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昨日宰相今日JK明日悪役令嬢 恋愛陰謀増々版  作者: 北部九州在住
恋愛は華やかに陰謀は密やかに

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69 メリアス大捜査線 その1

 深夜の騒ぎの翌日。

 目覚めるとそこにはメイドが居た。


「おはようございます。

 エリーお嬢様。

 今日も良い天気ですよ」


「おはよう。

 で、メイドの真似事なんて何でやっている訳?

 アマラ」


 メイド姿のアマラは腰に手を当てて分からないかなぁみたいな顔で理由を話す。

 朝からドヤ顔がちょっとうざい。


「決まっているじゃない。

 助けられたから、こうやって恩を返している訳」


 で、ドヤ顔からシリアス顔になるアマラ。

 その顔でかなりの綱渡りだったらしい事が分かる。


「私もシドも本当に危なくてね。

 ギルド抜けて逃げようかと相談した時にあんたの手の者が駆け込んできた訳。

 ギルド内部には私達の身柄を渡さないと主張した連中も居たけど、近衛騎士団と法院衛視隊に手を出すほど馬鹿じゃなかった。

 で、早朝に飛び込んできたアリオス王子のメリアス太守代行就任。

 一体何が起こっている訳?」


 メイド姿のアマラが私の着替えを手伝う。

 なるほど。

 高級娼婦なだけにこのあたりの教育も終らせているのか。


「話せる範囲で良いならば、世界樹の花嫁抹殺を諸侯が企み、それを盗賊ギルドが受けた。

 で、その襲撃が失敗に終わり、世界樹の花嫁選考の監督役であるアリオス王子が激怒。

 襲撃事件の責任を取らせる形でメリアス太守を更迭。

 今日からは盗賊ギルド内部に捜査の手が入る予定」


 私の髪をすく鏡の中に居たアマラの顔がひきつる。

 そりゃそうだろう。

 赦免状が無かった場合、襲撃者の手引き役として疑われたのはアマラとシドだろうから。


「何で助けたの?」


 そう聞いてくる鏡の中のアマラの顔は私の頭で見えない。

 それでも櫛を止めないあたりしっかりしているというか。


「友達だからじゃ駄目?」


「……ありがとう。

 借りにしておくわ」


「どういたしまして」


 私には私の思惑があり、アマラにはアマラの思惑がある。

 それが分かっていて、私はあえて『友達』でごまかした。

 アマラもそれを理解しただろうが、それ以上は追及してこなかった。

 私はこんなアマラとの距離は嫌いではなかったし、アマラもその距離を崩そうとはしない。

 つまりそういう事なのだろう。


「シドは?」


「居間でミティアの相手をしているわよ。

 自分達の立場は分かっているつもり。

 襲撃者がやってきたら、撃退に参加するつもりだったけど……」


 アマラが窓の方を見る。

 私も見ると、ぽちが見つめている。


「きゅ」

「おはよう。ぽち。

 もう戻っていいわよ」

「きゅきゅ」


 朝まで魔術学園を守っていた白銀の神竜は白っぽいトカゲになると定位置の私の頭の上にちょこんと丸くなる。

 なお、こいつはこのままとぐろを巻いて寝ようとするので、頭からぽち専用のバスケットに移してやる。


「あんた、とんでもないもの持っているのね」

「ぽちを何だと思っていたのよ?」

「守護獣だとは思っていたけど、こんな化け物とは思わなかったわよ」

「使わない方が良かったんだけどね」


 私の漏らした本音にアマラも押し黙る。

 私がぽちを使わざるを得ない状況、そこまで追い込まれているという事に気づいたからだ。


「私も朝食を頂くわ。

 居間に用意して頂戴」


 白々しく悪役令嬢っぽい口調でアマラに告げると、アマラもメイドっぽく返事をする。

 それが嬉しくて、楽しくて、二人とも顔がにやけていたり。


「用意してございますわ。

 エリーお嬢様」




「お嬢。

