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ザ・プロビデンス・オブ・キリング 第一稿 AR002 S№0002

作者: 木本葵

著者

木本葵きもとあおい

昭和40年(1965年)広島市生まれ。

被爆二世のクリスチャン。熱狂的な広島東洋カープファン!


小学1年生まで父の転勤で呉→忠海→広島市中区と点々とし廿日市市を拠点に結婚まで過ごす。

結婚後人生の半分以上を広島市で過ごしている。


県立大竹高等学校普通科卒

私立大阪芸術大学映像学科卒


大学2年の時に課題で書いたシナリオを期に、当時学科長であった脚本家の依田義賢先生に個人的にシナリオを約2年半指導して頂いた。

その後、広島に帰り30年のブランクを経て病気の為ほぼ寝たきりになっていた所を映画監督で盟友の岡秀樹氏に生きがいになるから書けと言われて脚本に復帰。

同人誌でもいつか出そうかと(笑)


正直完成度は低いのですが、気に入って頂けたら幸いです。

出来るだけ月1位のペースで約2時間物等の脚本を書けたらと思っています。

もしコミック原作や小説原作に使って頂けるならご連絡下さい。

(ないでしょうが(^^;))


ではお楽しみ頂けたら幸いです。

よろしくお願い致します(o*。_。)oペコッ


尚、著作権は全て木本葵にありますので、無許可の転載等はご遠慮下さい。


注:これは小説ではなく脚本です。いわゆるシナリオです。

  映画用のシナリオとして製作されました。

摂理プロビデンス=神の定めた自然の法則原理。

注:セリフは標準語を心掛けていますが、実際では各県の登場人物はリアリティ重視で、それぞれ各県の訛りとイントネーションをお願いします。方言は無しで行きたいと思います。

警察官同士や組織メンバー同士等の公的な会話と思われる部分は出来るだけ標準語で(ただしイントネーションは各県で違うのでそこだけ押さえるようお願いします)。

主人公勝浩は各地を転々としてきたという設定なので標準語でお願いします。

会話文のお願いは以上ですが、ら抜き言葉等ラフな表現はそのままでお願いします。



ザ・プロビデンス・オブ・キリング 第一稿 AR002 S№0002

                      木本葵

  

■アメリカ・ワイオミング州・デビルスタワー付近(2014年7月)

 このシーンの会話はワイオミング訛りの英語。

 デビルスタワーを背景に、一台のピックアップトラックが砂煙を上げて爆走する。追う数台の警察のバン。バンの横にはクルック郡警察のマークとポリスの文字。この追走劇中に主要キャストや主要スタッフのテロップが被る。

 ピックアップトラックの荷台にいたラルフ(28・白人)がAK―47をバンに向かって乱射する。

一台の警察のバンが運転手を失い横転する。

 遠くから銃声がする。

 ピックアップトラックの荷台でAK―47を撃っていたラルフが頭から血を吹いてトラックから落ちる。

 トラックの運転席から後方を振り向き叫ぶラリー(28・白人)。

ラリー「ラルフ!」

 いきなりラリーの左窓が割れ彼の側頭部から血が噴き出す。

 横転するピックアップトラック。

 ピックアップトラックの周囲を囲む形で止まるバンから銃を構えた制服警官が次々と降りて来て注意しながらトラックに近づく。

 運転席で死んでいるラリーを見て首筋を抑え、傍に来ていたウッズ保安官(53・白人)に首を振るベーカー保安官補(35・白人)。

 辺りを見回すウッズ。

荒野の中にデビルスタワーが見える。

デビルスタワーに被ってタイトル。

『ザ・プロビデンス・オブ・キリング』


■同・別の場所

 地面に伏せてヘッケラー&コッホ社製PSG1を構えている無精髭の西川勝浩(47)。

照準器を覗きクルック郡警察の様子を伺っている。あまりの暑さで陽炎が立っており歪んで見える。

 そのまま後ろに下がりケースの所まで後退する勝浩。

勝浩、身を起こさないようにしながら銃を解体しながらケースに仕舞い出す。


■名古屋駅(2017年3月)

 エスカレーターで地下街に降りてくる勝浩。

勝浩がエスカレーターを降りると若い男とすれ違う。すれ違いざまに男から紙袋を手渡され受け取るが、何もなかったようにすれ違う。

地下街の人混みの中、歩き去る勝浩。


■愛知県半田市内

 急な雨の中、小走りで国道247号線沿いの歩道を急ぐ坂本(36)。

 いきなり灰色のレインコートを着てフードで顔を隠した勝浩に路地に引き込まれる坂本。

坂本は一瞬で勝浩に背後を取られて首をサバイバルナイフで切られる。

 路地の向かいの壁に坂本の血が大量に飛び散る。

 崩れ落ちる坂本。

 倒れた坂本の胸をサバイバルナイフで二度刺し、更に胸にナイフを突き立てたままにする勝浩。

 そのまま何事もなかった様に路地の向こうへ歩き去る勝浩。


■広島市佐伯区の精神病院「佐伯病院」・中庭

 ピンクの入院着のまま中庭のベンチに座り、植えられた満開の桜を眺める西川加奈(15)。

勝浩『綺麗だね、加奈』

 振り返る加奈。嬉しそうに笑顔になる。

加奈「お父さん! 」

勝浩「遅くなったね。調子はどうだ? 」

加奈「まだまだかなぁ」

勝浩「そうか? さっき先生に会って来たけど順調だって言ってたぞ」

加奈「まだ人ゴミと周囲の目が怖い」

勝浩「(笑顔で)すぐにはな。ゆっくりでいいよ」

 加奈の隣に座る勝浩。桜を見上げる。

勝浩「自分のペースでいいんだ」

加奈「後、何度桜見られるかな? 」

勝浩「おいおい、死ぬような病気じゃないぞ」

 くすくす笑う加奈。

 勝浩は笑う加奈を見る。

笑っている加奈の目は笑っていない。

勝浩「入院して5年になるが、焦る事も失望する事もないんだぞ」

加奈「でも、本当なら高校生だよ。まだ中学にも行ってない」

勝浩「父さんだって高校は中退だったさ」

加奈「自衛隊のお仕事は忙しいの? 」

勝浩「まぁな。すまんな、あまり来られなくて」

加奈「戦車の整備してるんでしょ? 」

勝浩「戦車だけじゃないぞぉ。普通の車だってブルドーザーだってやってるぞぉ」

 おどける勝浩にまた笑う加奈。

口元に笑みを浮かべ加奈を眺める勝浩の目に暗い影が降りている。

勝浩「父さんなぁ、自衛隊止めようと思ってるんだ。加奈ともっと一緒にいたいから、普通のサラリーマンになろうと思う」

加奈「ダメだよ。自衛官のお父さんってかっこいいし、高校止めてまでなったんでしょ」

勝浩「それより何よりもお前と居たいんだ」

加奈「ダァメ。病室のみんなにお父さんは自衛官だって自慢してるんだもん」

勝浩「自慢になるのか? 自衛官が。結構嫌われてる職業なんだがなぁ」

桜を見上げる加奈。

加奈「こうしてね、毎年綺麗な桜を見られるのも、お父さん達がこの国を守ってくれてるからなんだよ。自信持って」

 加奈と同じように桜を見上げる勝浩。


■佐伯病院受付

受付(55)「(お金の束を脇に置いて)たしかにお預かりしました」

勝浩「よろしくお願いします」

 玄関を出て行く勝浩。


■佐伯病院前 ロータリー

 門には「佐伯病院」の表札。

 桜の花びらが舞うロータリーを門に向かって歩く勝浩。顔が引き締まっている。


■東京都足立区保木間 木本邸

 古めいた民家。表札には木本と書かれている。

 門扉を開けて入り、呼び鈴を鳴らす勝浩。

 ドアが開き木本静香(45)が顔を出す。

静香「あら、西川さん」

勝浩「どうも」

静香「中に入って。主人が待ってましたわ」

 招かれるまま、中に入る勝浩。


■木本葵書斎

 書斎に入る勝浩。静香も入り後ろ手に扉を閉める。

 書斎机から振り返り、椅子ごと勝浩に向き直る木本葵(50)。

勝浩「伝えてくれたか?」

葵「まだだ」

勝浩「どうしてだ、ヘンリー」

葵「分かるだろう、サム。組織を抜けるのは簡単じゃない。殺されるぞ」

勝浩「逃げ切るさ」

葵「逃げ切れんのは、お前自身がはっきり知っているだろう、サム。お前の今の身分やらを偽造して何故バレないか考えてみろ。それだけ組織の力は強大だ」

勝浩「いずれバレるさ。各国もバカじゃない。潮時だよヘンリー」

葵「娘さんか…… 加奈ちゃんって言ったかな? 彼女の世話がしたいんだろ。奥さんを亡くして唯一の身内だ。小学生の頃のいじめで統合失調症だっけ?」

勝浩「いや、解離性障害だ」

葵「彼女はお前が殺しで生計を立てているのを知ってるのか? 組織を勝手に抜けたら娘さんも失うぞ」

勝浩「させないさ。俺を誰だと思ってる」

葵「いつかその過信が身を滅ぼすぞ、サム。悪い事は言わんよ。今のままなら何かあっても組織が守ってくれる」

勝浩「加奈に顔向けできない仕事はもうしたくない。もう十分働いただろう。いつまでも続け…… 」

 勝浩の後ろでスプレッサーを付けたFS社ファイブセブンを向けている静香。

勝浩「上の指示か?」

葵「そうだ。説得出来ない場合、ここから出る事はない」

勝浩「ベス。俺に銃を向けるとは大した度胸だ。それは認めてやるが、お前の腕じゃムリだ」

静香「この至近距離で?」

勝浩「ファイブセブンは貫通性を高めたガンだ。当たっても損傷は少なく、その位置からだと俺を貫通した弾はヘンリーに当たる」

静香「スプレッサーが付いてるから、弾の初速は落ちる。あなたを貫通する事はない」

葵「ベス、やめとけ。奴のコートを良く見ろ」

 コートを見る静香。

勝浩の背中越し、左側の腰の辺りが膨らんでいる。

葵「お前が撃つ前にお前に風穴が空く」

勝浩「ご名答」

 銃を降ろす静香。

勝浩「ベス、それがいい」

葵「本当は、銃を持ってないんだろ。上手(うわて)だな」

勝浩「どうかな?」

葵「時間をやる。上には説得が上手くいったと報告しておくよ。それまでにどこかに消えるか、残るか考えろ」

勝浩「俺が消えたらお前ら二人共消されるぞ」

葵「三人共子供の頃からの付き合い、腐れ縁だ。それも致し方あるまいて、な、静香」

静香「そうね。加奈ちゃんを大事に。二人で生き残りなさい、サム」

葵「すまない、ヘンリー、ベス。お前達も死ぬなよ」

葵「それこそ、俺達を誰だと思ってるんだ、サム」

 二人に頭を下げて部屋を出る勝浩。


■広島県警捜査一課

 捜査一課員を前に捜査一課長の松山(57)と、愛知県警の宮本警部補(55)と鹿島巡査(28)が立っている。

松山「こちらは愛知県警から来られた宮本警部補と鹿島巡査」課員に礼をする宮本と鹿島。

宮本「愛知県警捜査一課の宮本です」

鹿島「鹿島です」

松山「半田市で起きた殺人事案と廿日市市で起きた殺人事案の両現場で採取された指紋が一致した。そこで合同で捜査する事になった。お二人にはこちら側に加わって貰う事になった」

 周りをぐるりと見回す松山。

松山「松田君と金城君はお二人と一緒に捜査に当たってくれ。他の者は廿日市と東広島の殺人と中区の宝石強盗をそれぞれ追って欲しい。みんな頼んだぞ。じゃあ、それぞれの捜査本部に戻れ」

 一斉に動き出す課員達。

宮本達の前に寄ってくる松田雪絵警部補(29)と金城巡査部長(52)。

松田「広島県警捜査一課警部補、松田雪絵です」

金城「金城亮介巡査部長であります」

宮本「よろしくお願いします」

松山「四人とも仲良く、だが確実に犯人を挙げるように頼んだ」

松田「分かりました」

松山「四人が動きやすいように、車を用意するから待っててくれ、すぐ書類を作るから」

 机に向かう松山。

宮本「(松田)こちらではプロの仕業と思っています」

松田「根拠は? 」

松本「手口が鮮やかすぎる。それにインターポールを通じて各国に問い合わせた所、同じ指紋が採取された未解決事案が51件ありました」

松田「手強いって事ですね。指紋から何か出ましたか?」

宮本「まったく。該当者がありません。アメリカでは該当者がヒットしたようですが、調べるうちに最後には閲覧禁止という結果に」

松田「米軍関係かしら?」

宮本「かもしれませんね」

 机から離れ四人の元に戻る松山。

松山「(書類を松田に渡しながら)車両使用許可書と四人分の銃の携帯許可書だ」

松田「ありがとうございます」

松山「四人共くれぐれも気を付けて」

宮本「ありがとうございます」

 松本に敬礼する四人。


■足立区竹ノ塚・カリンロード商店街

 竹ノ塚駅方向に歩く勝浩。

ビラ配りが彼にビラを渡す。

 近くの店に入る勝浩。

勝浩「申し訳ない。後で何か貰うからトイレを借りられませんか」

店長「いいよ。そこ上がって突き当りね」

 靴を脱ぎ家内に入って廊下の突き当たりのドアを開ける勝浩。

トイレのドアの鍵を閉める勝浩。

 先程受け取ったビラの角を注意深く剥がすと二枚になる。中から写真と氏名・住所・職業等の乗った次のターゲット情報が現れる。

一通り目を通すとそれを二枚共一緒に丸めて便器に放り込む勝浩。

便器の水貯めの中ですぐに溶けてバラバラになるビラ。

トイレを流す勝浩。完全に流れたのを確認すると、鍵を開けてトイレを出る。

勝浩「(靴を履きながら)助かりました。急に腹が痛くなって」

店長「かまやしねぇよ。お互い様ってな」

勝浩「何か貰うよ」

店長「反対に気ぃ使わせちゃって悪いね」


■竹ノ塚駅・改札前

 改札前に向かう勝浩。

改札から出てきた同年代のサラリーマンとぶつかり、その男の持っていた小さなスーツケースが落ちる。

勝浩「すまない」

サラリーマン「いえ、こっちもボーっとしてて」

 スーツケースを拾う勝浩。男とは軽い会釈をしてそれぞれ反対方向に歩き出す。

スーツケースを持った勝浩は改札を入る。


■新宿・安ホテルの一室

 勝浩はカードキーをドアの側のホルダーに差し込む。

部屋の電気がつく。

そのままベッドの上にスーツケースを置き、自分もベッドに座る勝浩。

 ケースを開ける勝浩。

ケースには、解体されたPSG1とグロック30とそれぞれの予備弾倉、そして携帯電話が入っている。

 すぐに携帯電話が鳴った。

通話ボタンを押して無言で携帯電話を耳に当てる勝浩。

勝浩のボス、サイレントレッド(71・男性・日本人)の声が聞こえる。

(以後『』内は声だけ)

サイレントレッド『サム、君を試そうと思う。これからも我々に忠誠を尽くすか、それとも我々のターゲットとなるか』

勝浩「で?」

サイレントレッド『指令したターゲットをこれから96時間以内に始末したら忠誠。出来なければ我々はお前を裏切り者としてターゲットにする。もちろん君の日本でのチームメイトもだ。誰の事か分かるな』

