これは笑いではない真剣だ──解説編
無事合格できた尾張だが、今はそれどころではない。
左右田が尾張のセクハラともとれる発言に誤解して顔を赤らめている。
その誤解をとかなければいけないのだ。
「だから左右田! あれは勢いというか……俺がお前を脱がすわけじゃないから」
「またそんなこと言ってー……!」
委員長が間に入ってくる。
「尾張ったら、恋愛禁止と言われたのに試験中に告白するとはな」
「はい? ──あ」
そういえば、好みの子の下着を見たいとは言っていたと思っていたのだが、どうやら尾張は違う言葉言っていたらしい。
「好きな女の子の下着を見たいだなんて、君は本当に大胆な男の子だな」
委員長は高らかに笑ってそういった。
恋愛禁止だというのに、その点についてはあまり追求していないのはなぜなのか。
「ニュアンスの問題ですよそれは! それはともかく聞きたいことが山ほどあるんですが、いいですか?」
誤解が解けないまま、委員長に質問を投げかける。
「あの面接の質問、どう考えてもふざけているようにしか見えなかったんですが、一から説明してほしいです」
「確かに君の言うとおりだ。私がふざけているようにしか見えない。しかし君はあの面接の意味を偶然なのかしっかりとくぐり抜けているんだよ」
尾張が思い返しても意味などまったくわからない。
学校でカレーパンを食べたいだなんてどこに意味があるか、どこにもないとしか思えない。
「まずカレーパンの質問があっただろう? 質問通りに言うならば、カレーパンをこの学校で食べたいか?」
尾張はこの時、まさかと頭の中にパッと思い当たる事が浮かんだ。
「その質問は、カレーパンを食べたいかとこの学校でカレーパンを食べたいか? では全然意味が違うわけですよね」
「その通り。この学校で食べたいかどうか、知らなかったかもしれないが、この学校の購買にはカレーパンはない。そこが重要──」
「なんでそんなことを面接で聞く必要があるんですか」
自分の思いつきと委員長の言った事が合い、やはりとは思ったが、それでもくだらないとしか思えない。
「購買以外のパンを持ち込んではいけないのだ」
「はい?」
やっぱり意味がわからない。
「いいか、桜形高校にはなぜかカレーパンがない。故に幻のパンだ。それを持ち込んだ場合、生徒指導部のやつらが指導部に放り込むのだ」
風紀委員会もどうかしているが、生徒指導部もどうかしている。
カレーパンだけで指導するとか舐めすぎだ。
「次だが、普段何をしているか、だな」
「その意味は?」
「暇な人ならなんでもいい」
(バイトのシフトかよ……たしかに俺はニート級に暇だが)
「3問目、この中の誰が好みなのかだが──」
これに関しては少しピンときていた。体育館の男子生徒を見ていたのなら尚更だ。
「まずは誰でも、明確に理由が答えれなければならない。そして、私を選んだ場合は相当厳しい。君もさっき体育館で見ていただろ、あの嘆かわしい男子生徒達を」
やはりあの男子生徒達をよく思っていなかったようだ。
委員長の言い草は良き振る舞いをする校長先生が生徒に対してを裏で陰口をいうようなものだ。
「あの男子生徒が私目的で風紀委員に入ろうとして来た生徒は数え切れない程だ。君も彼らと同様であれば即刻落とすつもりだったのだが。君は爽華を選んだのでね」
「でも理由は答えられなかった。それはダメということですよね」
「ああ、なんであれ理由がなければ偽りと変わらないからな」
本当に馬鹿げていた質問ばかりに思えたが、後から説明を聞くと一応筋が通っている。
「5問目、私の下着が見たいかどうか。これも3問目と同様の意味と言っても過言ではないかな」
「要は人目的で入ってくるかどうかの真偽を問いたかったということですか」
「そうだ。君はやはり私目的ではないようなだね、そして6問目、ここが一番の難関というべきかな」
6問目、爽華の下着を見たいかどうか。これに関しては3問目の答えに連動して人物が変わるのだろう。
尾張は左右田爽華を選んだ為、6問目も連動した。ここまでは尾張でもわかっていたのだが、質問の意味はわかっていない。
「これは建前を試す質問だ。例えば君の場合は爽華。彼女目の前にして見たいかどうかこれを判断する」
尾張がチラッと爽華を見ると、また赤面して物陰に隠れる。
「君は真っ直ぐに見たいと言ったね」
「好きな子──好みの子の下着を見たくないだなんて男子としてはありえないからな。見たいという感情はすぐ顔に出る」
また好きな子と言いそうになり焦りながらも訂正して答えた尾張。
「まさしくそれだ。見たくないなんてありえない。もし建前であればすぐにわかる、本当に見たくないのであれば顔にはでないそういうことだ」
「堅苦しい面接を崩して本性を引っ張りだす、それが委員長のやり方ですか」
「騙したようなやり方で悪かったね。しかし君はこれらをやり遂げた、立派だ」
生まれてきて17年、立派と褒められたことなどあったのだろうか、と尾張はすこし照れくさくなり、委員長から目を背ける。
「さぁーって。堅苦しい面接も終わったことだし、自己紹介でもしますかー!」
委員長が清々しく声を張り上げてそういった。
尾張の風紀委員生活はここから始まったのである。