 あんたにアマラを助けてもらった恩は忘れるつもりもない。

 この命好きに使ってくれ」


 朝食の席でのシドの謝罪である。

 アマラが先で、自分の命については言わずか。

 こういう所を見ると盗賊というよりも古き良き任侠に近いんだよなぁ。

 今じゃヤクザが大半になっているが。


「エリー様ってかっこいいですよね。

 私、憧れちゃいます!」


 まて。

 そこの世界樹の花嫁候補。

 あんた忘れていると思うが、ライバル。

 最終的には、私を蹴落とさないとまずいだろうが!!


「だって、昨日のアリオス王子との会話全然わかりませんでしたから!」


 胸を張って言うな。

 つまみ出すぞ!

 と、口を開こうとしたら、ミティアの純真笑顔攻撃。


「けど、エリー様が私達の為に一生懸命がんばってくれたのはわかります。

 だから、私はエリー様を信じます!」


 ぱくぱく。

 ミティアに指を指したまま、金魚のように口を開け閉めする私。

 どうしてくれようこれ。


「シド。

 恩を返して欲しいの。

 これなんとかして」


「お嬢。

 潔く、俺をギルドにつき出してくれないか?」


「ひどいです!二人共!!

 私何か酷い事言いましたか!!!」


 気づけ。お願いだから。

 立場を!

 政治的立ち位置を!!!

 よし。

 ここは友達料を払っている現メイドのアマラに……


「ねぇ。エリー。

 これに、『悪の親玉です』と言って理解すると思う?」


 アマラの先制口撃に私撃沈。

 更に悪意のないミティアが追い打ちをかける。


「アマラさんひどいです!

 エリー様、こんなにがんばって、シドさんとアマラさんを助けたんですよ!」


「……」


 ぷんぷんと怒ったふりをするミティア。

 嫌味のないぶりっ子がまた怒りを注ぐが我慢我慢。

 あ、アマラが天井を眺めてる。

 私も眺めるか。いろいろ諦めたくなったので。


「お嬢様。

 よろしいでしょうか?」


 セリアが真面目モードの顔で入ってきたので、ミティア以外は真顔に戻る。

 状況についていけないミティアは放置の方向で。


「どうぞ。

 学園内で何かあった?」


「警備担当者が更迭されました。

 後、盗賊ギルドと関係が深い教師が今日中に退職予定です。

 世界樹の花嫁の補佐する人間の方にも辞職者が出るそうで」


 ある意味、予定されていた粛清の第一陣の報告である。

 メリアスの魔術学園は貴族子弟が多く学ぶからある種の治外法権が確立していた。

 それが今回の騒動で剥がされることになる。

 大事にはならなかったが、世界樹の花嫁が殺されたら下手したら学園そのものが成り立たなくなっていただろう。

 私の沈黙を肯定ととったセリアが話を続ける。


「アルフレッドですがまだ眠っています。

 毒と傷は完全に消えていますが、そのまま眠らせています」


 アサシンの毒は浄化したとはいえ、その毒が体を回って傷つけてその回復に時間がかかっているのだろう。

 それでも容態が安定しているのが助かる。 


「無理させないでいいわよ。

 私達の出番は今日は無いと思うから」


 だが、私のこの見立ては見事に外れることになった。

 世界樹の花嫁襲撃直後にアリオス王子がメリアス太守代行に就任。

 それに伴い、メリアス騎士団の捜査の動きが格段に落ちたのは、この急激なトップ交替に戸惑ったからに他ならない。

 異民族だけなく魔物なんてのもいるこの世界において、騎士団をはじめとした体制側武力にとって治安維持は大きな問題になっていた。

 そこまで手がまわらないし、まわすだけの費用もないのだ。

 だから、下層をまとめてくれる盗賊ギルドというのはある意味無くてはならないものになっていたりする。

 ギルドの方も美味しい汁を吸うためには体制にしっぽを振る必要があった訳で、その癒着は世の東西どこにでも転がっている。

 では、そんな盗賊ギルドが私達世界樹の花嫁を襲う理由はなんだろうか?

