魔王討伐その後に、
今更ながら、よろしくお願いします。
「何をブツブツと呟いているのですか?」
「誰のせいだと思っているんだ」
この元凶を作った犯人は俺から目を逸らし、視線を宙に泳がす。
このポンコツは……
……数時間前
魔王を倒し、体力と魔力を使い果たした俺を女神――ルルが、転移魔法陣で王都まで送ってくれると言う。
「あたしに任せて下さい!」
助かる話だ。
文字通り疲労困憊している俺は、魔法陣を組んでもらうことにした。
ルルが空に円を作る様に指を回すと、光輝く円が彼女を囲む様に地面に浮かび上がる。
「陣、固定。転移、座標、位置、固定――」
言葉を紡ぎながら、指で宙に文字を描く、それに呼応するかの様に、円の中に文字が浮かび上がっていく。
指を止めると、円の光が一際は強くなり辺りを白に染める。
「マサヤさん、出来ました!」
その言葉に反応するかの様に、辺りを染めていた光が無くなっていく。あとに残ったのはぼんやりと光る円と、無数の文字が書き込まれた魔法陣だった。
「ありがとう、ルル」
「えへへ、これで少しはマサヤさんのお役に立てましたか?」
「いつも抜けてる所があるが、今回は本当に助かったよ」
「抜けてるは余計ですよー!」
抗議の声をあげるルルを無視し、俺は魔法陣に乗る。
「頼むよ。ルル」
ルルは頬を膨らませながら両手に魔力を集め、魔法陣に魔力を移していく。
怒りながらも、魔法陣を起動させるルルを見ていると、昔の事を思い出すな。
そうか。これで終わりなのか。
思えば色々な事があったな。
色々。いろい、ろ……しまった! 疲れていて頭が回らなかったか! こいつに転移系の魔法を使わせると碌な事にならない!
「ルル! まっ――」
待ったをかけようとした直後、視界が歪み始め、浮遊感覚に襲われる。
しまっ遅かったか! どうか王都に転移してくれ!
浮遊感覚が無くなっていき、徐々に視界の歪みがおさまっていく。
視界には王都の城壁でも門でもなく、鬱蒼とした大森林が目の前に広がっていた。祈りは届かなかったようだ。
あー、知ってた知ってた。こうなる事は知ってたよ。
徒歩でもいいから、ルルの作る魔法陣だけはやめておくべきだったな。どこかも分からない森の中から、徒歩で王都に向かわないとならないのか。
ゲンコツだな。これはゲンコツとグリグリの刑で、ルルを泣かすしかない。
肝心のルルはどこだ?
辺りを見回してみるも、ここに飛ばした張本人が見当たらない。
おかしいな。一緒に魔法陣に乗っていたはずなのだが。
あー、真後ろからすげー視線を感じる。視界に入らないよう、真後ろに張り付いてるんだな。
「おい、ルル? なんで俺の真後ろに立っているんだ?」
問いかけても反応がなく、嫌な予感がした俺はルルの顔を覗き込む。
ルルは唇を小さく動かしながら、今にも泣きそうな表情をしていた。
「……い、来ちゃ、した」
「今、なんて言った?」
「未来に来ちゃいました!」
未来? 過去、現在、未来の?
未来とは現在であるとか、まだ来てない時の?
まあ、待て、落ち着け。訳が分からないって、気持ちは分かる。
転生先を間違えたり、転移先が龍の巣だとか女湯だったり、裸で転移して来たり、おっと最後のは関係無いな。
色々と問題を起こすが、さすがに時間まで跳躍しないでしょう。おい、ルルさんや、目が泳ぎまくってますよ。
「なんだって?」
「未来に来ちゃいました!」
うん、さっきも聞いたよー?
大事な事だから二回言ったのかなー?
「あの、ですね。落ち着いて、聞いて下さい。今はマサヤさんが居た時代から、三千年程経っています」
三千年って、経ちすぎじゃない?
俺を知ってる人とか居ないよね?
辛くね?
待て、まてまて、未来に来れたなら帰れるだろ?
はっはっはっ! そうだよ。帰れるはずだよな。うん、聞いてみよう。
「なーんだ! 未来に来ちゃったのかー、帰れるんだよね?」
おいおい、ルルさんや、こっち見ろよ。不安になっちゃうだろー?
「その、あたしの力では時間は操れないんです」
「なのに未来には来れたと?」
「あうあう、本当に出来ないんです」
「無能」
「はうわ!?」
なーにが操れない、だ!
だいたいにして、なんで未来に来たって分かるんだよ!
ん? そうだよ、なんで時間を移動したのは分かるんだよ。
俺にはただの転移にしか感じられなかったのに、こいつは分かるっておかしいだろ。
「なんで専門じゃないのに、未来に来たなんて分かるんだ?」
「それは女神的な力で、ですね」
「その女神的な力で戻れないのか?」
「その、さっきも言いましたけど、時間は操れないんです」
「なのに、未来に居るとは分かると?」
「はい」
はいじゃないが。やっぱり無能じゃねーか。
「はうわ!?」
放心状態になってるこいつに、心の声を読まれた気がするが……それよりも、これからどうするかだよな。
とりあえずは、人里に行くのが目標だな。人里に下りて情報を集めよう。
未来に来たんじゃなく、座標がズレただけかもしれないしな。
うん、そうだよな。女神の力とか当てにもならないモノを信じるべきじゃないよな。
よし、そうと決まれば森を抜けよう。
「何をブツブツと呟いてるんですか?」
「おぉん!?」
「はうわ!?」
無駄な回想を入れた気がするが、俺は謝らないぞ。
本来ならば王都で待つ、みんなの元に帰るはずだったのに。
このポンコツは……
「森を抜けて人里を目指す」
「あ、あのマサヤさん!」
「いいから行くぞ」
何か言おうとしたルルを無視し、森を抜けるべくして動きだそうとしたのだが、俺の視界には森ではなく空が映っていた。
第一歩を踏み出したのになんで、お空が映っているんでしょうか?
おれ、倒れてるのか、あー、考えるの、つらい。
これ、まりょ、く、が。
俺はそこで意識を手放した
毎週土日に更新出来ればと思っております。
書き貯め無しなので、もしかしたら更新出来ない日があるかもしれません。
頑張って更新します。