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昨日宰相今日JK明日悪役令嬢 恋愛陰謀増々版  作者: 北部九州在住
恋愛は華やかに陰謀は密やかに
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62 相良絵梨の考察

「ねぇ。

 お姉ちゃん恋人とうまくいっているの?」


 朝の朝食タイム。

 妹の香織の一言で、私は思わずコーヒーを噴出しそうになる。


「その反応!

 いい感じとみた!!」


 はやし立てる妹を一時無視してむせたコーヒーを飲みきる。

 こぼさなかったのは日ごろの行いが良かったからだろう。

 コーヒーカップを置いて、一呼吸。

 ちらと確認したら、父の新聞の手がいつもより下がり、母が食器を洗う音が聞こえない。

 二人とも聞き耳を立てていやがる。 


「そんなことないわよ。

 どうして?」


「嘘だぁ。

 だってお姉ちゃん、すごくいい顔をするようになったから進展あったのかなって」


 あちゃー。

 浮かれていたのが顔に出ていたか。

 反省。


「うーん。

 当たらずとも遠からずってとこかな。

 ちょっと気になっている人とそこそこいい関係をね」


 私の暴露に一気に妹が食いつく。

 父は新聞を持つ手が震え、母はとうとう手を拭きながらこっちにやってきやがった。

 そんな事お構いなしに、妹がさらに食いついてくる。


「えー!告白しないの!!」


「わかんない。

 向こうがどう思っているのか怖いってのがあってね」


 肩をすくめておどけて見せるが、これで話はおしまいにはなりそうも無い。

 興味津々の母上様と目が合ってしまったからだ。

 我が母上様は姉弟子様や私とは違った意味で男を知っているから達が悪い。


「しちゃおうよ!

 お姉ちゃんだったらOKもらえるって」


「ならいいんだけどねぇ……」


 妹の追及を適当に交わしながら、来るであろう母からの追求を待つ。

 椅子に座った母はにっこりと微笑んで一言。


「彼氏できたら連れて来なさいよ。

 あと、生むなら早いほうがいいわよ」


「……」

「……」

「……」

「……きゅ?」


 テーブルの上で食事をしていたぽちすら気を使うこの空気。

 さすが、私の年には既に私を仕込んでいた母上様である。

 これで惚れた弱みで父にメロメロというのだから未だ不思議でならない。


「まだ告白すらしてないのに連れて来いときましたか。お母さん」


「だって、絵梨の場合あまり心配しなくていいからね。

 子供出来ても問題なく育てられるでしょ。

 貴方はもうひとりで生きていける。

 親としては寂しいけど、大人として貴方の意見を尊重するわ」


 なお、私を産んだ後かなり苦労したらしい。

 共働きで更に妹が生まれて一人で家に居ることが多かった私は里山の森でよく遊び、そして占い師に出会った。

 生活が安定しだしたのはあとで知った話だが、私が本格的に師匠に師事しだしてからで、日に影に家族に支援をしていたらしい。

 父は感づいているみたいだが、真相は両親に告げるつもりはない。


「そりゃまあ、進路指導で担任を泣かせている自覚はありますけどね」


 成績が良いので進学してくれと担任が泣いていたりするが、私は実は行く気がまったくなかったりする。

 既に経済力は両親を凌駕しているし、姉弟子様の後継として周囲も見ているから今後そっち系の仕事が増えるのが確定している。

 で、理事会使って進路指導を飛ばしたの両親にバレたっぽいな。

 前までは避妊はちゃんとしろだったのに。


「だったらさっさと作っちゃいなさいな。

 孫を抱けるのを楽しみにしているわ♪」


 お母様。気づけよ。

 何も言わないお父様の無言によぉ。

 というか、私が押し倒すこと前提かよ。

 母を睨みつけたら、母はあったりと一言。


「だって私の娘ですもの。

 女は度胸。

 脱いで押し倒せば、男は抵抗しないって」


 なるほど。

 父をその手で落としたのか。





 こっちに戻っている時、メリアスでかき集めた資料を読み込むことが日課になりつつある。

 我が師匠が向こうの人間だった以上、その痕跡を探していたのだった。

 おかげで、神奈のオフィスビルには向こうでタブレットの写真に撮ってプリントした資料が紙の山を築いている。

 こればっかりは、翻訳でも水樹姉様にはできないからだ。


「で、何か分かった?