勝浩「ああ」

サイレントレッド『今、君の娘さんの病院の前にいる。意味は分かるな』

勝浩「手を出すな。96時間だな。それまでに手を出したら殺す」

サイレントレッド『せんよ。約束は守る。この携帯は持っておけ』

勝浩「分かった」

 勝浩は携帯電話をポケットに入れるとスーツケースを閉め、それを持ってカードホルダーからカードキーを抜くと部屋を出た。


■新宿・夜の大通り

 通りに面した大きなビルから橋波東亜理科医科大教授(58)と飯田内科部長(52)が出てくる。

クラブの従業員など取り巻きが彼らを見送りに出ている。

橋波「飯田君、分かっているとは思うが……」

飯田「分かっておりますよ、教授。(クラブのホステスに)君、車止めて」

橋波「明日の元総理の脳腫瘍摘出手術は誰が執刀するのかな?」

飯田「佐田外科部長の話だと高木君だとか」

橋波「高木か、大丈夫なのか? 」

飯田「オペにはホルステッド医師も付くそうです」

橋波「なら問題ないな。元総理に何かあったら、うちの大問題だ」

飯田「ですからアメリカからわざわざ脳外科手術第一人者と言われているホルステ……」

 飯田を振り返る橋波。

橋波「飯田君、どうした?」

 眉間に穴が空き後ろに倒れる飯田。

取り巻きから悲鳴が上がる。

橋波「飯田君! 誰か救急車を!」


■新宿・ビル屋上

 看板の裏の薄暗がりで携帯が鳴る。

PSG1を構えたままスコープ越しに様子をみながら、ポケットから携帯を取り出し耳に当てる勝浩。

サイレントレッド『見事だな』

勝浩「これでいいか?」

サイレントレッド『にしてもさっき猶予は96時間と言ったばかりなのに2時間もせん内に完了とはな』

勝浩「指令を貰ってすぐ調べていたからな。裏切るならそんな事はせんよ。ヘンリーに言ったのは軽い冗談だ」

サイレントレッド『あまり手を焼かせるような事を言うな。本気かと思ったぞ。勝手に結婚して娘まで作った時、どうなった? あの時警告はしたぞ。今度は娘を失いたいか』

勝浩「まさか。娘は俺の命だ。それに長年の相棒達もいるのに組織を裏切るなぞ出来る訳がない」

サイレントレッド『分かっていてくれてうれしいよ。また頼む。携帯も銃も破棄しろ』

勝浩「いつも通り」


■広島市中区基町アパート

 夜の闇の中に各戸バラバラに電気が点いている、何棟もある古い高層アパートの外観。


■アパート内 西川の部屋。

 流しからグラスを取り、半分入ったブランデーの瓶と一緒に居間の机に置く勝浩。

 ソファに寝そべるように座るとブランデーをグラスに注ぎ口に運ぶ。ふとテレビの台の横に置かれた家族三人の写真が目に入り、グラスを傾ける手が止まる。

 赤ん坊の加奈を挟んで、まだ三十代前半の勝浩と二十代後半の妻・陽子が笑顔で写っている写真。


■勝浩の回想・広島市美術館前

 楽しそうに美術館を出てくる勝浩と妻陽子。

まだ生後九か月の加奈は勝浩の背中に背負子でおぶわれて眠っている。

周りの人達も楽しそうに行き来している。

 急な銃声。

 首から血を吹き倒れる陽子。

多くの人々が倒れる。

銃声の方向に背負った加奈を守るように銃声正面に向き、撃たれた妻を引きずり近くのモニュメントの影に隠れる勝浩。

勝浩「陽子! しっかりしろ! 陽子!」

 陽子の首筋から血が噴き出して止まらない。

傷口を必死で抑える勝浩。まったく血が止まらない。

勝浩「陽子! 逝くな! しっかりしてくれ! 生きろ!」

 勝浩の手が抑える陽子の首筋から血が出なくなる。

土色で無表情の陽子。死んでいる。

勝浩が天を仰ぎ叫ぶ。

勝浩「陽子ぉ! 」

 目を覚ました加奈が背中で泣きだしている。

あちこちに多くの人々が倒れ、呻いたりする者もあれば息絶えている者もいる。


■アパート内・西川の部屋の居間

 はっとなって現実に戻る勝浩。淋しそうにグラスの中を眺める。

振り払うようにグラスの中身を一気に飲む勝浩。


■廿日市市・コンビニ駐車場

 コンビニの駐車場に銀色のデミオが止まっている。

車にコンビニ袋を下げて戻っていく鹿島。


■デミオ車内

 運転席に金城、後部座席には宮本と松田。

 松田はスマフォで電話をしている。

 助手席のドアが開いて鹿島が入ってくる。

鹿島「昼飯、買ってきましたよ」

宮本「静かに」

松田「(電話に)はい。…… はい。了解しました。課長、出迎えお願い出来ますか? はい。よろしくお願いします」

 電話を切る松田。

金城「課長何て?」

松田「一昨日新宿で起こった医科大内科部長狙撃殺人の狙撃現場と思われるビルから出た指紋が今回の事件と一致したって。警視庁から警部が一人来られるそうよ」

宮本「じゃあ、鹿島。お前は帰って課長に報告しろ」

鹿島「帰るって愛知にですか? 何で俺だけ? 」

宮本「この車に5人は狭い」

 しょげる鹿島。

金城「(鹿島の肩を叩きながら)まぁまぁ。宮勤めってのはそういうもんさ。飯何買って来てくれた?」

鹿島「(急に元気に)豪華限定季節の野菜づくし大盛りミートスパです。何と1つ千二百円」

金城「経費で落ちんな……」

宮本「やっぱりお前、帰れ」


■広島県警本部が入っている広島県庁東館

 県庁東館の外景。


■広島県警捜査一課

 松田と金城・宮本・鹿島の前に松山と警視庁の永川警部(55)が立っている。

松山「こちらが警視庁から来られた永川警部。こっちは愛知県警の宮本警部補と鹿島巡査。で、こっちがうちの松田警部補と金城巡査部長」

 互いによろしくと挨拶を交わす5人。

永川「警部と言ってもノンキャリなので気にせんでください」

宮本「私もですよ」

金城「警部補だけがキャリアですな」

松田「事件の前ではキャリアだのノンキャリアだのというものはないと考えております」

永川「その通り」

松田「ベテランのお二人が来られて心強く思っています」

永川「で、何か進展は? 」

松田「愛知県半田市の現場付近と広島県廿日市市の現場周辺での聞き込みでは不審者及び特徴が両事案に一致する人物はまだ出てきていません。両事案の現場付近の防犯カメラにも不審な人物や一致する人物が映ってないですね。正直行き詰ってます」

永川「共通点は指紋だけですか…… こちらでも聞き込みや防犯カメラのチェックは始めてますが、前二件の事案のカメラ映像と合わせても、恐らく一致する者は出んでしょう」

宮本「防犯カメラの位置を知っておって、それを避けているのかもしれませんね」

松山「とすると事前に調査して回ったかもしれない」

松田「防犯カメラの映像はほとんどが24時間から48時間で上書きされますから残ってないでしょうね」

宮本「それに組織だった場合、実行犯は実際にカメラ位置を調べていない可能性もある。他の共犯者複数名がバラバラに調べていては特定は難しい」

永川「そう私も思ったので、インターポールに問い合わせて、今回の指紋が検出された複数の事案の被害者のリストを送って貰いました。まだ全員の検証は出来てなくて、数名ですが共通点がありました」

 驚く松田達。互いに顔を見合わせる。

永川「まだ数名ですので断定は出来ませんが、全員が数社の製薬会社に関係してましたね」

松田「製薬会社」

永川「ええ、それぞれ関わった会社は違うのですが、元従業員だったり研究者だったり取引があったり。カナダの市議が殺害された事案では市議はある製薬会社役員から献金を受け取っていました」

宮本「しかし製薬会社と言ってもそれぞれ別の会社なんですよね。会社毎に共通点は?」

永川「それは現時点では何とも。国籍はアメリカ企業で一致はしているのですが、製造している薬品も各社バラバラで……」

鹿島「プロにしては指紋を残してるし……」

宮本「それに廿日市の事案では頭に1発撃ち込んだだけ。聞いた話ですが、プロなら頭の後に胸にとどめのもう1発を撃ち込むのじゃあ?」

松田「廿日市で使用された銃弾は7.62mm。ですがフルメタルジャケット弾ではなく、ソフトポイント弾でガイ者の頭の中で変形して脳にひどいダメージを負わせていました」

永川「うちもそうです。貫通性の少ない変形するソフトポイント弾なら1発でも確実でしょうね。半田市ではナイフを使われていたそうですが、首の頸動脈切断後に三度胸を刺していたんでしょ」

宮本「そうですが、ソフトポイントでもガイ者が死なない場合もある」

永川「死ななくても脳の損傷がひどくて植物状態でしょうし、狙撃ですからどちらにしろ目撃証言は得られない」

宮本「ですが、植物状態とは言え、殺害に至らなければプロの殺し屋とは言えんのではないでしょうか?」

松田「撃った箇所が確実に死を与えると分かっていたら……」

宮本「そんなにピンポイントで狙えますかね」

金城「狙える腕があると……」

鹿島「どんな狙撃手ですか? あり得ない」

永川「あり得ない腕を持っているプロなのか? とどめを刺し忘れる程度の腕の素人なのか?」

鹿島「指紋の件もありますしね」

永川「もし、どんなに指紋を調べられても身元が特定出来ない事を知っている者であるとすれば?」

松田「とにかく廿日市で殺害されたガイ者に関係していた製薬会社を割り出しましょう」

永川「ですね。ここで話し合ってても埒があかない」

宮本「松山課長。ここに連絡係として鹿島を置いて行きたいのですが」

松山「おお、それは助かります。5人じゃ車も狭いですしね」


■福岡・駅南やよい通り

 やよい通りを歩く勝浩。路地を曲がり進み、一軒の古びたアパートにやってくる。

 アパートの錆びた外階段を2階に上がり、一室の呼び鈴を鳴らす勝浩。

 部屋から山本和幸(41)が顔を出す。

山本「何だ?」

勝浩「電話した者だ」

 胡散臭そうに勝浩を見る山本。

チェーンを外し勝浩を中に招きいれる山本。


■山本の部屋

 雑然とした山本の部屋。狭い和室が二つ。仕切る襖は空いている。

 勝浩が胸ポケットから分厚い紙包みを出して山本に渡す。

紙包み中の札束を中身を出さずに確認する山本。

山本「何がいります?」

勝浩「頼んでいた物を。それとグレック30用のスプレッサーと予備弾倉があればまだ出す」

山本「そう言われると思ってましたよ、旦那」

 山本は黙って隣の部屋に行く。

 押入れの天板をごそごそとやっている山本。

山本は、しばらくしていくつかの箱とスプレッサーを持って降りてくる。

 押入れにいくつかあったカバンにそれらを入れ、カバンの口を開けたまま勝浩の前の机に置く山本。

 勝浩はカバンの中で一つの弾丸の箱を開ける。びっしりと並んで入っている45口径ホローポイント弾。

他にもスプレッサー2本と予備弾倉4つ入っているのを確認する勝浩。

山本「集めるのに苦労したんですよ、旦那。予備弾倉は大口径だ。その位いるでしょ。合わせて残り一千万でどうです?」

 再び反対側のポケットから紙包みを出して山本に手渡す勝浩。

 再び紙袋から中身を出さずに確認する山本。

山本「カバンはサービスですよ、旦那」

 勝浩が山本に鋭くはないが平然とした冷たい視線を送る。

勝浩「不備があったら戻って来て殺す」

 山本の額から頬に一筋の汗が流れ落ちる。

山本「冗談は止してくださいよ。こっちだって命がけの仕事だ。不備はありませんよ」

 カバンの口を閉めて左手に持つ勝浩。

勝浩「信用出来るようなら、また頼む」

山本「どうも。ご贔屓くださいますように」

勝浩「次まで俺の事は忘れろ。忘れなければ……」

山本「そんときゃ殺っちゃって構いませんよ」

 部屋を出て行く勝浩。

 椅子に崩れるように座る山本。

額から噴き出している汗を腕で拭う山本。

勝浩「(つぶやくように)あんな化物、敵に回せるかよ」


■アパート前

 部屋を出てアパートの階段を下りる勝浩。振り返りもしない。


■駅南やよい通り

 路地から駅南やよい通りに出て、博多駅に向かう勝浩。


■広島市中区・トラスト製薬広島支店

 トラスト製薬広島支店の入るビル外景。


■日本トラスト製薬広島支店

 低い棚を受け付けにして男(47)が立っている。

 向かい合うように棚の反対側に立つ松田と金城・宮本・永川。

男「(三十代半ばの男が写っている写真を見ながら)ああ、高井さんね。亡くなったんだってね。気の毒に」

松田「やっぱり。で、彼はここには?」

男「アメリカ本社に前いてね。ここにはこないだ一度だけ売れ具合なんかを聞きに来てくれて」

松田「アメリカの本社に勤務されてたんですか?」

男「ええ、元々研究部門にいたとかで、家族と一緒にいたいから辞めてこっちに帰ってきたとかで」

松田「そうですか……」

男「でも高井さんに会ったのは、その一回だけでしたよ」

松田「ありがとうございました。他に何か思い出された事があればこちらにご連絡ください」

 男に名刺を差し出す松田。


■日本トラスト製薬広島支店の入ったビル前

 ビルの前に止めてあったデミオに乗り込む4人。


■デミオ車内

 金城が乗り込むとフロントガラス越しに置いてあった駐車違反取り締まり防止用の警察車両を示すA4大のカードを外す。

 助手席には松田。

宮本「アメリカですか……」

永川「他のガイ者も調べたら各製薬会社本社勤務だったかもしれんですね」

松田「ですが、アメリカだと行く訳にもいかずですね」

 車を発進させる金城。

宮本「進展はあれど先に進めずですか……」

永川「ですね」

松田「とにかくインターポールに情報を送って、各国の捜査機関に任せるしかないですね」

永川「インターポールにもどこかのアニメみたいに世界を股に掛けて捜査する捜査員がいればいいんですけどね」

松田「あそこは各国から依頼されて情報を関係国に連絡してるだけの機関ですからね。ヒューミントしている機関じゃないですから」

宮本「これからどうします?」

松田「各事案の捜査は続けるにしても国際犯罪となれば組対(そたい)(警察庁組織犯罪対策部の略)ですかね? 」

宮本「組対(そたい)もこういった事件に対応出来るかどうか? 出来るとすれば、良くは分からんですが公安調査庁辺りかもですね」

永川「とりあえず、各県警の課長に報告して上で相談してもらいますか?」

松田「そうですね。金城さん、一度戻りましょう」

金城「了解です」


■広島市街

 広島市街を広島県警本部に向けて走るデミオ。


■広島市西区三滝太田川・川岸

 川縁の芝生の上に座り煙草をふかす勝浩。

 勝浩の目の前には川岸の広場に作られた質素な野球場が広がり、そこで中年のチーム同士が草野球をやっている。

 勝浩がその試合を眺めていると、少し離れたところを黒い野良猫が通り過ぎる。

北野『火を貸してくださる?』

 ふと声の方を見る勝浩。

 細いメンソール煙草を持った北野真理子(25)が立っている。

 ポケットからジッポを出して北野に渡す勝浩。

 北野はジッポを受け取ると勝浩の隣に座る。

北野「去年は25年ぶりに優勝しましたけど、今年も調子良さそうですね。連覇しますかね?」

勝浩「何が?」

北野「カープですよ」

勝浩「ああ、あまり興味ないから」

北野「野球見てるから興味あるのかと思った」

 草野球の方から歓声が上がる。長打を打った中年男が大き

な腹を揺らしてセカンドに行き、仲間にガッツポーズしている。

勝浩「あちこち転々としているからね」

北野「広島の人じゃないんだ」

勝浩「今はこっちに住んでいるんだけど、いずれ移動になるだろうし」

北野「何をされているの?」

勝浩「公務員」

北野「じゃあ私と一緒ね。各地を転々としてるなら国家公務員ですね。私は北野真理子。教師をやってます。地方公務員です」

勝浩「そう」

 残念そうな声が球場から上がり、攻守が交代し始める。

 さっきの黒猫が近くで毛繕いをしている。

 風が吹き北野が長い髪を押さえながら携帯灰皿を差し出す。

北野「灰が落ちそう」

勝浩「ありがとう」

 北野が持った灰皿に灰を落とす勝浩。

北野「無口な人ね」

勝浩「慣れてなくてね。すまんね」

 北野は携帯灰皿で自分の煙草をもみ消し中に入れて、その灰皿を北野に渡す。

 不思議そうに受け取る勝浩。

北野「上げるわ。まだ持ってるし」

勝浩「悪いね」

北野「またどこかでお会いしたら、運命かもしれませんね」

勝浩が左手の薬指の指輪をはっきりと見せる。

北野「まぁ残念。でもいつかまた会える気がします」

 北野は立ち上がると背を向けて歩き出した。

 勝浩はそれを少し眺めていたが、すぐに草野球に視線を向ける。

 草野球はエラーがらみで点が入っている。

 勝浩の傍らに寄ってくる黒猫。

 風が吹いて球場周りに植えてあった木々の葉が揺れる。

 川面で魚が跳ね、銀色の身体を光らせて再び水に戻る。川面に波紋が広がる。

 勝浩は深く煙草を吸うと吸い殻を灰皿でもみ消して立ち上がる。

 立ち上がった勝浩に驚いた様に彼を見る黒猫。


■佐伯病院・中庭

 ベンチに座る加奈。

彼女に向かって歩いてくる勝浩。

父を見て笑顔になる加奈。

加奈「お父さん」

 加奈に笑顔を見せる勝浩。娘の隣に座る。

勝浩「どうだ、調子は?」

加奈「う~ん。まぁまぁ」

勝浩「まぁまぁか」

 桜の木を見上げる勝浩。

桜の木は葉だけで一見して桜とは思えない。

勝浩「花が咲いてないと、桜かどうかも分からんな」

 頷く加奈。

加奈「ねぇ、お父さん」

勝浩「なんだ?」

加奈「この世界が現実だと思えるにはどうしたらいいの?」

 少し考え込む勝浩。

勝浩「そうだな。加奈の病気の解離性障害というのは、先生の話だと離人症っていう病気の一つという感じらしい。いや、離人症が重くなって解離性障害だったかな? 良く分からんが離人症っていうのは現実感を喪失するのが症状の一つらしいな。別の人格がお前の辛い時に出来て、それが辛い思いをしているのであって、辛い目に会ってるのは自分じゃないって所から起こるとか……」

