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昨日宰相今日JK明日悪役令嬢 恋愛陰謀増々版  作者: 北部九州在住
恋愛は華やかに陰謀は密やかに

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67 深夜のお茶会という名の襲撃イベント その2

 メリアス魔術学園の警備は警固なはずである。

 そもそも、上流階級が集まる世界樹上層部に作られているので、その時点でチェックが入るし、学園内も貴族子弟が学ぶので警備陣が常駐しているからだ。

 だが、これは外部から侵入者が来る場合の話。

 内部に内通者や内部の人間が凶行に及んだ場合、とたんに役に立たないことを意味している。

 それを私は嫌でも感じざるを得ない。


「止まれ!

 ヘインワーズのお嬢様か。

 この夜に何用か?」


「知り合いをお茶会に招待しようと思って庶民寮に。

 では、失礼」


 階段を降りるだけでこの質問を何度受けたことか。

 特に貴族寮は学園警備よりも、貴族護衛の方が強かったりするのでこんな事が発生するのだ。

 状況を簡単に説明すると、王子つきの近衛騎士団が唐突に警戒レベルを上げ、それに釣られた貴族護衛が何だか分からないけど警戒レベルを上げた。

 で、それにアルフレッドとメイドを連れて私がのこのこ現れた。

 なんつー危機のエスカレーション。


「止まれ!

 ……エリー様か。

 失礼しました」


「警備ご苦労さまです。

 グラモール卿。

 で、状況は?」


 私の質問に鎧姿のグラモール卿はあっさりと答える。

 こっちには知らせたほうがいいというアリオス王子の判断だろう。

 ある意味、今の私はアリオス王子の身内に等しい場所に立たされてしまっている。

 それが、今の状況を端的に物語っていた。


「率直に言って良くない。

 アリオス殿下の身辺護衛と、昼間のデートに手を出してきたスパイの摘発に人員を割いたのが裏目に出た。

 盗賊ギルドを返り討ちにする凄腕が潜んでいたのは想定外だ」


 アマラに感謝。

 彼女がこっちに情報を流していなければ、こっちは後手に回る所だった。

 ミティアが襲われている以上、ここまで大騒ぎになったら確実に何か仕掛けてくる。


「どうでしょうね?」


「どういう意味だ?」


 私の言葉にグラモール卿の眉間が険しくなる。

 このあたりシドのシナリオにたしかあったんだよなぁ。


「ギルド内部に裏切り者がいるって事です」


「!?」


 そんな馬鹿なとでも言おうとしたグラモール卿はそのまま口を閉じてその言葉を飲み込む。

 貴族界隈でこれだけ派閥争いが激化しているのに、同じ事が他所でも発生していると考えない人は結構多かったりする。

 で、そのあたりの相互理解のズレが最終的に決定的な破談にいってしまうのだ。

 シドのシナリオなのだが、義賊化しある種の公共機関を目指そうとしたシドと昔ながらの悪の組織に徹する一派が激しく対立するのだ。

 これがスラムの貧民や流民問題と絡んでとても後味の悪い終わり方をするのだが、それによって主人公とシドの距離が一気に縮まるという訳。


「諸侯のスパイと盗賊ギルドの別派閥が手を結んだら厄介な事になります。

 ミティアをお茶会に誘う名目で、彼女を貴族寮に入れてしまいまいましょう。

 動かせる人間はすべて出した方がよろしいかと」


「助かる。

 キルディス卿の能力は信用しているが、ここまで大規模になると彼一人では守りきれないかもしれん。

 人数は居るか?

