第八話 ゆら〜り ※暗いですよ
おはようございます。朝です
「ほらついたぞ。トムソンの街だ」
「「おお……」」
ついこぼしてしまう。それほどまでに立派な街並みが広がっていた。中世だった。
馬車で街の中を走る。街の人々は生き生きとしていて、活気付いていた。
「良い街だろう?ここに拠点があるんだ」
「うっひょおぉぉぉおおお!!ヤバイヤバイのう!興奮するのう!ヒビキヒビキ!楽しそうなゲームしとる!美味しそうな食べ物もある!可愛い服もかっこいい服も!なんでもあるぞ!遊び放題じゃ!」
「お、おう…そうだな……てかお前そんなキャラだったか?」
「神様じゃからな。あまり娯楽を体験したことないのじゃ。仕事があるし、服装も決まっとるし、食べ物は必要無いし、ゲームなどあるわけもない」
「人間界から持ってくりゃ良くないか?」
「持ってきたらダメなのじゃ。というか持ってきても天界の魔力に耐えられず爆散する。人間はまず事前に耐性をつけさせてから連れてくるから大丈夫なのじゃ」
「ふーん」
言ってることはわかるが、かといって興味も無いので流した。
「何を話しているんだい?」
「「い、いえ!何も!」」
おっさんが気になって質問してきた。ゼウスが神だとバレてはいけないため、真っ先に否定、もといごまかす。
「危なかったの、ゼウスという名前で怪しまれないのが唯一の救いじゃな」
「信仰されてないからな」
「うるさいわ」
俺は、ふと気になったのでおっさんに聞いてみた。
「どこに向かってんすか」
「どこ?拠点だと言っただろう?」
「随分と変な道を通るんすね」
「割と小さい勢力だからね。隅に追いやられているのさ」
「………」
小さい?あんな派手な格好しといてか?中世の世界ってもんをよく知らないが、おっさんは俺たちに先ほど胡椒っ気のあるパンをくれた。商人ってのはみんな金持ちなのかどうかはわからないが、胡椒ってのは貴重な筈だ。もし、この世界が俺のもといた世界の似た地形だった場合、の話だが。
だがここは異世界。思い込みすぎだと、俺は信じたい。地形が一緒とかあるわけない。まぁそうでなくても香辛料ってのは貴重だけど。
暗い夜道を進む馬車。俺は嫌な予感しかしなかった。
気分が悪い。
頭が痛い。
眠い。
横を見るとゼウスは寝てしまっている。この野郎。
「おや、眠いのかい?なら寝たら良い。まだだいぶ遠いからつかないよ」
こいつ!やっぱ何か企んでやがる!!隠す必要もないのかよ!!そんくらい俺らは追い詰められてるってことか!!
「ゼウスっ!起きろ!早く!」
「ん〜なんじゃよ眠い〜。二度寝したいぃ〜」
クソが!こっちは大変なんだよ!
「うるせぇな早くしろっ!胸揉むぞ!」
「はあっ!?ちょちょちょ待てヒビキ!いくらワシが可愛すぎるからってそれはダメじゃ!」
自分を抱きしめながら顔を赤くし首をブンブンと振った。だが作戦は成功だ。
「やっと起きたなよく聞け」
「え、騙されたのワシ」
「あの商人は俺たちを騙してどっか連れて行こうとしてる。森にいたからどうせ孤児だ。戸籍登録もされてないような奴だからってな。だから逃げるぞ!立て!気づかれないうちに!」
「え?え?ちょっと状況が飲み込めないんじゃけど」
「飲み込め!」
そう言って俺は馬車を飛び降り……ようとしたが、出来なかった。
「降りれない……」
「ああ、馬車を降りるのは危ないからね。結界を張っている。簡単な奴だが、これで落ちる心配もない」
「テメェ……」
詰んだ……。これからどうなるかわからないけど、良いことなんて起きそうにない。勘も冴えてて、頭の回転も良かったけど、結局ダメだった。だから嫌なんだ。もっと早く気づいていれば……クソ!奴隷なんて嫌だぞ!!
「ヒビキ………何か勘違いしとるようだが言っておくぞ?この世界に奴隷制は無い」
奴隷制が……ないだと……?
「王自ら宣言し、奴隷制を撤廃した。暴動が起きたしな。3000年続いていた奴隷制が無くなったのじゃ。天界でもそれなりに有名になった」
ゼウスが言うから本当なのだろう。だからこそ、俺の不安は最高潮になってしまった。
「ならなおさらだ!暴動が起きたってことは王は不本意ながらって意味だろ!?隠れて奴隷を持っているに決まってる!表向きは撤廃しといて、王侯貴族だとか、位の高い奴らは普通に奴隷を使う筈だ!」
「それはちょっと考えすぎじゃ……」
「考えすぎで良いんだよ!!ゼウス!この結界破れるか!?」
ゼウスは戸惑いながらも結界に触れた。
「触れても大丈夫系の結界か………じゃが無理じゃ。ワシは力を失い、お主は結界破りができるほど強くない。なぁ…疑うのは疲れるぞ?ヒビキ、その調子で人を疑い続けたら早死にするぞきっと」
「じゃあテメェを信じたのはなんだ!?俺が疑り深いんだったら異世界転生なんてしねぇよ!そんなもの!てかお前が神だってのも信じねぇ!俺は決して疑り深い人間じゃない!でもこれは違う、俺のただの勘だけど……ヤバイ気がするんだよ!」
ゼウスの肩を掴みながら俺は訴えかける。ゼウスは俯いて困った顔をしていた。
そして馬車は、淀んだ空気を帯びてきた。商人からは汚い匂い。クズな人間の匂いだ。
俺は震えていた。怖かった。これからどうなるんだろうと、恐怖でいっぱいだった。でも、これだけは思った。
命に替えても、ゼウスは守ろうと。
元気な1日を過ごしましょう。