風紀委員の特例
風紀委員会議室から廊下にでた尾張を含めた風紀委員4人。
始業式がすでに終わっている時間だ。
そこに尾張は1つ疑問を抱く。
それは当然の疑問と言えるべきだろうが──
「すいません委員長──」
「名前で呼べ尾張。最悪苗字でもいい」
「は、はぁ。あの三嶋さん、今日は始業式でもう学校は終わっていますが」
始業式に生徒がいる訳もない。それは普通であれば当然の事なのだが。
尾張がそれを問いただしても、三嶋は知ったような顔をしている。
「それが当然であり、当たり前であるべきことだ。しかし、この学校はそうもいかない」
三嶋が見る視線の先にはトイレ付近で男子生徒が5人固まってたむろしている姿が見られる。
その3人はその場でヤンキー座り、2人は壁に片足の靴裏の擦り付けて立っている。
その様子を見た尾張は「なるほどな」と三嶋がいった言葉の意味を理解した。
5人で固まった不良に近づくと、ダボダボのボンタンや、短ラン、長ランの不良生徒がこちらにガンつけてきた。
見るからにカラフルな髪色と強面の生徒を相手に、三嶋は1ミリも怖気づくことはなく、むしろガンをつけ返す。
「君達はここで何をしているのだ? もう下校してもおかしくない時間だぞ?」
三嶋がそう言っても不良生徒は帰るわけがない。むしろ眉をひそめて威嚇し、三嶋にとことん反抗する。
「どこで何をしてようが俺らの勝手だろ?」
「確かに、最終下校時間にはまだ程遠い。だが規定外の服装は禁止ということに変わりはないぞ」
今規定されている制服は夏制服のみ。
夏制服に短ランや長ラン、ボンタンなど当然無い。規定されているのは校章が入った白シャツと黒のスボンだけ。
「んなこと知りませんでした、すみませんってなるかよ、ボケが」
ヤンキー座りしていた、金髪3人が立ち上がり、三嶋を囲む。
流石にヤバいんじゃないかと思う尾張は爽華と桃菜に目を向けるが、この状況を危機とは感じていなく、その場で立つのみだ。
三嶋も動じることなく、規則を正そうとする。
「つまり規則を徹底的に守らない訳だな」
「そーいうことだ」
三嶋が唐突に不敵な笑みを浮かべる。
それを見ていた尾張に嫌な予感がはしる。
(男5人にたいしてこっちは女子3人と男子1人。爽華の武術ならこれくらい楽勝かもしれないが……なにか嫌な予感がする)
その嫌な予感は三嶋が不良に向けて放った言葉で予感は確信へと変わる。
「仕方がない。ならば実力行使で規則を正すしかないね」
三嶋は指をボキボキと鳴らしている。
不良達は三嶋の勇士っぷりにすこし足がすくみそうになるが、不良達も喧嘩慣れでは女相手に引く気はない。
それに、正義には不利の掟というものがある。
それをわかっている不良の一人が三嶋に意見する。
「へェー。風紀委員の癖に生徒に暴力ねェ。いくらなんでもそれは……規則違反じゃねェか?」
そう、暴力は決して許されるものではなく、規則違反となる。
それを突いた不良達は勝ち誇ったように5人全員で笑い声をあげる。
その姿を見ている俺は心底怒りが込み上げてくる。
規則というのは平等につくられる。
それでいて、正義が悪に勝つためには平等を守りこちらも犠牲を負わなければならない。
たとえそれがどれほど凶悪であっても──変わりはない。
それをわかっている尾張は、自分一人が犠牲になればいいと強く思い、三嶋を囲んでいる不良生徒を押しのけて、右手で三嶋の肩をつかんだ。
まず押しのけられた生徒が尾張にヤジを飛ばす。
「おいなんだテメェ! 汚え手で触んじゃねェ!」
ヤジを無視した尾張、そして先輩である三嶋に対して「どいてください」と無礼な発言をした。
「いったいどういうつもりだ尾張」
「この状況、俺一人でなんとかします。三嶋さんや、爽華達に犠牲や被害を加えさせるわけにはいきません」