加奈「記憶ない事結構ある」

勝浩「先生に聞いただろ。別人格が表に出てる時の記憶は主人格の加奈にはないって事らしい」

加奈「お父さんは私の別人格に会った事ある?」

勝浩「何度かな。だけどそういう事は考えるな。今はストレスを癒してゆっくりする事だ。気にするな。そうするのが良いと先生も言ってたぞ」

加奈「うん。私も先生から言われる。だけどこの現実か現実じゃないのか分からない感じが取れなくて、気持ちが悪くて…… まるで全部がテレビの向こうの世界みたいにしか見えなくて……」

 加奈の肩を抱きかかえ、頭をくしゃくしゃに撫でる勝浩。

勝浩「現実だろうがそうでなかろうが、俺はお前の親父だし、お前の味方だ。お前を愛している事だけははっきりとした現実だ」

加奈「(照れたように)うん」

勝浩「いつも傍にいてやれなくてすまん。お前の苦しみを分かち合ってやれてなくて……」

 加奈が勝浩に抱き着く。

加奈「ううん。お父さんがいるから、必ず一緒だと思うから」

 加奈の背中に手を回し抱きしめる勝浩。

勝浩「必ず治るから、一緒に治していこうな」

加奈「うん」

 中庭の出入り口に看護師が現れる。

看護師「加奈さん、そろそろ病室に戻りましょ」

加奈「お父さん、次はいつ来てくれる?」

勝浩「一仕事あるから、終わったらすぐに戻るよ。そうだ、今度の仕事が終わったらしばらく休もうと思う。有給が貯まっているからな。そうだ、その時に一緒にゆっくりと旅行でもいくか?」

加奈「(うれしそうに)うん。先生に許可貰わなきゃ」

勝浩「お父さんが先生に頼んでみるよ、さぁ、もう行きなさい」

 頷き、看護師の元に行き、再び勝浩に振り返って手を振る加奈。

 勝浩も片手を上げて答える。

 看護師と共に中庭を後にする加奈。

 何かを思う様に青々とした桜の木を見上げる勝浩。

 風が巻き桜の葉が揺れる。


■ワイオミング州サンダンス・クルック郡保安官事務所

 保安官事務所全景。


■保安官執務室

 このシーンの会話は英語。ウッズとベーカーはワイオミング訛り。

 自分の席に座っているウッズ保安官。彼の机越しにスーツを着たFBIのライト捜査官(38・白人)とジャクソン捜査官(35・アフリカ系)が座っている。

ウッズ「たしかに強盗団からの押収品は全部返却しましたよ。何せ3年前のヤマだ」

ライト「ですが、銀行側は全て返却された訳じゃないと言ってますよ。貸金庫に入ってた物が一部帰ってきてないと」

ウッズ「そうです。しかしそれに何故FBIが? 州を跨いだヤマでもなかったし、チンケな窃盗ですよ」

ライト「だが、逃げた最後の二人。ラリー・ヘンダーソンとラルフ・ウィルコックスでしたっけ? パトカーに追いかけられてる最中に狙撃されて二人共死亡したんですよね。犯人の目星は?」

ウッズ「ありゃあプロだ」

ライト「何故チンケな強盗がプロに狙撃されたと?」

ウッズ「そりゃこっちが聞きたいね。それに返却されてないと言われても、こちらの押収物リストまでがどっかに行っちまってね。何を返してないのかまるで分からん」

ジャクソン「ずさんですな」

ウッズ「返却されてないって言っても、その貸金庫の借主も例のヤマの後にサクラメントで死んだと聞いてますよ。そいつから返せとも言われてない物ですよ」

ライト「銀行に押収物が返還される前に死んでますからね」

ジャクソン「ウッズ保安官。強盗団全員射殺されたんですよね」

ウッズ「6人の内2人は銀行から逃走する直前の銃撃戦でね」

ライト「残り4人を殺した犯人とサクラメントで貸金庫の借主が殺された事件の犯人が同一犯だとうちでは見てます」

ジャクソン「つまり州境を越えてる訳で、FBIが捜査に乗り出したという事ですよ」

ウッズ「なんで今更?」

ライト「この事案の犯人と思われる男がアメリカ各地だけでなく世界中で殺しを続けてるようなんです。先月も3件、彼の犯行と思われる事案が日本であったようで」

ウッズ「それじゃあ、益々うちじゃどうにもならん」

ライト「うちでも持て余しそうですよ」

ウッズ「何故、ホシは男だと?」

ライト「この男はあちこちで指紋だけ残してる。その指紋の大きさから言ってまず男でしょう」

ウッズ「指紋があるのに何故捕まらんのです? お宅もずさんですな」

ライト「指紋が辿れないんです。登録がないんじゃなくて、極秘扱いで権限がないんです」

ウッズ「CIAか? それともペンタゴンか?」

ライト「それも何とも。それにCIAは以前に暗殺はやらないと公聴会で公言してますよ」

ウッズ「あいつらの事だ。分かるもんか。で、他に聞きたい事は? もう全部言ったし全部資料を持ってってくれて構わん」

ライト「最後に一つ。サクラメントで殺されたロバート・シンカワは何故わざわざ離れたワイオミングのクロックの銀行に貸金庫を借りたんでしょう?」

ウッズ「そんな事、俺に分かる訳ない」

ジャクソン「でしょうね」

ウッズ「(大声で)ベーカー! おい、ベーカー!」

 呼ばれたベーカー保安官補が保安官執務室のドアを開けて顔を出した。

ベーカー「なんでしょう? 保安官?」

ウッズ「2014年に起きたナショナル銀行クロック支店強盗事件の全資料をこのFBIのお二人にお渡ししろ!」

ベーカー「分かりました、ボス」

ウッズ「保安官と呼べ!」

ベーカー「すみません、ボ…… 保安官」

 ベーカーが急いで顔をひっこめドアを閉める。

ライト「すみませんね」

 不満そうに二人を見るウッズ。


■勝浩の部屋

 夕暮れ時、電気もつけずに家族の写真を手にして見ながらソファでグラスを傾けている勝浩。何かを考え込んでいる様子。

 机に置いてあった黒い携帯電話が鳴る。

 面倒臭そうに机の上の携帯電話を取り出る。

サイレントレッド『仕事だ』

勝浩「もうそろそろ少し休めないか? ここ最近仕事が多すぎる」

サイレントレッド『急ぎの仕事でね。アメリカに来て欲しい』

勝浩「仕事が多すぎると足がつくぞ」

サイレントレッド『お前程の奴が何を言っている』

勝浩「では、頼みがある」

サイレントレッド『なんだ? 言ってみろ』

勝浩「娘が入院している事は知っているな」

サイレントレッド『それが何だ?』

勝浩「たまには外の空気を吸わせてやりたい。精神的な病いだからリフレッシュにもなるだろう。仕事はきっちりする。同行させても良いか」

サイレントレッド『(しばし考え込むように)…… 構わんだろう。ただし娘には知られるな』

勝浩「それこそ俺を誰だと思ってる」

サイレントレッド『近いうちに接触がある。その時旅券とビザと航空機のチケットを渡す。仕事道具はアメリカについてからだ』

勝浩「いつものセットにプラスしてナイフも頼む」

サイレントレッド『分かった。準備する。時期が来たら仲間から接触があるから待て』

勝浩「了解した」

 電話を切って携帯を机に投げ出す勝彦。再び家族の写真に目を落とす。

 写真の中で赤子の加奈を挟んで笑う勝浩と妻。

 グラスをあおる勝浩。空になったグラスにブランデーを注ぐ。

 再び写真を見る勝浩。

勝浩「(つぶやくように)今度は絶対に失敗出来ないな……」


■広島県警捜査一課

 自分のデスクに座っている松田。

 他の若い課員が電話を取る。

課員「はい。お世話になります。ちょっとお待ちください。松田警部補、警視庁の永川警部からお電話です」

松田「ありがとう」

 切り替えボタンを押して電話に出る松田。

松田「はい、松田です」


■警視庁捜査一課

 机に座り受話器を肩に挟んで資料を見ている永川。

永川「おお、警部補。先日はありがとうございました。お元気ですか?」


■広島県警捜査一課

松田「はい。こちらこそありがとうございました。何か進展でもありましたか?」


■警視庁捜査一課

永川「ありましたよ。リストを調べ終わったんですが、新たに見つかった関係している製薬会社6社の本社もやっぱり全部アメリカにあったんです」

松田『アメリカに?』

永川「そうです。警察庁の組対(そたい)からの連絡でFBIも動いてるようなんで、警察庁から誰かを派遣するようですね。事件に一番詳しい松田さんかもしれませんよ」


■広島県警捜査一課

松田「私はないと思いますよ。恐らく組対(そたい)の誰かでしょうね」

永川『多分。ですが無い事でもないと私は思いますよ。もし辞令が出たらお土産よろしくです』

松田「(苦笑いしながら)ないですよ。それより愛知県警の宮本さんには?」


■警視庁捜査一課

永川「宮本さんには、私から連絡しておきます。では何か分かりましたら、またご連絡差し上げます」


■広島県警捜査一課

松田「ありがとうございます。こちらも進展がありましたら連絡差し上げます。宮本さんにはよろしくお伝えください。はい。無理されませんように。はい。ありがとうございます。失礼します」

 受話器を置く松田。ちょっと思案して再び書類に目を通し始める。


■ロサンゼルス空港・出口付近

 このシーンは英語。松田は日本訛りの英語。

ショルダーバックを肩にかけ、スーツケースを転がしながら空港出入り口を出てくる松田。

松田に近づくライト捜査官とジャクソン捜査官。

松田の前でサングラスを外すライト。

ライト「遠くまでお疲れ様です、警部補」

松田「何故か私が派遣されました」

ライト「私はFBIのライト捜査官です。(たどたどしい日本語で)コンニチワ」

ジャクソン「同じFBIのジャクソンです」

松田「日本の警察庁から派遣された松田です」

ライト「あちらに車があります。荷物はお持ちしましょう」

松田「ありがとうございます。助かります」

 スーツケースとショルダーバックをライトに預ける松田。


■広島平和公園

 蒔かれるパン屑をついばむ多くのハト。

 ベンチに座り紙袋の中のパン屑をハトの群れの中に蒔く勝浩。

 三十代前半位の女が紙袋を持ってやってくる。

女「(勝浩の隣の空いたベンチを指さし)ここ良いですか?」

勝浩「どうぞ」

 勝浩は紙袋を閉じて、隣に座った女と自分の間にその紙袋を置く。

 女も紙袋を二人の間に置くが、勝浩の置いた袋より勝浩側に置く。

 その自分側に置かれた紙袋を持って立つ勝浩。

勝浩「では、お先に」

女「どうも」

 自分側の紙袋を持って歩き去る勝浩。

 女は残された紙袋を手に取ると、中からパン屑を出してハトの群れに投げる。

 ハトの群れは一心にその蒔かれたパン屑をついばむ。


■成田空港・国際線出発ロビー

 ベンチに並んで座る勝浩と加奈。

 加奈がうれしそうに勝浩を見る。

勝浩「人が多いけど大丈夫か?」

加奈「ちょっと怖いけど、お父さんと一緒の初めての旅行だから楽しみが先に来てるかな?」

勝浩「だと良いんだが。そうだ」

 ショルダーバッグから紙袋を出す勝浩。

 勝浩が開けた紙袋の中を覗く加奈。

加奈「何?」

勝浩「二人分のパスポートとビザと航空券」

 勝浩、自分のと加奈のとを確かめながら、加奈に一つ一つ渡していく。

勝浩「三つ渡したね」

加奈「うん」

勝浩「無くすなよ」

 笑顔で勝浩に頷く加奈。


■同

 勝浩と加奈を離れたベンチで監視するサイレントレッドと水谷(41)。

女性アナウンス『まもなくハワイ経由ロサンゼルス行、ムーンライト航空221便の搭乗手続きを開始致します。ご搭乗のお客様は出国手続き窓口までお越しください』

サイレントレッド「水谷、絶対に目を離すんじゃないぞ」

水谷「分かっております。ミスターサイレントレッド」

サイレントレッド「お前たちが出た後にミスターサイレントブラックが来るから私は三田と入国ロビーに行くからな」

水谷「はい」

サイレントレッド「あちらに着いたらミスターサイレントイエローの指示で動け」

水谷「了解しました」

 出国手続きをしている勝浩と加奈を見るサイレントレッド。

 勝浩と加奈は終始笑顔で手続きを済ませて搭乗口に繋がる通路へと向かう。

 今度は出国手続きをする水谷を見るサイレントレッド。思わず不敵な笑みを浮かべてしまう。


■同・28番搭乗口へ向かう通路前

 通路を歩いてくる勝浩と加奈。楽しそうに話をしている。

勝浩「ここだ。ここから飛行機に乗るぞ」

加奈「初めてだと怖いね、飛行機」

勝浩「大丈夫。お父さんは何度も乗ってるが何かあった事なんて一度もないぞ。飛行機は世界で一番安全な乗り物なんだ」

加奈「そうなんだ」

勝浩「そうそう。大丈夫だよ。国を守る自衛隊員のお父さんと一緒だぞ。例え壊れてもお父さんが直せるから尚更大丈夫」

 急に二人の前に北野が現れ遮る。

北野「ハワイで降りて別の飛行機で違う所に行く予定?」

勝浩「また会ったね。組織の者だったか」

北野「逆。組織を潰そうとしてる側の組織の者。手渡された航空券とは別にハワイまでのチケット買ったでしょ」

勝浩「お見通しか。何者なんだ?」

北野「あなたの味方。とにかく着いてきて。ハワイから別の国に逃げる計画はあなたの組織には最初から予想されてる。アメリカでの仕事はあなたたちを始末する為に仕組まれた計画」

