迅との距離を縮めたい! ②
私の目的は、迅との距離を縮めること。そして和風女を破滅させること。
なるべく迅にばれないようにする。
――あくまで、私は迅にばれないようにするのだ。
まあ、ばれたらばれたでいいけど。でも迅に異性が近づくのは嫌だから、どうにかする。
私は敢えて、和風女に近づく。
あえて普段とは違う見た目に幻影を見せて、私は街に溶け込む。迅には……私から姿を変えて近づいたら知られそうな気がする。だから迅には変装した姿で関わらないようにする。
――普通の姿では関わるけどね?
ふふふ、迅もずっと街にいるわけではないしね。どうにでもできるよ。全部私の手のひらで転がすの。
「――アイさんも最近、此処にやってきたのね。この街の人々は優しい人ばかりだもの」
目の前で和風少女――雛菊が笑う。
黒髪黒目を綺麗な少女だ。その和服はよく似合っている。腰に下げられているのは刀だろうか?
それにしても実物の刀って中々見ないからあれも奪いたいね。雛菊にとっては、大事なものらしいから。そういうのを奪うのが一番いいよね。
雛菊は、色んな経験はしてきてるみたい。
その年の割には結構悲惨な事も経験し、周りに対する警戒心も強いみたい。それでも私に対して警戒心を持たないのは――私がそれだけ演技が出来ているからだろう。
私ってば基本的に常にそういう演技をしてきたからね?
そして国を崩すほどに、当たり前みたいに不自然さをなくして行動し続けた実績もある。雛菊はまだまだ若い。
本当に世の中には、私のように人を絶望させることを楽しんでいる存在がいるなんて思ってもいないようだ。
「優しい人ばかりで安心したわ。それに雛菊さんと仲良くなれたのもうれしいわ」
――私はアイ。
先の国家崩壊の出来事により、家と家族を失った。それでも生きていくためにこの街までやってきた少女。
うん、私が起こした傾国の乙女ムーブを行った影響で家族を亡くした存在も多いんだよね。孤児も多いし。だからこそ、私のような存在も多い。
それが良かったと言えるだろう。私のような存在を不信に思う存在はいない。
「私もアイさんと仲良くなれて嬉しいわ。アイさんはこの街に来たばかりでしょう? どうやって過ごすのかしら?」
「私は……そうですね。酒場で働くか、商業ギルドから仕事を斡旋してもらうかにするつもりです」
日本での教育の賜物というべきか、私は商業ギルドで働けるだけの計算能力を持っている。この世界の人々は文字が読めないものや計算が出来ない者は多いからね。
私が『魔人』としてではなくて、ただの人としてこの世界に生きていたのならば、商業チートでもやっていたかもしれない。
まぁ、私はあくまでダンジョンマスターだから人を絶望させるだけだけど。
一番、目の前の和風少女をどうにかしたいんだよねー。というか、今すぐでも絶望させたくてうずうずしているの!! 迅と仲良しなのもなんだか嫌だしね。
だからどうにかしたいんだよね。まぁ、我慢するけどさー。もうちょっと楽しく絶望させたいし。
結局、酒場にはいかなかった。だって酒場だと迅が街にやってきた時に会うかもしれないしさー。そういうわけで私は商業ギルドの斡旋で、お店で働くことにした。ちなみに迅が来なさそうな小さなお店にした。
迅が来なさそうな雰囲気。
というか、自分が『魔人』なことを自覚しているから街に出ているとはいえ、そこまで人と関わろうとしていないしね。
和風少女と関わっているのは日本人を思い起こしたからだろうね。
私がいるのにね?
私の方が日本人なのにね?
うん、面白くない。
「アイ、とても計算がはやくて助かっているよ。君ならもっと良い条件で働けそうだが」
「私、少し人見知りが激しいのです。こういう所で働く方が落ち着きます」
そう言って微笑めば、顔を赤くする男性。
うん、チョロいね。
元から私はチョロい感じに惚れられると嫌だったけどさー。迅のことを好きだと気づいてから、余計に私はそれがちょっとんーってなる。まぁ、私は惚れさせて遊ぶのは大好きだからいいんだけど。
そういえば、和風少女と迅は、仲よくしているみたいだよ。
和風少女が迅と仲良くできて嬉しいって態度で嫌かなってなる。はやく絶望させてあげたいな。そのすました顔が、絶望に染まったらきっと楽しい。そして私は楽しくて、邪魔者も排除できる。
ちなみにそうしている間も迅の元にもいったよ。だって私が大人しくしているよりも、迅の元へ行っている方が、私が遊んでいることが悟られないでしょう?
「ねー、迅、一緒にデートしようよ」
「……また何か企んでいる?」
「ううん、ただたんに迅と出かけたいだけだよー?」
なんていって微笑んでも迅はやっぱり私がからかっているとやっぱり思っているのだ。
迅、楽しんでいる所悪いけど、和風少女は貶めるからね?




