傾国の乙女を目指しながら、後輩魔人を待つ 4
「――アイ」
「また来てくれたの? オッドー様」
あの美しい男性、オッドーは私の事を沢山試した。
私がそれを突っぱねたりしているうちに、オッドーは私を気に入ったらしい。
私は《ポイズンハニー》から試されていることを《念話》で聞いていたし、完全に打算で行動しているだけなんだけどね。
流石にこのお偉いさんっぽいオッドーも、私が『魔人』だとまでは分からないだろうし、仕方ないだろうけど、なかなかチョロいよね?
私の元へよくやってくるようになっていたし、私の事を気にかけているみたいだし。
ちょっとずつオッドーについても情報収集しようとしているのだけど、《ポイズンハニー》のような小さな魔物しか街に潜ませることが出来ないし。そこまで情報収集できてないのよね。
冒険者とかだと、《ポイズンハニー》の正体に気づく可能性もあるし。下手に魔物が街に入り込んでいると悟られちゃうと、何処のダンジョンから出てきたのかって話になってややこしいしねー。
そんなわけで焦らないように、着実に傾国の乙女を目指そうとしているんだよ!!
というか、オッドーが何者かまでは私はまだまだ分かっていないけれど、貴族位っぽいし、此処からいい感じに傾国の乙女になれるんじゃないかなーなんて思っているよ。
それにしてもオッドーは中々面倒そうな性格だよね、と一緒に過ごしていて思う。
なんというか、女性に対して警戒心は強いけれど、一度懐に入れたら結構甘い。あとそれでいて傍に居てほしい女性に対して変な理想がある感じ。これで私が少しでもオッドーの理想に外れちゃったらオッドーは私を簡単に切り捨てるだろう。
なんていうか、結構我儘? 多分貴族位だからだろうけど、なんだろう、自分が相手を試すのはよくて、相手が自分を試すのはいけないみたいな、そんな部分がある。自分は良くて相手は駄目っていうそういう部分が見え隠れしている。
いや、オッドーも別に自分勝手で、民を不幸にする系の貴族ってわけではないんだよ。多分、そのあたりはちゃんとしているように見える。
私の観察眼的には、オッドーは中々良い領主とかだと思う。
ただやっぱり根本的な部分は庶民と感覚が違うのだ。そういう部分を感じると、なんだかなーって気持ちになるのは私が普通の家庭に生まれた一般人だったからだろうか。
なんだろう、こういう人だからこそかき乱したら楽しそうーっていう感情がわいてくる。
王様をたぶらかすのが最終的な目標だったけれど、オッドーのことをいい感じにたぶらかして、この国をかき乱すのもいいかもしれない。
そんな気持ちがわいてきた私は、オッドーのことを本格的に落とすことにした。
私はこれでも結構年を重ねているし、人の観察も散々してきたからオッドーがどうすれば私に惹かれるかは分かっている。
あとは私の演技力次第かな。
失敗したら失敗したでずらかればいいし。それでこの国を『魔人』として堂々と蹂躙してもいい。
ああ、どっちに転んでも楽しそう。
わくわくして仕方がなくて、涎が出そう。
そんな高揚した気持ちをなんとか抑えて、私はオッドーが望む少女を演じる。心の中の『魔人』としての感情は外には出さない。
そうしていれば、驚くほどあっさりとオッドーは陥落した。
面白いものだ。私のことを最初、あれだけ警戒していたのに。友人に近づく、権力目当ての女だと思い込んでいたのに。
それにもかかわらず、私がオッドーの望む少女を演じればこんなにも簡単に陥落するなんて。
なんて面白いんだろうか!!
というか、此処からどれだけ遊べるかな。どんな風にかき乱して、どんな風に絶望させようか。
私の頭の中は、ただそればかりで埋まっている。というのに、オッドーは私に話しかける。
ぶっきらぼうな態度をしているけれど、私に会いにきて、私に興味を抱いているのは丸わかりだ。
私はそんなオッドーの気持ちを素知らぬふりをして、接客の中で男性と仲よくしていたら視線がそれはもう痛い。この人、分かりやすいなーってなってる。
「アイ」
「何を怒っているの。オッドー様?」
「……あんまり笑うな」
「何よ、それ」
ちなみに私に敬語を使われるのが嫌だといったオッドーの言葉が理由で、様付けはしているものの割とため口な私である。
不思議そうな顔を作っているけど、私はオッドーの気持ち丸わかりである。なんかこういう将来有望な男の子を手玉に取るのも楽しいね!!
そろそろオッドーから告白とかあるかなーとか呑気に考えていたら、オッドーにこんなことを言われた。
「アイ、俺はこの街を離れる。一緒についてきてくれないか」
好きだとかそういう告白なしに、一発目でそれ? と私は何だか自己中だななんて思う。それに断られるなんて考えてなさそうな、自信満々具合。
「何で? 私は仕事があるんだけど」
「な、何でって」
私の言葉にオッドーはそっぽを向く。そして、言う。
「アイと、俺が一緒にいたいんだ!! アイの事が好きなんだ。側にいてほしいんだ!! 俺がアイの面倒を見るから、アイは働かなくたっていい!!」
おお、言った。私に告白している。心の中では爆笑しているが、驚いた表情を作る。
「オッドー様が、私を好き?」
「ああ。そうだよ。好きなんだ。だから、俺と一緒に来てくれ!!」
――オッドーはそう言って、私に手を伸ばした。
私は恥ずかしそうな顔を作って、だけど、その手を取った。
うん、中々オッドーはチョロいよね!! って心の中ではそんな思いでいっぱいだけどね!!