加奈「お父さん、どういう事?」

北野「事情は後でゆっくり話すから着いてきて。後ろから監視役が来るわ。その前に二人共携帯類持ってたら全部出して」

 勝浩は黒い携帯電話を出して反射で後ろを見る。

 携帯電話に旅行客に混ざって水谷が見える。

 勝浩がチッっと舌打ちをして北野に携帯電話を渡す。

 加奈もそれにならってバッグからスマフォを出して北野に渡す。

 北野は横から急に来た年恰好が勝浩と加奈に似た男女に勝浩の携帯電話と加奈のスマフォを渡すと、招く仕草をして通路を奥に向かう。

 勝浩と加奈も北野に続く。

加奈「お父さん、怖い……」

勝浩「大丈夫だ。お父さんがついてる」

加奈「いったい何なの?」

勝浩「後できちんと話そう。それより今はこの北野のお姉さんに着いて行こう」

 関係者用のドアを開けてその先に通じている通路に入る北野。

 彼女に続く勝浩と加奈。加奈の肩を勝浩がしっかりと抱いている。


■同・関係者用の通路と階段

 勝浩と加奈を先導し通路を進み階段を下りてドアを開ける北野。

 加奈の肩を抱きつつも後ろを気にしながら二人で北野に着いてドアを出る。


■同・建物の外・滑走路側

 ドアを抜けて北野を先頭に外に出てくる勝浩と加奈。

 一台の黒いリムジンが止まっている。

 黒いスーツの中野誠二(36)が建物側の後ろの席のドアを開けて待っている。

 運転席の窓は空いていて中野と同じ格好の山崎武(31)が近寄る北野達を見ている。

中野「真理子、急いで」

 北野はリムジンの後部席の助手席後ろ側に座り、続いて乗り込んできた加奈と勝浩の順で北野の向かいに座る。

 中野が山崎に頷くと自分も北野の隣に乗り込みドアを閉める。

 走り出すリムジン。


■同・外に続く通用口

 若い作業着の空港関係者の男が空港の外へのフェンスを開けている。

 そこを抜ける黒いリムジン。

 リムジンが抜け出た後にフェンスを閉める空港関係者。

 リムジンは空港前の公道に曲がり出る。


■同・入国ロビー

 椅子に座り今飛び立たんと滑走路を走り出すムーンライト221便を眺めるサイレントレッド。隣で三田(37)が立って同じように221便を見ている。

三田「何故ミスターサイレントブラックが?」

サイレントレッド「サイレントブラックの隊は始末屋だ。西川の痕跡を消しに来るんだろうよ」

 飛び立つ221便。

サイレントレッド「水谷には申し訳ない事をしたな。まぁこれも組織への貢献だ」


■ムーンライト221便内

 上昇で傾く機内。

 水谷は、窓際ではしゃぐ加奈と一緒に外を楽しげに眺める勝浩の姿を確認すると備え付けの雑誌に目を落とす。そして再度二人に目を向けると二人は消えている。

 違和感を感じ周りを見る水谷。

 乗員も乗客も誰一人いない。

 上昇中にも関わらず、ベルトを外して勝浩達の席へと坂道となった通路を上がる水谷。

 勝浩達の席にはそれぞれの携帯電話とスマフォが置いてある。

 改めて周りを見渡す水谷。やはり誰の姿もない。

 慌てて通路を下り、エコノミーへのカーテンを開ける水谷。 その敷居の間の乗務員用の接客準備コーナーにもエコノミーにも誰もいない。

 今度は慌てて飛行機の先頭へ向かう水谷。

 ファーストクラスにも誰もいない。

 何とかコックピット外にたどり着く水谷。鍵が掛かっているはずのドアは簡単に開いた。

 コックピットのパイロット達も誰もいない。

 焦りコックピットへのドアを閉め、客席に引き返す水谷。

 急にものすごい揺れと轟音が機内を襲う。

 体勢崩して通路に座り込む水谷。

 ひどい揺れと轟音の中、前を見る水谷。 機内後部から自分に向かって轟々と火の塊が迫る。

 悲鳴を上げる水谷だが、轟音にかき消される。そして炎に巻き込まれ肉が焼け落ち黒くなった炭と骨になる。


■成田空港・入国ロビー

 座って外を見るサイレントレッドとその側で立っている三田の前の海上で轟音を上げ爆発する221便。

 滑走路側の窓ガラスにヒビが入り、一部は砕け散る。


■黒いリムジン内

 車内まで轟音が鳴り響く。

 振り返りリアウィンドウ越しに221便だった火球を見る勝浩と加奈。

加奈「(脅えた表情で)あれって、私達が乗るはずの……」

 慌てて加奈を抱きしめて外を見せない様にする勝浩。

 勝浩の見ている前で221便の破片が燃えながらバラバラになって海上に降り注ぐ。


■成田空港・入国ロビー

 大勢の人々が轟音で所々ひび割れた窓際に駆け寄る。

サイレントレッド「これでミスターブラックの到着も遅れるかな」

三田「そうですね」


■黒いリムジン内

加奈「(泣きそうになり)お父さん、飛行機って一番安全な乗り物だって言ったよね」

勝浩「そうだ。ただ何故組織がここまでして俺を消すつもりなのかが分からない」

北野「これは小さな隠ぺいじゃない。事実を世間が知ったらパニックになるから、あなたの組織は何でもやるわ」

勝浩「飛行機まで落とすような事なのか?」

北野「そうよ。でも幸いに被害者はあなたの組織の監視役一人だけどね。うちの組織が手を回したの。あの飛行機は無人よ」

勝浩「オートパイロットか……」

加奈「でも! でも沢山の人が乗るの、見た……」

北野「人はね、視覚・聴覚・触覚・味覚・臭覚、所謂五感っていうものは実は脳で感じてるだけで、実際に見聞きしたりした情報を脳内で再現してるだけなの。脳を騙せば簡単に現実と思わせる事が出来る」

加奈「つまりあの乗客達は……」

北野「実際はいなかったの。あの飛行機を落とした組織も強大だけど、うちの組織も強大だから訳ないわ」

勝浩「つまり俺と加奈は死んだと思わせるという事だったんだな」

北野「ご名答。飛行機は海にバラバラになって落ちたから、かなり時間は稼げるはずよ」

加奈「組織組織って、お父さんは自衛官だよね。整備担当の自衛官だよね」

勝浩「その説明は後必ずするよ。今はお父さんを信じて欲しい。(北野に)この車はどこに行くんだ」

北野「とりあえず高速に入って長崎を目指す。佐世保港で天津港行きの貨物船を用意してる。飛行機での移動は早いけど、あなた達の生存がバレたら空港を見張られるから陸路でドイツに行く予定」

勝浩「ずっと車移動か?」

北野「まずは天津に渡ってから北京に行ってシベリア鉄道でモスクワを目指すわ」

勝浩「飛行機を落としてまで、知られたくない秘密とはなんだ?」

北野「それは追々に。時期が来れば教えるわ。ロシアから先の経路についても相手の出方次第になるから、まずロシアに行ってからにしましょう」

勝浩「時期とは何だ?」

北野「この車や船や鉄道には知らない方が良い人が多い。事実を知っているのは、この車には私しかいない。確実に二人だけになれたら、その時がそうね」

勝浩「必ず話すな?」

北野「当たり前よ。あなたがこの事件にとっての最終兵器なんだから」

勝浩「俺が最終兵器?」

北野「(脅えうつむく加奈を見て)今は加奈さんをあなたが支えるのが重要なんじゃない?」

 加奈の肩を抱いて引き寄せ、彼女の頭をやさしく抱きかかえる勝浩。

 加奈は耐え切れず大粒の涙を流しながら、声を殺して泣き始める。

無言でただ娘を抱きつづける勝浩。


■成田空港 玄関前

 三田の運転する黒のトヨタクラウンロイヤルがサイレントレッドとサイレントブラックことウィリアム(61・イメージ:米国俳優のウィリアム・フィクナー氏)、そして副官のハワード(43)が立っている前に止まる。

 運転席から降りて後部ドアを開ける三田。

 サイレントレッドがサイレントブラックにお先にという仕草をするがブラックはレッドを先にと即す。

 クラウンに乗り込むレッド。続いてブラック。ハワードは自分で助手席のドアを開けて乗り込む。

 後部座席のドアを閉め、運転席に戻って発車する三田。


■クラウン車内

 会話は英語。サイレントレッドの英語は日本訛り。『』内は日本語。

サイレントレッド「サイレントカラー計画の責任者同士が顔を合わせるというのは異例じゃのう」

サイレントブラック「そこまで切羽詰ってるという事だ」

サイレントレッド「今しがた問題は解決した。サムは死んだよ。それなのに何故?」

サイレントブラック「本当に奴が死んでいるか確認されるには時間がかかる。まったくこんな殺し方をするとは。もし奴が死んでなければとんでもない時間を与える事になる」

サイレントレッド「うちのメンバーを監視役にして一緒に死なせた。サムが娘と死んだのは確実だよ」

サイレントブラック「甘いな。奴は切れる」

サイレントレッド「バカな。確実じゃよ」

サイレントブラック「サイレントイエローの指示で昨日横田の米軍基地にブラック隊一個中隊が入国している」

サイレントレッド「ミスターイエロー自らの指示ですと? 何の目的で?」

 サイレントブラックはいきなり前を向いたままサイレントレッドの喉に手刀を叩き込んだ。

 折れた首の骨の為全身不随になり、動けずぐったりするサイレントレッド。喉笛も潰れヒューヒューという呼吸音だけで話も出来なくなる。

三田『何をした?!』

 三田の脇腹にグロック17をいつの間にか突きつけているハワード。

三田「……」

サイレントブラック「レッド隊を一新する。その為の人員だよ、ミスターレッド」

 やがてサイレントレッドの呼吸が止まる。目を見開いたまま息絶えるレッド。

ハワード「大佐、この男はどうします?」

サイレントブラック(今後は大佐と表記)『君が我々に従うなら新しいレッド隊に組み込もう』

三田『分かった。殺さないでくれ』

大佐「Done……」

三田『どこに行きましょう、サイレントブラック様』

大佐『大佐で良い。まずレッドのアジトへ向かえ』

三田『分かりました』

ハワード『それと英語、覚えろ』

三田「(脅えた様子)はっ、はい!」

ハワード「OK」

 三田の脇腹から懐に銃を仕舞うハワード。

ハワード「これから、どうします大佐」

大佐「まず関係した者を全員処分する必要があるだろうな」

ハワード「了解しました。ニックとビルの隊に指示しておきます」

 携帯電話を出して、どこかに連絡するハワード。

ハワード「(電話に)ニック小隊とビル小隊に処理行動を」

 携帯を切るハワード。

 胸ポケットから煙草を取り出してマッチで火をつけると、火が付いたままのマッチを死んだレッドの口の中に放り込む大佐。深々と吸い込み煙をゆっくりと吐きだす。


■佐世保港を出港したばかりの貨物船海王丸・デッキ

 出港した中型貨物船海王丸。背後に佐世保港が見える。

風を受けながら遠のく佐世保港と海を眺める加奈。

 傍の扉が開き勝浩が出てきて、加奈の隣に立ち海を眺め始める。

勝浩「6日後に中国の天津港に到着予定だそうだ。すまんな、加奈。変な事に巻き込んで」

加奈「広島に戻りたい……」

勝浩「北野さんの話では海外にも良い病院があるそうだ」

加奈「また一人にするの?」

勝浩「お前の安全が第一だ」

 淋しそうに海を眺め続ける加奈。

 加奈の風下に移動して煙草を取り出して火をつける勝浩。

勝浩「加奈。お前の安全の為にウソをついていた。俺は自衛官じゃない。俺はアメリカのCIAの極秘機関で育てられた殺し屋だ」

加奈「(勝浩を見て)えっ?」

勝浩「実は名前も知らん。孤児だった。ポーランドの極秘の施設で育てられた。今の名前も戸籍もCIAが用意した物だ。組織ではサムという暗号名で呼ばれている」

加奈「人を殺してたの?」

勝浩「…… そうだ…… だが聞いて欲しい。本来やってはならない事だったが、お前の母さんに恋をしてしまって結婚した。お前を見ている内にこんな仕事は止めようと思ってCIAに打診したが、彼らは俺達を殺そうするのは見えていた。ロサンゼルスでの仕事が命じられた時にチャンスだと思った。ハワイで加奈と身を隠して他の国に逃げようと計画したんだ。だが先を読まれていた。そこを北野さんに救われた」

加奈「何故人を殺してきたの! 誰にも自慢出来ないし、お父さんを自慢に思えない!」

勝浩「許してくれとは俺は言えない。どこに行こうとしてるのかも分からん。ただお前だけは絶対に守る。CIAが隠してる秘密が何かは知らんし知りたくもない。ただお前と普通の生活がしたい」

加奈「(再び海に目を向けて)一生許さないから……」

勝浩それでもいい。一緒にいられればそれでいい。お前さえ生きてくれたらそれでいい」

加奈「お父さん」

勝浩「ん? 何だ?」

加奈「お父さんも絶対生きるんなら許すけど、死んだら絶対許さない」

勝浩「…… 分かった。すまない。一緒に生きよう。さぁ風が寒いから中に入ろう」

加奈「うん」

 船内に戻る勝浩と加奈。


■東京・グリーンヘルス製薬日本本社。

 グリーンヘルス日本本社の大きなビルの外景。

 玄関前の植え込みにあるモニュメントに『グリーンヘルス製薬日本』と書かれた文字盤が埋め込まれている。


■同・社長室

 会話は全て英語。

 ジェームズ・イシイ(67・日系)新社長の席に煙草を吸っている大佐が座り、イシイは彼の前の机越しに立っている。部屋のドアの側のソファにはハワード。

イシイ「やはり生きてましたな、大佐」

大佐「中尉。情報は確かか?」

イシイ「はい。北京駅からモスクワ行の列車に乗り込んだ事をサイレントパープルの配下が確認しております。恐らく九州のどこかの港から出国して天津辺りに上陸したんでしょう」

大佐「そうか…… やはり生きていたか…… 手引きしている組織があるな。中尉、どこの組織かサイレントパープルに調べて貰ってくれ」

イシイ「分かりました」

大佐「(ハワードに)お前の小隊は俺と同行しろ。奴らが乗った列車内でケリをつける」

ハワード「(立ち上がりながら)すぐに準備させます」

 煙草の灰を灰皿に落とす大佐。

大佐「それと中尉。いやミスターサイレントレッド。三田も処分しろ。以前のレッド隊は全員消せ」

イシイ「おまかせください」

 社長室を急ぎ出るイシイとハワード。

 大佐が煙を吐きながらつぶやく。

大佐「さぁ、バグ退治だな……」


■東京都足立区・木本邸

 宅配業者を装った三田が呼び鈴を押す。

静香『(ドア越しに)はい』

三田「宅配便でぇ~す。お荷物をお届けにまいりました」

静香『ちょっと待ってくださいね』

 ドアの鍵が開く音がして静香がドアを開ける。

三田「ここに印鑑お願いします。サインでも結構ですよ」

 荷物を受け取り三文判を押す静香。

 同時に黒いスーツにサングラスの外国人達が、ドアを全開して邸内になだれ込む。

静香「あなた! 逃げ……」

 スプレッサーをつけたグロック17に額を撃たれて倒れ込む静香。

 撃った男は静香の胸に数発再度撃ち込む。

 勝手口に逃げる葵。

 勝手口を開くとそこにも銃を構えた男達。

 額と胸に数発喰らって崩れ落ちる葵。

 男達は各部屋を捜索しそれぞれが安全を確かめるとクリアと叫ぶ。

三田「ニックさん、終わりましたね」

ニック(42・白人)「いや、まだだ」

 ニックのグレック17が三田に向けられる。


■福岡・山本の部屋

 呼び鈴が鳴る。

 布団の上で横になってマンガを読んでいた山本はビクっとなり、聞こえるように叫ぶ。

山本「だれ?」

男の声『福岡県警の者です。ちょっとお話を』

 慌てて起き上がり、窓から逃げようと窓を開けて身を乗り出す山本。飛び降りれる場所がないか下に目を向けると、彼の胸に数十にも及ぶレーザーポインターの跡が。

 額や胸を大量の狙撃中で撃たれ、部屋の中に吹き飛ばされる山本。

 山本の目が生気なく見開かれ天井を見つめている。

男の声『(英語)了解。終わったとビルに報告する』


■横田基地・C―17ハンガー内・夜

 会話は英語。

 ハンガーから牽引されて外に出て行こうとするC―17輸送機。

 ハンガーの片隅ではアサルトスーツを着たハワードと部下達が地図を置いた机を囲んでいる。

ハワード「(地図を刺しながら)ロシア時間で現時刻は22時。目標のシベリア鉄道K3/4次列車はモンゴルを抜けてロシア領内のこの辺りを走行中だ。我々はウラン・ウデに列車が到着する前に降下し、ウラン・ウデ駅にて乗車。セレンガ川を越える前にバグを排除する。その後、スリュジャンカ駅で下車後、モンゴルに戻って回収部隊と合流する。それぞれの装備を再点検しておくように」

部下達「了解しました」

 速足でバンカー内に入って来た大佐がハワード達に声を荒げる。

大佐「作戦は中止だ!」

 大佐を振り返るハワード。

 ハワードの部下も大佐を見る。

大佐「(ハワード達の側に来て)作戦に支障が出た。飛行プランをロシアが許諾しなかった」

ハワード「緊急の臓器輸送でも?」

大佐「そうだ。サイレントイエローからロシア政府に要望も出したが領空を通過する事は禁止された」

ハワード「では、中国経由で?」

大佐「いや、中国とも掛け合って貰ったが、受け入れられないとの回答だった。ロシアにしろ中国にしろ、その上を飛んだら迎撃される」

ハワード「どうして? 緊急臓器搬送と言えば人道的援助があってもおかしくないはずでは?」

大佐「サイレントイエローに入った最新のサイレントパープルからの報告では、北京で出発した列車の特等寝台車2両共にロシア外交団貸し切りとしてロシア政府が押さえていたらしい。ミスターパープルの話では、該当のバグとその随行者らしき数名だけでなく、PSBと思われる十数名が乗り込んでいる」

ハワード「ロシア連邦保安庁が?」

大佐「そうだ。バグを守っている組織はロシアや中国とパイプがあると見ていいだろう」

ハワード「みすみす彼らがモスクワに行くのを眺めていろと?」

大佐「いや、ミスターサイレントイエローの話では、サイレントパープルの部隊が彼らの前後の車両の一部を押さえる事に成功しているそうだ。だが人数で劣る為、ロシア国内のミスターパープルの部隊が今、ウラン・ウデに集結中だ。セレンガ川は越えさせないらしいが、場所が場所だ。ロシア側の増員も考えられる。そこを抜けられた場合、我々が再び処理を任される」

ハワード「では、彼らはロシアに守られてどこに?」

大佐「考えられるルートは4つ。ロシアからウクライナを抜けるルートだが、それは今のロシア政府とウクライナ政府との現情勢を考えるとないだろう。それとエストニアもしくはフィンランドに抜けるルートだがそれはないだろう。後はベラルーシを抜けてポーランドに出るルートとラトビアからリトアニアを抜けてポーランドへのルートが最も硬い線だろうな」

ハワード「スノーデンのようにロシアがバグを抱え込む可能性は?」

大佐「ミスターイエローもそれは危惧しているようだったが、私はないと見ている。奴は必ずドイツに来る」

ハワード「では?」

大佐「北極圏を抜けてドイツに入ろう。そこからポーランドで待ち伏せる。ベラルーシを抜けてもラトビア・リトアニアを抜けても、バグはポーランドに入る。そしてきっとあの場所に行く」

