好きじゃない、気になるんだ
「改めて挨拶しよう。私は三嶋結菜、風紀委員長だ」
委員長が尾張に向けて握手の手を差し伸べてきた。
それを尾張が失礼しますと、恐る恐る握ろうとすると、結局三嶋が両手で包み込むようにして強めに握手された。
「よし、桃菜。尾張に自己紹介だ」
委員長が手を離すと、次は桃菜という女の子を俺の前に呼び出した。
この風紀委員の中で尾張が唯一関わったことがなく、全く知らない人物である。
その子はひょこひょこと小走りで尾張の前に立った。
茶色の髪を右手にかきあげた知的そうな子。
その象徴に比較的細めの赤メガネをつけている。
メガネの奥にある瞳はくりくりと可愛く、小動物のような目をしている。
肉付きは三嶋や左右田に比べるとかなわないが、逆にそれでいい。
身長が小さめだからこそ、すこし幼いような体つきでいいと尾張は思う。
「は、初めまして。最上桃菜です。尾張君と同じで2年生で、クラスは2年2組です」
同じ2年生には全く思えず、てっきり1年生かと思っていた尾張。
2年2組ということは左右田と同じクラスということだ。
その点に気づいた尾張は最上に問いかける。
「お前も、左右田と同じクラスか」
「はい、さやちゃんとは風紀委員に入る前から友達です」
「なるほど、お前──」
尾張と最上の会話に三嶋が横入りし、俺に人差し指を刺した。
「こら、尾張。同じ風紀委員の仲間をお前呼ばわりしちゃだめだ。ちゃんと名前呼びなよ名前で」
尾張は一瞬眉をしかめるが、これ以上三嶋に反抗すると面倒になりそうなので、やれやれと最上に目を向けた。
「最上──」
三嶋が「てい!」とゲンコツを尾張の頭頂部にぶつける。女子とはいえ結構痛かった……
「なにするんですか……」
「下の名前で呼びなよ下の名前で!」
また一瞬眉をしかめるも、反抗しても意味ないと悟った尾張は、もう一度最上に目を向ける。
「桃菜」
「は、はい!」
なぜか桃菜が気をつけをして姿勢をピンとさせた。しかも、顔が何故か赤い。
「ん、なんでそんなかしこまってる」
「お、尾張君の声って結構格好いいから、そ、その緊張しちゃって……」
尾張の声が良いというのは三嶋も同感していたようで、首を縦に振ってうなずいている。
「確かに尾張の声はいい声だよな。耳攻めボイスCDでもだしたらどうだ?」
「そんなものだしたら、流れてくる音声はゴミゴミゴミしかないですよ」
「まともな台詞はないのか君は……」
「で、でも。そういう鬼畜攻めも嫌いじゃないですよ」
そう言った桃菜だが、大人しそうな外見から『鬼畜攻め』という言葉がでたことに尾張はビックリして思わず平然としている桃菜の顔を2度見してしまう。
(桃菜の本性はヤバそうだな……)
「おーい、爽華、爽華も改めて尾張に挨拶しなよ」
三嶋から一人だけ距離をとっていた左右田。
書棚から取り出していた本を戻してこっちに歩いてきた来た。
目の前に立たられると本当に見事な体だ。JKの完成形かこれは、と思う尾張。
「改めまして。2年2組の左右田爽華です、よろしくね尾張君」
この時、今まで気にしていなかった尾張君という呼ばれ方だったが、なぜか左右田に呼ばれると気にかかってしまい、モヤモヤする。
「爽華、できれば尾張君じゃないくて尾張って呼べ」
俺がまさかの命令に三嶋をはじめ、爽華と桃菜が驚いた。
爽華に関しては尾張の目がまっすぐ向けられているせいか、照れて目を合わせられなくなり、たまらず下にそむける。
「ど、どうしたのよ尾張君」
「尾張君じゃなくて、尾張。そうじゃないと俺とお前の間になせが距離がある気がする」
「なんだ尾張。桃菜のときは気にしていないのに、爽華の時だけ気にして。本当に爽華のこと好きだなー」
三嶋が嫌味ったらしい顔で尾張をちゃかす。
それに対して尾張は感情的に言葉を返す。
「だから違いますって! この気持ちをいっても絶対わからないですよ、この気持ちは……」
感情的から急に声が沈んだ尾張を見た三嶋は不思議そうな顔をしたが、それ以上追求することはしなかった。
俺が急に空気を沈ませたせいで、この場の全員が沈黙になってしまった。
その空気を脱しようと桃菜が動く。
「あ、あー! 挨拶も終わったことですし、まだ尾張君は活動内容を知らないと思いますので、活動内容を教えてはどうでしょうか」
緊張しながら精一杯言い切った桃菜の目は瞑ったままになっている。
「そうだな桃菜。よし尾張、早速だが活動しても
らうぞ」
三嶋は既に会議室から出ようとしている。
「まだ活動内容を知りませんが? どうやって活動しろと言うんですか」
尾張が頭を書きながらそう言うが、三嶋はその事は充分承知しており、会議室の真ん中で突っ立っている尾張の首を引っ張りだした。
「それは活動しながらのほうが早い。どのみち喋っても君は聞き流すだろうが」
締めるように引っ張られている首が苦しく、声が出し難い状況になる。
ここまで強く締める必要はないだろうに、この強さの8割は腹いせで出来ているに違いない。
ならこれ以上逆らえないのである。
「ご、ごもっともです……」
締められて血が循環しないのか、尾張の顔は蒼白に染まっていった。