所詮、犬の仕事
三嶋の後に続いて会議室へ戻った尾張達。
部屋の右端にある、応接セットに腰を掛けた。
尾張の対面には三嶋が、その隣には爽華が座った。
そして隣にいるのは桃菜だ。
さっそく三嶋が本題を切り出す。
「早速聞かせてもらうじゃないの尾張」
三嶋は生徒指導部との重い空気をさっぱり忘れてるかのように清々しい気持ちだ。
「三嶋さん。生徒指導部の足利ってのは所詮先生の手駒だろ?」
「ああそうだ。足利も結局は先生に引き渡すまでが仕事、つまり引き渡せたら評価が得られるってことね」
「なら、話は早い。奴からその役目をとってしまえばいいだけです」
指を立てて自信満々に提案した尾張だが、三嶋や爽華の顔は晴れず、むしろ曇る。
「だけど尾張、私達が生徒指導部に引き渡すってことはできないんだよ」
その点について尾張は知らなかったが、ここまでは想定通り。
もし仮に出来ていれば風紀委員もここまで苦労していないはずだ。
「大丈夫です、生徒指導部など所詮ただの犬。なら俺達が人となればいい」
個人的な例えに爽華は理解できず苦笑いしてやり過ごした。
「そ、それはどういう事なのですか尾張君」
純粋──多分純粋な桃菜が子犬のような目で尾張に質問した。
「犬ってのは賢くても飼われてなきゃ実際大したことないさ。頑張っても吠えるだけ、うるさいだけ」
その例えに三嶋が閃き、ハッと目を見開いた。
「人ならば、対等に分かり合うことができ、互いに友好を深めることも可能──」
「そういうことです、俺達が生徒指導部に連れて行くのは愚問──連れて行かせなければいい話だ」
「私達風紀委員が風紀を乱す者を先に正せば、生徒指導部の必要性はなくなるってわけね」
生徒指導部に自ら自首する生徒などいる訳がない。それは生徒指導部が100%吠えるとわかっているからだ。
なら、対等に話ができる風紀委員が先に正すことができたならば、手駒の必要性はもちろん、風紀委員は生徒指導部より吠えない存在と知ってもらえるのだ。
「怒られるってわかってるところに行く人間はいないです。だったら怒られない風紀委員を選ぶ。そこで風紀委員の信頼でも獲れば、いつの日か生徒指導部の必要性より風紀委員の必要性が勝ると思いますよ、俺は」
今まで希望が見えなかった風紀委員に希望の光を感じた三嶋はやる気に満ちあふれていた。
「ありがとう尾張!」
「え、ちょ────っ!」
三嶋はやる気が溢れて過ぎてしまったのか、机を挟んで対面にいた尾張の元へ駆け寄り、思いっきり抱きしめた。
完璧な体に包まれる尾張の理性は一瞬で壊され
る。
ふにっ、むにゅ、そんな表現では表現しきれないようなマシュマロ級の胸が尾張の体を誘う。
(く……! これがアルティメットJKの実力か!!)
ふと爽華に目を向けると、むむむっと頬を膨らませて三嶋を半眼で見ていた。
「男の子ってやっぱり三嶋さんみたいなのが1番いいんだね」
爽華が口を尖らせ、拗ねてそう言った。
尾張は頬を赤らめながら誤解を解く。
「いやいや! 爽華もそうとう誘って
いるような体してるぞ!?」
尾張の言葉を聞いて明らかに眉間にシワが寄った爽華。
あれ、俺日本語間違えた?
「それってどういうことなの尾張。ちゃんと日本語で喋ってくれるかな?」
どうやら日本語じゃなかったようだ。
なら率直な日本語で言おう──
「ビ○チ──」
爽華が顔が一瞬で鬼神なり正拳突きを尾張へ放つ。
「ぐほっ……」
爽華の会心の一撃! 尾張はもはやゴミのようだ。
しかも誰も助けてくれない。
「もう尾張なんか知らない!」
完全に爽華は怒ってしまったようだ──だが謝る気など毛頭ない。
──だってクズだから。
屍とかした尾張の頬に三嶋が目覚ましビンタをする。
「おーい尾張、起きろー」
肺呼吸が困難な尾張はなんとか立ち上がり、瀕死の顔で三嶋を見る。
「寝てる場合じゃないよ尾張、お前がいなきゃ風紀委員はおしまいなんだから」
「それって、俺が頼りにされてるって事ですよね? いやぁ、クズに頼るようじゃ三嶋さんもまだまだ──ふごっ」
尾張は瀕死の顔から調子に乗ってふてくされていたようで、三嶋さんが無言で延髄カッターを放った。
再び気絶した尾張。
「調子に乗るとこうもクズになるとはな」
「で、でも尾張君も悪気があったわけじゃ──」
桃菜の言葉を遮るようにガチャと会議室の扉が開く。
「失礼するぞ」
全員一斉に扉の方向を見ると、今まさに来てほしくない人が威圧して立っていた。
「なんのようかな、生徒指導部の足利美冷さん」
三嶋と足利が虎と龍が睨み合うように両者一歩も退く姿勢を見せない。
いったい何の為に足利が訪れたのか、尾張には見当もつかなかった