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昨日宰相今日JK明日悪役令嬢 恋愛陰謀増々版  作者: 北部九州在住
乙女ゲーとSLGの間で
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54 東方騎馬民族討伐戦 その5

 決戦の舞台として選ばれた交易都市ウティナは、今回の戦いのきっかけである救援要請を送ってくれた城塞都市サイアから更に南に位置する。

 城塞都市サイアが一応東部諸侯の縄張りなのに対して、交易都市ウティナはれっきとした南部諸侯のテリトリーである。

 この手の領域侵犯は平時ならば壮絶に揉めるのだが、今回は東方騎馬民族が略奪に来ているという戦時である。

 この街を戦場に選んだのには理由がある。

 一つは、このあたりの交通の要衝だという事。

 一つは、南方に湿原が広がっており、騎馬の侵入が難しい事。

 最後の理由が、女神神殿のある神聖都市サルマンと街道で繋がっており、アリオス王子の援軍が受けられる位置にあったという事だった。


「よくぞいらっしゃいました!

 シボラのお嬢様がこの地に兵を率いてわが町を助けてくれるとは、皆を代表して感謝いたしますぞ!」


 城門前で待ち構えていたウティナの領主であるウティナ伯爵は、人の良い苦労人のように見える。

 人口はおよそ一万程度の都市で、騎士団の兵力は最大動員をかけても1000を超えない。

 そんな街に私は自前の部隊と、エリオスとマリエルが率いる騎兵隊を加えた1000の兵で入城したのである。

 城壁もあるので、東方騎馬民族が略奪に来てもなんとかなるかもと考えたくなるのも分からないではない。

 ウティナ伯の手をとって、私は友好をアピールする。


「タリルカンド辺境伯の支援の先触れとしてこの地にやってきました。

 タリルカンド辺境伯は決して諸侯を見捨てませんのでご安心を」


 ウティナ伯の顔が引きつるがそれは見ないことにしよう。

 南部諸侯と東部諸侯は目立った利害対立がないとはいえ、領地争い等でトラブルは抱えているのだ。

 なお、挨拶で彼が私を『シボラのお嬢様』と呼んだ所は要チェック。

 世界樹の花嫁候補生としてではなく、『シボラ伯爵家一族の娘』として振る舞ったほうがいいと直感的に判断する。


「まずは休んで英気を整えてください。

 こちらの事はできる限りお話しましょう」


 笑顔を作ったままウティナ伯はよどみなくそう言ってのける。

 利害関係より、直近の危機の方が大事と判断する程度の常識と良心は持ち合わせているらしい。

 歓迎の宴もそこそこに、領主館にて作戦会議が開かれる。

 ウティナ伯は笑顔のままこちらにこんな要求を突きつけてきた。


「まずはこちらの防備を。

 城壁にて守りを固めていたのですが、こうやって増援が来たのでしたら、少し前の方に陣を敷きたいのです」


 都市が荒れる籠城戦なんてやりたがる諸侯はそうはいない。

 騎兵主体である東方騎馬民族は籠城戦を回避する傾向がある。

 東部はその為に多くの都市が城塞化しているのだが、南部は穀倉地帯という事もあって耕作地に隣接する形で村々が点在していた。

 都市というのは、周辺農村から集めた穀物の貯蔵地でもあるのだ。

 で、現在東方騎馬民族はその農村を荒らしまわっているらしい。

 いずれそれだけでは食えなくなるので、次は都市攻撃に移るのだろう。


「それはこちらも考えていました。

 いずれは籠城はしないといけませんが、それまでに敵を削っておきたいので」


 ウティナの東に南の湿原に流れ込む河があり、そこには橋がかかっている。

 この橋が確保できるかどうかで、今後の戦いが大きく違ってくる。


「我々が出てその橋を確保します。

 ウティナ伯はこの街を守っていてください」


 こっちがあっさりと了解したので、ウティナ伯が怪訝な顔をする。

 人間うまくいき過ぎていると不安になるあれだろう。

 ちょっと意地悪気味にたずねてみよう。


「どうかなさいましたか?伯爵?」

「い、いえ。

 なんでもないですよ」


 額の汗を拭きながらウティナ伯が弁明する。

 良くも悪くもこのオークラム統合王国の諸侯であるという事か。

 そう考えると、こっちも気分がすっと楽になった。


「こちらは、歩兵500弓兵300に志願兵を入れて1000程度。

 更に、ゴーレムが一体、魔獣ヘルハウンドが五匹おります。

