表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オリジナル・バトルロワイアル  作者: 八緒藤凛
一日目
7/54

7 結成! 打倒殺し合い隊!

1


「そういう訳で! ここにチームの結成を祝す! 時は……分からないけど」

「ふふ、締まらないですね」

「いいんじゃないか? これくらいで」

「うるさいうるさい! とにかく! 俺らはチームだ。打倒殺し合いを念頭に置いた、今はまだ小さな集まりだけど、ゆくゆくは人を集めて……」


 支給品の中にあったペットボトルに入った飲料水。それをそれぞれが持って、小さく乾杯した。彼らは正義の名のもとに集まった、清き心の持ち主達だ。


「ということで、しばらくは三人一組での周囲の散策、異論はない?」

「おう」

「はい!」


 その三人が居たのは小さな病院の一室。町外れで細々と運営していたであろうこの場所には、未だに薬品や電子機器のたぐいが置いてあった。ここに元々住んでいた人間のことを考えると勝手に上がり込んでしまっているのは少し申し訳ないが、拠点とするには最適なのだ。


「にしても、どこなんだろうなぁ。ここは」

「地名を表すものが何一つ無いっていうのは、少し不気味ですよね……」

「主催側の人間の手が加えられてると、僕は思う」


 この病院内で出くわした三人を手早くまとめ、リーダーを買って出たのはいかにも今風といった青年、不和雄大(ふわ・ゆうだい)。彼はこの場にいち早く適応し、その清廉潔白な倫理観でこの殺し合いを否定していくことになる。


 勿論、生きていればの話だが。



2


「でもほんと、私……雄大さん達に出会えて良かったです」


 三人の内の一人、少し気弱な女性は俯く。

 彼女にとって殺し合いなど異常事態すぎて、どうすればいいかも分からなかったのだ。だが不和雄大というリーダーシップ溢れる先導者を得て、小さいながらも希望の光が見えてきていた。


「おいおい、俺はついでか?」

「あ、い、いえ、そんなことは……」

「なんて、冗談だよ。はははは」


 最後の一人である豪快な男は大笑いすると、その女性の肩をポンポンと叩いた。一瞬、雄大が目を細めて怪訝な表情をするも、すぐさまそれを誤魔化すように視線をそらす。


 立ち振舞に高貴さの溢れるその女性の名前は久内秋穂(ひさうち・あきほ)。

 あごひげまで繋がったもみあげが特徴の男は大神徹心(おおがみ・てっしん)と言った。


「差し当たって、早速この病院周囲の散策と行きたいんだけど、どうかな。皆、もう自分の能力は確認したよね?」

「ああ、バッチリだぜ」

「私も、いつでも使えます」


 二人の同意を確認した後、雄大は自分の荷物を背負おうと背を向ける。


 殺し合いの場で、先程出会ったばかりの二人に背後を晒す。雄大はそれの危険性を十二分に理解していた。だが、信頼度は態度に出る。せっかくまとめきったこの場を、今更かき乱すことはしたくない。


 部屋の隅に固めて置いた三人分の荷物。

 奇抜な色をしたその支給品は、それぞれ橙色、緑色、黄緑色だった。


「こんな風に」


 秋穂さんのはどれだったかなと、普遍的かつ単調な思考。

 それこそが、雄大の感知出来た最後の考えとなった。



3


「なっ……秋穂さん……!?」

「うふふ」


 大神徹心は、何が起きたかを理解できなかった。

 突如目の前で雄大の首と胴体が分断され、頭部だけがこちらに転がってきたののだ。その遺体の目には驚愕も諦めもなく、ただひたすらに穏やかさだけが見て取れる。それが意味するのは彼が即死したと言う事実で、今この場でそれが可能だったのは――


「テメェ……何してやがる?」

「何って……、これは殺し合いでしょう?」


 秋穂は、その手を振りかぶった。

 鎌鼬、旋風を冠する妖怪の名で、秋穂に与えられた能力名の一節であったはず。振りかぶった手から斬撃を発射する、それだけの能力。だがそれは、背を晒していた雄大に到底躱せるものではなかった。


「そうだな……。大丈夫だ、大丈夫」

「へえ……と言いますと?」

「お前がやらなきゃ……俺がやろうと思っていたからよっ!」


 秋穂が手を振り下ろすと同時に、徹心は横へ飛ぶ。後ろにあった名前も知らない医療機器は、綺麗に真っ二つに割れていた。だが徹心はそのまま動きを止めることもなく、秋穂に向けて一気に距離を詰める。対応に手間取る秋穂の間合いに入ると同時に、その両腕を抑えて押し倒した。


「ちょっと! やめてください! あぁっ! ……やめろっつってんだろこの変態!」

「黙れ、これは殺し合いなんだろ?」


 徹心は大きく口を開け、秋穂の胸に狙いを定める。会場で目覚めた時からずっと我慢していた異物感。それをそのまま口から発射した



4


 久内秋穂はもう動かない。

 徹心の口から発射された物体が、秋穂の胸に小さな風穴を開けていた。


「俺も、変な身体になっちまったよなあ」


 徹心は、自らの食道を通ってきたであろう黒い弾丸を秋穂の胸から取り出してまじまじと見る。小さなビー玉サイズの黒い弾丸だ。

 観察もほどほどにして、それをそのまま飲み込んだ。不思議と食道が封鎖される感覚はなく、異物感はまた胃まで運ばれていく。感じた味覚は、秋穂のであろう血の味だけ。


「この女も演技してたとはなあ、驚きだったぜ。にしてもこっちは可哀想な兄ちゃんだよな、なあ?」


 今やモノ言わぬ雄大の遺体に向かって、誰の返事を期待するでもなく問いかける。


 徹心とて、誰彼構わず殺してやろうとは思っていなかった。そもそも初めは、雄大の案に乗るつもりだったのだ。こんな不快なゲームとやらを笑顔で開始しやがったあのクソ女を一発殴ってやらなきゃ気がすまない。だからペットボトル飲料水でのチャチな乾杯にも乗ったし、場を取り留める為のジョークも積極的に流してみた。