 絵梨」


 コーヒーカップを二つ持って仕事から帰った水樹姉様が尋ねたので、その一つを受け取って代わりに紙の束を机においた。

 コーヒーの苦味を砂糖とミルクで消して、私は口を開く。


「厄介な事と、すごく厄介な事と、とてつもなく厄介な事がありますがどれから聞きますか?」


「厄介事しかないのね」


 苦笑する水樹姉様だが、私の顔を見て顔を引き締める。

 というわけで、まずは厄介事から披露する。


「資料を漁っているのですが、未だ師匠らしい記述を見つけていません」


 メリアスの魔術学園の図書館なのに、こっちに流れたか飛んだか知らないがそれだけの力のある魔術師の記載がまったく無い。

 エレナお姉さまがもってきた肖像画以外まったく。

 なお、その肖像画は写メによって姉弟子様にも見てもらって、師匠確定のお墨付きを頂いている。

 ある事に気づいた姉弟子様がすごく厄介な事に触れる。


「記録が改ざんされて、消された。

 ここまでするって事はまだ裏があるわよ。これ」


「その可能性は高いと思います」


 何しろ先の王位継承争いでダミアン殿下側について粛清された南部諸侯の旗頭のお嬢様。

 おまけに、花嫁女官長という実務と裏工作のトップに居た人物だ。

 そうなると、師匠がこっちにやってきたのは飛ばされたか逃げたか知らないが、かなり切迫かつまずい理由があった可能性が高い。

 王位継承争いの闇は間違いなく深い。


「で、師匠の年から逆算すると、いろいろまずい事が見えてくるんですよ。

 向こうで魔術師として油が乗り切った時期って先王の時代で、現王が即位し現王の兄が歴史に消える時期と一致するんです」


 どう考えてもお家争いです。

 本当にありがとうこざいました。

 このあたりの記録はこちらの設定資料集やデザイナーズノートにも書かれていない闇の部分で、それぞ王家の暗部なだけに王室に関与しないとその足取りが掴めない。

 名家のお嬢様で有能かつ事務次官クラスについていた人間の記録が完全抹消されている。

 やばさは最大級のものだろう。

 で、コーヒーカップを置いて私は紙に分かっている王家の家系図を書く。


「ミティアとエリオスは歴史の闇に消えたダミアン殿下の忘れ形見です。

 そんな忘れ形見のミティアを表に出す、現国王パイロン陛下のメリットって何だと思います?」


 私の皮肉に満ちた言葉に姉弟子様も言わんとすることを察する。

 普通に考えて、出すメリットが見られない。

 にも関わらず出してかつアリオス王子との恋愛ルートが正規ルートなのだろう。

 考えれば考える程おかしいし、やばい。


「つまり、今の王様が何かやばい事をして王位を奪った?」


「弟が兄を追い落とす時点でやばいことでしょうに。 

 で、その子供を粛清できるだけの力もなく、表に出さざるを得ないほど王権が疲弊している。

 封建諸侯の春ですね。これは」


 オークラム統合王国はその名前の通り、オークラム王国を核として周辺諸侯や自治都市が統合して出来上がった国だ。

 その為、その王権は最初から強くなく、諸侯が力を握っていたといってもいいだろう。

 で、その諸侯もついに対立の火が上がりだしている。


「近年の不作傾向から穀物交易で潤う西部諸侯と、極東大帝国に繋がる交易路によって栄えていた東部諸侯の対立が先鋭化しつつあります。

 東方騎馬民族撃退時、私が動かなければ東部諸侯だけで戦うはめになっていました。

 十二分に遺恨になるでしょうね。

 ついでに、私の実家たるヘインワーズ侯を中核した法院貴族が降伏した現在、彼らを遮るものは何もありません。

 とどめに、カルロス王子と南部諸侯はまだ諦めていない」