三嶋は尾張の言葉に納得してふっと笑い、肩に乗っている尾張の手をゆっくりとどけた。
「尾張は優しいんだな」
「男なら当然のことです」
真顔でそう言った尾張だが、その言葉は不良生徒にとっては耳障りだったらしく、尾張に突っかかり胸ぐらを掴む。
「おい、テメェ。女に何かっこつけてんだ? この状況で俺らに勝てるとでも思って──」
「思ってねぇ。万にひとつも俺が勝てる可用性などゼロだ」
「なのに何でテメェは……」
「いっただろ、犠牲は俺一人でいい。ましてやお前らみたいな奴に、三嶋さん達が汚されるなかど、俺の気が済まない」
尾張が煽ったような言い方をしたせいで、不良生徒の怒りは頂点を超えた。
「クソが! もうガマンならねぇ。おいテメェら! コイツをぶっ殺しちまえや!」
不良が殴りかかる寸前、尾張は「すみません」と言って三嶋を強く押し出し、不良集団から抜けさせた。
三嶋は一瞬驚いた顔をしていたが、すぐ不良に埋もれてなにも見えなくなった。
また新妻の時と同じく、ボコボコにされ続ける。
と、思った瞬間──
「生徒に対する暴力行為を確認──爽華、桃菜!」
「「はい!」」
風紀委員が不良に対して実力行使を開始した。
女子で構成されている風紀委員だが、その力は不良生徒を完全圧倒的している。
それは爽華だげではない。
三嶋も、大人しそうな桃菜も不良生徒相手に素手で相手をしている。
爽華は相変わらずの豪拳でワンパンで不良生徒をその場に伏せさせる。
三嶋は不良生徒の攻撃を一度かわしてからの延髄に手刀カウンターを繰り出し、気絶させる。
桃菜は護身術と合気道を混ぜたような、払い技であっさりと不良生徒を転がす。
それに見とれていた尾張に、一人残った不良生徒が尾張に襲いかかろうとする。
だがそれを爽華が殴り飛ばし、不良生徒全員を倒したのである。
桃菜がふぅと溜息をつき、三嶋に笑顔を向けた。
「なんとかやりましたね三嶋さん」
「あぁ。これも尾張のお陰だ」
「ごめんね尾張」
爽華が謝ってきたが、いまいち謝られた意味がわからない。
しかし、ここはとりあえず許す言葉を返した。
トイレ付近の廊下で、不良生徒5人が床に倒れており、女子生徒3人とボロボロになった生徒一人がたっているこの光景を状況を把握していない生徒が見たらさぞや驚くだろう。
そう尾張は思った矢先、桃菜に投げ飛ばされた不良生徒が傷んだ腕を抑えながら辛そうに立ち上がった。
「て、テメェら。こんなことしていいのかよ……いくら不良生徒相手だからって、暴力は暴力。しかもやり過ぎたとは暴力、テメェらの処罰も確実だな……!!」
これが悪の特権、平等にみせかけた不平等。
そこへ天災起きたとでも言うのか──緑のリストバンド、生徒指導部の手駒3人がやってきた。
横に整列した中に足利美冷の存在がいた。
足利美冷は冷酷な目で三嶋を睨みつける。
それに返す三嶋の目は余裕のある目で、若干微笑んでいる。
「校則外の服装は認めていない。君達を生徒指導部に連行する、咲、雅、この生徒達を連れて行け」
足利美冷の側近的存在なのだろうか、生徒指導部の2人が不良生徒を立たせて、移動命令を出す。
最後まで三嶋に突っかかった不良生徒が、足利美冷にあの事実を打ち明ける。
「生徒指導部、足利美冷だったか?」
「そうだが?」
「コイツら風紀委員は──俺達をボコボコにして、無理矢理規則を守らせようとしたんだ! ──当然、コイツらも指導の対処だよな?」
そう言われても足利美冷の顔は変わらず、冷たい顔のままだ。
「……そうだな、校則通りであればこの者達も指導になる」
その事実を聞いた不良生徒がまさに今笑おうとしたその時──
「だが風紀委員はそれが許される」
笑おうとした不良生徒の顔が絶望に変わった。