街の視察という名の初デート 3
迅とのデートは楽しかった。この世界に来てそんなに経っていない迅に、この世界の事を教えるのは楽しかったし、何よりこうして興味を抱いている相手と出かけるというのは楽しかった。
私は基本的に人に対する興味が少ない。この世界で遊び道具としての人は沢山いるけれど、それ以外のかかわりのある人というのははレルナと神様ぐらいだろうか。
――こうして絶望させるための遊びではなく、こうしてただデートするためだけに遊びに来るというのは初めてだ。
だだからこそ私は何とも言えない感覚になっている。こんな風に遊ぶことが楽しいことを知らなかった。こうして楽しんでいるとまるで自分が普通の少女のように感じるというか。それに対して私が心地よく感じているのも何とも言えないふんわりとした気持ち? みたいな。
「ねえ、迅、楽しいわね」
「そうだな……」
迅も結構楽しんでいたと思う。
迅にとって、この世界の人の街を訪れるのは初めてのことだったから、年相応に喜んでいて、ちょっと可愛いなと思った。
ただ出かけて、ご飯を食べて、のんびりと過ごす一日。
私は結構楽しいから、また来れたらいいなーって思っている。
これも神様には見られているんだろうな。神様は楽しんでいるから。いつか神様が迅に話しかけるようになったらそれはそれで、楽しいだろうな。神様が面白いと思うぐらい迅は面白いだろうし。私も神様も迅も仲よくしてくれたら楽しいなと思う。
まぁ、迅と神様が仲が悪かったとしてもそれはそれで楽しいけどさー。でもやっぱり『魔人』としてみれば邪神である神様に気に居られた方がいいよね。
「迅、今日はどうだった? 楽しかった?」
「ああ。楽しかった。知らないことも沢山知れたし」
「ふふ、それは良かった。私も楽しかったわ。迅とデートが出来て良かったわ」
外で過ごしているから、少しだけ素を隠して、だけど本心を私は口にした。これは心からの本心だ。私の本心が、迅にちゃんと伝わっていればいいな。
「愛」
迅が私の名を呼んで、私をじっと見る。
「俺を連れてきてくれてありがとう」
そういって、笑ってくれた。
そうやって笑った顔を見て、少しだけドキリとした。うんうん、やっぱりこうして笑ってもらえるのもいいね!! あれだねー。基本的に私は人の絶望した顔の方が好きだけど、たまにはこういうのもいいね。
それにしても感謝を言われるのもたまには楽しいね。
まぁ、私は『魔人』だから、ありがとうって感謝をされるのを目標にはしていないけれど。たまにはね!!
「いいよー。感謝するならまたデートしようね?」
「ああ」
うん、多分、迅はデートとか考えていない。ただ私が面白いことをするために、この世界を迅に教えるためにそう言う誘いをしていると思っているだろう。
今だって、私がこれからこの街に何かするのではないかって思っているみたいだし。疑い深いなーって思うけれど、それだけ疑い深い方がこの世界では生きていけるから。それに私を簡単に信頼しないのもいいことだよ。簡単に信じちゃう人多かったからなー。
それはそれで面白かったけどさ。
とりあえずこの街は迅とデートした場所ってことで、特に自分で手を出す気はない。どうせならこの場所が残っていてもいいと思うんだよね。それかこういう場所を敢えて残して、他を攻めて、此処が『魔人』との関係を疑われて――つぶされるっていうのも亜楽しそう。
と、そこまで考えて私はその思いに蓋をする。
今回は楽しく過ごすって決めたんだからね。とりあえずここではそういう『魔人』の思考は抑えておこう。
それから迅と一緒に街の外に出た。迅のダンジョンへそのまま向かう。
私は迅のダンジョンに行けるのも楽しかった。
「さてさて、迅、街を見てどうだった?」
「やっぱり地球と違うなと思った。それに強そうな人も多そうで、大変だと思った」
「そうだねー。『魔人』になってすぐだと普通の冒険者も怖いものだよねー。でも、大丈夫だよ。迅は警戒心も強いし、なんとかなるでしょ。もし困った事あったらたまになら私も助けてあげるよ。ま、自分の力でやるのが一番だけどね?」
たまになら人を助けるのもいいのかなとはお思う。
ただ、もし迅が私におんぶにだっこになるようなら私は迅への関心もなくなるだろうけどさ。
私が笑えば迅は何とも言えない顔をした。きっと私が対価に何かもらいそうとでも思っているのかもしれない。
そんな会話を交わして、私と迅はそのまま別れた。
――さあて、楽しいデートは行えたけれど、これから気分を切り替えよう。
デートで楽しんでいた私は一旦おしまい。次の楽しい遊びのことを考えよう。




