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オリジナル・バトルロワイアル  作者: 八緒藤凛
一日目
4/54

4 災禍のパンデミック

1


「はははははは! なんだこれは……、そうそう! こういうのを待っていたんだ!」


 世の中は馬鹿ばっかりだ。とある廃墟の隅っこで、都築一誠(つづき・いっせい)は笑っていた。つい先程、目を覚ましたら知らない場所。その場所で男が死んだ、否、女に殺された。それがなんだ。殺し合えと言われた。ざわつく周囲、一体それがなんだ。


 殺し合いだと? 馬鹿げている。それが何かの比喩表現であるくらい、普通の者ならすぐ分かる。何かの試験の一種かそこらだろう。恐らく今の自分の状況も、どこかで評価している人間がいるはずだ。それなのに――


「あの場での騒ぎようはなんだ? フン、頭の回らないバカ者共、一度粛清してやってもいいかもな」


 殺し合いと銘打たれた以上は、何らかの危害を加える事は可能だろう。あの不気味な女の言っていた「三人の生き残り」とやらに入るのも悪くはない。自分の頭脳と身体能力ならば、十分可能な範囲内。脱落システムについてはまだよくわからないが。


「にしても――」


 目を覚ましたら知らない場所にいた事。更にそれからもう一度、強制的に意識を奪われ、起きたらこの廃墟の一室にいた事。そしてあの壇上で行われたそこそこリアルな死と殺人。そのカラクリは探求してみたいところではある。もし勝ち残ったとあらば、その科学力の一端くらいは教授願いたいものだ。


 ……と、その前に荷物の確認をしておくか。奇襲するにしろ防衛するにしろ、自分の戦力の把握は最優先事項に匹敵する。どうせ大方の奴らがパニックだろう、あんな陳腐な殺人劇に心を惑わせるような雑魚共が、この状況に適応出来るとは思えない。


「あの、ちょっと」


 頭の回転の速さこそ、この段階での有利条件だ。物事の全体像をいち早く把握してこそ、それ以降の事象の理解が早まると言うもの。この奇抜な色のリュックサックの中身を改め終わったら、早速行動するか。


「聞こえてないのかな。あのさ」

「はっ!?」


 思わず、リュックサックを手放してその場から飛び退いてしまった。何故ならここは廃墟の一室の端も端で、ここに入るには10メートル程先の入り口しかない。勿論そこは注視していた。にも関わらず、至近距離で聞こえる声、少なくとも相手は同じ室内に居る。それに、未だに一誠の混乱が解けない理由として。


「おっと、声も通らなくなるのか? そんなことはないよな……。聞こえてるよな? 俺の声」

「……聞こえているさ」


 その何者かの姿が、未だに見えないのだった。



2


「話をするのなら、顔くらい見せたらどうだ」


 冷静に、あくまでも混乱を悟られないよう、努めて低い声で話したつもり。

 自分は動揺などしていないと、虚勢の余裕を纏う。


「それもそうだな、よっ……と」


 この部屋には窓がない。たった一つの光源は、開けっ放しのドアから漏れる日光だ。その日光に照らされるように、何もない空間から男が姿を現した。


「こんにちは。俺の名前は烏丸千星。女みたいな名前だけど、気にしないでくれな」


 ニカッと笑うその快活な笑顔は、一誠の最も嫌いな要素だった。

 ああ、こいつは、陽の当たる側の人間だ。


 ……不味い。自分の所持品は愚か、能力とやらの確認すら済んでいない。対して烏丸千星(からすま・ちほ)と名乗った男は、既に自分の能力を使いこなしている。

 恐らく透明化、もしくはそれに準ずる能力の一種。初見で叩きに来られていたら、と考えると寒気がした。まだ脱落とやらには早い。今ここで落ちたら、どこかで見ているであろう評価員の目にも止まりやしない。


「そうか。烏丸……さん、望みは何だ? 共闘か? それとも早速、戦おうと言うわけか」


 立ち上がって構えを取る。効果の程は分からないが、脅しのつもりだった。


「おっと、待ってくれよな」


 両手を胸の前に出し、静止の意思を示す千星。どうやら問答無用で襲ってくる相手ではなさそうだ。そもそもそうだとしたら、透明化のまま殺されている……か?


「いや――待て」

「なんだ? 待ってくれと言ったのはこっちなのにな、はは」

「違うッ!」


 自分は今、何を思った? 殺される――だと? 


 意識に介在してくる被殺害の思想に、思わず思考を向けてしまう。先刻まではなかった考えだ。そもそも、殺し合いなんてものは比喩表現で、その言葉通りの意味だとしたら非常に馬鹿げているという見解を出したのは自分だ。


 ……千星はといえば、何かを言いかけてはいるが、思考の海へと泳ぎだした自分を見て口を噤んでいた。意外にも空気の読める男らしい。


「なあ、貴様は――誰かを殺そうと思うのか?」 

「と、唐突だなあ、そんな気は全く無いな」

「だろうな。で、貴様が俺に接触してきた理由はなんだ?」

「あ、それなんだけど――」


 そう言って千星は、懐から一枚の写真を取り出した。



3


 写真には二人の男女が写っていた。学生服に身を包んだ弱気そうな少女と目の前の男が、ボロいアパートをバックに写っている。


「これが、どうした?」

「いやさー、こいつ俺の妹なんだけど、どうもあの体育館みたいなトコに居た気がすんだよなー、見てない?」

「悪いが知らんな。そもそもここに来てから話をしたのは貴様が初だ」

「そっかー。じゃあ見かけたら俺が探してたって言ってくんね? こいつ引っ込み思案で弱っちいからさー、兄としては心配なんだよ。だから頼むな」

「は? 何故俺がそんな――」

「じゃっ、そういうことで!」


 言うが早いか、千星はドアから勢い良く出て行った。必要以上に急ぎ過ぎる理由が、一誠にはさっぱり分からない。


「馬鹿が……!」


 お前の兄が探していたよ、と、探索の事実を伝えた所で、集合場所も時間も何も決めずに伝言だけで何の意味がある。そんなことにも考えが及ばないとは、やはりこの世は馬鹿ばかりだ。