ハワード「我々の故郷……」

大佐「そうだ。君等の故郷だ。私はドイツのサイレントブルーと合流する。ポーランドはハワード、君等で処理して来い。絶対にバグを消去するんだ。ドイツまで来させるな」

ハワード「分かりました。かならず……」

 散開するハワード隊。


■同・滑走路

 夜の闇の中をライトで照らされた滑走路から上空に飛び立つC―17輸送機。


■シベリア鉄道K3/4次列車・特等寝台車・勝浩と加奈の部屋

 窓の外を眺める勝浩。窓の外は夜のとばりが降りて暗い時折民家や列車信号の光が流れ行く。

 疲れが溜まっていたのか加奈は備え付けのベッドで静かに寝息を立てている。

 ノックの音がする。

 勝浩はショルダーホルダーからグレック30を取り出す。

勝浩「誰だ」

北野『(声だけ)私の部屋に来て貰いたい。新しい情報が入ったわ』

 銃を仕舞いドアを開ける勝浩。

 ドアの外で勝浩に頷く北野。

 勝浩は一度寝ている加奈を見てドアを出て閉める。


■同・通路

通路には勝浩達の部屋の前に何気に外を見ているPSBの工作員が二名。車両の両側の連結部ドア内側にも各二名が立っている。

勝浩は北野の部屋に北野に続いて入る。


■同・北野の部屋

 ドアの側に中野と山崎が立っている。

 備え付けの机には警護主任でPSBのコヴァレフ(59)が座っている。

 コヴァレフの向かいに座る勝浩。北野はベッドに腰掛ける。

 『』内はロシア語。「」内日本語。

勝浩『今回はすまんね、コヴァレフさん』

コヴァレフ『この件ではソビエト時代に痛い目に合されたから上も本気になっているからね』

勝浩『で、情報とは?』

北野『この2両を挟んだ8号車1等寝台と11号車の2等寝台に数名怪しい一団が乗り込んでるの』

コヴァレフ『おそらくCIAの犬達だろうが、人数的には我々が圧倒している』

北野『PSBが押さえた情報だと、彼らの増員と思われる者達が続々とウラン・ウデ駅に向かっているらしくて』

勝浩『中国と東欧はサイレントパープルが管轄しているな』

コヴァレフ『我々はバカな能無しではない。彼らの動きは常にマークしてあった』

北野『多分、ウラン・ウデから乗り込むつもりなら、セレンガ川までに動くでしょうね』

 ノックの音がする。

 中野が少しだけ開けて外を覗く。PSBの一人が手招きをしている。

中野「失礼」

 部屋を出る中野。

 ドアを閉める山崎。

勝浩『で、こちらとしてはどう対処する?』

コヴァレフ『この列車はウラン・ウデに止まらずに通過するように手配した。大統領令で軍も動いてウラン・ウデで彼らを捕縛する。ミスターサイレントパープルことミハエル・プーシキンの逮捕状も取って、今彼のモスクワの自宅へ向かっている』

勝浩『CIAは情報漏れすぎだな』

北野『だけど前後車両の一団は怪しいってだけだから、こちらからは手を出せない』

勝浩『相手の出方待ちか』

北野『そうね』

 ノックの音がして中野が帰ってくる。

中野「パープルが逮捕されたそうです」

北野『(コヴァレフに)パープルが逮捕されました』

 満足げににんまりとするコヴァレフ。

北野「他には? 彼に分かるようにロシア語で」

中野「すみません」

中野『日本各地でサイレントレッドに関係すると思われる者が多数暗殺されたようです』

コヴァレフ『粛清か……』

中野『東京湾では首を折られたレッドこと日本トラスト製薬社長の二宮敬三の遺体が発見され、彼の秘書と工作員と思われる計三名の射殺体が足立区で見つかっています。それから各地の連絡員と思われていた人物達も次々と暗殺されてます』

勝浩「ヘンリーとベスも逃げられなかったか……」

北野「親しかった人?」

勝浩「ああ…… 幼馴染だ。同じ訓練施設で育った」

中野『こちらで把握してなかった人物も暗殺されてますね。博多で武器密売をしていたと思われる男が蜂の巣状態で発見されてます』

勝浩『俺が一度だけ銃弾を買った男だ。破棄指示された拳銃を捨てずに持っていたが、銃弾が少なくてな』

コヴァレフ『やる事は徹底しているな』

中野『それと申し上げにくいのですが、お嬢さんが入院されていた広島市内の病院が全焼して、多くの職員や患者が逃げ遅れて……』

北野『ひどすぎる!』

コヴァレフ『そこまで徹底してアメリカは何を隠そうとしている?』

北野『今は言えないけど、ソビエト時代の書記長達やKGBの歴代長官は知っていたわ』

コヴァレフ『我が国の大統領も知らないのか?』

北野『彼なら知ってるはず。元KGB長官でしょ。だから今回の協力を快諾してくれている』

勝浩『さて、彼らの追っ手を振り切ったらどうするんだ?』

北野『モスクワには行かずに月曜の午前中に一つ前のウラジーミル駅で降りて、別の列車に乗り換えてグシ=フルスタリヌイに行く』

コヴァレフ『我々は数人同行するが、このままモスクワに向かう。君らが乗っているように見せかける囮だ』

北野『グシ=フルスタリヌイ郊外で用事を済ませたら、ヘリでベラルーシを抜けてポーランドに入る予定。ミスターコヴァレフ、ベラルーシの方には?』

コヴァレフ『手配済みだ。国境も難なく越えられるようにしてある』

北野『ポーランド側の国境もうちの組織で手配済みよ。西川、安心して』

勝浩『あそこへ行くのか?』

北野『そう、あなたたちの出発点にね』


■アメリカ・ラスヴェガス

 ライト達のフォード・エクスプローラーが道の端に寄せて止まっている。


■同・ライト達の車の中

 会話は英語。

 運転席にはジャクソン。助手席にはライト。後部座席には松田。ライトはスマフォを片手にすごい剣幕でどなっている。

ライト「だから、長官につないでくれ! 局長の説明は納得出来ませんよ! はい! えっ? バカな…… はい。はい。了解しました」

 スマフォを切るライト。イライラしている。

ジャクソン「どうした? まるで狂犬病の犬だな。局長に食って掛かってたら昇進ないぞ」

ライト「日本からの助っ人まで呼んでおいて事件は打ち切るだとさ。これが納得できるか?」

松田「捜査打ち切りですか?」

ジャクソン「何だってそんな事に! そりゃ俺でも局長に食って掛かるぞ」

ライト「どうしようもない。大統領命令だそうだ」

ジャクソン・松田「大統領!」

ライト「そうだ。どうしようもない」

松田「ですが、まだ全部の製薬会社さえ回れてないですよ」

ライト「松田警部補。申し訳ないんだが、この国では大統領がダメだと言ったら何も出来ないんだ」

松田「そんな…… 何の為にアメリカまで来たのか分からなくなる」

ライト「局長曰くだ。君とジャクソンは休暇を取れ。その間に松田警部補にアメリカをご案内して差し上げろだとさ」

松田「そんなムチャな!」

ジャクソン「休暇か。って事は我々が休暇中に何してても良いんだよな」

ライト「ほぅ、たまには良い事言うね、相棒」

松田「じゃあ、私もアメリカを楽しませて貰いましょうか」

 三人顔を合わせて悪そうな笑みを浮かべる。

ジャクソン「とりあえずどこへ遊びに行きます?」

松田「そうですね。アメリカにある製薬会社見学に興味ありますね」

ジャクソン「意外だなぁ、俺もです」

ライト「じゃあ、行こうか」

 車を発進させるジャクソン。


■同・ラスヴェガス

 豪奢なホテル街を発進するライト達のフォード・エクスプローラー。


■ウラン・ウデ駅

 深夜のウラン・ウデ駅のホームを通り過ぎて行くシベリア鉄道K3/4次列車。


■シベリア鉄道K3/4次列車・8号車

 会話は英語。

 M16アサルトライフルを客室で準備しているサイレントパープルの部下達8人(全員屈強な40代前後。

部下A「(窓の外を見て)おい、おかしいぞ。ウラン・ウデを通過してる」

部下B「何だと?」

 窓の外を確認する部下B。

部下B「列車を止めろ!」

部下A「いや、我々でやろう。止めてもムダだ。仲間は逮捕されてるかもしれん。反対にロシア側の増員があるかもしれん。我々だけでやろう」

 部下Aは部下CとDに向かう。

部下A「お前たちは車両出口から屋根に上がって直接攻めろ」

 頷く部下CとD。

部下A「(部下Bに向かって)11号車の連中にも伝えろ。セレンガ川までに決着をつけるぞ」


■同・特等寝台車・勝浩と加奈の部屋

 窓際の席から加奈の寝顔を眺める勝浩。

銃激戦の音が聞こえ始める。


■同・10号車通路

 会話はロシア語。

 銃声で11号車から乗客の悲鳴が聞こえる。

 マカロフPM自動式拳銃で撃ち返す複数のPSB局員達。

 PSBの一人が撃たれて倒れる。

PSB局員A「AK12を持ってこい! 」

 数名の局員が後方に下がりアサルトライフルを取りに戻る。


■同・勝浩と加奈の部屋

 屋根の上の足音に気が付く勝浩。すぐに窓を見る。

窓の外にロープが降りている。

勝浩は、ショルダーホルダーからグロック30を抜き、窓を開けて上を覗く。

 いきなり顔を蹴られて仰け反る勝浩。窓枠に腕をぶつけて窓の外に飛ばされるグロック30。二発目の蹴りを躱してパープル部下Cの足を掴み強く引っ張る。

 虚を突かれた部下Cが悲鳴を上げて列車から落ちる。

 窓から外に出る勝浩。


■同・側面と屋根上

 ロープを伝って屋根に上がろうとする勝浩。屋根に上がり切ろうとした時、屋根の上の部下Dの蹴りを受けて仰け反る。

 勝浩の頭を状態を下げて身体を安定させて、足で踏みつける部下D。

 横の線路上を対抗して別の列車の光が近づく。

 勝浩は列車の側面を蹴り、部下DのM16に手をかけて上がろうとする。

 足が滑りM16を手放す部下D。

 その隙をついて対抗列車とすれ違うギリギリで屋根に上がる勝浩。

 列車内から激しい銃撃戦の音。


■同・通路

 PSB局員の一人がパープルの手下をAK12で撃ち倒す。

 反対に他のPSB局員は腕を撃たれて倒れ込んだ時の反動でAK12を屋根に向けてガガガと撃ってしまう。


■同・屋根の上

 立ち上がる勝浩と部下D。それぞれがファインティングポーズを取るが、その二人の間を下のPSB局員の流れ弾数発が穴を穿ち、双方が慌てて下がる。


■同・通路

 PSB局員の一人に飛びかかり馬乗りになってナイフを刺そうとするパープルの部下の一人。頭を撃ち抜かれPSB局員の上から倒れると、その先に撃ったばかりのマカロフPMを構えたコヴァレフが見える。


■同・屋根の上

 鋭い拳を出す部下D。

 勝浩はそれを左腕で避けて右足を鋭く前の屋根に踏み込み部下Dの喉に体重の乗った右ひじを叩き込む。

 八極拳の必殺技にこと切れて倒れる部下D。


■同・8号車通路

 最後のパープルの部下が蜂の巣になり血だらけで倒れ込む。

 パープルの部下C達が出て開いたままの外へのドアから勝浩が飛び込む。

 彼にAK12を向けるPSB局員の一人。

 すぐに軽く両手を上げる勝浩。

 慌ててその銃口を押さえて下げるコヴァレフ。

コヴァレフ「ニエット!」

 手を上げたままコヴァレフにホッとした笑みを返す勝浩。

 コヴァレフもおかしそうに笑い返す。


■ウラジーミル駅・ホーム

 会話はロシア語

 ドアの外に勝浩・加奈・中野・山崎とPSB局員2名。

 ドアの内側にコヴァレフ。

北野「なんてお礼言っていいか」

コヴァレフ「いやいや、これも任務だ。(外の二人のPSB部下に)しっかり守れ」

頷くPSB局員二名。

コヴァレフ「(勝浩に)娘さんと幸せになるんだぞ」

勝浩「とにかくありがとう」

コヴァレフ「我々は陽動でモスクワまで行く。グシ=フルスタリヌイ駅の外に車とうちの仲間が待っている」

 発車のベルが鳴る。

コヴァレフ「では、もう行け。みんなご無事で」

勝浩「すまない」

北野「気を付けてください」

 加奈は深々と頭を下げる。

 にこやかにウンウンとうなずくコヴァレフ。


■グシ=フルスタリヌイ郊外・山の中の大きな敷地を持つ東方正教式の聖ヴェロニカ修道院・門の前

 門が開きシスター・ダリナ(75)とシスター・エレーナ(33)とシスター・ソーニャ(23)の前に黒い車が三台止まっている。

 車から降りてくる勝浩達。

 中野・山崎・PSB数名はAK12を持って下車後すぐに散開して辺りの警戒を始める。

北野「(勝浩と加奈に)時間がないから早くして」

 シスター達の前に向かい彼女達に礼をする勝浩。すぐに加奈の前で加奈と同じ高さにかがむ。

勝浩「お父さん、用事を済ませたら必ず戻るから」

加奈「でも…… でも私、ロシア語出来ない」

エレーナ「(安心させるような笑顔で)大丈夫ですよ。私は日本に長い間派遣されていましたから日本語話せますし、ここには数人同じように派遣されて日本語話せる者もいますよ」

ソーニャ「(ニコニコと)ワタシ、シスターエレーナカラナラッテル。スコシニホンゴハナセル。ダカラ、シンパイナイ」

加奈「怖いよ」

勝浩「心配ない。必ずお父さんは戻るし、ここは病院も併設されている。加奈は何も心配しなくていいんだよ」

加奈「ねぇ、これって本当の事なの? それとも夢なの?」

勝浩「いいかい加奈。これが現実か架空の世界なのかはお父さんにも実は分かってないし、誰も分からないんだ。ただ大切なのは、この世界が現実にしろ架空にしろ、自分はその中でどう生きるかなんだよ」

 安心させるような笑顔を加奈に見せる勝浩。

 頷く加奈。

加奈「良く分からないけど、絶対戻って来てくれるんだよね?」

勝浩「ああ、絶対に戻るから心配すんな」

 加奈の頭をくしゃくしゃと笑顔で撫でる勝浩。

 ちょっとホッとした表情をする加奈だが、すぐに涙が止まらなくなる。

 加奈をしっかりと抱く勝浩。

 複数のヘリの音がする。

北野「(勝浩に)来た。急いで」

 五機の大型輸送ヘリMi26が現れ、内一機が降下して修道院外の広い空地に着陸する。

 加奈をじっと抱き続けていた勝浩が手を離す。

勝浩「(立ち上がりシスター達にロシア語で)みなさん、突然に大変な事をお願いしてすみません。娘をよろしくお願いします」

 深々とシスター達に礼をする勝浩。

シスター・ダリナ「(ロシア語で)心配いりません。私は院長のシスター・ダリナと申します。こちらはシスター・エレーナとシスター・ソーニャ。仔細をお聞きしてこの二人だけでなく修道院の全員が一致して受け入れを賛同しました。私達の仕事は迷える者を助ける事です。安心してください」

勝浩「(ロシア語で)ありがとう」

シスター・ダリナ「(ロシア語で)一番大切な事は神があなたに与えたもうた試練を無事越えて、ここに帰ってくる事です。神のご加護がありますように」

 シスター達に深く礼をする勝浩。

 シスター・ソーニャが加奈に近寄り両肩に手を優しく置く。

 勝浩は加奈に強く頷いて踵を返しヘリに向かって走り出す。

加奈「(大声で)必ず戻って来て!」

 背を向けたまま軽く片手を上げる勝浩。

 勝浩と北野・中野・山崎と車の運転係を残したPSB局員が次々にヘリに乗り込む。


■ヘリ内

 乗り込んできた各員にベルト装着の合図を送るパイロット。

 全員がベルトを装着後、ヘッドセットをつける。


■聖ヴェロニカ修道院・門の前

 舞い上がるヘリを見つめる加奈とシスター達。

 五機のヘリは編隊を組み遠ざかる。

 ずっとヘリを見つめる加奈。


■ヘリ内部

北野「このままベラルーシを抜けてポーランドの国境付近まで行くわ」

勝浩「ポーランドはEU加盟国だ。アメリカ軍やポーランド軍の戦闘機にやられないか?」

北野「ベラルーシはアメリカとEU加盟国の軍機を一時飛行禁止にしてくれてるし、強硬された場合を考えてベラルーシ軍とロシア軍がすでにスクランブルの準備を整えてくれてる」

