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クソゲーでも幸はある  作者: 庚京次
7/16

進むも引くもクソゲー

今回の話には汚らしい描写があります、ご飯中に見てもおかずにはなりませんのでご注意を。

特にカレーはやめておきましょう

 体育館から離れ、南校舎一階の廊下を歩いていた。

 だが、この廊下には職員室が設置されている、ここで教員に見つかっては次第に生徒指導部へと引き渡されてしまう。

 

 そう考えた尾張は、返そうと踵を返した──が、背後に人がいたとは思わなかった。

 尾張が踵を返した先には、ストレートでさらっとした黒髪の女子生徒が尾張の後をつけていたようだ。

 

 しかも、普通の女子生徒ではない。

 夏服の白シャツに青の校章が入っていることから3年生とわかる──ここまではいい、ただ左胸側に刺繍されている桜形のワッペンのようなものを見て、この女子生徒が何者なのか把握した。


 そう、生徒会なのだ、しかもこの女子生徒の顔立ちは溶けてしまいそうな甘い顔。マシュマロを大きくしてそのままつけたような胸。

 脚は意外とスラっとしているが、単に白いだけではないその肌の色は国宝級だ。

 

 リア充どころか、前世も充実しているようなレベル、この女子生徒が俺の顔を見て微笑ましい笑みを浮かべている。


「なんだ、俺になにかようか?」

 こんな時間に生徒がこの場所にいるという事は始業式を抜け出しているとすぐ分かるはず──なのに、この生徒会は怒る様子がない。


「貴方が2年4組の尾張近君ですね? 一度会って話してみたかったです」


(なんだ? 抜け出したことを指摘するわけでもなく、生徒指導部に突き出すこともしない。むしろ友好的に話そうとしている姿勢、しかもクズの俺に丁寧な言葉を使うとはいったいどういう神経しているんだ?)


「あぁ、俺が尾張近だ。悪いが、今は話している暇はない」


 生徒会を無視してそのまま職員室とは反対側へ進んでいく尾張。生徒会は尾張にそれ以上追求することもしなかった。

 いったい何がしたかったのか尾張には見当もつかない。


 一度後ろへ振り向いて見れば、ただ普通に髪をなびかせながら歩いているだけで、彼女の意図は読めない。

 

 ──と、モヤモヤしたまま視線を元に戻すと、左腕に緑色のリストバンドをつけた女子生徒が二人立っていた。


「あ」

 この時、尾張は自身のオワリを感じた。実に自分らしい展開に惚れ惚れしそうだ。


「尾張近! 始業式を抜けたとして拘束します!」

 って惚れ惚れしそうと冗談言ってる場合じゃない。


 前方には生徒指導部、後方に逃げれば職員室から出てくるであろう教員の餌食──もはや進むも地獄、引くも地獄、まさにクソゲー要素が今ここに存在した。


(ったく、拘束すると洒落にならないぞ……警察よりタチ悪いだろうが。)

 

 生徒指導部二人は俺を拘束しようと突き進んでくる。もはや前方は完全に地獄。

 男子ならば殴り飛ばせば切り抜けれるかもしれないが、そこまでクズではない。


 やはり後ろへ逃げるべきか──と右側から強い風が尾張の髪を揺らした。


 尾張は右へ視線を向けると、さっきは気にしてなかった扇風機が風を作っていたことに気付く。

 そしてこの最大のピンチに天啓が舞い降りた。

(この風力ならいけるな。)


「おっと、てがすべっちゃったー」

 と、棒読みの尾張が扇風機を横向きで地面へ倒した。

 すると強風の扇風機はいとも簡単に二人のスカートを巻き上げる。 


「きゃああ!!」

「この変態!!」

 などと顔を赤らめて叫んだ。

 それに対して尾張は──

「白と白ですね、ありがとうございましたーっと」

 純白ダブルホワイトに感謝の礼を適当に済まして、二人の間を抜けていった。


 危機を切り抜けた尾張は生徒指導部の目から隠れることができるトイレへと行き、鍵を閉めて便座に座わった。

「あー、なんか変に疲れたな……」

 一気に集中力を使った尾張は下を俯いて溜息をついた。


 その時、トイレに誰が入ってくる足音が聞こえた。

 もう始業式が終わって生徒が帰ってきたのだろうと尾張は思っていたが、尾張は思わぬ誤算をしていた。


「まったく、あの尾張って奴、ただじゃおかないわ! 美冷さんの手を借りずともあたしが指導してやるんだから!」


 ──なぜ男子便に女子生徒、それもさっきの生徒指導部の手駒が入ってきているのか。

 きっと間違えたのだろうと思い込み、ここで自分が飛び出して逆に注意してやろうと鍵に手をかけたその時──ガチャンと鍵が閉まる音がした。


 おかしいのだ。男子便に間違えて入ったならば、男子専用の立ちション便器の存在に気づいて立ち去るはず、その理論に当てはまらないということは── 


 俺が間違えている、それしかない。

 俺は今──女子便にいる。今まさに盗聴、覗きの罪に問われる危機に迫られているということになる。


 なにか薄い布みたいなのを下ろすような音が聞こえ、咄嗟に耳を塞ぐ。ここで聞いてしまっては尾張の理性は暴走してしまう。


 もう用を足し終わったのだろうかと、隣からガチャンという音が再び聞こえた。

 恐らくトイレから出たであろうと恐る恐る耳から手を退けると気配は完全になくなっていた。


 今度こそ鍵に手をかけるが、またもや入ってきているような気配を感じ、再び岩のごとく固まるが──今度の相手はそう簡単には行かなそうだ。 


「はぁ〜ったく、始業式に腹痛とか勘弁してほしいものだ」


 ──万田だ……。とりあえず固まって過ごすしかない、まあ万田なら耳塞がなくてもいいか──塞いだほうがよかったかも……


 えげつない爆音で大便放出音がトイレ内に響く、思わず吹き出しそうになり、口をふさぐ。


(女が出す音じゃねぇよったく……)

 トイレの水が流れる音が聞えた、ようやく安心できると胸をなでおろした。 


 トントンとヒールの音は4回で足音は止まった。

 4回ならば尾張がいるトイレの目の前に行くための歩数とピッタリあう。


「ゴラァ出てこいやスカ○ロ野郎が!!」

 明らかな万田ハスキーボイスで扉を蹴り飛ばした。

 扉は鍵を粉砕し、棒になった尾張が顕になった。


「アタシの爆音を盗み聞きして、興奮してるたぁいい度胸じゃねぇか?」

「……先生」

「あぁ?」

「ケツ拭きました?」

「いっけね、忘れてた」


 万田は再びトイレに戻った。その隙に尾張は逃げ去っていった。

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