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調子に乗ろうぜ女神さん  作者: あひゅう
第一章 まずは異世界に馴染もう
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第七話 ゆらゆらゆら〜り揺れます ※ガタゴト揺れます

 ガラガラガラと、それほど舗装されていない。というか全く舗装されていない道を進む馬車が一台。

 それを狙う二人の影がすぐそばにあった。


「服、服はあるか!?」


「荷台が大きい!きっとあの中に着替えも入っとるじゃろ!とにかく行けぃ!」


 荷台を引っ張っているのは男性だったので、ゼウスはここでお留守番だ。


 だがヒビキには、行くのを躊躇うほどの問題があった。


「どうすれば…いい?盗むって何?」


 実はヒビキ。物を盗んだことが無い。


 親に隠れてゲームを外に持ち出す、くらいならやったことはあるが、ガチな窃盗は初めてである。初めてじゃないとおかしいのだが。


「そんなのあの商人の腹に一発ぶち込んで首んとこドンってやったらお終いじゃろうが!?」


「できるわけねーだろ!!生まれてこの方人を気絶させたこと無いんだよ!」


 商人に気付かれないように小さな声で言い争う二人。声には気を付けていたものの、暴れていたせいで結局物音が立ち、うるさかった。


「ん?モンスターか?……この辺にはモンスターはほとんど出ないはずだが……?」


「ぜっゼウス!静かに静かに!」


「ヒビキこそ物音立てるな馬鹿者!」


 二人は息を押し殺す。バレたら変態扱い確定だ。最悪ヒビキはか弱い少女を襲った犯罪者とされるかもしれない。そんな可能性が少しでもあるのだ。二人とも内心ドキドキだった。


「(どうしようどうしよう、バレたら終わる!俺の人生始まったばかりなのに!)」


「(ワシってば手のひら返しまくれば怪しまれないんじゃなかろうか。あんまり深く考えなくても助かりそうじゃし、死にさえしなければ良いのじゃ。気楽よな)」


 互いの考えてることの違いがはっきりとしているが、ともかくここはバレないようにと、身動き一つしない。が、


「誰だ君たちは」


 あっさりバレました。



「「………」」


「……」


「「えええええ!?!?」」


「えええ、と言われてもね……」


 何故だ!?何故バレた!?物音は立ててないぞ?声も出してない!見つかる要素なんてないはずだ!!!


「お前何もんだぁ!?」


「こっちのセリフだよ。君たちこそ、そんな格好で何をしているんだね?会話は出来るから、何か理由があってそんなおかしな格好をしているのは理解出来るが」


「ウルセェ!さっさと荷台を置いてけぇ!」


「ヒビキうるさいわ!彼がワシらを怪しんでない以上、争うだけ無駄じゃ!」


「いや、まぁ怪しんではいるんだがな」


 そしてゼウスが話を切り出す。


「今ワシらは、とある事情でこんな生活を送っているのじゃ。じゃから頼む。ちゃんとした服を分けてもらえんか?これじゃろくに街も歩けんのだ」


「俺からも頼みます」


 俺たちの言葉に戸惑いながらも、商人は快く接してくれた。


「うーん……気持ちに答えてあげたいのは山々なんだが……生憎手持ちに無いんだよ」


「そうですか……」


「あ、そうだ。君、力仕事は得意かね?」


 商人はヒビキに話しかけてきた。


「ま、まぁ中高運動部でしたけど……」


「中高?よくわからないが、生活に困っているなら私が提供してあげようと思ってね。そのかわり、仕事を手伝って欲しいんだ」


 んんん?この商人は大丈夫か?

 出会って数分の不審者をこんなに信用しちまって、商人としてはダメなんじゃないか?この人のところで仕事をするのか……心配だな……


「あの……ワシは……?」


「ん?お嬢ちゃんは妹だろう?まだ小さいみたいだし、仕事の手伝いは別にしなくてもいいよ」


「いもっ……!?」


 俺とゼウスが兄妹?なんてこった。こいつはこれでも神さまなのに……。というか俺とゼウスが兄妹に見えるとか、このおっさんは大丈夫なのか?一回眼科に行って診てもらったほうがいい気がする。


 ゼウスの見た目は外国人に近い。だが、妙に日本人っぽい顔立ちもしている。あの図書館で見たスキル名のように、俺に合わせて見慣れた日本人要素を取り入れているのかもしれない。そしておそらくもうゼウスはこの姿から変わることができなくなっている……だろう。


「どうだい?良い提案だと思うのだが」


「(ヒビキ!受けろ!お金が欲しいのじゃ!たまには他人の作った美味い料理が食べたい!)」


 俺の耳元でゼウスが囁く。俺だってそうしたいのだが、何かある気がするのだ。この商人は、何か俺たちに隠している。こいつに関わると一生抜け出せない網に囚われてしまうと、感覚的に伝わってくるのである。

 だが、ここでこいつの申し出を断ったら、次馬車が通るのがいつかわからない。二ヶ月あってやっとこの馬車一台だ。これ以上のサバイバル生活は辛い。ここは大人しく言うことでも聞こうか。


「そっすね、受けます。働かせて下さい」


「よしわかった、じゃあこの馬車に乗ってくれ。ちょうど帰るところだったんだ」


「やっほい!楽々じゃぁ〜!」


 ゼウスが無駄に可愛く叫んでいた。

 俺はおっさんにお辞儀をし、馬車の後ろの荷台に乗った。ちょうど人が3人くらい乗れるスペースが空いていたので楽だった。


 それなりに荒れた道を進んでいた。ガタガタと揺れる荷台に乗りながら俺は考えたくもないことを考えていた。

 そんな雰囲気をゼウスが感じたのか、


「どうしたヒビキ?具合でも悪いのか?まぁ、仕方のないことだとは思うがの」


「いや、大丈夫だ。心配すんな」


 世の中あまりネガティブに考えてはいけない。考えたところで空回りするかもしれない。考えたって無駄に終わるかもしれない。なによりこいつに心配かけたくない。何故がそんな気がするのだ。こいつにこれ以上不安を抱かせたくないという気持ちが湧いてくる。ババァなのに。合法ロリなのに。俺はこいつに、つい見た目通りの扱いをしてしまう。何故だろう。神様だから俺が心配する必要なんて無さそうなもんなのに………。




 商人は、薄ら笑いを浮かべていた。

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