約束と後悔
「貴女もそろそろいい年だから結婚相手と顔くらい会わせてもいいと思うのよ」
今まで何も言ってこなかったのにいきなりそんな話をされても、どう答えればいいのやら。
「え?」
取り合えずそれしか言えなかった。
「はあ…どうしてカスタードクリームは黄色いの…」
私は明日、両親の決めた人と会う事になっている。
結婚は女の子なら皆が喜ぶであろう一大イベント。
まったく嬉しくないのは、私には小さな頃、心に決めた大事な人がいるから。
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『ライお兄ちゃんはカスタードみたいに髪が黄色いから好き!』
『嬉しくないな』
『ライお兄ちゃん優しいから好き!』
『まあお前は妹みたいなもんだしなタテア』
『えー!?』
『チョコレートみたいな髪でいいと思うぞ』
『どうせならライお兄ちゃんの大好きな生クリームみたいな髪がよかった』
『それじゃ婆さんだろ』
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「タテア、明日は貴女の…」
「えっ…ジークライムお兄ちゃん!?」
窓を眺めていると、大好きなあの人によく似た人が歩いているのが見えた。
「どこにいくの!?」
私はいてもたってもいられずに窓から身を乗り出して外へ出た。
「いない…」
急いで後をおいかけても中々追い付けずとうとう見失ってしまって、途方にくれていると、背後からポンと誰かに背中を叩かれる。
「なあ、アンタ…さっきから俺の後をつけてたろ」
「ごっごめんなさい!!って…あ!!」
なんと探していたあの人がいるではないか、つい嬉しくなって落ち着かない。
「…まさかタテアなのか!?」
「やっぱりライお兄ちゃん!?」
お兄ちゃんは3年前に村を出てしまって以来帰っては来なかった。
「たった3年で随分大きくなったな」
だからずっと寂しくてたまらなくて、会いたかった人。
「会いたかったあ…!」
思わず昔のように抱きついてしまった。
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『わたし大きくなったらライお兄ちゃんのお嫁さんになる!』
『ははっ…ならそのお兄ちゃん呼びは止めるんだな!』
『えー』
『そしたら考えてやらなくもない』
『むー』
『ほらむくれてないでお菓子食べようぜ』
『わーいじゃあわたしシュークレームね!』
『はいはい』
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「ライお兄ちゃん白いクリームケーキ食べたでしょ?」
抱きついた彼からは小さい頃と同じ甘い匂いがする。
「…お前はやっぱりカスタードクリームの匂いがするな」
「…3年もどこいってたの?」
もう二度と会えないと思っていたのに、会えるなんて夢のよう。
「本当は帰るつもりはなかった…でもお前が結婚するって聞いてな」
「…お兄ちゃんは約束はちゃんと守ってくれて、破る事は一度もなかったよね?」
だから――――
「約束?」
「ジークライム、私を貴方のお嫁さんにして!!」
これで断わられたなら私は後悔しないから。
「タテア」
ジークライムは私の手を取った。
「どこに行くの?もしかして愛の逃避行!?」
「お前の家に行く」
ああ、やっぱり拒否されてしまったのね。
「タテア…ジークライム!?」
「すみませんタテアは俺が貰って行きます」
ジークライムは両親の前で宣言した。
「え!?」
わけの分からないまま私は繋がれたままの手を引かれている。
「村を出て、町に住まないか…俺の妻として」
「…もちろん!」
私はいま世界中の誰より幸せな気持ちだ。
「うまくいったな…しかし寂しくなるな母さん」
「そうね」