 王室の守護者かつ新大陸交易の冨で肥える西部諸侯と最大軍事力を保持している東部諸侯の対立が発生したら、南部諸侯はチャンスとばかりに火を煽るだろう。

 その火がどこまで燃えるのか分からない所にこの話の不安がある。

 もしかしたら、ゲームにおけるヘインワーズ家粛清はこの西部諸侯と東部諸侯の火消しの可能性もある。 

 考えれば考える程深みにハマる裏の裏の裏である。


「アリオス王子はどう動くの?」


 姉弟子様の質問にデザイナーズノートを確認しながら、私は推測する。

 そこから導き出される結論はあまりいいものではない。


「あの王子様は傑物ですよ。

 間違いなく。

 そして、あの国の現状を把握している。

 で、それを解決する手段を取りかねません」


「王権の強化と中央集権。

 諸侯に確実に潰されるわね。それは」


 私の推測に水樹姉様がため息をつく。

 どのルートでもアリオス王子が消えた理由はそれだろうと私はあたりをつけている。

 あまりに完璧すぎて、旗印に向かないのだ。

 諸侯にとって操り人形で終わる人間ではない。


「で、俗物なカルロス王子が選ばれたと。

 操っているのはあの魔族大公様として、彼のバックは誰だと思う?」


 姉弟子様の言葉を受けて、私は地図を眺めて考える。

 推測だが、あながち間違いではないだろう。


「南部諸侯でしょう。

 あそこは王国の穀倉地帯で、西部諸侯の繁栄を苦々しく思っています。

 で、南部魔族と隣接しているので、繋がりがあったはず。

 彼が魔族大公まで成り上がるには、彼らの協力は必要になるでしょう」


と話して、私はここで盛大に溜息をつく。

 その視線は地図の東部に向けられていた。


「で、西部諸侯に対抗するために、南部諸侯は東部諸侯と手を組みたがっています。

 穀物供給で命綱を握られている北部諸侯は、西部諸侯の言いなりです。

 そして、私に接近してきたタリルカンド辺境伯は東部諸侯の大物」 


 私が言わなかったことに姉弟子様は気づく。

 カルロス王子を旗印にクーデターを起こすという選択肢を。

 ミティアをカルロス王子に娶らせ、私がサイモンの上で腰を振って実権を握り、姉弟子様かアマラを世界樹の花嫁に押し込めれば世界樹の加護は十全に使える環境が整う。

 エリオスという隠し要素があるが、あのブラコンちっぱいのマリエルに任せればタリルカンド一門として余生が過ごせるだろう。甘い考えだが。


「で、とてつもなく厄介な事言ってもいいですか?」


 気分を変える為に振った話が更に気分を暗くするというこの空気に、私も姉弟子様も笑うしかない。

 投げやり気味に姉弟子様が頷いたので、私は最後の厄介事を口にした。


「で、師匠の事だけでなく、さっきの事も確実に知っていて、政治的にある程度中立な人物に一人心あたりがあるのですが……

 大賢者モーフィアスでして……」


 まもなく失脚する大賢者に接触すると、失脚の意味がなくなる。

 それは、政治的にまずくヘタしたら大賢者の身体を害する輩も出かねない。

 つまり、残り少ない時間で彼にどう接触し、何を聞くかを選ばないといけないのだった。


「……」

「……」


 二人共無言で乾いた笑いを浮かべる。

 人は、本当にやるせなくなると笑うしかなくなるのだ。


「アマラの店で憂さ晴らしましょう」

「いいですね。

 私は客取りませんが」


 その後、向こうで羽目を外しすぎたバニー姉弟子様にアマラが大激怒したのは言うまでもない。

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