「あ――?」


 突如、徹心の思考に大きな疑念が湧き出る。


 そもそも自分は、こんなふざけた人間だっただろうか。正義感に燃える罪もない青年を殺そうとした上に、こんな綺麗な女性まで手にかけて。それに、つい先程までの自分は「このゲームを殺す気」しかなかったはずだ。その証拠に今、二つの遺体を前にして達成感を感じない。


「俺は一体……なにを……?」

「私が……聞きたいですよ……」


 弱々しい殺気。自分は今、彼女に近寄ったら殺されるだろうか。

 だがそんなことは関係ない。徹心はすぐに、声の出処へと駆け寄った。


「徹心さん……ごめんなさい……」


 久内秋穂は、まだ息があった。



5


「秋穂さん! おい! 目を開けてくれ!」

「もう……私は、長くないですね……だから……がはっ」

「だからっ!? だから何だよ!?」


 秋穂は口から血を吐いて、それでも何かを伝えようと口を動かそうとしていた。徹心は、秋穂の最期の言葉を聞き取ろうと、彼女の口元に耳を近づける。


「だから……最期くらい……衝動に身を任せてもいいですよね……?」


 徹心の横で、秋穂の手が小さく振られた。

 だがそれは殺傷能力を伴った斬撃を産む。そして当然のように――


「え……は……?」


 徹心の胴体を、右と左に真っ二つに分断した。


「ふ、ふふ……」


 こみ上げてくる涙に、秋穂は自分のしでかした事の大きさを実感する。何故どうして、今更になって罪悪感が襲ってくるのだろうか。そんなことは分からない。それにもう、それを考える余裕はなかった。溢れ出る血流が、秋穂の意識を流し出していった。


 生まれ落ちてから約二十年、筋金入りの箱入り娘として育った彼女は、自らの衝動に身を任せた経験があまりない。自らの思うがままに行動する事の心地よさと、訳の分からないゲームに巻き込まれた現実が、彼女の頭を狂わせてしまったのだろうか。


 否、そうではなかった。


 彼女達は人一倍不幸だったのだ。

 このゲームに選ばれてしまったという参加者全員に共通した不幸のみならず、たった一人の人物の思惑が彼女達の悲惨な結末を創り上げたのだから。



6


「これは……すごいね……」


 その部屋の扉を開けて入ってきたのは、赤い髪の少女。


「ちょっと、悲惨すぎない? なんて、あははっ」


 百瀬凛月華(ももせ・りつか)は、部屋の惨状を見て少し後ずさる。大きな肉片が合計五つ転がった部屋は、思わず鼻を塞ぎたくなるような悪臭に満ちていた。真っ赤に染まった床と壁もその悲惨さを助長させていて、同時に目も瞑りたくなる。


 二十分程前に、病院内の人の気配を察知して凛月華は裏口から潜入した。離れた部屋から透視スコープで観察していたが、結果は予想通り。


「しょうがないじゃん……。私は、こうするしかないんだから……うんっ! 次やる時はもうちょっと近づいてみようかな? 実験実験っ!」


 落ち込みかけた心を、引き戻す。

 三人を間接的に殺した以上もう後戻りは出来ない。この人たちの中身の無い打倒主催計画に賭けるくらいならば、自分で数を減らしたほうが手っ取り早い。何故なら自分は、そのためにおあつらえ向きな能力を授かっているのだから。


 災禍のパンデミック。この場で退場した三人は、確かに正義感と清い心を持っていた。

 だが不運、だが不幸。ただただ一人のたった一つの能力の強制力に勝てなかったというだけで、彼らはここに屍を晒すこととなってしまったという訳だ。



No.5 大神徹心(おおがみ・てっしん) 25歳 退場

【能力名】人間小砲

【能力】 胃内の弾丸を、口から射出する能力。弾丸は一発切りで、装填するためにはその弾丸を再度飲み込まなければならない。

【タイプ】アクティブ

【系列】 銃撃系


No.27 久内秋穂(ひさうち・あきほ) 19歳 退場

【能力名】鎌鼬の手

【能力】 手を指の隙間なく閉じ、それを振る事で斬撃を発生させる。使用者の状態に関わらず、飛ばされた斬撃は一定の威力を持つ。

【タイプ】アクティブ

【系列】 物質操作系


No.28 不和雄大(ふわ・ゆうだい) 22歳 退場

【能力名】大自然の加護

【能力】 屋外での戦闘中、全ての能力による攻撃の威力を半減させる。

【タイプ】パッシブ

【系列】 能力操作系


No.35 百瀬凛月華(ももせ・りつか) 18歳

【能力名】災禍のパンデミック

【能力】 戦闘の行う意志のない複数名が一定の距離にいる時、微弱な殺害、もしくは被殺害の意志・思想を発生させる能力。能力者との距離や、時間経過と共に強くなる。

【タイプ】パッシブ

【系列】 精神操作系


残り35/42

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