたママのペンダントを探していたんだよ」
「ペンダントか。お姉ちゃんも一緒探しても良いかな?」
「え?いいよ」
「どんな形?」
「イヤ、だから手伝う必要ないって」
少年は否定的な態度を取った。
「ここにいる犬はただの犬ではないのだ。探し物名人のワンコ君だぞ」
「ワン」
少年の否定的な態度に対し野口さん悪のりをした。ワンコは便乗。なんだこのコンビ。阿吽の呼吸が出来ている。
「本当?」
「本当、本当。この子なら数時間で見つけるよ」
「まっ、待った。野口さん。いくらなんでもそんな嘘を子供につくのはダメだと思うけど」
流石に僕も口を挟む。ワンコにそんな能力はない。合ったとしても自分の物だけだ。ばあちゃんがワンコ専用のブラシを失くしたと騒いだ時に自分から探し当てる。この場合、ほぼばあちゃんの物忘れなんだが。
「大丈夫。探して見せるから」
「お願いします」
野口さんは自信満々。少年は彼女とワンコに頭を下げて来た。
「私の名前は野口翔子。このスーパー犬の名前はワンコ。こっちのお兄さんは松下幹夫君とユキちゃん。あなたのお名前は?」
野口さんはここにいる全員の自己紹介をまとめてしてくれた。
「まこと。青柳まこと」
少年も恥ずかしそうに名前を名乗る。
「じゃあ、まこと君。失くしたと思った場所に案内して」
「こっちだよ」
野口さんはまことに手を引かれながら走り出しだ。ワンコは喜ぶ。僕も慌てて彼女を追う。少年に連れてこられた場所は公園の砂場だった。
「ここで、砂遊びをしていて落としたみたい」
「そう、ここね。まずは主に挨拶かな」
野口さんは砂場を探すことなく、素通りし公園から離れた路地へと入って行った。その行動は意味不明だか、彼女の後をついて歩いた。
ついて行くと彼女は個人経営ぽい美容室の前で立ち止まる。そして僕の方を見る。
「松下君。巻き込んでゴメンね。ワンコ君をお願い」
僕は野口さんよりワンコのリードを受け取る。彼女はまことと共に美容室の中へ入って行った。僕は美容室の前で達ん棒となった。
「ワンコ。お前、ペンダントなんか探せるのか?」
「ワン!」
コイツはコイツで自信があるらしい。




