国家VSダンジョンマスター連合 ②
「そ、そんな私は嘘なんて……酷い」
私が目に涙を浮かべ、迅少年をうるうるとした目で見ても――迅少年の表情は変わらない。
怯えているわけでも悲しんでいるわけでもない、どちらかというとその表情は呆れているというべきか。
迅少年は、私の本音を何となく察していても、迅少年のままである。
――私はそれが面白かった。
迅少年は私の悲しそうな顔には騙されてはくれない。それを見てそうか……と私は口元を緩ませる。
じゃあ、いいや。
「なーんて。迅少年、いつから私の事を気づいていたの? 面白いね!!」
「愛さん……それが素ですか。いつからって、なんとなく? 最初はただ優しい人なのかなっては思ったけど、なんか違うかなって。愛さんは俺のため何て言いながら……俺のことを地獄に落とそうとしているというか、変だなって」
「ふふふ、すごいね。あたりだよ。迅少年!! 良く気付いたねー。良い子よいこー!!」
「って、何で頭撫でてるんですか!! 超ご機嫌ですね……。俺も愛さんも人間の敵である『魔人』なんで良い子も何もないでしょう……」
「そんなことないよー。というか、迅少年の言うそれって人側からしてみた良い子でしょ? 私たちは『魔人』なんだよ。ダンジョンの攻略をしようと思っている人たちとは、まずは常識も何もかも違うんだよ。向こうにとっては私たちが幾らでも悪い子でも、『魔人』である私たちは『魔人』として人を蹂躙し、ダンジョンを大きくしているんだから、ダンジョンマスターとしては良い子だよ!! 神様も喜んで褒めるからね」
「……それもそうですね。って神様??」
まぁ、流石にこの世界に連れてこられてばかりの迅少年は神様とも遭遇していないよね。
それにしても迅少年面白いなー。どちらかというと見た目にも奇抜さはないし、絶世の美形とかそういうのでもなく、何処にでもいる少し大人しい少年って感じなのに、私が本性を出しても、声の調子も態度も変わらないのだ。
なんか面白い。
私は地球でも本性は押し殺して、良い子として過ごしていた。ただ家族が望み、友達が望むよいこ――そんな日々がつまらないと思っていた私。地球では私の本性は誰にも出さなかったけれど、どこか偽善者のように見える家族たちは私の本性を知ったら態度が変わっただろう。
そのままの私を受け入れることなどなく、「どうしてそうなったんだ」とか、矯正しようときっとしたはずだ。
この異世界でも私が本性を見せたら、本当の自分を見せたら……皆面白いぐらいに表情を変えた。
けれど迅少年にとっては、私が偽りの表情を見せていようとも、本当の表情を見せていようとも関係がないらしい。
「神様は神様だよ。私たちをこの世界に連れてきた邪神様!! 神様はきっと迅少年の事を気に入るだろうね!!」
私はそう言って笑いながら、どんな表情をするかなと、こっそりナイフを振りかざしてみる。
首の部分で寸止めしたけれど、迅少年は瞬きさえもしなかった。
「なんですか、急に」
「ふふ、どんな風な表情をするかなと思って。それにしても迅少年は、怯えないね。殺されるとか思わないの?」
「……俺を殺そうと思っているなら愛さんはいつでも殺せるでしょう。いちいち怯えてたら大変じゃないですか。でも本気で殺されるのは勘弁です。俺はまだ生きていたいので。そして怯えてないわけじゃないです……。今にもちびりそうにはなってます」
うんうん、若干足が震えているから怯えているのは確かだろうなー。それにしても反応が面白いなー。
確かに私はいつでも迅少年を殺すことが出来る。そしていつでも迅少年のダンジョンをつぶす事が出来る。
ダンジョンマスターとして百五十年以上生きている私は、ダンジョンマスターになりたての迅少年ぐらい簡単に葬る事が出来る。
だけど、今はそれはしない。
「じゃ、やめてあげる。
迅少年は面白いのだと再確認したから簡単には殺さないよ。殺しちゃったらそこで遊びが終わっちゃうからね。私は面白いものはいつまでも続いて欲しいって思うもの。迅少年は、きっと生かしていたほうが面白い」
にこやかに笑ってそう言えば、「それはよかったです」と何とも言えない顔をされた。
だって今の私の発言や行動に対してこういう対応をするなんて予想外で面白いから。
もし迅少年以外にも私が生かしておこうかなと思う後輩ダンジョンマスターがいたら、何人もいらないかなーって迅少年のこともばっさり殺しちゃったかもしれないけれど、まぁ、今の所生かしておこうと思うのは迅少年だけだからね。
これからもっともっと、迅少年が面白くなればいいな。
つまらなくなったら、そこで殺そう。面白い遊びをするために、迅少年が私にとって面白いままでいればいいと思う。
ちなみにその後、調査された結果、国家VSダンジョンマスター連合では迅少年は率先して参加はしないけれど、漁夫の利を狙えるなら少しは狙う予定みたいだよ。経験値泥棒したいみたい。
面白いよね、本当に。