 ……にしても、奔放な人間も居たもんだ。一誠の予想では、皆が皆パニックになっていると思っていた。怯え、泣き、塞ぎこむ。そんな連中を相手に戦うのだから、何の障害も無いとは思っていたが。


「もう少しだけ、慎重を期す必要がありそうだな。その点に気付かされた礼として、伝言の一つくらいは頼まれてやろう」


 もうとっくにその場にはいない千星に向かって、小さな声で呟いた。


No.18 都築一誠(つづき・いっせい) 22歳 

【能力名】???

【能力】 ???

【タイプ】???

【系列】 ???



4


 危なかった。正直に言って、紙一重だった。連続使用可能時間60秒。クールタイム240秒。連続使用可能時間の分割可は不可能、一度発動して解除すれば、240秒のクールタイムが発生する。それが、烏丸千星に付与された特殊能力の詳細だった。


 ――いや、そんな事はどうでもいい。


「殺すところだったな……」


 廃墟ビルに足を踏み入れた時から僅かながらに感じていたが、能力を作動した瞬間から確信に変わった。あの部屋に近づくに連れてこの身に宿っていく殺傷衝動。微弱ながらも脳を揺さぶるその衝動に、本気で吐き気がした。


「そんなデメリット、聞いてねーって!」


 青色のリュックサックの内ポケットに、目立たないようにそっと忍ばせてあった一枚の紙。そこに記された能力名と能力内容に、そんな衝動に関する文言は一句足りともなかった。


「そう言えば、あの人のリュックは何色だったかな。どっちにしろ悪趣味だったけど……」


 他人の姿を認識した途端、殴りかかりたくなった。何かを考えこんでいたあの無防備な頭を蹴り飛ばしたくなった。それでも、殺意と興奮を理性で抑えつけて、会話にこぎつけた。途中、「貴様は誰かを殺そうと思うのか?」なんて聞かれた時には、声が震えた。


 誰かを殺すなんて、とんでもない。そんな汚れた手で妹を守るなんて俺には出来ない。だが、それでも誰かが妹に手を出そうと言うのなら、その場合のみそいつを殺す。妹に手は汚させない。あいつは臆病で、繊細だけど、誰よりも優しい。それは俺が一番良く知っている。こんなふざけた場所から一刻も早く開放してやらなければ。


 不思議な事に、あれ程苦悩した殺傷衝動は、今は綺麗さっぱり消えていた。やはり能力使用時のデメリットと考えるのが自然だろうか。


「まあいい。こんな能力、使わなければ良い話だな」


 軽く屈伸をして、烏丸千星は走りだした。


No.8 烏丸千星(からすま・ちほ) 18歳

【能力名】インビジブルヒーロー

【能力】 任意のタイミングで、全身を他者から見えなくする能力。各種制限有り。

【タイプ】アクティブ

【系列】 身体変化系



5


「ちっ、意気地のないお兄ちゃんだなあ! もう!」


 向かいの廃墟ビルからその様子を見ていたのは、赤い髪の少女。

 その少女、百瀬凛月華(ももせ・りつか)は悔しそうに舌打ちした。


「でもま、気付かれてないっぽいし。大体どんな感じか分かったからもういっかあ」


 支給品にあった超ハイテクな電子機器、透視スコープ。双眼鏡の体をなすそれは、壁一枚程度なら透けて見えるようだ。全く、体育館での出来事といいこの謎のアイテムといい、現代の科学力ってこんな発展してただろうか。


 凛月華は透視スコープをリュックサックにしまうと、ぴょんっと椅子から飛び降りて荷物を纏めて立ち上がる。部屋を出ようとして、あることに気付いて引き返した。


「っとと、その前に……これ、燃やしとかなきゃね」


 紫一色のリュックサックから能力名とその内容が書かれた紙を取り出して、荷物の中にあったライターで炙る。それが完全に燃え尽きてから、凛月華は部屋を出た。


 ……ハズレだった。凛月華の能力は、本人の検討するところ大外れである。だから彼女は、スタンスを変えた。即ち、他人を排除して生き残ると決めたのだ。その悲壮な決意の甲斐あって、彼女の能力は大当たりの部類へと変貌している。


「全く、運が悪いにも程があるよねぇ。アタシは結構、平和主義者としてもやってけたのにさっ」


 明るい声が廊下にこだまする。

 彼女は軽快な足取りで、裏口からその建物を後にした。




NO.35 百瀬凛月華(ももせ・りつか) 18歳

【能力名】災禍のパンデミック

【能力】 戦闘の行う意志のない複数名が一定の距離にいる時、微弱な殺害、もしくは被殺害の意志・思想を発生させる能力。能力者との距離や、時間経過と共に強くなる。

【タイプ】パッシブ

【系列】 精神変化系



残り39/42

アクティブタイプ→能力者の意思によって、もしくは特定条件下で発動する能力。

パッシブタイプ→能力者の意思とは関係なく、常に発動する能力。特定条件下でON/OFFされる場合も有る。

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