 南部湿原のリザードマン族とは盟約を結んでおり、協力をしてくれるでしょう。

 街の守りはお任せください」


 南部諸侯が魔族と繋がっている理由の一つに、このような魔獣の供与があったりする。

 人間よりも従順で、命令絶対遵守をしこまれている魔獣は人を雇うよりはるかに安上がりなのだ。

 で、これらを手に入れる為に、南部諸侯が魔族に輸出しているのが人間である。

 人の業というのは限りなく深い。


「お任せします。

 現在アリオス殿下が法院で根回ししてくれた結果、王都より大規模な支援物資の確保に成功しました。

 ウティナはその配給地として考えておりますので、なんとしても守って頂きたい」


 南部が不作の余波を食らい続けているとはいえ、人の営みは休むわけにはいかない。

 現在の南部諸侯は、新大陸から運ばれてくる穀物を買うために南方魔族に人を輸出して、彼らから得られる魔獣やマジックアイテムを王都に売る事でなんとか生計を保っている。

 その為、街道とその中継地である交易都市が発展しており、王都から南部への連絡線の確保はそれほど難しい問題ではない。

 ただ一つ、管轄の違いをなんとかできるのならば。

 それもアリオス王子をミティア経由で引っ張り出せたからどうにでもなる。

 あとはただ勝てばいい。



  

 翌日。

 ウティナの近くを流れる川の前に陣を作る。

 敵が近くに居ないのは分かっているので、全員土木作業である。


「川沿いに柵を作れ!

 騎馬の突撃を避け、己の身を守るのだから手を抜くな!」


 騎馬隊を率いるエリオスも今日は馬をおりての土木作業である。

 兵が少ないから、使える人間は騎兵でも使わないといけない。


「草を縛って足を引っ掛ける罠と小さな落とし穴で馬から落馬させる罠を作るぞ!

 何人かついてこい!」


 で、エリオスにくっついているマリエルは罠づくりのために騎兵を連れて走ってゆく。

 騎兵の機動力は大規模迂回を可能にするので、罠を作るのも騎兵を使った方が効率的なのだ。


「橋の近くに見張り台を建てるぞ!

 あと狼煙台も作れ!!」


 アルフレッドが兵士を集めて見張り台と狼煙台を作っている。

 この手の施設があるだけで指揮が段違いで変わる。

 あえてサイモンは使わず、経験を積ませるためにアルフレッドを抜擢したのだ。

 今のところ、問題は起こしていないらしい。

 サイモンはそんな私を見てただ微笑んでいるだけ。

 腹黒騎士め。


「お嬢様。

 ウティナ太守の紹介状を持ったリザードマン族がやってきました。

 お嬢様に合わせてほしいと」


 セリアの声に私は振り向かずに呪文を唱える。

 土木作業に私のような女性の出る幕があるのかというとあったりするのだ。

 魔法バンザイである。


「ストーンゴーレム召喚!」


 こういう事もできるから、魔術師は基本食いっぱぐれがない。

 とはいえ、権力者層と直結できる魔術師がこういう事をするのは実は少ない。

 しなくていい支配階層の人間に基本なってしまうからだ。

 つまり、こういう事をする魔術師というのは、『こういうこと』までしかできないとも言うのだ。

 それでも一般人よりはるかに楽な生活ができるのだが。


「会いましょう。

 アルフレッド。ついてきて頂戴」


「はい。

 お嬢様」


 セリアを先導にしてぴたりとついているアルフレッドが私の後ろをついてくる。

 リザードマン族は川での戦いでの切り札に等しい。

 ちゃんと挨拶して打ち合わせをしておかないとなんて考えていたら、ふとアルフレッドが硬くなっているのに気づく。


「もっと力を抜きなさい。アルフレッド。

 戦場では固い奴から死んでゆくわよ」


「は、はい。

 お嬢様。

 俺、そんなに硬くなっているでしょうか?」


 声からして気張っているのにアルフレッドは気づいていないらしい。

 盗賊討伐とも違う大規模合戦で、しかも兵数はこっちが不利ときた。

 緊張するなというのが無理だろう。


「安心しなさい。

 アルフレッドは何があっても私が守ってあげるわ」


 私の本心を茶化しながら告げると、アルフレッドがやっと苦笑してくれる。

 冗談が分かる程度には気がほぐれた証拠なのだろう。


「護衛対象から守られる護衛ってどうなんでしょうね?」


 私は笑ってリザードマン族の方に向かう。


「だったら強くなりなさいな。

 私を守れるぐらいに」


 なんて死亡フラグをあやうく口に出しかかった己を内心で罵倒しながら。




「伝令!

