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昨日宰相今日JK明日悪役令嬢 恋愛陰謀増々版  作者: 北部九州在住
恋愛は華やかに陰謀は密やかに
82/119

73 慰労会という名の宣戦布告

「……はい。

 これで今日の書類は決裁終了。

 何があっても私は寝るわよ!

 絶対に!!!」


「は、はい!

 今日の書類はこれでおしまいです!」


 我ながら目がいっちゃっているので、判子を押すぐらいしか仕事ができない隣のミティアがドン引きしている。

 まあ、種を明かせば世界樹の花嫁育成人材は上級文官をはじめとして人材が揃っている。

 太守代行としてメリアスを掌握したアリオス王子は、ためらうことなく彼らをメリアス太守府に引っ張った。

 こうして上はなんとかなった。

 で、下の書記クラスだか、エルスフィアから一気に引っこ抜いた。

 メリアス太守府と騎士団の連中をエルスフィアで雇用して、エルスフィアの連中をメリアスに持ってくる。

 この結果、メリアスの行政は辛うじて機能し続けた。

 で、メリアスとエルスフィアの行政スタッフの取替えのしわ寄せが何処にやってきたかというと、ここにやってきた訳で。

 メリアスとエルスフィアの決済書類がついに破綻しなかったのは、私とアルフレッドとヘルティニウス司祭のおかげである。

 なお、アルフレッドもヘルティニウス司祭も私の世界の栄養ドリンク箱飲みで目にくまを作って幽鬼のように書類処理に追われている。


「太守府に書類持って行くわ」

「こっちコピー頼む」

「紙とインク用意してくれ」

「絵梨。貸しだからね……」


 学園にいるアルフレッドとアマラとシドは勉強の結果文字が読める。

 おつかいすら人が足りないこの現状で私が彼らを遊ばせるつもりは毛頭なく、エルスフィア太守代行権限で下級書記に三人を臨時指名。

 そしてメリアスに出向という形をとってこき使う事に。

 太守府内部の書類は資格によって機密指定があったりするので、雑務といえども書記資格は必要だったりするのだ。

 もちろん、ギリ合法の手段を使って裏道を突っ走るのは事態沈静化の為に引き入れた法院衛視隊の存在がある。

 非常時とはいえ非合法で解決すると後々尾を引っ張りかねないという理由だ。

 で、ここで大活躍したのが我が世界のコピー機。

 災害用ソーラーパネルつきバッテリー電源に家庭用コピー機、箱いっぱいの紙とインクを持ち込んで書類をコピーコピーコピー。

 書類そのものを手書きで写していたこっちの世界において、このコピー機がなかったら絶対に破綻していただろう。

 あと、ノートパソコンも威力を発揮した。特に表計算ソフト。

 入力時のミスさえなければ、ちゃんと計算してくれるこれの存在が数字を崇める組織においてどれほどの影響力を持つか。

 この手の機械操作の為、姉弟子様に頭を下げて動いてもらったおかげで、この騒動を乗りきれたのである。

 大規模な人事異動に伴うメリアスとエルスフィアの組織混乱が最低限で乗り切れた事に、表向きにメリアス太守代行についたアリオス王子は更に人望を集める結果となる。


 という訳で、部屋に戻ってドレスを脱ぐことなくベッドにぱたん。

 ここ数日の私の日常である。


 書類仕事に追われる私とは別に、戦力低下が治安悪化に直結する騎士団がらみは更に力技が使われた。

 グラモール卿とキルディス卿のメリアス騎士団編入である。

 一流の騎士が都市の警護に出るだけで、下っ端の小悪党は怯む。

 それだけの技量をこの二人は持っていたのである。

 更に、法院衛視隊と近衛騎士団がスラム住民に追い込みをかける。

 彼らの身分を明かした上での事情聴取は、情報集取よりも、


「なにかやらかしたらわかっていますよね?」(にっこり)


 という恫喝に他ならないわけでして。

 この恫喝には私も参加しており、スラムの広場に一日一時間ほど元の姿でぽちに昼寝をさせている。

 手を出したらスラムを焼き払うというこれ以上ない恫喝になったらしく、現場指揮官のフリエ女男爵から後でお礼を言われる結果に。

 おかしいなー。私はただぽちの昼寝の場所を探していただけだったのにー(棒)。

 茶番はここまでにして、最初の一週間を乗り切ると、新しい人間も仕事を覚えて最低限回り出すので急激に仕事が減る。

 こうして、私達の修羅場は終わりを告げて、久しぶりにメリアスの学園内の教室で一同の顔が揃うことになった。




「では、修羅場から開放された事を祝って!