 数人ならば騎士を回すが?」


「結構です。

 私にはこれが居ますので」


「きゅ」


 頭にぽちを乗せて空気を弛緩させる。

 そのあとで、こっちの要求を突きつけた。


「それよりも、寮内の掌握を急いでください。

 諸侯がらみだと王子の一声が絶大です」


 寮内の諸侯子弟の護衛を警護に組み込めという私の要求にグラモール卿は即答する。

 その動きはこっちがおもったよりも早かったらしい。


「既に動いておられる。

 昼間からいろいろと付きあわせてすまない」


「高貴なる者の義務としておきましょう。

 で、下の騒ぎの収拾ですが、余計なお世話かと思いますが法院衛視隊の投入を考えては?」


 グラモール卿が露骨に渋い顔をする。

 現在表立って動いている組織はアリオス王子の近衛騎士団に盗賊ギルド、このメリアスの騎士団の3つだ。

 で、近衛騎士団には学園の中立性が邪魔し、盗賊ギルドはシドシナリオが動いているならば分裂確定。

 メリアス騎士団は上層の近衛騎士団と下層で密着している盗賊ギルドに挟まれて有効な手が打てるとは思えない。

 近衛並に物が言えて、ギルドを怯えさせる第三勢力を送り込まないと多分しくじる可能性が強い。


「法院衛視隊は王都にいるし、その出動には法院の承認が必要になる。

 それをクリアしたとして、即応で動けるかどうか?」


 私の提案に案の定グラモール卿が渋る。

 近衛の面子もあるのだろうが、サイモンがらみの内通者の存在をこっちがばらせないのが痛い。

 『何で知っていた?』が答えられないし、下手すれば私がサイモンの仲間と扱われかねないからだ。

 彼らが気づくことを祈りながら、私は次善の理由を告げる。


「重要なのは、法院衛視隊が出張るという事実のみでいいのです。

 これでギルドは内部対立について何だかの選択を迫られます」


 で、ここで私がグラモール卿の耳元に囁きかける。

 悪巧みの囁きは耳元で優しくが基本。


「私の護衛騎士のサイモン卿は、法院衛視隊出身です。

 彼経由でこっちに上役だけ連れて来るならば、法院での言い逃れはどうとでもなります。

 ミティアをこっちに連れてきた後で、転移ゲートを開いて連れてこれますがいかが?

 もちろん、功績はそちら持ち、責任はこちら払いで」


 何かあったら私が責任を取る。

 この言葉にグラモール卿は私の胸に輝く銀時計の鎖と大勲位世界樹章と五枚葉従軍章を見てため息をついた。

 落ちた。


「殿下のお耳には入れるがよろしいな?」


「もちろん。

 今回の騒ぎの功績は殿下のものですから。

 では、失礼」


 優雅に一礼したあとグラモール卿と別れて庶民寮の方へ。

 こちらは学園の警備がいるが、明らかに人の数と質が違う。

 

「止まれ!

 ヘインワーズのお嬢様か。

 この夜にこの庶民寮に何用か?」


「同じ世界樹の花嫁候補のミティアさんをお茶会に誘おうと思いまして。

 キルディス卿にとりついでいただけないかしら?」


 私の名乗りに警護の者が庶民寮の中に入ってゆく。

 さすがにこっちには情報が下りていないか。

 貴族寮の急警戒に合わせているのだろうが、何が起こっているのかわからないから盲目に警戒する。

 襲撃するならば一番やりやすい状況だ。


「きゅ」


 ぽちが警戒する。

 私が世界樹の杖を取り出して入り口に向かって叫んだ。


「ミティア出ないで!」


 シールドの魔法によって弾かれたのはボウガンの矢。

 何か塗られているみたいで、おそらく毒だろう。

 出てこようとしたミティアをキルディス卿が掴んで中にほおり投げた。


「お嬢様!」


「襲撃者だ!!」


「どこから射ったの!」


 セリアとアルフレッドが即座に左右を固める。

 連れてきたメイドたちもショートソードを抜いて周囲を警戒する。


「アルフレッドとセリアはメイドを連れて中に入って、キルディス卿の下につきなさい!」


 灯りの魔法を連続で唱えて周囲を明るくする。

 校舎の屋根に黒ずくめの襲撃者二人の影が見える。

 彼らが射ったボウガンの第二射も私のシールド魔法によって弾かれる。


「ですが!」


「私なら自分で何とかできます!

 今、この状況でミティアが襲われたら私の立場がやばいの!

 あれが囮ならば、今頃ミティアが危ないの!

 急いで!!」


「アルフレッド!