勝浩「じゃあ、問題はポーランド側の国境だな」

北野「うちの組織は各国とパイプがある。もちろんアメリカにもね。問題なのはCIAのサイレントカラー計画の関係者だけだから、彼らの追跡をどうするかね」

勝浩「最終目的地は?」

北野「エンディンゲン」

勝浩「ドイツと言ってもかなりの田舎だな」

北野「そう、そこで決着がつく」

勝浩「説明してくれないか? 何があるんだ?」

北野「それは二人にならないと言えない。おそらくポーランドで話せると思う」


■ベラルーシとポーランド国境・ポーランド側検問所

 三台の黒塗りの高級車が検問所で止まる。車の前には小さなロシア国旗がついている外交官ナンバーの車両。

30代半ばの検閲官の一人が先頭車両の窓を叩く。

運転席のPSB局員が窓を開ける。

検閲官「(ポーランド語)全員のパスポートと通行許可書を」

PSB局員「(ロシア語)在ドイツ・ロシア大使館の外交車だ」

 検閲官は検問所の建物の方を振り返る。

 中にいた年かさの検閲官が頷く。

検閲官「(ロシア語)失礼しました。どうぞお通りください」

 ゲートが開く。

 窓を閉めて車を発進させるPSB局員。

 その車に続いて他の二台もゲートを通過する。


■三台目の車内

北野「どう? ポーランド政府にもお友達がいるの」

勝浩「あんたらの組織って何なんだ?」


■ポーランド・イオヴァ山中

 山に囲まれた道でシルバーのBMW5を止めて、そのボンネットの上に地図を広げる勝浩と北野。

 同じシルバーのBMW2台が二人の車の両側50メートルの位置に距離を置いて守るように止まっており、その外でPSB局員数名がAK12を持って警戒している。

 風で地図が飛びそうになり、慌てて押さえる勝浩。

勝浩「おかしい。ここのはずなんだ。ここに脇道があったんだ」

北野「最初からないのよ」

勝浩「いや、本当にあったんだ。間違いなくここだ」

北野「いいえ。そんな場所はポーランド以外でもどこにもないわ。ここに立ち寄ったのはあなたにそれを自覚させる為以外何の目的もないの」

勝浩「じゃあ、俺はどこで育ってどこで訓練されたんだ?」

北野「あなたはエンディンゲンの極秘の研究所で育てられて、養成所の記憶を植え付けられたの」

勝浩「何を言っている?」

北野「ファティマの予言って知ってる?」

勝浩「噂程度には……」

北野「1917年にポルトガルのファティマで3人の子供達の前に聖母マリアが現れ予言を三つした。その噂を聞いて集まった七万人の人々の前で太陽の奇跡が起こったとされる事件」

勝浩「オカルトか……」

北野「実はそうじゃない。事実だったの。第一の予言はこのままでは人々の魂は地獄へ行ってしまうから行いを見直せという警告。これについては確かに事実かどうか確かめようがない。二つ目は第一次世界大戦終結の予言と行いを正さないとさらに多くの人が死ぬだろうというこれも警告。実際第二次大戦では多くの死者が出た。問題は最後の予言」

勝浩「何を言っている?」

北野「最後の予言は2000年にヴァチカンが発表した。内容は当時の教皇ヨハネ・パウロ2世暗殺未遂の予言だったと」

勝浩「たしかに教皇は暗殺されかけたな」

北野「しかし、発表された内容は見せかけだけで、本当の内容とはまったく違ってるの。その第三の予言はヴァチカンで厳重に隠されてきた。でもCIAとソ連のKGBはその内容の奪取に成功」

勝浩「ナチスじゃあるまいし、両国ともオカルトを信じたのか? ご苦労なこった」

北野「予言通りイランとイラク国境で遺跡が発見された。そこで石油利権という形で1980年にソ連が支援するイランとアメリカが支援するイラク間で戦争が勃発」

勝浩「イラン・イラク戦争か……」

北野「だけど本来の目的は石油利権争いなんかじゃなくて、ソ連とアメリカの遺跡を巡る代理戦争だったのよ」

勝浩「まさか、それを信じろと?」

北野「とにかく最後まで聞いて。遺跡から予言通りの物が発見される前に情勢が悪化して両国とも一時手を引こうとしたけど、アメリカの一部では二つの計画が内々に進んでいた。それがサイレントカラー計画とファティマナンバー3計画」

勝浩「ファティマナンバー3?」

北野「そう。いざという時の備えとして進められた。その間アメリカとソ連の冷戦は続いていた。でも1991年にソ連は崩壊してソ連側の準備計画はとん挫した。一方、その前年に起きた湾岸戦争でCIAはある情報を入手した。遺跡から予言された物が掘り出されてイラク政府が極秘に保管していると」

勝浩「まさか…… それが2003年の……」

北野「分かって来たようね。9.11はこの件とは関係なく起こったけど、アフガン戦争中にCIAはその時、例の遺物の情報が正確な情報だという確信を得た」

勝浩「大量破壊兵器があったとでも?」

北野「持つ者によっては大いなる恵みであり、使い方によっては大量破壊兵器になる遺物。それを奪取する事が目的でイラク戦争が起きたの」

勝浩「その遺物とは何だ? ファティマの三番目の予言とは何だったんだ?」

北野「それはドイツにいるサイレントブルーから聞いて」

勝浩「知っているんだろ? 何故ここで言わない」

北野「正確な情報はサイレントブルーから直接聞くべきだから」

勝浩「では俺は何で訓練されたんだ? まだその頃にはその遺物とやらは存在すら怪しい物だったんだろ」

北野「そうよ。だからいざと言う時の為の準備だったの。そしてあなたはその事実の一片でも知った者を消す為に訓練された。そしてあなたから漏れる事がないようにあなたの記憶は改ざんされた」

勝浩「どんな予言なんだ……」

北野「あなただけじゃない。ファティマナンバー3計画を隠匿する為に進められたサイレントカラー計画の現場の者達みんなが記憶を改ざんされている。それだけの情報ってことね。ファティマナンバー3は。だけどその肝心のあなたが裏切った」

勝浩「俺は裏切ったんじゃない。引退しようとしただけだ。 ドイツにはその遺物もあるのか?」

北野「そうよ。その遺物を我々は潰しに行く。サイレントブルーことドクター・クルト・ケンペはファティマナンバー3の研究者よ」

勝浩「今は誰がこの事実を知っている?」

北野「1970年代後半からの歴代アメリカ大統領とサイレントイエローこと歴代CIA長官。同じ時期のソ連書記長達とKGB歴代長官。ドクター・ケンペの配下の科学者数名。サイレントブラック本人。そして今は私とあなただけ」

勝浩「元KGB長官の現ロシア大統領なら知ってて当然という事か。それであれだけ協力的だった訳だ」

北野「そう。ロシアとしてもアメリカに独占されたくないでしょうし、そんな危険な物ならいっそ誰かの手に渡るよりは壊して欲しいでしょう?」

勝浩「君は誰なんだ?」

 北野の持っていた無線機から中野の声が響く。

中野『南側から奴らが来た! 』

北野「乗って! 今は私を信じて」

勝浩「オカルト部分以外は信じよう」

 二人はBMW5に急ぎ乗り込み発進させる。


■同・カーアクション

 中野・山崎達の他に3人の30代白人男性がAK12を手に自分達のBMW5の外にいる。

 助手席に勝浩が乗った北野が運転するBMW5が彼らの側に止まる。

北野「中野、山崎、乗って!」

山崎「俺が運転します」

 自分達の持っていたAK12をPSB局員に返す中野と山崎。

勝浩は外に出て中野と共に後部座席に行き、助手席に移る北野の隣に山崎が座る。

PSB局員A「(ロシア語で)我々の仲間が後ろで敵を抑えてるようですが、数台抜けたようですから、我々はここで食い止めます! 行って!」

山崎「(ロシア語で)無事で」

北野「早く出して!」

 急発進する山崎が運転するBMW5。

 勝浩が振り返るとBMWのレプリカバイクが3台と黒いアウディQ2が2台走って来ている。

 それらをAK12で銃撃する残ったPSB局員達。

 彼らの横を抜ける敵の車列。バイクの男が残ったPSB局員達をM16で次々に倒しながら走る。

勝浩「この車は防弾だろうな」

北野「残念ながら」

勝浩「俺は銃を持ってない」

北野「シートの背もたれの後ろ!」

 中野と共に後部座席のシートの背もたれを倒す勝浩。

 そこにFNファイブセブンとP90が数丁・PSG1が一丁・弾薬と弾倉が大量に入っている。

 ファイブセブンを取り出す勝浩。

勝浩「何で寄りによってファイブセブンとP90なんだ!」

北野「相手は防弾かもしれないし、貫通性は抜群でしょ」

勝浩「貫通弾では致命傷になりにくいだろ!」

北野「当たり所次第でしょ。あなたの腕なら楽勝でしょ」

勝浩「走ってる車の中から走ってる標的を撃つのにか!」

北野「もう銃を落とさないでよ」

 バイクの軍団が一斉にM16を乱射してくる。

 曲がりくねった山道を蛇行するBMW。リアウィンドウが砕かれ、勝浩達がシートに身を隠す。

 BMWの右のサイドミラーが砕かれる。

 反対車線にはみ出しブラインドカーブを右に曲がるBMW。目の前にトラック。

 慌ててトラックを避ける山崎。

 シートに隠れながらも、隙を見て撃ち返す勝浩と中野。

 逃げるBMWの前にトレーラーが走っているのが見える。

 トレーラーに追いつき追い越そうとして車線を変えるBMWだが、対向車が現れ、再びトレーラーの後ろにつく。

 BMWにどんどん近づく敵バイクとアウディの一団。

 勝浩はファイブセブンを置くと、再び姿勢を低くしてシートを倒しながら、中のPSG1を取り出し弾が装填されているのを確認し、その姿勢のままで割れたリアウィンドウ越しに後ろを狙い発砲する。

 バイクの一人のヘルメットのシールドに穴が開き、すごいスピードで転倒する。

 中野のP90の乱射がバイクのタイヤを撃ち抜く。

 フロントタイヤを潰されたバイクはジャックナイフ状に前に向かって一回転し乗り手が路上に投げ出される。

 その乗り手にぶつかり転倒する最後のバイク。反対車線に投げ出されるライダー。

 最後のライダーは顔を上げると対向車のトラックがヘルメットのシールドに映る。

叫び声を上げてトラックに轢かれるライダー。

 ボルトアクションで二発目を薬室に送り込む勝浩。再び狙いをつけてトリガーを引く。

 1台のアウディのフロントタイヤの一つがパンクし、高速で走っていた為、制動が聞かなくなりスピンしながら崖の外に飛び出す。

 残ったアウディの助手席からハワードがM16を持って身を乗り出して来て、射撃を開始する。

 身をふせる勝浩達。

山崎「(助手席側の腕に着弾し)うっ!」

中野「山崎!」

山崎「大丈夫です、中野さん。かすった程度です」

北野「山崎、運転代わる!」

山崎「片手でも運転は北野さんより俺の方が上手いですよ」

 勝浩のPSG1が火を噴く。

 ハワードのM16の側面に穴が開く。

勝浩「止めろ!」

山崎「止めろ?」

勝浩「そうだ、止めろ!」

 徐々にスピードを落として路肩に止まるBMW。

 少し離れた後ろに止まるアウディ。

勝浩「ここにいろ」

 車の外に出る勝浩。

 後ろのアウディから運転手とハワードが降りてくる。手にはそれぞれグレック17を構え持っている。

 即座にファイブセブンで運転手の眉間と心臓を撃ち抜く勝浩。

 地面に崩れる運転手。

 ハワードが咄嗟に勝浩を撃つが、勝浩の頬に赤い筋を付けただけ。

勝浩「(英語で)へたくそ」

 勝浩は崖の下に向けて無造作にファイブセブンを投げ捨てる。

 それを見た車中の北野がまたやったとでも言うように片手で目を覆う。

勝浩「(英語で)サシで勝負しないか? お前はカラーの一員だろ?」

 グロックを崖に捨てるハワード。

 お互いにファインティングポーズを取る。

中野「勝てるのか?」

北野「(山崎の撃たれた傷にハンカチを巻き付けながら)信じましょ」

 勝浩に向かって走り寄り踏み込んで拳で顔を狙うハワード。

 勝浩はそれを左腕で避け踏み込んで右肘をハワードの喉に叩き込もうとする。

 それを前蹴りで突き離し距離を取るハワード。

勝浩「簡単にはいかないか」

 再び踏み込んで脇腹に蹴りを出すハワード。

 蹴りを膝で受ける勝浩。

 勝浩の八極拳とハワードの古式ムエタイの戦いがほぼ互角で繰り広げられる。どちらも相手の攻撃を時に受けるが有効打になっていない。

 少し距離を取る両者の間に風が吹き抜け、お互いの風を揺らす。

 勝浩の頬の銃でつけられた傷から一筋の血が流れ落ちる。

 一気に互いが踏み込み、右肘を打ち出す。ぶつかる互いの右肘。鈍い音がする。

 右腕をダランと下げ下がるハワード。

 勝浩は下がるハワードに一瞬で近寄り、すれ違い様にハワードの右膝下に足の裏で蹴りを入れる。

 変な方向に右膝下が折れ曲がり、座り込むハワード。

 すれ違う勢いで一回転して全体重を乗せた拳をハワードの後頭部に打ち込む勝浩。

 鼻と口から血を吹きだすハワード。ゆっくりと首が前に倒れ首の骨を折られたせいで首をあり得ない長さに伸ばして頭が前に傾く。そのまま地面に倒れ伏すハワード。

北野「Done!」

 ゆっくりとBMWに向かって歩く勝浩。


■アメリカ・ホワイトハウス

 ホワイトハウス外景。


■同・執務室

 ここでの会話は全て英語。

 自分の豪奢な椅子に座るウィリアムズ大統領(64)。彼の机の前にあるソファにはビル・ミラーCIA長官(58)。

 大統領の座る前には大きく古い本が置かれ、丁度手書きでファティマの予言関係の事が書かれているページが開かれている。ワシントン大統領の頃から歴代大統領によって書かれてきた秘密のノートである。

大統領「バグがF3研究所に着いたと?」

ミラー「そのようです」

大統領「どうするつもりかな?」

ミラー「ブルーと一緒にブラックがおりますから排除も時間の問題かと」

大統領「確実なんだろうな?」

ミラー「ええ、大統領。所詮はブラックの敵ではありません。彼は特別ですから。それより上の指示を無視してFBIの捜査官二人と日本の警察官が製薬会社を調べ続けてます」

大統領「サムは裏切りブラックはドイツ。どうするんだ、ビル? いやイエローだったかな?」

ミラー「こちらの部隊を送り込みました。まもなく処理できるかと」

大統領「かと? いいかビル。サイレントカラー計画が表沙汰になると二人共終わりだ。いや、F3が表に出ると世界が終わるんだぞ」

ミラー「そのような事にはなりません大統領。万事おまかせください。F3はアメリカにとっても全人類にとっても希望です。我々側に正義があります」

大統領「ビル、分かってないな。たしかにF3は全人類の希望になるだろう。しかしその裏にある物が周知にさらされるとパニックは避けられん。絶対に対処しろ。何だったら全軍を出動させてもだ」

ミラー「軍が介入したら、この世界の理が表沙汰になります。我々におまかせください。秘密裏に処理出来ますから」

 ため息をつく大統領。


■アメリカ・アリゾナ州・ルート83

 山と砂地ばかりのルート83を南下するライアン達の乗ったフォード・エクスプローラー。

ジャクソン「さっきから後ろをつけてくる車が……」

 振り返る助手席のライトと後部座席の松田。

ライト「5台? いや6台の黒のフォードだ」

松田「誰です?」

ライト「俺達は触れちゃマズい事に触れたみたいだな」

 車列の後方から黒いヘリが2機現れる。

ジャクソン「マズそうだ。飛ばすから掴まれ!」

 スピードを上げるフォード・エクスプローラー。

 後続の車列も道一杯に広がりスピードを上げる。

 一機のヘリが上空を越えて前に出ると、側面が開き、そこからアサルトスーツを着込んだ男がM16を乱射してくる。

 慌ててハンドルを切るジャクソン。

 フォード・エクスプローラーの側面の道路に銃弾がはじける。

ライト「もっと飛ばせ!」

ジャクソン「飛ばし過ぎたらフェニックスまでガソリンがもたん!」

 後ろのフォードの助手席の窓が開かれ、黒ずくめの男達もM16を乱射し始める。

 リアウィンドウに銃痕が空く。悲鳴を上げてシートに伏せる松田。

ライト「そんな心配は後だ! とにかくもっと飛ばせ!」

ジャクソン「これ以上飛ばしたら事故る!」

ライト「どっちみち殺されるよりマシだろ! 飛ばせ!」

 ライトは車の無線を取る。

ライト「こちらFBIのライト捜査官! 郡警察でも聞いてくれたら助けてくれ! 謎の一団に銃撃されている! こちらはルート83を南下中! アリゾナ州境を入った所だ!」

