打倒──足利幕府
会議室に現れた生徒指導部の足利美冷。
尾張にはここへ訪れた目的がわかっていなかった。
「あんたは足利美冷か」
足利が三嶋との睨み合いを外して、尾張に目を向けてきた。
「貴様は確か、桜形高校の疫病神、尾張近だな」
確かに疫病神レベルに尾張はこの学に風評を及ぼしているかもしれないが、流石に疫病神と呼ばれるのはしゃくにさわる。
「ただの尾張近だ。敵の本拠地に無防備で現れるとは、生徒指導部もマヌケだな」
挑発的に尾張が足利に言うが、足利は直接的な挑発をものともしない。
いやむしろ逆手に取るのだ。
「敵だと? 愚かだな貴様は」
「何が愚かなんですかね」
尾張がボケた半眼で足利に問うと──
「私は貴様らを敵と思ったことはない。なぜなら相手にもならないからだ」
尾張の挑発を吸収して、足利美冷の絶対的な力から生まれた挑発は風紀委員の心に深く刺さった。
黙っていた爽華が、絶対的な存在の前に立った。
「そんなことを言うためにわざわざ来たんですか、足利先輩」
爽華の顔は完全に警戒する猫のような表情だ。
「いいや。通りがかりによからぬ会話が聞こえたのでな。しばらく足を止めて聞いていたということだ」
と言う事は先ほど風紀委員が話していた生徒指導部への対策は足利に全て聞かれていたことになる────まてよ。
尾張の頭に1つ確信が持てる勘が突如閃いた。
だが今まさに、桃菜が言ってはいけないことをに言おうとした。
「き、聞いていたんですね! 私達が生徒──」
「まて桃菜」
桃菜の言葉を止めた尾張だが、完全は止めれず、本当に生徒指導部について話していたことが足利に伝わってしまっただろう。
それは足利の上がった口角を見ればわかる。
「ふっ、やるな尾張。私の意図に気づくとは」
あくまで上から目線で褒めた口調の足利。
桃菜はなんの事だかさっぱりわかっておらず、オロオロしている。
「ど、どういう事なのですか尾張君!」
「コイツは俺達が喋った内容を探ってきたんだ。あたかも知ったかような口はブラフ、危うく桃菜が喋ってしまいそうだったけどな」
「ご、ごめんなさい……!」
慌てて桃菜が謝る。
だが別に尾張は桃菜を責めることはせず、微妙に笑った。
「いいよ。どんなことになったとしても俺がなんとかすればいい話だ」
尾張のいっちょまえな言葉に桃菜は「すみません!」と深く頭を下げた。
「随分と男らしいことは言うな尾張近。だが根拠もないことを口にしても悲しいだけだぞ?」
「今まで災難だけの人生を生き抜いてこれたのは逃げなかったからだ。その志を貫き通すだけだ」
「なるほど、なら貴様にこそここへ来た理由を言うべきだろうな」
やっと足利が本題を口にしそうだ。
「風紀委員会は私が潰す。私達、生徒指導部がな!」
足利の迷いのない断言に尾張の心が脅されかける。
だが、ここで尾張はここで退くような男ではない。
足利の脅威に耐え、こちらも断言しようとする。
「その言葉、そのまま返しますよ足利さん」
足利は失礼すると、一言で去っていった。
「あの足利美冷を相手によく引けをとらなかったな尾張」
と三嶋が尾張の肩に手を乗せた。
「まだ負けていないのに、尻尾見せる必要なんてないじゃないですか」
「はっはっ。まったく尾張は、あたしなんかより立派だよ」
三嶋は今後の未来を見据えているような目を尾張に向けていた。
「それは、俺がリザルトを出してから言ってくださいよ。さあ明日から有言実行しましょうよ」
風紀委員全員がお互いに目で意志を確かめると、尾張が手の平に拳を叩いて気合を出す。
「足利幕府を倒すのは風紀委員会だ!」