 お嬢様の言うとおりにしなさい」 

 

「……どうかご無事で」


 セリアに促されて、アルフレッドとメイドたちが庶民寮の中に入ってゆく。

 矢に毒を塗るあたり、こいつら盗賊ギルドのアサシンか。

 黒ずくめの襲撃者二人は音も立てずに校舎から降り立ち私と対峙する。

 彼らの両手にはボウガンではなくかき爪。

 もちろん毒塗りだろう。

 何も言わずにこっちに向かって襲ってくるあたり間違いなくプロだ。

 ぽちがその本来の姿に戻り、白銀の神竜として襲撃者に向けてしっぽを振る。

 その巨体から繰り出された高速の物体を襲撃者達は避けたが、それは私から意識が一瞬でも外れた事を意味する。


「マジックミサイル!」


 人間の持つマナに反応するマジックミサイルが近距離から放たれる。

 致命傷を与える威力はないが、その誘導性はこの手の防戦に群を抜いていた。


「っ!」


 襲撃者の一人が身代わり札をばら撒いて、マジックミサイルを身代わり札に吸わせてゆく。

 だが、もう一人はそれを出すのが遅れて数発マジックミサイルの直撃を受けてしまう。

 それをポチが見逃すわけもなく、巨体から繰り出された腕で壁まで吹き飛ばした。

 あと一人。

 だが、こっちが想像した事が庶民寮の中で発生していた。

 鎧戸が破られると、同じ黒ずくめの襲撃者が庶民寮から転がり出てくる。

 こっちがそれに気を払った瞬間、襲撃者達は煙玉を炸裂させて一気に周囲を混乱させる。


「誰が来てくれ!

 護衛の戦士が傷を受けて毒を!!」


 その瞬間、我を忘れる。

 襲撃者もその背景も、アリオス王子やミティアすら忘れて私は庶民寮の中に駆け込む。


「エリー様!

 護衛の方が私をかばって傷を!!」


 ミティアの言葉も入らず、私はアルフレッドに駆け寄る。

 案の定即効性の毒に苦しんでいる。


「死なせるわけ無いじゃない!

 私を誰だと思っているの!!!」


 もうあんな思いはたくさんだ。

 それが後悔だとしても、やり直して彼が私を知らないとしても。

 最大魔力で治癒と解毒魔法を唱える。

 万一を考えて蘇生魔法分の魔力を用意して、出せる最大規模、女神神殿の大神官ですら起こせない神の奇跡をこの身に現出させる。



(お前を英雄にしてやる!

 だから、この国をお前が居た平和で、穏やかで、退屈な国に導いてくれ)



 冗談じゃない!

 もう英雄はたくさんだ!

 だから、私は私の意志で決める!!



「エリクサーヒール!!!」



「……お、お嬢様?」


 毒が引き、血まみれ汗まみれのアルフレッドからその力のない声が出た時、私は一気に力が抜けるがそれを抱きかかえたのはミティアの護衛のキルディス卿だった。

 彼の鎧にも血がついており、廊下の先にには切り捨てた襲撃者の躯が横たわっている。


「そのまま休んでなさい。

 貴方は十分責任を果たしたわ。

 ありがとう」


 その言葉を聞いてアルフレッドは目を閉じる。

 セリアがアルフレッドを触るが、疲れて寝ているだけとわかり安堵の溜息をついた。

 同じく安堵した私にミティアが抱きついてくる。

 というか、涙が顔にあたってます。

 ちょっと離れて。キルディス卿の血がつく。


「大丈夫ですか!

 エリー様!!」


 ああ。羨ましいな。

 素直に心配し、感謝し、そしてまっすぐに生きていけるミティアが。

 だからこそ力を振り絞って笑顔を作って私は冗談を口にした。


「大丈夫よ。

 で、美味しいケーキが手に入ったの。

 それでお茶会開くんだけど、来ない?」


 凄惨な現場の中であまりにもシュールな私の誘いに、ミティアは泣き笑いの顔でこう私に告げた。


「はい。

 喜んで」


と。

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