 この場合メリアス騎士団と繋がっていないとこんな大規模な事はできないし、背後には間違いなく諸侯の影がある。

 そのため即座にアリオス王子はメリアス太守を更迭したのだ。

 そして、それが騎士団の動きを止める事になる。

 ギルドと繋がっている連中が大量にいるから連座で粛清される可能性を恐れたからだ。

 アリオス王子が手駒の近衛騎士団を投入しただけでなく、私の進言を受け入れて法院衛視隊を投入した事もこの件では裏目に出た。

 組織の掌握と、ギルドへの捜査という真逆の方向に人手不足が露呈するのはある意味当然だったと言えよう。

 法院衛視隊を率いるサイモンは即座に増員を法院に求め、法院から転移ゲートを使って数十人の法院衛視隊が到着。

 同じく、近衛騎士団もさらなる介入を決意して、現場指揮をフリエ女男爵に任せ百人以上の人員をメリアスに送り込んだ。

 一方、アリオス王子はメリアス周辺都市に伝令を走らせ、街道を封鎖すると同時に増員を待ってギルドの捜査に乗り出すことを決意。

 この捜査側が混乱せざるを得ない僅かな時間だったが、地の利を得ている盗賊ギルド側はそれで十分だった。

 ギルドマスターをはじめ、主だった幹部が雲隠れしたのである。

 彼らが逃げただろうと推測されているのが、地下水道。

 世界樹の迷宮にも繋がる、それ自体が広大な迷宮である。


「で、地下水道の出入口は抑えたの?」


 私の質問にセリアが返事をする。

 とにかく人出が足りないからと後で私が転移ゲートを開いて、エルスフィア騎士団も連れてくる予定である。

 これは人手が足りないのを察した私がアリオス王子側に提案、了承した形になっている。

 その為、一番危険でまだ手がとどかないこの地下水道の先陣を任される羽目になった。


「いいえ。

 まだ抑えきれない所がいくつかあるらしく……」


「私達が駆り出される訳ね」


 ため息をつきながらマジックポーションをがぶ飲み。

 中毒にならないのが救いであるか、栄養ドリンクのがぶ飲みと結局は同じなので必ず反動がどこかでやってくる。

 絶対に休みを作ろうと決意しながら捜査情報が書かれた地図を眺める。

 メリアスの城門は大きなのが四つと小さい城門が四つの計八つ。

 大きな城門は街道に接しており、小さい城門は見張り塔に組み込まれた軍事用である。

 近衛騎士団と法院衛視隊は城壁と城門の封鎖に成功していたが、それゆえに手が足りなくなっていた。

 地元で仕事をよく知っているメリアス騎士団が動かないと、結局業務が滞ってしまうからだ。

 秘密警察こと法院警護隊の尋問で白になった連中は現場に戻しているが、やっかいなのは灰色小悪党。

 この手の輩は現場指揮官クラスでもあるから、全部捕まえるとメリアスの治安そのものが崩壊しかねない。


「フリエ女男爵に伝令お願い。

 手紙を今から書くから」


 今回の騒動で重要なのは、ギルドマスターだけである。

 小物捕まえて点数稼ぐならば、逃して大物とりに動けという政治文学の装飾をつけた書状を書きなぐってセリアに押し付ける。

 ここでサイモンに下手に功績を与えるとまずいのだ。

 私への風当たりとサイモンの背後の南部諸侯の影響力の増大から。


「かしこまりました」


 各所の粛清から盗賊ギルドへの捜査が遅れ、逃げたアサシンとギルドマスターの捜査に大規模人員の投入が不可欠。

 メリアス地下水道。

 世界樹の迷宮にも繋がっているここの捜査に私も駆り出されたのは、この日の夕方だった。

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