お好み焼き デート?
「私、動物と会話が出来るんです」
突然のカミングアウト。正直、何を言われたか頭がついてこない。彼女の眼差しは真剣そのものだ。嘘はついていないと思う。僕が信じるか。信じないかだ。信じるべきであろう。そうすることによって色々と辻褄が合う。
「そんな顔をして。冗談ですよ」
僕は色々考えを巡らしていると彼女は話を続けた。僕はどんな顔してたんだ?野口さんは『してやった』見たいな微笑みを見せる。それでも僕は彼女が嘘をついているとは思えなかった。そこで僕は次の言葉を口にする。
「信じるよ。野口さんは動物と話せる」
「ない。ない。ない」
野口さんは手を振り笑いながら動物と話せることを否定する。この反応は僕を惑わす。凄くカワイイ。直視出来なくなり横を見ながら話を元に戻す。
「で、ワンコと何を話したの?」
「やだなぁ。冗談ですよ」
「それでも聞きたいなぁ」
まいったな。恥ずかしいけど楽しいや。その笑顔。破壊力抜群だ。僕は彼女をチラ見しながら聞き手に徹する。ハッキリとは見えていないが、彼女もまた少しだけうつむき加減だ。
「もう。ワンコ君は『寅次郎に嫌われて当たり前だ』と言ったんです」
「なるほど。何でワンコはそう言ったの?」
「それは、寅次郎君の去勢手術の件を知ったためだと思います」
僕も知ってる。無かったもん。寅次郎御愁傷様。僕は何となく野口さんの前で手を合わせる。
「私を拝まないでください。それにただの想像ですよ。寅次郎君は手術した事実がありましたから恨まれているかなーっと」
うむ。どうやら僕は担がれただけらしい。そうだよね。動物と会話が出来る訳がない。たまたま偶然が重なった結果か。
「あら。盛り上がっているわね。こんな翔子ちゃん初めて見るわ」
注文の品を持ち桜さんがやって来た。
「桜さん!」
野口さんが抗議の声を上げる。僕も桜さんと同意見だ。学校で良く見てなかったせいもあるが今の彼女はキラキラしている。
「はい。注文の品です。ごゆっくりどうぞ。ドリンクバーは自由に使っていいからね」
「もう。桜さん。私、その、その」
「ありがとうございます」
野口さんは何やら桜さんへ苦情を伝えたかったらしい。代わりに僕がドリンクバーのお礼を言う。
「あ、ありがとうございます」
野口さんは遅れて感謝の言葉を述べる。桜さんはそのまま野口さんの耳元で何かをささやく。
ささやいたあと、『ごゆっくり』と言葉を残し奧へ戻って行った。
「ど、ドリンク取ってくる」
野口さんは立ち上がりドリンクを取りに行くと宣言した。
「僕も行こうかな」
「待って待って待って。私が二人分取ってくるよ。松下君はお好み焼きを作るのを頑張ってもらえるかな?」
何か隠し事がありそうな気がした。桜さんに何を吹き込まれた?僕は快く野口さんの提案を受け入れることにする。
「了解。僕はコーラをお願い。お好み焼きは焼いておくよ」
「お願いします」
野口さんはドリンクバーへ歩いて行った。僕は一人お好み焼きを焼く。こういうのって女の子が仕切って料理したがるものじゃないのかな?料理好きアピールとか。アピール無しは脈無し?いや。カッコいい所を見せよう。
野口さんがいない間に優子さんがワンコとユキちゃんのご飯を持って来てくれた。その際に『翔子ちゃんを宜しくね』と挨拶された。僕はその返事を笑って誤魔化す。
「なあ、ワンコ。宜しくお願いされたけどどうすれば良いかな」
一人でお好み焼きを焼く。ボッチになったのでついついワンコに相談事をする。
「クウン?」
「何をすれば好きになってもらえそう?」
「ワン!」
犬に愚痴を言っても仕方がない。僕は鉄板とにらめっこをする。
野口さんはお好み焼きをひっくり返すイベントのあたり戻って来た。鉄板の上を見るなり彼女から感想が帰って来た。
「松下君。上手。いい感じに焼けてるね。はい。コーラ」
「ありがとう」
僕はもらったコーラーをグイグイと飲みイベントに備える。よしカッコ良くひっくり返そう。ヘラを両手に持ちお好み焼きひっくり返す。
「よ」
「おぉ。すごい完璧」
お好み焼きは綺麗な弧を描きひっくり返った。それを見ていた彼女は手を叩き喜んでくれた。調子にのった僕は自分のぶんも勢い良くひっくり返す。結果、お好み焼きが飛び散った。焼きが少しだけ足りなかったようだ。
「あはははは。失敗しちゃったね」
「少し早かった。でも纏めれば一緒一緒」
僕は冷静を装い散ったお好み焼きを集める。メッチャ恥ずかしい。
「私のも少しだけあげるから元気だしてね」
「大丈夫。大丈夫」
彼女から見て僕はそんなに落ち込んでいるように見えたのだろうか?思った通りに立ち回れない。その後、僕らは無言で鉄板を眺めた。
「ワン。ワン。ワン」
今まで大人しくしていたワンコが吠える。ワンコの皿を見るとご飯が無くなっていた。
「お前、食べるの速い。僕らはまだだから少しだけ待ってくれ」
「ワン。ワン。ワン」
「コラ!ワンコ静かに」
「キュウン」
強めに怒るとワンコは大人しくなった。
「ゴメンね」
視線をワンコから鉄板に戻すと、その先に座る野口さんの顔が真っ赤になっていた。鉄板が熱を発するからかな?
「熱い?顔が赤いよ。席代わる?」
「え。いえ。大丈夫です。それより焼けたみたいです。食べましょうか」
僕らはお好み焼きを食べ始める。野口さんはヘラでお好み焼きを4分割すると1切れを僕の鉄板の方に寄せる。
「どうぞ。私には多いんで」
「そう?じゃあ僕の方も少しだけあげるよ」
「少しだけで貰います」
僕は自分のお好み焼きの1/8を野口さんに差し出す。彼女が量が多いと言った手前、余り上げるのは迷惑に思えたので妥協してこの結果となる。
「その。あの。やっぱりこれはデートですかね?」
食べながら野口さんが独り言のように呟く。
「周りから見ればそう見えるよね」
「ゴメンなさい。松下君に迷惑かけて」
「そんなことは無いよ。僕は野口さんといれて楽しいよ」
「うっぐ」
何故か野口さんは視線を僕から下の方へずらす。その先はワンコ?僕は何か失言した?何かフォローをいれないと。
「ほら、デートと言っても友達同士で遊びに行くとか」
「友達か。そ、そうだよね。友達。友達」
少し落ち着いたようだ。
「ワン。ワン」
「ワンコ君!私達には早いの!」
ワンコが小さく吠える。それを見た野口さんは唐突にワンコに文句を言う。野口さん。絶対ワンコと会話してるよね。そしてワンコ。君は野口さんに何を言った?




