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☆少年は、魔人として異世界に降り立つ。





「え、なんだこれ」



 一人の少年が、気づいたら不思議な場所にいた。見た事もない部屋の中で、黒髪の少年は不思議そうな声をあげる。



 少年の名前は、高見迅たかみじんという。

 今年、高校生になったばかりのまだ若い少年だ。






 戸惑いに声をあげる少年は、何で自分が此処にいるのかを思い起こす。

 ――そして自分が此処に来る直前まで何をしていたのか、どんなことがあったのかを思い出していた。







 高校生になってひと月経ったある日のことだ。その日は、週末で学校は休みだった。何の部活にも入っていない迅の週末は、家でのんびりすることが多かった。

 友人というものがいないわけではないが、まだ入学してひと月、休みの日に遊ぶほど仲良くなったクラスメイトというものはいなかった。今の所、迅の交友関係は広く浅くといったものだったのだ。




 さて、そんな休日のある日、迅が何をしていたかと言えば……、スマホのゲームに勤しんでいた。




 最近はやりのダンジョン経営もののゲームである。冒険者を撃退したりしながら、ダンジョンを大きくしていくというやりこみゲームである。

 他のプレイヤーとの戦闘も行うことが出来るこのゲームは、ついこの前リリースされたばかりのゲームだった。聞いた事もないゲーム会社の出したものだが、不思議とそのゲームに心惹かれたものが多く、それなりに流行りだしているゲームである。

 とはいえ、迅の周りでこのゲームをやっているものはいない。




 迅はゲームをするのが好きだった。

 その中でもやりこみゲームを黙々とやるのも好きである。そんなわけで、このダンジョン経営のゲームを知って、迅は興味を惹かれてプレイを始めたのだ。

 そしてすっかり今でははまっている。





「ダンジョン経営するゲームも楽しいな」



 そんなつぶやきを発して、迅は一旦、スマホの画面を閉じる。

 HPがなくなったので、これ以上は課金をしないとプレイを進められないのだ。こういう時に社会人でないことは辛い。

 親からお小遣いをもらって生活をしている迅は、課金など出来るはずがない。



 ゲームのためにもアルバイトをしようかなどと考えながら、眠気にうとうとしていた。




 そんな中で声が聞こえたのだ。




『もっと、ダンジョン経営をしたいか?』



 夢だと思った。誰もいない部屋で、誰かの声が聞こえるはずもない。

 迅は自分がゲームをしたいという願望がこのような形で出てきていると認識していた。



 そのため、「ああ。もっと遊びたい」とそう答えてしまったのだ。



 ――それが地球とのお別れなどと思わずに。






 そして、いま、高見迅は見知らぬ場所にいる。




 そして不思議なことに、自分が魔人と呼ばれる存在であること、ダンジョンマスターのいうものになったことを理解していた。

 知らないはずなのに、その知識が頭の中にある。——それは異常なことだが、高見迅はその事実を受け入れる。






「此処、地球じゃないのか」




 自分が地球ではない場所にいること。そして人間であったのに魔人なんて訳の分からない存在になったこと――、その事実を迅はすとんと受け止める。




 何で自分がこんな所に――という思いがないわけではない。

 しかし、思い起こしてみると確かにもっとダンジョンを経営したいと迅は答えていた。

 あの不思議な声の主はもしかしたら、迅がダンジョン経営なんてしたくないと口にしていてもこの場所に迅を連れてきたかもしれないが、結局の所頷いたのは迅である。



 それにどちらにせよ、こんな異世界に連れてこられて、ダンジョン経営をさせられるというのならば、そんな全知全能の神のような存在に逆らうだけ無駄である。






 なってしまったものは仕方がない。

 迅はそう考える。もっと取り乱してもいいものだ、と思うだろうが、この高見迅という少年は愛とは違った意味で変わっている。

 なんでもこうなってしまったものは仕方がないと受け入れるだけの度量がある。









「魔人なんてものになったら、とことん、ダンジョンを経営するか」



 迅は基本的に何事もやりこむのが好きだ。

 こんな場所にきて、こんな役目を課せられたというのならばやれるだけとことんやろうと思った。




 人生なんてたった一度しかないのだ。

 こんな普通では経験が出来ない異世界なんて場所に来たのだから、どうせならやりたいようにした方がいい。



 そんな風に考えている迅は、とことんダンジョン経営を行うことにした。

 それはダンジョンを攻略しに来た冒険者――人を殺すことにもつながるのだが、それも魔人という立場なら仕方がないかと迅は受け入れている。




 そういう立場になったのだから、とことんやりこむ。

 ただし、愛のように自分から混沌を招こうとしているわけでもない。人の絶望を好んでいるわけでもない。




 ただ、迅という存在はこの状況を受け入れて、この状況をやりこむことを決めただけだ。





 ――そんな風に簡単にこの状況を受け入れた迅の事を、実は神様が覗いていて「面白い奴がいるな」と思っていることを高見迅はもちろん、知らない。











 ――こうして、この世界に一人の魔人が降り立った。




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