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クソゲーでも幸はある  作者: 庚京次
13/16

所詮、私達は従うだけ

 生徒指導部の手駒、足利美冷が言った常識を覆す事実──生徒に対する暴力は風紀委員のみ許される。

 これを知った不良生徒は返す言葉もなく、さっさと生徒指導部の手駒に連行されていく。

 

現場に残ったのは、足利美冷と風紀委員4人のみ。

 足利美冷が三嶋に冷たい視線を送る。それを見て三嶋が嘆息をした。


「足利ったら、相変わらず下手な小細工してくれるじゃないの」


「別に小細工ではないだろ。風紀委員が暴力を振っているのは間違いないんだから」


 足利と三嶋の話についていけない尾張は、傷んだ体に耐えながら三嶋に問う。


「それはいったいどういう事だよ、三嶋さん」

 三嶋は足利にすこし苦い目を向けたたまま尾張に言葉を返す。


「風紀委員がやみくもに暴力など振っていいわけ

がないよ、尾張」

 素直に足利の意見に賛同しているような口ぶりに違和感を覚える尾張は、すこし目を細めて言葉を注意深く聞く。


「風紀委員が特例で許されていることは2つある。1つは自身に対する正当防衛。2つ目は生徒に暴力を振った生徒を確認した場合、物力行為が許される」

 と言う事は、不良生徒が尾張に手を出したあの時──「生徒に対する暴力行為を確認」と三嶋が言った。


 つまりこの時、風紀委員の特例が解禁されたという事になる。

 ──まてよ、生徒に対する暴力行為を確認しなければならないなら、どのみち誰かが犠牲にならなきゃダメということ。 


 つまり、尾張は必ずフルボッコにされる運命だったとこの時悟る。

(俺の運命、暴力不可避……か……)


 それにしても、足利が言った言葉は、風紀委員の特例と違う。

 足利の言葉から正当防衛と取れる言葉はなく、まるで風紀委員が悪さをしているような言い草だった。


 それを足利に聞こうとするが、深く考えている内に、この場から去ってしまったようだ。


「あれ、あの生徒指導部は?」

「あ、足利さんはさっきの生徒を指導するために、指導室へ行ったよー」


 桃菜もながそう言ったが、尾張は心の中でなにかムシャクシャしていた。


「……結局俺達って、生徒指導部の格下なんだろ?」

 みんな尾張の言葉に、言葉を詰まらせている。その空気を見た三嶋が、ここは私がという意思で発言した。


「……そうだな。いくら私達が風紀や校則を守っても、その後の役はすべて生徒指導部。つまり、実力行為という下卑たやり方を私達にやらせて、生徒指導部は制裁を下し、評価を得るということだ」


 どう考えても理不尽だ。

 まるで俺達風紀が危険な狩りをして、その狩った食糧全てを生徒指導部が食い尽くすかのようだ。


 あの足利という女に、怒りが込み上げてきた尾張は教室の壁を思い切り蹴った。


「ここでもクソゲーだっていうのかよ……」


 尾張が壁を蹴るほど怒っているというのに、三嶋は顔色を変えずに窓から曇り空を見ていた。


「損得で私達は活動していない。私達はあくまでこの学校の風紀を正すだけだよ」


「なら風紀の存在っていらないんじゃ──!」

「こら尾張……!」

 爽華さやかが尾張の口を止めるように、慌てて言ってきた。

 尾張は何も理解せず、ただ怒りを顕にしているだけだが、爽華さやかは恐る恐る三嶋の表情を伺った。


「いいんだ爽華さやか。そう思うのが当然なのだからな」


「はい……」


「元々風紀委員など要らないのだ。それは全国の学校を見てみれば一目瞭然さ。もはやこの学校以外に風紀委員など存在しないだろう、それは全て──役割と居場所を失った為だ。生徒指導部や先生がいれば、風紀委員など要らない──」

 尾張が突発的に怒りの感情が湧き、大きく目を見開いて三嶋の前に立つ。


「だったらなんであんたは全校生徒の前で偉そうなこと言ったんだよ? ただの見栄だったのかよ!?」

 今にも食ってかかりそうな尾張を見た桃菜

が緊迫した顔で尾張と三嶋の間にはいる。


「尾張君……!」


 尾張が舌打ちして三嶋の前から去ろうとして踵を返したが──

「私は必ずやり遂げるよ」


 三嶋の言葉で尾張は足を止める。


「生徒指導部、生徒会。何れ全ての役目は風紀が成す」 


 横目で聞いていた尾張が溜息をついて三嶋に目を向ける。


「なんでそこまで、風紀にこだわるんですか?」


 尾張の質問に三嶋は数秒黙り込む。

「私が成したいと決めたからだ」

(誤魔化した……?)


 尾張は理由になってない言葉に、疑問を抱くが今は聞かないでおいた。


「ったく、しょうがない人だ。生徒指導部に勝算はあるのか、三嶋さん」


「正直言うと、未だ生徒指導部に楯突いたことはない。だがそれでも私は全校生徒の前で堂々と宣言した」


「それは、俺が風紀委員に入るってことを見込んでの言い分ってことか」


「察しが良いな。必ず君は風紀委員に入ると万田先生が断言した。流石万田先生だよ」


「あの野郎……結局思惑通りかよ」


 頭に万田先生の顔が浮かび、思いっきり殴ってやりたくなったが、逆に撲殺されるのでやめておいた。


「まあまあ、万田先生もそれだけ君を賞賛しているということだ」


 もはや三嶋の笑みと万田の笑みが同じに見えてくる。


「早速だが、生徒指導部に対してなにかいい案はあるか、尾張」


 尾張は不敵な笑みで三嶋に言葉を返す。


「任せてくださいよ。クソゲーライフを生きたクズの策、見してやりますよ」


 全然説得力のない台詞に爽華が尾張に対して残念に思う。


「だ、大丈夫かな尾張……」


「任せとけ爽華さやか。クズにも強みってのがある、それを今見せてやる」

「え、えぇ……」


「はっはっ。よっしゃ、会議室で聞かしてもらうぞ尾張」


 三嶋はそう言って勝手に一人で会議室へ戻っていった。


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