気付いたら兎でした。
何か機械の様な声を聞いて意識を取り戻した俺だったが目が開かない。音も聞こえない。匂いもしない。手も動かない。足も動かない。・・・ここは病院なのだろうか?分からない。
俺は生きているのか?それとも死んでいるのか?分からないけど意識はある。さっきの声は何て言ってた?願望?構築?転生?なるほど分からん。考えれば考えるほど分からなくなる。
<周囲に生体反応を確認。スキル「真似ル者」を使用しますか?はい/いいえ>
また声が聞こえた。スキル?「真似ル者」?何だそれ、まぁいいや・・・はい。
<同意を確認。スキル「真似ル者」にて体を構築。続いて記憶の習得を開始します。>
記憶の習得?そう思った瞬間、頭の中に記憶が流れ込んできた。これは・・・何の記憶だ?周りは角の生えた兎だらけ、こんなの地球に居たっけ?・・・目線も低いな、地面スレスレじゃないか。
俺はまるで「兎の一生」というドキュメンタリー映像を見ているようにある一匹の兎の全てを見た。すると、開かなかった目が開き、音、匂いそして体が動くようになった。視界はほぼ全てがぼんやりしている、辛うじて正面が少しくっきり見える程度なのだが替わりに全方位が見える、まぁぼんやりしてるから見えてるとは言いづらいが。
匂いは・・・何だか獣臭い。目の前に居る俺と同じ目線の角の生えた兎からしているのだろうか?すると目の前の兎が突然動き出し俺の方に近づいてきた鼻をヒクヒクさせているので俺の匂いを嗅いでいるのだろう。だが、何故か嗅ぐたびに首を傾げている。そんなに俺は臭いのか?正直ヘコむ。
<対象が自分が同一の存在だと認定。スキル「唯一無二」を使用。このスキルはオートで発動します。>
あの機械の様な声がまたしたと思ったら目の前で兎が横たわっていた。あまりに突然横たわるので一周回って何だか冷静になった。あの声は聞いた事が無いが何となく知っている気がする。多分、あの声はRPGに出てくる「勇者は伝説の剣を手に入れた。」などの声だ。
ということはこの世界はゲームの世界?ありえない、しかも今現在、俺は人間ですら無いとか笑えない。今の俺は兎だ。しかも角が生えてるからそこの兎と同じ種類だろう。これがゲームじゃなくて、地球で通り魔に殺されたら兎に転生していた・・・何て状況じゃない事を祈りたいがほぼ確定でその状況である可能性が濃厚だ。
周りを見た所、俺以外に生きている動物が居る感じはしないので今の内に状況を整理するか。まず、俺の名前は瑕祢 真。さっき不思議な声が言ってたスキルが確か、「真似ル者」と「唯一無二」だったか?こんな時ステータス表記があれば分かりやすいのだが・・・
<ステータスを表示しますか?はい/いいえ>
何とも都合のいい声がした。もちろん答えは、はいだ。心の中でそう答えると目の前に薄黄緑色の厚さ0.1mm程のアクリル板の様な物が現れ、そこにはステータスと一番上に書いてあり、名前やスキルなどが書かれていた。
<ステータス>
名前:瑕祢 真
種族:ドッペルゲンガー
状態:一角兎に擬態中
スキル:「真似ル者」、「唯一無二」、「知リ得ル者」
種族が人間じゃなくてドッペルゲンガーになってる。状態が一角兎ってのはつまり、偶然近くに居たから取り合えず一角兎になったみたいだな。スキルの詳細は見れないのだろうか?
<スキルの詳細を開示しますか?はい/いいえ>
もちろん、はい。
<スキル>
真似ル者:対象の体をコピーしてその通りに自身を構築しなおす。その後、対象の持つコピー前までの記憶を習得する。
唯一無二:対象が自身を同一の存在だと認めた際に対象を死亡させ、自身の糧にする。
知リ得ル者:自身についての疑問に対して答えを導く。その他については自信の知っている事柄に関してのみ答えを導く。
真似ル者と知リ得ル者は戦闘にはあまり向かない様だが、唯一無二の効果があまりに強力すぎる。多分、「真似ル者」、「唯一無二」は種族であるドッペルゲンガーが持つ固有のスキルだと思う。地球でもドッペルゲンガーを見た人は死ぬって噂だけどあながち間違ってはいないのかもな。
能力が分かったから当面の目標は人間を探して「真似ル者」で人間になる事にしよう。「真似ル者」だけを使う分には相手が死ぬわけじゃ無いしな。
ドッペルゲンガーについては作者の個人的な印象を元にしているので実在する(?)ドッペルゲンガーとは違いますので悪しからず。