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chap.5 墓荒らしは墓で眠る

 男は、墓を掘り起こしていた。


 宗教というのはいつの時代も変わりなく、人々の生活に根付いている。生まれてから死ぬときまで宗教に影響され、また依存している。いや、死んだあとも入るのだろう。

 火葬、土葬、自然葬、鳥葬。――あるいは、宇宙葬などというものもある。

 そして、時代が変わろうと土葬による葬儀を行う宗教は広く一般的であり、多くの人々に行われている。違ってきたのは、人々の体である。

 戦争や病、事故によって体の一部あるいは全部を義体化した者は、当然その部位は機械のまま埋められる。ナノマシンを注入することで病を治療したり身体の健康を保つことも既に当然の文化として根付いているため、そのナノマシンもまた、そのまま埋葬される。


 当然、それらは金になる。


 男は、それらを掘り起こし金に変えることでかなりの額を稼いでいた。本来埋められ失われたはずの物品であるため、闇市場において流通させやすく一定の需要があるのだ。

 いっそ分解して希少金属を取り出せば、ある程度の偽装、洗浄をするだけで表に出してしまえる。


 ゴン、と棺桶にスコップの先端が当たる。かなりの深さを掘り起こすため体力的にもかなり辛いものがあるが、見返りは大きい。

 男はこれから手に入るものを想像し、土に汚れた汗だくの顔でほくそ笑んだ。あと少しと力を振り絞り、一気に棺を掘り起こす。


「御開帳〜。埋めちまうなんて勿体ねぇ、墓場はオイラの宝物庫〜ってな。うん?」


 遺体は新しいもので、腐敗も見られない。軍人か傭兵かといった男性で、体の多くの部位を義体に変えていた。

 それだけなら、墓荒らしにとっては格好の獲物である。ただおかしかったのは、その遺体の目が突然開いたことだ。焦点は合っておらず、左右の目が別の方向を向いている。


「おっと、へんなスイッチでも押しちまったかな。ひひ、そんじゃ戴きますぜ」


 腰から提げていた電動ノコギリでいつものように解体しようと、刃を当てたその時。


「ぐ、ぁ! はッ!」


 遺体の手が、墓荒らしの男の首を締め上げた。


「離し、やがれ! かっ! は……」


 結末は、頭の弱いその男にも容易に想像がつく。何かが折れ砕ける音が、夜の墓場の静寂に消え入るように響いた。



   †



「ゾンビぃ?」

「ぞんび」


 Aegis本社のラウンジに、メンバーの全員が招集を受け集まった。当然、理由は事件である。リサは怪訝な顔をしているが、カノンは先日見たゾンビパニック映画の影響で、何やらキラキラと興奮しているようだ。


「統合捜査局の連中がゾンビ事件だなんだと呼んで、さらにメディアまでその名称で広めた。こう言うしかないだろう」


 ノウェムはそう言いつつ困ったように長い金髪をかき乱し、小さく溜息を吐いた。


「B級映画じゃあるまいし」

「まぁそう言うな、実際死体が首を掴んでいるんだ。そう取れないこともあるまい」

「どうせ墓荒らしのクソヤローが自分で掘った穴に落ちて首折ったとかそんなオチでしょ」

「墓穴を掘った、とはこのことか」


 アゲハの一言に、「それ言っちゃうか」と言わんばかりに空気が凍りついた。

 当のアゲハは、何がどうしたといった表情できょとんとすると、仄かに赤面する。

 ノウェムはにへらと鼻で笑うと、話を本題に戻した。


「リサ、ナギ。二人はこいつを調べてくれ。CBの異常動作なんてのにはどうにも思えない。コルネはサポートだ」

「捜査も仕事なのか?」

「何かある前に脅威を排除できるに越したことはないだろう。それに、Aegis(ウチ)は公的機関じゃないからな。色々とできるんだよ。詳しくはコルネに聞け」

「わかった」

「よろしい。頑張れよ新人」

「んじゃ行きますか」


 リサが先頭に立ち、ラウンジから出ていく。彼女は冷めたことを言っていたが、内心ではかなりゾンビというワードにときめいていた。


「ねぇ、ナギはゾンビ好き?」

「そうだな、撃ち殺しまくっても全く問題ないってのは好きだよ」

「え、爆殺するもんでしょ? こう、まとめてどばーんて。内蔵とかもいい感じに飛ぶし」

「いや、頭狙って吹っ飛ばすのが楽しいんだろ?」


「……」


「……」


 エレベーターの扉が開き、二人は中に入る。若い男女が密室に二人。さらに、二人は見つめあっている。

 だが、その空間にロマンチックなどというふわふわした空気は分子一個分たりとも存在してはいなかった。

 彼らの捻くれ曲がり切った主義趣向は、それ程までに譲れないものらしい。


「あんた本気で言ってんの? ヘッドショットはカッコイイけどあんなチマいことやってられないし!」

「お前こそ本気か? 爆殺は派手で威力高くて便利だが大味すぎて芸がない。スピーディでアキュレイトなエイミングこそクールなんだよ」

「なぁに? 爆発は大雑把とでも言うわけ? 技術が一番試されるのは爆発物だし! だいたい何? あの二つ名。ダサすぎて笑えるんですけどプークスクス」

「前にも言ったが自称じゃねぇからな!? 無限ロケランで俺TUEEEEEやってるようなヤツに言われたくねぇなぁ!?」

「なんであたしのプレイスタイル知ってんの!? キモチワル! どうせオールヘッドショット縛りとか変態みたいなことやってんでしょこの変態!」


 彼らが会話の流れで話を移したのは、最近流行っている完全感覚移入(フルダイブ)型ゲーム機のゾンビ系人気タイトル『BIO RISING 13』の中での話である。

 何故か『リアルガンモード』という銃火器の扱い方が本物と遜色ない程に現実的なモードがあり、現実でなかなか自由にできない爆発物や遠距離狙撃に特化した二人には、ある意味欲求発散のオアシスとなっている。


「変態で結構! 俺に変態は褒め言葉だ!」

「もうついてるんだけど」


 気がつけば、エレベーターは地上に着き扉は開いていた。当然、ナギの最後の発言はしっかり見ず知らずの人々に聞かれてしまったわけである。

 ナギは目を覆い、エレベーターの内壁に頭を打ち付けた。一方で、リサは口を覆い必死に笑いを堪えている。


「まま、へんたいってほめことばなの?」

「しっ、見ちゃだめ」

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