街の視察という名の初デート 2
「この街では、自由恋愛が結構推奨されているらしいの。素敵だと思わない?」
「……そうだな」
「昔、この国を訪れた『勇者』が自由恋愛を推奨していたからなんですって。それって私たちと同じかもね」
この国は、自由恋愛が結構推奨されているらしい。
私もこの国に来るのは初めてだからそういうことを知らなかったけれど、この国にはむかしむかし、『勇者』と呼ばれる人がいたらしい。その『勇者』は恐らく私や迅と同じ地球からきたきたんだろうなーとは思う。
この世界ってどっちかっていうと、一夫多妻制だし。まあ、国によっては一夫一妻もあるだろうけどさ。でもまぁ、この世界って地球よりも命が軽くて、人の命が簡単に失われていくからね。
だからこそ、もっと人を増やしていこうとこの世界の人々はする。そうしなければ人という種族は滅んでしまうかもしれない。
迅と一緒にぶらぶらしていたら教会を発見した。教会ではこの世界のありがたい神様の話がされているらしい。邪神様と正反対に好かれている神様の話を私は聞いてみたくなった。あまり教会に顔を出すことなんてないしね。
というかあれだね。地下のモンスタータウンに神様を祀る教会でも作ってみてもいいかもしれない。
「ねぇ、迅、教会でお話を聞きましょう」
「え……でも」
「ふふ、大丈夫よ、いきましょう」
迅は私たちがダンジョンマスターで、『魔人』なのに教会になんて入ってしまっていいのだろうかと不安そうにしていた。
もしかしたら『魔人』が侵入した瞬間、悟られる何かあるのではないか――なんていった不安にさいなまれているのかもしれない。
うんうん、そういう心配も最もだよね。私はそういう仕組みが今から入ろうとしている教会にないことは分かっていたけれど、わざわざ迅に告げる気はない。というか、ちょっと不安そうな迅を見るのが楽しいから!!
教会に入って、席に着く。うん、こういう教会って神秘的でいいよね。女神像も置かれているしさ。
神様像とか作ったら神様は照れそうだな。でも作ったら楽しいよね。きっと。
「この世界は――」
神父様がありがたい話をしているのを、周りの人たちは真面目な表情で聞いているよ。でも私はちょっと退屈。まぁ、今回はこの街をどうこうするではなく、迅とのデートのために来ているので真面目な顔を作りながら敬愛な信者を装っているけど。
あまりにも私が完璧にそういう信者を装っているからか迅が何とも言えない目で私を見ていたりするよ!!
この世界で最も有名な女神様を祀っているのがこの神殿みたいだね。愛の女神さまが一番有名って、この世界、恋愛脳な人が多いのかな……。それか教義が分かりやすくて、信者になりやすいからか。
愛の女神に愛された『英雄』の話も語られている。その英雄は中々好色だったみたいだ。でもまぁ、愛の女神に愛されている『英雄』ならば異性との愛に溢れた生活も当然なのかもね。
『魔人』の多くを討伐し、邪神をも追い詰めようとした――なんて語られているけれど、流石に人の身で神様をどうこうするのは難しいと思うからただの誇張かな。それか神様本体ではなく、神様の分身か何かを追い詰めたとか?
どちらにせよ、この世界って神様が言うには邪神や『魔人』がいなければ回らなくて、私も神様も世界の一部に組み込まれているから、こういう正義の神様的な人たちも本気で神様を殺そうとはしていないらしいけどねー。
しかしこういう愛の神様を祀った神殿も――実際の所の神様達を知らないんだから面白いよねー。
結局さ、人間も、エルフも、獣人も、そして『魔人』でさえもこの世界の神様の手のひらの上っていうか、神からしてみればその他大勢のどうでもいい存在でしかないんだよね。
もちろん、気に入っている人は神様にもいるかもしれないけれどさ。結局の所、まぁ、人がどうなろうとも神が関与することってほぼない。そもそも神様たちは自分たちで直接関与できないからこそ、邪神である神様は『魔人』を作っているわけだしさー。
そして一般的に正義である神の方は、『英雄』を作って関与しているわけだし。
だからこそ、神は貴方を見ています――みたいな言葉は胡散臭いっていうか、普通にありえないよね。人が一人死のうが神にとってみればどうでもいいだろうし。
こういう信じる者は救われるみたいなこと言っている人って、思いっきり絶望させたい!!
「……愛、分かってるよな?」
「ふふ、ええ、もちろん」
なんだか迅には、私が暴れたそうにしているのはもろバレだったらしい。安心させるように笑えば、小さくため息を吐かれた。大丈夫だよー。少なくとも今、この時、迅とのデートの中ではそういう遊びをする気はないんだから。
それにしても迅もこの世界の神様の話を興味深く聞いていたみたい。まぁ、『魔人』になった時にある程度知識が手に入るとはいえ、それでも実際に聞いてみるのとは違うからね。




