家族の会話
うちに帰ると普通に夕食の時間だった。もう長い間買い食いしたり、ファミレスで過ごしたり、部屋に閉じ籠ったりで、両親と食卓についたことがなかった。
学校行かなくなってすぐの頃一度顔を出したら、
「あら、あんたいたの? 店の帳簿が合わなくて夕食できてないのよ」
と言われてムッとした。
家族経営の店の大変さは分かる。自分だって店を継ぐことを考えて商業高校を選んだ。母親が家事をして当然と思っているわけでもない。
でも、自分が学校にいけないと悩んでいるときに、何かもう少し心配りしてくれてもいいだろうに、とひねくれた。
「じゃ、金出せよ」と不機嫌に言うと母は「素直だった次男が不良になった」と感じたようだ。
自分のせいだと思うから、外食を止めろと強く言えない。「金」というと母は多め、多めをくれるようになってしまった。
「店が大変なの、徹が食事当番して三人分作って」とでも言えればもっと健全だったろうに。
そんなことを思いながら食卓についた。
「食後倉庫に戻る」とぼやいていた父が訊いた。
「今日、どうだった?」
「あんなのない、てんで子供。すぐ座りこんで泣きそうになる。神憑りじゃないよ、子供返りだ。キャッチボールもしたことない、誰も球を受けて投げ返してくれる人がいない。淋しすぎる。自殺したくもなる」
なぜか素直に答えてしまった。
「関係ないだろう?」という反応を予測していた父は目を丸くしていた。
「そんなにひどいのか、神主さまの状態……」
「放っておけない。明日もいく」
「そうか」
「うちって、あそこの信者だったりするの?」
「いや、大きな、由緒のある神社だから知っているが、特には。井村の呉服屋さんが氏子だから、その伝手で草履卸したことがあったかな。神主さまのことは先日、本田師範に出会ったから話を聞いただけ」
「ふうん」
母は三人揃っての夕食の幸せをかみしめているようだった。
ファミレスにもコンビニ弁当にも飽きた。母の手料理が一番だ。
「チンして食べろ」でもいい、「余り物で凌いで」でもいい。
いずれは自分が店に出て、母に楽をさせるつもりだったんだ。