 カンパーイ!!」


 我らが姉弟子様の音頭によって、部屋に集められた面々がグラスを掲げる。

 こっちの世界の酒もあるし、ジュースもあるしお菓子もある。

 こういう時にはお祝いをしましょうというのは姉弟子様のポリシーで、


「長く続く人生だからこそ、『始まり』と『終わり』を自分で作りなさい。

 そうすれば、人生はもっと楽しくなれる」


という姉弟子様の言葉に一理あるからこそ、私はこの宴会に賛同した。

 したさ。ええ。

 だからこそ、アルフレッドやアマラやシド、サイモンやセリアも居るし、ミティアとキルディス卿も来ているわけだ。

 姉弟子様を舐めていた。

 どうしてここに、アリオス王子とグラモール卿とフリエ女男爵が居やがる。

 向こうも罠警戒しているじゃないか。


「だって、地下水道の捜査で手伝ってくれたんでしょう。

 お礼は大事よ」


 この人はこれだからかなわない。

 何かあったら全部ぶん投げよう。全力で。

 宴も適度に盛り上がってきたので、アリオス王子が今後のスケジュールを漏らす。

 もちろん、我々全員に話せる程度の話だ。


「メリアスでの騒動はひとまず落ち着きましたので、メリアスの新太守を選ぶことになります。

 王室法院の定期会が来週開かれますから、エリーさんのエルスフィア太守代行から新太守への承認と合わせて行われるでしょう」


 あっさりと流したが、私のエルスフィア太守は確定かよ。おい。

 それを聞いたミティアが私の手をとってぶんぶん。


「エリー様!

 太守就任おめでとうございます!

 エリー様だったらきっと大丈夫ですよ!!!」


 おい。私と同じ世界樹の花嫁候補。

 統合王国閣僚候補者が、太守に『格落ち』する意味を考えろよ。

 出来レースは続行か。

 そうなると、本気でミティアに政治を仕込ませないとまずいぞ。これは。

 こっちの考えていることに気づいたのか、アリオス王子はそのまま微笑を浮かべてミティアの方をみつめて続きを話した。


「ミティアさんにもいずれは太守と同じぐらいの仕事をしてもらいます。

 エリーさん。

 ミティアさんへの下級書記への推薦お願いしますね」


 やりやがった。

 この悪辣王子、私にミティアの後見人につけときたか。

 下級書記の資格習得の条件は文官補佐経験一年以上、もしくは文官からの推薦によって与えられる。

 そこから中級・上級と上がる訳だが、上級書記習得まではヘルティニウス司祭と仲良くなっていれば問題なく取れるはずなのだ。

 にも関わらず、私に推薦人になれとほざきやがる。

 笑顔でアリオス王子を見る。

 アリオス王子も笑顔のままこっちを見つめる。

 なお、二人共まったく目が笑っていない。


(まだ私をこき使いますか?殿下) 

(メリアス太守代行引き受けない以上、これぐらいはしてください。

後任のメリアス太守を決めないといけないのにそこまで手が回らないんです)


 そんな会話が視線だけでかわされたとかかわされなかったとか。

 事実、メリアス太守という大都市太守のポストがぽんと開いたのだから、早くも猟官運動が激しくなっていた。

 それだけでない。

 ここには私とミティアという世界樹の花嫁候補がいる。

 今回みたいな襲撃事件は起こせないだろうが、なにがしかの影響力を行使できる位置にメリアス太守はいるのだ。

 この一部始終をサイモンが見ている。

 サイモンの悪巧みについては、そのバックにカルロス王子がいるまでは分かるだろう。

 問題は、サイモンが主犯ではなく従犯として見られている事で、カルロス王子のバックで囁くロベリア夫人と南部諸侯に視線が行き過ぎている。

 後の魔族大公になるサイモンが従犯で終わる訳がなく、使いっ走りという隠れ蓑を使って陰謀の糸を紡ぎ上げたのは設定資料にも書かれている。


「殿下。

 それでしたら、ご提案を一つ。

 セドリック殿下をこちらに呼べないでしょうか?

 あのお方も王国の柱石になってもらわねばならぬ身。

 メリアスは人が足りませぬ」


 私の提案にはっきりと顔色を変えるサイモン。

 王家一族は国の頂点であると同時に、国王崩御時に混乱が起きないよう政治経験を積まされる。

 その修業の一つに直轄領太守の仕事があった。

 領地ではない為に移動が可能で、王室の目も届くし法院の監視も効くので修業の場にもってこいなのだった。

 なお、私のように僻地飼い殺しも可能なあたりもすばらしい。

 セドリック王子をこっちに呼び寄せたのは、カルロス王子の危機感を煽るため。

 隠しルートだと、カルロス王子はこっちに強引にやってくるのでそれを狙っているのだった。

 アリオス王子と年が離れていないセドリック王子ならば、アリオス王子の補佐が可能なので、カルロス王子はいやでもメリアスに視線が釘付けにならざるを得ない。


「弟はあまりこういう事はしたがらないのだがね」


「それを理由に逃げまわるのも限界かと」


 セドリック王子はアリオス王子と同じグロリアーナ王妃から生まれた弟である。

 それゆえに第二王子となっているが、優れた兄を見続けた結果己の才のなさを自覚して積極的に政治に関与しようとはしなかった。

 それがカルロス王子の野心が表に出た瞬間対処が遅れて敗れることになるのだが、そのあたりの改善は期待していない。

 ただ、法院の定例会にちょっかいを出してこなければいいだけのめくらましの役目しか私は期待していなかった。

 私はヘルティニウス司祭の方に視線を移す。

 この法院定例会は彼の感心事を解決する最大の山場になるからだ。

 その為に王都にいるカルロスとサイモンは危険だがメリアスに釘付けにする必要があった。

 ヘルティニウス司祭は私の視線に気づいて、ただ軽くグラスを傾けた。


「本当の修羅場はこれからですから」


 私は自分で自分に釘を刺す。

 この法院定例会最大の議題は関所税法改正案審議。

 女神神殿神殿喜捨課税問題である。

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