正妃処刑劇場 2
心優しい愛妾、アイ。
オッドー王に見いだされて、愛妾になることになり、この王城の中で健やかに過ごしている愛らしい少女。
――そんな優しい愛妾だからこそ、自分の事を毒殺しようとした正妃であるタビタの元へと向かう。
っていうのが私への評価だよ!!
爆笑しちゃわない?
全部、私が手のひらで転がしているのにさー。私が全部企んで、私が全部仕込んでいるのにさー。
あはははは、面白いよねー。超楽しい。私の心はどうしようもないほどわくわくしているよ。
「タビタ様……」
「アイ」
正妃ちゃんは、流石に牢の中に捕らえられている。流石に自分が側妃たちを毒殺したと思われて、こうして牢屋に捕らえられているというのもあって、その表情は暗い。
私はそんな正妃ちゃんのことを見つめて、内心笑いそうになっていたが、何とかその表情をおさめる。
「アイ……私は、毒殺などやっておりません」
気丈な様子を見せる正妃ちゃん。うん、知っているよ。正妃ちゃんがそんなことをしていないことは私が誰よりも知っている。
でも知っているけれども、敢えて私は悲痛そうな表情を浮かべる。
それにしても流石、正妃ちゃん。その心がとても強いというか、こういう状況で冷静さを持っているのってすごいと思うんだ。
そう言う強さは個人的にやっぱり好感度を抱く。
最もだからといって、正妃ちゃんのことを助けるなんて真似は全くしないけれど。私は正妃ちゃんを処刑させる。
――何が何でも、処刑するんだ。
私の楽しみのために。
正妃ちゃんに恨みなんて欠片もない。寧ろ正妃ちゃんのことを楽しいと思っている。けれども、私は正妃ちゃんを処刑させる。——そちらの方が面白いからというそれだけの理由で。
「本当ですか……? 私は、タビタ様のことを信じたい……。けれど、あの時に毒を仕込めたのは……」
タビタ様を信じたい、けれど信じていいのか。
そんな気持ちでいっぱいと言った様子を表情に浮かべる。
私の演技力凄い!! って自画自賛したくなるよ。まぁ、調子に乗ってたら失敗するかもしれないからさ、もうちょっと気を引き締めようと思うよ。
「私はやっておりません」
正妃ちゃんは私の目を真っ直ぐ見つめてそう告げる。
――正妃ちゃんのその様子を見て、門番や私についてきた護衛の騎士はちょっとだけ心を動かされているみたい。
まぁ、オッドーは馬鹿だし、見る目がないから私の事を信じ切って、正妃ちゃんを敵視しているけれど――この王城に住まう人々は、正妃ちゃんの性格を分かっている。正妃ちゃんは今まで真面目に仕事をしていて、その信頼を彼女は得ていた。
彼女はそれだけ高潔で、それだけこの国のためにいきていた。——私がこうして介入することなく、オッドーが正妃ちゃんのよさにきちんと気づく事が出来たのならば、きっと彼女は賢妃としてこの国に名を馳せたことだろう。
だけど、そんな輝かしい未来を、私はへし折る。そんな未来が来ない方がきっと楽しいから。
心の中でニヤリと笑う。もちろん、表情には出さない。顔に出したら駄目だからね。
あー、でもそうだね。
こちらを期待したように見ている門番と、騎士たちの心を百八十度変えてあげよう。正妃ちゃんをどうにか助けたいって、そんな思いで私を見ている彼らを――私は裏切る。私は正妃ちゃんをどうにかするために、此処から演技に本腰を入れる。
「タビタ様」
「アイ……」
「私は……タビタ様が毒殺なんてするとは思えません」
私がそう言えば、正妃ちゃんは少しだけほっとした様子だった。正妃ちゃんは気丈な様子で、その年にしては冷静さを持ち合わせているとはいえ、まだまだ年若いからね。
正妃ちゃんは私のことを同年代だと思ってそうだけど、私ってば魔人暦150年ぐらいだしさー。凄いそう考えると正妃ちゃんたちよりは全然おばあちゃんなんだよなー、私。
見た目は地球からこっち来た頃とは変わらないけど。
私は正妃ちゃんに近づく。
檻越しの正妃ちゃんは、やっぱり美しい。牢にとらえられていても美しくて、私はやっぱり正妃ちゃんの心は高潔で、面白いなと思う。
「タビタ様」
私はそう言いながら正妃ちゃんを見る。ああ、正妃ちゃんの目がどこか期待している。私が正妃ちゃんをこんな風に追いやった存在だとは欠片も思っていない様子で、ただただ自分はやっていないと事実を言い張る正妃ちゃん。強い心を持っていても、正妃ちゃんはやっぱり心が強い。
愛しいオッドーに信じられなくても、処刑されそうになっていてもこんな状況で心を保てる強さに私はうっとりした気持ちになる。
こんな正妃ちゃんを眷属に出来たら面白そうとも思うけど、やっぱりそれはなし。これだけ心が強い子が私の眷属にはなろうとはしないだろう。それに処刑したほうがやはり面白いから。
だからね?
「正妃ちゃん」
「………?」
ひっそりとした小さな声。正妃ちゃんにしか聞こえないような小さな声で、私はささやきかける。
「バイバーイ」
これも小さな声。護衛たちにも何て言ったか分からなかっただろう。だけど、正妃ちゃんにだけ聞こえている声。
もっと長文を話して正妃ちゃんを煽ろうかと思ったけれど、そんなことをしたら流石に騎士たちに悟られちゃうからね。だからこそ私は短い言葉で、正妃ちゃんにだけ見える表情を浮かべた。
私の楽しそうで、歪な笑みを正妃ちゃんはちゃんと見たのだ。
正妃ちゃんは目を見開いた。
そして頭の良い正妃ちゃんだからこそ、私がこの事態を導いたのだと理解が出来たのだろう。
「貴方……!!」
流石の正妃ちゃんも、私の発言に冷静さを保てなくて、私につかみかかろうとした。
――あははははっ。これで、ジ・エンドだね。
正妃ちゃんが、ハッとなった時にはもう遅い。正妃ちゃんが優しく話しかけた私につかみかかった様子は周りも見ている。
怯えた私を騎士が庇う。そして正妃ちゃんを見る目には、もう鋭いまなざししかない。




