迅との距離を縮めたい! ⑤
本日二話目
「ねぇ、そうだといったらどうするの?」
私は迅の事が好きだから、迅に嫌われたくないと思っている。
そのことは紛れもない事実だ。――だけれどそれよりも、迅が私がそういうことを起こしているのを知ったらどういう態度をするだろうかという好奇心が勝ってしまった。
迅は、私が初めて好きになった人だ。
恋などというそういう感情など一度も抱かなかった私が初めて抱いた恋心を向けられる相手だ。
そういう相手が……、私のこういう行為を知ったらどうするだろうか。
私は自分勝手な性格だから、迅がこれで怯えるなら迅への恋心を一瞬で失うかもしれない。――そんな普通の態度な迅は面白くないと思うから。
私は勝手に期待している。
迅がもっと面白いことを。私が何を行ったとしても、楽しそうに微笑んでくれることを。
「はぁ……どうもしないよ。愛が何でそういうことを行ったのかは俺には分からないけど、愛が邪魔に思ってやったなら仕方がないし」
「ふふ、迅、おこんないの? 迅が仲よくしていた子を私は殺しちゃったわけだけど」
「怒らないっていうか、怒れない。俺が愛を止める力がなかったっていうそれだけだし。愛が俺のことを玩具か何かのように気にかけていることを知っていながら愛がどうするか気にしなかったんだから」
迅のダンジョンの中で、私と迅は話している。
迅は私の方が圧倒的にレベルが高くて、迅を殺すだけの力を持っていることをちゃんと理解している。理解しているからこそ――迅は、私の前で警戒なんて真似をしない。それはしても意味がないことを知っているからだ。
そんな迅は、私の動向を気にしなかった自分が悪かったなんていう。
そういうことを言って、私に対する視線が全く変わらない迅の事が、やっぱり面白くて、やっぱり好きだなぁなんてそういう気持ちで一杯になる。
「それに――愛って、『黒き死の森』のダンジョンマスターだろう。そんな恐ろしい所のダンジョンマスターをどうにか出来るなんて俺は思っていない」
迅は、私と話していくうちに私がどこのダンジョンマスターかちゃんと理解したらしい。
でも理解した上で、迅は、私の事を恐れない。私の目を真っ直ぐ見ている。
『黒き死の森』なんて人が大量に死ぬ、攻略不能の最高難易度のダンジョンなのに。
それでも迅は私を恐れない。私が頷く。それでも迅の視線は変わらない。
「ふふふ、やっぱり迅は本当に面白いね? 私が仲良い子を貶めても、私が『黒き死の森』のダンジョンマスターって知っても、呆れる視線は向けても、私を恐れなくて、私を受け入れてる」
「……日本人と似ているなとちょっと気にしていただけでそこまで仲よくしていたわけでもないからな」
「ふふ、それでもだよ。対して仲がよくなくても、知人がそう言う目にあわされれば怒る人も多いからね。そして私がただそうしたいからって理由でそういうことを起こすことは眉を顰められてもおかしくないことだもの」
本当に面白いと思う。
迅ならば、私が何をしたとしても、それが私の性格だからと受け入れてくれそうな気がする。
ううん、気がするではなく、きっとそうだろう。
私がどんな性格でも、私がどういう存在でも――迅は受け入れる。
ううん、私じゃなくても、私みたいな性格の存在が他にいても迅は気にせずに受け入れることだろう。ああ、そういう所がいいと思う。でも私みたいに性格が色々アレな人種は、自分に怯えない存在には興味を抱くだろう。それは嫌かな。
迅の事を見ているのは楽しいし、全然気づいてくれないけれど、迅との距離を縮めようとするのも楽しい。
――このままでも十分楽しい。楽しいんだけど、私はもっと迅と距離を縮めたいかな!!
「ねーねー、迅、私が何でそんなことをしたか知りたい?」
「いや、別に」
「むー、迅ってはつれないなー。ちゃんと聞いてよ。私が何でそういうことをしたのか」
私はそう言って迅に近づく。
迅は、私から距離を取ろうとする。――けれど距離なんて取らせない。私が本気で近づこうとすれば、どうにでもなる。
私は迅の手首をつかんで、迅のことを押し倒す。ふふふ、こういうのも楽しいねー。迅は何で私がこういう行動をしているのだろうかって不思議そうだけどね?
うんうん、そういう不思議そうにしていても、私が迅を殺さないことを分かっているからかその目が怯えないのが私は本当に楽しいと思う。
そして唇を奪う。
神様に聞いた深いキスである。ちなみに練習とかはしていないけれど、神様からどういう風にやるかは教わったのだ。
「……あ、愛」
そして唇をはなせば、今までで一番戸惑ったような表情を浮かべる。ああ、基本的に何を起こしても平然としているのに、初心なのもいいね!!
なんて思いながら私は可愛いなーなんて思ってしまう。というか、私も顔赤い気がするけどね!! でも今回は逃亡しないよ。
「あのね、迅。いったでしょう? 私は迅が好きだよーって。それは本心なんだよー。だからね、迅に近づく異性を貶めようと思って貶めちゃったの」
私ははっきりとそう言い切った。
いや、恥ずかしい。本当に恥ずかしいよね!! 神様がきっとニヤニヤしながら見ている気がするよ。まぁ、神様が私の事を見ているのはいつものことだし、気にしても仕方がないけどね。
迅は、そうして私の本気をようやく感じ取ったようだ。
「愛、俺は――」
そして、迅は答えた。