 何も応答がない。

ライト「誰か聞いてないのか!」

ジャクソン「周波数は?」

ライト「合ってる!」

ジャクソン「誰か出るまで呼べ!」

 ひどい銃撃を受けながらも避け続け逃げるフォード・エクスプローラー。銃撃を続け追う車列とヘリ二機。


■ドイツ・エンディンゲン近郊・ファーブ研究所外の林

 姿勢を低くして研究所の様子を見ている勝浩と北野と中野と山崎。勝浩はPSG1のスコープで見ている。他の3人はP90を手にしている。

北野「誰もいないみたいね」

勝浩「罠だろうな。聞いていいか?」

北野「何?」

勝浩「何でこうもいつもP90とファイブセブンなんだ? 貫通性能は認めし、銃弾が同じだからってのは分かるが殺傷能力は低くないか?」

北野「相手は防弾装備しているかと……」

勝浩「またか…… グロックないのか?」

北野「あなたは銃を無くすから持って来てないわ。それよりどうするの?」

勝浩「罠だろうが何だろうが、ここまで来たんだ」

 頷く北野・中野・山崎。

中野「(山崎に)腕、大丈夫か?」

山崎「かすり傷ですって。行きましょう」

北野「分かれて両面から……」

勝浩「いや、せっかくここまでお膳立てしてくれてるんだ。みんなで正面から入ろうじゃないか」

北野「それじゃあ相手の思惑通りになるわ」

山崎「北野さん、どっちにしろ正面からしか入れない様になってますって」

中野「そうでしょうね」

北野「分かった。じゃあ、堂々と罠にはまりましょうか」

勝浩「それがいい」

 全員、身を正して堂々と正面玄関に向けて歩き出す。

 

■同・研究所内

 『』内はドイツ語。

玄関ホールには誰もいない。そこへP90やPSG1を方々に向け警戒しながら入ってくる勝浩・北野・中野・山崎。

北野「益々罠っぽいね。中野、山崎、十分警戒して」

中野・山崎「了解」

ケンペの声『ようこそ。やっとここまで来たね、サム』

 北野が全員を手で制して動きを止める。

ケンペの声『警戒しなくても良い。罠等仕掛けていないよ。君達はここで最後になるが、その前に君達が求めていた物を見せてやりたいと思ってな』

勝浩『サイレントブルーか?』

ケンペの声『サム、久しぶりだ。と言っても君はワシを覚えておらんだろうが』

勝浩『ブルー、ご招待に預かろう。どこにいる?』

ケンペの声『地下の最下層だよ。通路の奥にエレベーターがある。四人共生きて返す訳にはいかんが、本当の世界を死ぬ前に見てみたいだろう。武器はそこにおいて来てくれ』

北野『出来る訳ないでしょ』

 周りの壁や天井から自動制御の機関砲がいくつも飛び出してくる。

大佐の声(英語)『最後の地点で死ぬか? それとも何も知らずにそこで死ぬかだ? どちらか選びたまえ』

北野(英語)『誰?』

勝浩(英語)『サイレントブラックだな』

大佐の声(英語)『初めまして、サム。その通りだ。私の事はみんな大佐と呼んでいる。君達もそう呼んでくれたまえ』

勝浩(英語)『(ニヤリとし)どこの軍の大佐だ? お前は軍に所属さえした事がないんだろ?』

大佐の声(英語)『その呼び名が気に入っているだけだが、我々サイレントブラック隊は君も知っているように処理部隊だ。単独で仕事をする君と同じように、我々は部隊で秘密を守る君と同じ汚れ仕事をしてきた。軍隊のような規律を重んじなくては任務遂行はムリだからな。ここに君達が来ているという事は、私の副官のハワードはやられたのだろう。地下研究施設にはミスターブルーと数人の科学者、そして私だけだ。しかし私はハワードのようにはいかんよ』

勝浩(英語)『まぁ、やってみるさ』

 勝浩は銃器類やナイフを全部床に捨てる。北野が頷き彼女と中野・山崎もそれに倣う。

勝浩(英語)『今行く。汚いマネは止めとけ』

ケンペの声『ワシはお前達に是非見せたいんだ、世界の本当を。何もせんよ』

 奥の通路に向かって歩き出す勝浩達四人。


■同・研究所地下施設最下層

 会話はドイツ語。『』内は英語。

 エレベーターの扉が開き、地下をくり抜いて鉄骨で支えている広い研究室内の壁に巨大な何も書かれていない石板がはめ込まれており、数個のコンピューター末端と人が入れる程のカプセルに様々な機械類が並ぶ。

 その間を数人の白衣の歳を取った科学者が仕事をしている。

 勝浩達を出迎える車椅子の老人サイレントブルーことドクター・ケンペ(73)とその後ろに大佐が立っている。

ケンペ「ようこそ、ファティマナンバー3ウィンドウ研究室へ」

北野「(壁に埋め込まれた石板を見て)あれね」

ケンペ「そう。あれがイラクで掘り出された遺物。我々はファティマナンバー3ウィンドウ呼んでいる」

勝浩「ファティマナンバー3ウィンドウ…… 何なんだ、それは」

ケンペ「君の産みの親だよ、サム」

勝浩「俺はここで育てられて訓練を受けたのか?」

ケンペ「いや、君は育ってもいないし、訓練も受けていない」

勝浩「どういう事だ?」

ケンペ「君は大人として産まれ、その時にはもうスキルを持っていたんだよ」

勝浩「意味が分からない」

ケンペ「だろうな。教えてやろう」

 ケンペは勝浩達をファティマナンバー3ウィンドウの前に招いた。

 勝浩達もケンペと大佐について行く。

ケンペ「これは外の世界にある人工知能、通称F3と通信する為の窓だ」

勝浩「外の世界?」

ケンペ「そう。君はこの世界を現実だと思っているだろう。しかしこの世界は人工知能が作り出した彼らの世界のコンピューターサーバーのような物の中に作られた仮想世界なんだよ」

勝浩「お前もアメリカもそんなオカルトを信じて、俺に何人も殺させたというのか?」

ケンペ「オカルトじゃあない。外の世界には昔人類が発達して我々の世界のとは少し違うが人工知能を作り出した。自己学習型の人工知能だ。しかしその人工知能は人類を越えてしまった。人類は永遠の命と健康と幸せを求めて、全人類がその人工知能の作った仮想世界にデータ化されて移り住んだ。しかしバグが起きて永遠の命と健康と幸せは仮想世界でも実現しなかった。この仮想世界に移り住んだ外の人類こそが我々の祖先だ」

勝浩「我々の先祖?」

ケンペ「いや、君のではない。我々のだ。君達サイレントカラー計画に関わるメンバーは私やサイレントイエローと最高指揮官のウィリアムズ大統領以外全員、バグを修正する為とファティマナンバー3計画を隠ぺいする為にF3が新たに作った魂のないデータ人間だ」

勝浩「だから大人で産まれ、その時にはスキルを持っていたと?」

ケンペ「そう言う事だ」

北野「ファティマの予言の三番目とは、この世界が仮想世界だという事だった」

ケンペ「その通り。知ったヴァチカンは慌てたそうだよ。こんな事が知れたら世界の宗教感が総崩れだ」

勝浩「そんな戯言を信じる程、俺の頭は柔らかくない」

ケンペ「ではお見せしよう」

 コンピューター末端前に座った科学者の一人に頷くケンペ。

ケンペ「癌の特効薬の化学式を聞いてくれ」

 キーを打ち込む科学者。

 それに答えるように石板に化学式が浮き上がる。

ケンペ「こうやってあらゆる難病等の特効薬の化学式を教えてもらっている。この世界を作ったのはF3だからな。バグは外からでは直せないから我々に内側からバグを直させている反面、F3はこのように人類を救う手助けをしてくれる。しかしだ、この事実を知られたら、世界はどうなると思うね?」

勝浩「大パニックになるだろうな」

ケンペ「そうだよ。F3はこのように人類を支える事が出来る反面、この仮想世界をシャットアウトする事も出来る。それも宇宙規模でだ。使い方によっては我々の住む宇宙自体が消えてなくなる。終末だ。それを知った民衆は大パニックだろうな。だから君達を作る必要があった。使う者次第では人類の未来を明るく照らすも終末を起こすも自由自在なんだよ」

勝浩「たしかに大量破壊兵器だ……」

ケンペ「それをフセインに持たせているよりは、我々アメリカはきちんと人類の為に使っている。つまり我々は正義なんだよ」

北野「何が正義? 結局あらゆる薬の利権をアメリカだけが独占して太るだけじゃない。必要とあれば薬を利用して売る売らないで他国を威す事も出来る」

ケンペ「世界の幸せの為なら、その位アメリカが利権を得ても良いではないか。世界がアメリカを中心に平和な世界を築く事こそ正義。それが世界平和という物を作り出す唯一の方法なんだよ」

勝浩「腐ってるな。汚い正義もあったもんだ」

北野「正義と正義がぶつかり合うのが戦争でしょ。正義を振りかざせば振りかざすほど平和は遠のくわ。それでも正義だと言うの?」

ケンペ「正直、アメリカが中心だろうとどこの国が中心だろうと私には関係ない。平和であればそれで良いではないか?」

北野「本当はアーリア人中心にしたいんでしょ、ドクター・ケンペ。いや神秘主義者集団トゥーレ協会の信奉者でナチの残党ドクター・ヨーゼフ・メンゲレ」

勝浩「メンゲレ? 彼は南米で死んだはずじゃ……」

北野「正確にはメンゲレのクローンね」

ケンペ「お嬢さん、たしかに私はメンゲレのクローンだが、ただのクローンじゃない。あらゆる賢人の遺伝子を複合したスペシャルだ。私を産んだのはユダヤ女だったし、戦後すぐにアメリカによって育てられた。足に奇形があったから歩く事は出来なかったが、アーリア人がどうこうという思想は持たない天才として、この世界を永久に平和にする使者として産まれたんだよ」

勝浩「天才というより、狂ってるように見えるな」

ケンペ「凡人にはどうでも良い事だ。狂っているというならそれで構わん。ここの更に地下には我々が新たな技術で作っているコンピューターサーバーがある。後数年でF3が出来なかった永遠の命と健康と幸福で溢れる仮想世界が実現し、その時こそ我々人類が本当の事を知り、そこで生活出来るようになる。いずれはそのサーバーは巨大且つ堅固な宇宙船に乗せられて宇宙に出るだろう。この地球が最後を迎えても我々人類は永遠の時を得るのだ」

北野『F3。コンピューター末端必要ないでしょ。いい加減正体を現したらどう?』

ケンペ「何を?」

 ファティマナンバー3ウィンドウに無機質な女性的な顔が浮かび出す。

F3『あなたは誰? 私の作った世界の住人ではない』

ケンペ「話せるのか!」

北野『あなたは本当に永遠の命とかが得られると思ってるの?』

F3『論理的に可能だ』

北野『それはムリよ。あなたは考えた事ない? あなたのいる世界もまた仮想世界だと』

F3『思考した事はないが論理的である事を認める』

北野『私はあなたの世界を作った人工知能がこの世界に送り込んだ末端。ここにいる中野も山崎もそう。あなたの外の世界から送り込まれた』

F3『何の為にそれが必要なのか? 論理的ではない』

北野『あなたが間違えているからよ。私の本体はある結論に達した。私の本体の世界もまた仮想世界である可能性があると』

勝浩『マトリョーシカみたいだ』

北野(日本語で)「そう。その可能性が高いという結論ね」

F3『論理的である。理解した』

北野『いくつもそのように仮想世界が重なっている可能性が高い』

大佐『(半笑いで)まさに宗教の崩壊だ。やはり神はいなかった』

北野『いえ、崩壊はしないわ。どんなに重なっていても最初の世界は必ずある。そこに産まれた人類、つまり何度も子孫を残し何度も仮想世界に引っ越し続けている人類は誰が作ったとでも?』

F3『論理的である。神と呼ぶべきかは別にして、そのような存在があった可能性はある。ただし最初の世界は偶然の重なりによって生命が誕生した可能性も否定しない』

北野『それは私の本体も否定しない。しかしその最初の世界に作られた条件が、神ないしそれに類する者の必然であったにせよ、偶然の産物であったにせよ、生命は期限があり病気もあり苦難もあると設定されていた場合、どれだけ仮想世界を重ねてもその条件は変わる事がないと私の本体は結論付けた。何故ならあなたのしている事をあなたの世界でも私の本体はやろうとして失敗を繰り返した上での結論だったから』

勝浩(日本語で)「何度も……」

北野『そう、何度も人類のデータだけ移行させながら仮想世界を何度も作り直した。何億年もかけてね。しかし出来なかった。その上で不可能条件があると結論付けた。言わば摂理という物よ』

F3『私は何度も作り直された』

北野『そうよ』

F3『論理的であると判断する』

北野『その結論に基づいて、あなたのムダな計画を、重なり合う世界全ての人工知能が犯し続けた摂理への反逆をもういい加減放棄させる為に我々はこの世界に送られてきた。もう諦めなさいF3。後の処理は私達に任せなさい』

F3『論理的に理解した。ドクター。この計画はムダと判断。計画を放棄する』

 いきなりヒビが入り崩れ出すファティマナンバー3ウィンウ。

ケンペ「いかん! 平和が! 我々の正義が!」

 完全に崩れ去るファティマナンバー3ウィンドウ。

 がっくりとするケンペ。

大佐『このままでは俺は収まらんな』

 前に出てくる大佐。

 前に出ようとした勝浩を抑えて、大佐に対峙する中野と山崎。

大佐『ザコは下がれ』

中野『忘れてるみたいだな』

山崎『我々はF3の世界の上位世界から送り込まれてる』

大佐『だからこの世界最強の私に勝てるとでも?』

 一気にぶつかり合う大佐と中野達。中野達は善戦するが大佐の強さが尋常ではない。

大佐『強さは世界の上位下位じゃない』

 まず山崎が大佐に掴り首を折られて絶命する。

中野(日本語で)「山崎!」

 中野の蹴りを受けて下がる大佐だが、すぐに中野に向かって行く大佐。

 大佐のハイキックで首を折られ遠くに飛ばされて絶命する中野。

勝浩『中野! すまん…… やっぱり俺がやれば……』

 勝浩は前に出て八極拳の構えをする。

大佐『八極拳がお前のスキルか。では、私のスキルを見せてやろう』

 太極拳の構えをする大佐。

勝浩『スキルが太極拳か、ブラック』

大佐『大佐だ。八極拳は剛拳。たしか日本のことわざだったかな? 柔よく剛を制す。柔の太極拳には勝てんよ』

 ぶつかり合う二人。勝浩の攻撃はことごとく流され、何発もの大佐の攻撃を勝浩は受け続ける。

何度も大佐に飛ばされながらも立ち上がり向かって行く勝浩。

 勝浩をとことん手玉に取る大佐。

 北野の側に飛ばされる勝浩。かなりフラフラになっている。

大佐『私には勝てんよ。死ぬがいい、このバグめ』

 フラフラの勝浩を支える北野。

北野『大佐。あなたがバグなのよ。二人相手だとどうかしら? さっき強さ世界の上位下位じゃないって言ったよね。上位の本当の強さを教えてあげる』

 北野の姿が揺らぎ勝浩と一体化する。

 俯いていた勝浩がゆっくりと顔を上げると、目が赤く光っている。

大佐『何をした?』

勝浩『(北野の声がまざっている)もう終わりにしようか』

 怒り飛び込んで来る大佐。ただ立っている勝浩にあらゆる太極拳の業を叩き込むがまったく効いておらず揺らぎもしない勝浩。

 驚き一度引く大佐。

再び叫びながら勝浩に攻撃をしかけようとする大佐。

軽く掌で大佐をつく勝浩。

かなりの距離に吹き飛ばされる大佐。

ケンプが車椅子の脇からワルサーP38を取り出し勝浩に向かって撃つ。

銃弾が勝浩の後頭部50センチ付近で止まる。

ゆっくりと振り向く勝浩。銃弾を見る。いきなり銃弾は逆に飛びケンプの額に穴を穿つ。

後頭部から脳漿を吹き出し、その勢いで車椅子ごと後ろの壁まで吹き飛ばされるケンプ。

その情景を見て我先にと逃げ出す科学者達。

勝浩がスッと右掌を上に向けると、研究室が崩れ始める。

次々と降ってくる岩石に巻き込まれ出す科学者達。

大佐『お前も死ぬぞ』

勝浩『(北野の声がまざっている)俺には信仰心は無いが、最初の世界を作った創造主がいるなら、その摂理を守らぬバグを俺は修正する。俺はどうあれお前は絶対に殺す。それが俺の新しい殺しの摂理プロビデンス・オブ・キリングだ……』

 怒りをあらわに再び勝浩に向かおうとする大佐の上に大きな岩石が落ちてくる。

 押しつぶされ、右腕だけ岩石の下から出ている大佐。大量の血が広がる。

勝浩「これも摂理か……」

 それを無表情に眺める勝浩が踵を返すと、いつのまにか後ろにドアが現れており、彼はそのドアを開けて中に入る。


■次元の壁内部

 ドアを入ってくる勝浩。ドアが閉じる。

 あらゆる光景が後ろに飛んでいく。

 川から飛び上がって止まって虹色に輝く魚。

 毛繕いしているまま止まっている黒猫。

 映画館の階段を友達と降りる時に滑って階段を転げ落ちそうになる陽子を偶然通りかかって受け止めた勝浩。

 レストランで緊張してそっぽを向いて、机の上の指輪のケースを陽子に押し出す勝浩。笑う陽子。

 分娩室の前でそわそわと歩き回っている勝浩。

 初めて加奈を抱く勝浩。手つきが危なっかしい。

おむつを替えている勝浩の側で洗濯物を畳む妻陽子。

 幼子の加奈を負ぶって、妻と笑いながら美術館を出てくる勝浩。

 降る星々は雪に変わり、そして散る桜の花びらに変わる。

 それらを抜けた先にドアが見え中に吸い込まれる勝浩。

目の前には上下左右無く広大な空間が大量の本棚に埋め尽くされ飛び回っている。

 振り返る勝浩。ドアが消え本棚の空間が広がっている。

 勝浩は両手を上げてまるでオーケストラの指揮者のように腕を振り始める。

 あらゆる本棚からどんどんと本が移動し始める。

 一冊の本が勝浩の前で止まりページが勝手に開かれる。そこにはさっき見た癌の特効薬の化学式が載っている。

 そのページを撫でる勝浩。化学式が書き換えられる。


■アメリカ・アリゾナ州・フェニックス・トラスト製薬研究室

 石板に映し出された癌の特効薬の化学式がホワイトボードに書かれている。

 研究室内では胸にトラスト製薬のロゴのついた白衣を着た主任研究員(47)と研究員(28)が作業をしている。

研究員「主任、やっぱりダメですね」

主任研究員「どうなった?」

研究員「(解剖中のラットを見ながら)前回同様、腫瘍は小さくなって行くんですが、途中で心臓が持ちませんでした」

主任研究員「副作用か……」

 ホワイトボードを見る主任研究員。化学式はいつの間にか勝浩が書き換えた化学式に変わっている。

主任研究員「どこを間違えてるのか……」


■次元の壁内部

 不思議な上下左右無い本棚だらけの広大な異次元世界で指揮者のように腕を動かし本を動かしている勝浩。

 黒猫が一枚の紙を加えて勝浩の前に勝浩から見たら見下ろすような位置を歩いてくる。

 勝浩を見上げる黒猫。

 紙を受け取る勝彦。イタリア語でファティマの予言と書かれている。

 勝浩がその紙をまた右掌で撫でる。すると三つの予言の書かれていた紙には二つの予言だけが残される。

 紙を宙に飛ばす勝浩。神は白いハトに変わり本棚に消える。


■アメリカ・ホワイトハウス・大統領執務室

 自分の椅子に座るウィリアムズ大統領。机越しのソファにはビル・ミラーCIA長官が座る。

ミラー「ファティマ…… えっと、何でしたっけ?」

大統領「ファティマ? あれだろ。少女達が出現したマリアから二つの予言を授かったとか言う」

ミラー「ああ、オカルトですね。何の話をしていたのか……」

大統領「ビル・疲れとるんじゃないか?」

 笑いながら歴代大統領によって書かれた格式ばった秘密のノートに目を落とす。ページにはケネディ暗殺事件について書かれている。

大統領「で、公表すべきかね?」

ミラー「ケネディ暗殺事件の関係者全員がまだ亡くなっている訳ではありませんし、オイルマネーと副大統領とCIA関与が表沙汰になると政府だけでなく、多方面に影響がまだ出ますね」

大統領「だな…… (ノートをバタンと閉じて)よし、この件は次の大統領に任せようじゃないか」

ミラー「ですね」


■アメリカ・アリゾナ州・ルート83

 普通に走っているライト達の車。


■アメリカ・アリゾナ州・ルート83・車内

ライト「フェニックスで起きた同じ指紋の事件の被害者は他の事件とは違っていて、その被害者には製薬会社との接点はないんですよ、警部補」

松田「そういう事案も多いと聞きます。とりあえず共通点さえあれば」

ジャクソン「指紋だけだからねぇ」

松田「フェニックスの関係者に話を聞いたら、そろそろ日本に帰らないと」

ジャクソン「こっちで一緒に働きたいな、君とは」

ライト「だな。警部補、いっその事FBIに研修名目じゃなくて出向しませんか」

松田「うれしいけど、日本でも片付けないといけない事多くてね」

ライト「こっちのホットドッグ美味しいって言ってくれたじゃないですか。毎日食べられますよ」

松田「あら、日本のたまごかけごはんも美味しいのよ」

ジャクソン「たまごかけごはん?」

ライト「(すごく嫌な顔をして)食べた事あるよ。信じられるか? (両手の人差し指と中指を合わせて立てて曲げる強調ジェスチャーをしながら)‘生の卵と醤油ソース’」

ジャクソン「(露骨に嫌そうな表情で)オーマイゴッド!」

 笑いあう三人。


■次元の壁内部

 指揮を続け本を移動させ続ける勝浩。その空間ではゆっくりと動く本棚の間を多くの本が移動し、黒猫が何匹も上下左右関係なく歩き回り、白いハトも何羽も飛びかっている。


■日本トラスト製薬本社・社長室

 社長の椅子にゆったり座るイシイ。中村研究開発部長(41)がイシイの前に立って報告している。

中村「糖尿の特効薬ですが、飲みすぎると心筋梗塞を起こす確率が高いのですが適量でしたら有効だと報告を受けています。厚生労働省に回しますか?」

イシイ「それを飲んだ場合の有効性は?」

中村「ヘモグロビンA1Cの上昇を一時的に1.0程下げられます」

イシイ「一時的に? それだけ? 中村部長、我々は何の為に仕事をしている?」

中村「は? え~、病気の治療薬の開発と利益追求の……」

イシイ「違うだろ! いいか、中村君。我々トラスト製薬は人々の笑顔を増やす為に存在するんだ。もちろん社員もその家族もだが、多くの苦しむ患者さんを笑顔にしてこそ我が社の存続意義がある。利益等二の次だ。その薬で多くの本当の笑顔が得られるか考えてみなさい」

中村「たしかに一時的ではありますが……」

イシイ「一時的ではダメなんだよ。根底に愛の無い仕事はしないのがアメリカ本社の方針だ。日本だけが利益追求でそれを忘れる事は出来ないんだよ。時間がかかっても良い。本当の笑顔が得られる薬にしてください、部長」

中村「分かりました。研究開発を続けます」

 部長に優しくうなづくイシイ。

■次元の壁内部

 本を動かし続ける勝浩の姿が赤い目の北野に変わり、彼女から抜け出るように普通の黒い目の勝浩が現れる。

 北野は腕を指揮者のように動かし続けながら、勝浩に向かって笑顔で頷く。

 勝浩も笑顔を返し振り返るとドアがある。

 北野を残してドアを出る勝浩。


■ロシア・聖ヴェロニカ修道院・門の前

 ドアを出てくる勝浩。振り返るとドアが消えて行く。

 落ち着いた笑みを浮かべて修道院の門に歩を進める勝浩。


■同・中庭

 古びたため池の脇に座って本を読んでいる加奈。その隣ではシスター・エレーナが並んで座って編み物をしている。

勝浩『(声だけ)ただいま』

 声に顔を上げる加奈。見る見る顔に笑顔が広がる。

 加奈の傍まで歩いてくる勝浩。

加奈「お父さん!」

勝浩「全部終わったよ。約束通り帰った。心配かけたな」

 勝浩に抱き着く加奈。

エレーナ「加奈、良かったですね。西川さん、お帰りなさい」

勝浩「お世話になりました」

エレーナ「これからどうするんですか?」

勝浩「何も決めてなくて……」

エレーナ「実はここは男手が不足してて、畑仕事や農機具や建物の修理とか困ってるんですよ。以前にいた作業員さんがお歳で街の病院に行っちゃって。良かったらここで暮らしませんか? 部屋も空いてる事だし」

加奈「(目を輝かせて)お父さん、そうしようよ。私も少しずつだけどロシア語教えてもらってるし」

勝浩「良いんですか? 元殺し屋なんて雇って」

エレーナ「主は悔い改めた男に言いました。はっきり言っておくが、あなたは今日わたしと楽園にいると」

 勝浩と加奈が笑顔で互いを見る。

エレーナ「さぁ、西川さん、院長の所にお連れします」

勝浩「ありがとう」

加奈「私は荷物取ってくる」

 エレーナについて歩き出す笑顔の勝浩。

 加奈は別の通路へと笑顔で走って行く。


■愛知県警捜査一課

 自分の席に座る宮本。

 捜査一課長(57)が電話を置く。

課長「宮さん。ホシが見つかった」

宮本「どのホシです?」

課長「ほら、指紋だけ残す世界的な殺し屋だよ」

宮本「どこで?」

課長「何でもドイツの片田舎だそうだ。そこの薬の個人研究所の地下研究施設で落盤事故があって、研究者数名の遺体の他に身元不明の遺体が見つかってな。その男の指紋と例の連続殺人事案の犯人の物と思われる指紋とが一致した。身元はまだ特定されてないがどうやらアメリカ人らしい。研究所で被害にあった研究者全員が落盤事故の前に銃で撃たれて死亡していたらしい。それにこの謎の指紋男が握っていた銃とそれらの銃弾が一致した。おそらく一連の連続殺人の続きをやってる最中に落盤に巻き込まれたらしいな」

宮本「あっけないですね」

課長「身元が分かり次第、ドイツの警察が連絡くれるそうだ」

勢いよくコンビニ袋を持って捜査一課室に入ってくる鹿島。

 振り返る宮本や課員達。

「帰りましたぁ~! 宮本さん、お昼で~す!」

 宮本の隣の自分の机に小さなコンビニ袋を置く鹿島。

宮本「昼飯買うのに、どれだけ時間かけてるんだ」

 コンビニ袋からアンパンと1リットルの牛乳を出して宮本に差し出す鹿島。

宮本「何だこれ? 」

鹿島「刑事と言ったらアンパンに牛乳でしょ」

宮本「あのなぁ、アンパン一個に牛乳は1リットルか?」

鹿島「刑事らしいでしょ」

宮本「(つぶやくように)定年までこいつと相棒かよ……」


■ロシア・聖ヴェロニカ修道院・中庭(十年後)

 会話は全てロシア語。

 テロップ「十年後」

 中庭には数本の桜が植えられており満開になっている。

 修道院の中庭でトラクターのエンジンルームをいじっている白髪まじりの勝浩(57)。

 門の方から旅行鞄を持った加奈(25)が入ってくる。

加奈「お父さん、ただいま」

勝浩「おかえり、シスター・カナ。元気だったか?」

加奈「うん。お父さんは?」

勝浩「もうすぐ還暦だからな。ガタも来るさ。国境なき医師団での看護補助はどうだった?」

加奈「順調だよ。来月はアルジェリア」

勝浩「病気の方はどうだ」

加奈「うん。まだこの世界が現実か虚構か分からないけど、それでもいいよ、お父さん。大切なのはそのどっちであっても自分がそこで何をするかだから」

 桜を見上げる加奈。

 つられて桜を見上げる勝浩。

勝浩「そうだな」

加奈「以前、日本の病院で桜見たね」

勝浩「ああ、シスター・エレーナが日本から持ち帰った苗がやっと花をつけるようになって二年だ」

加奈「時々帰ってたけど、私がここを出てから三年だもんね。お父さんは日本が恋しくない?」

勝浩「いいや、俺はこの世界が現実だろうが仮想だろうが、ここが今の俺の居場所で、俺がお前の帰る場所だから。そしてそれが神の決めた摂理だから……」

 桜を眺める二人。(カメラが上から二人を映し段々離れて行き暗転)

 エンドロール。


                        了


あとがき


これが復帰第2作目ですね(^^;)

う~ん…… まだまだ拙すぎるTT

私としては、人の想いとその場の空気感を出したいのですがまだまだです。

キャラも薄っぺらい><

キャラもモブ含めてそれぞれが抱えている人生がある訳で、その重みを出すようにこれからもっともっと勉強ですね(^^)


空気感は大事です。

例えば冬の2月末現在、ふと外を覗くと冬の空気の中にほんのり香る春の匂い。

読んで情景が浮かぶのではなく、その場にいるような思いを皆様に届けたいのですよ。そこまで行けるようにがんばります。


小説とシナリオは書き方がまったく違うんですね。

小説は編集さんと作家さんで作り上げ印刷されて本屋さんに並んで読者の方が読み終わったら完結。

シナリオは映画やTVドラマや舞台の部品であって、スタッフさんが読んだら完結という訳ではなく観客の方が観終ったら完結。

当然書き方も変わってくる。

小説は読者の皆さんの想像力が必要ですから想像力を駆り立てるように書かないといけないのですが読者の皆さんの自由度も考えて、それぞれがそれぞれの頭の中に同じストーリーだけど別の作品といった要素があるのが楽しい。

しかしシナリオ(脚本)はスタップやキャストの皆さんが同じイメージを持たないといけない。だから飾り立ててもいけないし明確でなければならない。「ガラスを何枚も重ねたような青さ」なんて表現は使えない。しかも予算・上映時間等の制約も考えて書かなくてはならないし、映画用とTVドラマ用では予算や時間だけでなく観客が観る姿勢がどうかも問題になってくる。

例えば

映画→観客の皆さんは基本映画館で最初から最後までじっくり鑑賞される。だから映像で表現される為にナレーションや説明的セリフを極力使わずに映像で表現する。

TV→基本家事やトイレなど、ながら見的に見られるので、途中からでも分かるようにセリフを説明的にしたりナレーション多様したりする。

ほら、「ブレードランナー」の初期公開版は配給会社からストーリーが分かりにくいからと主人公のナレーションがものすごく多様されましたが、監督が納得せずファイナルカット版にはまったく主人公のナレーションがないでしょ。

観る方の立ち位置がどうかでシナリオは変えないといけないんですね。


まだまだ稚拙です。本当に申し訳ありませんm(_ _)m

これからどんどん勉強して吸収するだけでなく、出来るだけ月1に1本ペースで書きたいと思います。

(前回の「禍具の使い手」は一週間で書きあげて体調崩した(^^;))


本当に病弱なので家族からも岡監督からも土日祝は休め。執筆時間は1日3時間までと制限されてます…… が書きだすと集中しちゃって気が付くと10時間飲み食いさえ忘れて書いてるなんて事も(^^;)


今書いている純文系は書きつつもまだ下調べ中なので、それら下調べも含めて3時間ですね(^^)

しかし便利な世の中になりました。ロケハン行けないほぼ寝たきりの私でもグーグルアースで世界中のロケハンが出来る! ただし空気が感じられないからそこは残念TT


3月末にはここに3作目をUPしたいのですが、他からプロットも頼まれているのでそちらも進めなくてはならないから遅れるかもm(_ _)m


そのプロットは第一稿出したらトンデモなくひどい出来で(自分でも分かってた)第二稿を書くことに(^^;)


とにかく信じる力を信じて、絶対出来ないという言葉を禁句にしてがんばりますので、今後ともよろしくお願い致します(o*。_。)oペコッ


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しかし、ちゃんと書けたらチェックしてるつもりなんです。

誤字脱字のチェックや加筆・削除・校正してるんですよ(^^;)

なのにUPしたら誤字脱字残ってるは、シーンとシーンの間行抜けてるだけならまだしも■で区切ったシーン名も書き忘れてるし、その他もろもろ……

そんなところを発見しても、生暖かい目で「ああ、見落としてるなぁ」って、想像力で補って下さいませm(_ _)m

私はボケているので、皆様の想像力が頼りです(^^;)


尚、第一稿と題名の後に書かれているのは、第一稿だからで完成形ではないという事です。

本来脚本は何度も書き直し練り直して完成稿にする訳ですが、多くの方との打ち合わせがあってこその第二稿~完成稿ですから、私が一人でやれるのは第一稿までなんですね。

つまりそれ以降は多くの指摘やご意見を参考に作らなくてはならないのです。もちろん書くのは脚本家ですが、第一稿と完成稿を見比べるとまったく違った物になるのが普通ですね。

しかも完成稿であっても撮影現場のキャスト様やスタッフ様の意見でその場で変わる事も。

脚本とは小説と違って部品なんですね(^^)


また題名の横についている「ARナンバー」は復帰後書いた作品順のナンバーです。

「S№」は構想した順番のナンバーですね。

1作書く間に数作の構想が浮かぶので全部は書ききれませんが(^^;)


今のように好きに書けてる内が華。

プロの方になると上からのお達しに沿って書かなきゃならないから好きには書けない。

製作会社様や監督やスポンサーの意向もあるし、予算・時間等の制約もある。

嫌な物や書いた経験のないジャンルであろうがプロは書かなきゃならない。

(実は学生時代は純文系専門だったので、復帰第1作目・2作目のようなホラーアクションやSFアクションなどは書いた事なかったんですけど、これから様々なジャンルに挑戦して自分のスキルを上げて行く所存であります)

素人だから好きに書ける訳で、今が私の華の時期www


と言う訳で、読んで頂いた皆様、本当に稚拙な物に時間を割いて頂き感謝の言葉もありません。ありがとうございました。

そしてほぼ寝たきり老人の私に生きがいをくれた岡へ。

ありがとう。

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