 マーヤム族の一隊がこちらに向かっています!

 数はおよそ数千!!」

 

 ウティナ防衛戦は、交易都市ウティナの東を流れる川に沿ってその火蓋は切られた。

 私達先遣隊があえて目立つように入城して陣を敷いているのだ。

 『ウティナを東方騎馬民族討伐の補給拠点にする予定だ』という噂は既に広めさせている。

 その結果、入れ食いに近いマーヤム族集結ぶりにこっちが苦笑するぐらい。

 こちらの不作がここまで深刻だとはマーヤム族も思っていなかったのだろう。


「なんとしてもウティナを落とせ!

 敵は殺してもかまわん!恩賞は思いのままぞ!!!」


 川向こうからこちらまで聞こえる煽りに、見張り台から見下ろす私もため息をつくしかない。


「マーヤム族に問おう!

 交易を求めるか?戦いを求めるか?」


 作法には作法で返す。

 それが東方騎馬民族の戦の礼儀である。


「我がマーヤム族は戦いを求める!

 我が剣で欲しいものを得るのだ!!

 問いかけに答えたのだから、こちらも尋ねよう!!

 戦いを求めるか?降伏するか?」


 この問答はその軍の最高位者が行うのが礼儀とされる。

 つまり、こちら側は私で、マーヤム族側は族長の一人という事なのだろう。


「戦いを求めよう!

 マーヤム族よ!

 欲しいものがあるのならば、我らを越えてみせよ!!」


「姫君がよく言った!

 押し通らせてもらおう!!」


 やんややんやと双方盛り上がる。

 剣を鳴らし、楽器で戦意を煽る。そんな戦場にて合戦が始まったのはそれからしばらくしてからの事だった。


「川を越えさせるな!

 放て!!」


 エリオスの指揮で弓兵が一斉に矢を放つ。

 向こうの軽騎兵も移動しながらこっちの陣地に矢をいかけてゆき、双方に損害が出てゆく。

 こちらは1000。相手は数千という戦いは、相手側の誤算続きで戦局が推移していた。 

 理由はもちろんぽちである。


「あのドラゴン邪魔!」

「橋に居座られて排除できん!」

「兵は寡兵だ!

 迂回して渡河して潰せ!!!」


 騎兵が主体の彼らにとって機動力の大規模低下となる渡河は避けたいのが本音だ。

 たとえ渡れても戦闘なんてできる訳も無く橋の確保が大事になるのだが、でんとぽちが居座っているものだから動こうにも動けない。

 おまけに川にはリザードマン族が控えている。


「リザードマン族がいるぞ!」

「戻れ!

 水中で奴らに勝てるか!」

「畜生!

 矢が降ってくるぞ!

 盾をかかげろ!!」


 戻った所をぽちの炎とこちらの矢でお出迎えで、面白いようにマーヤム族が倒れてゆく。

 高地や荒地が多く温度差から軽装備であるマーヤム族にとって、矢は盾で防げるだろうがぽちの炎はかわせない。


「熱い!

 た、助けて……」

「ファイヤーブレスを吐いてきやがった!」

「散れ!

 まとまっていたらあのドラゴンに焼かれるぞ!!」


 だが、遅い。

 魔術師の戦略兵器ぶり。

 たっぷり堪能して欲しい。

 私は世界樹の杖を構えて、術式は発動させる。



「隕石召喚!

 メテオストライク!!!」


 敵にも魔術師は居ただろうし、こういう呪文の対抗呪文も唱えていただろう。

 だが、魔術師は極めれば極めるほどに威力が加算ではなく乗算されてゆく。

 簡易魔術陣による最低威力の隕石召喚は、敵陣後方に落ちたにも関わらず、衝撃でマーヤム族が馬ごと宙に舞っているのがスローモーションで見える。

 そして、衝撃の強風がこちらにも吹いてくるが、もう彼らに襲ってくる力は残っていなかった。


「逃げろ!

 このまま居たら殺されるぞ!」

「助けてくれ!

 こんな死に方はいやだ!!」


 だが、それを逃すようなエリオスではない。

 隣にいるマリエルと共に剣をかざして、その言葉を告げる。


「タリルカンド騎士団突撃!

 奴らを生かして返すな!!」


 タリルカンド騎士団の騎兵突撃にマーヤム族は完膚なきまでに崩れた。

 数千のマーヤム族で死者・負傷者・行方不明者は数知れず。

 降伏した捕虜も三千近くになる大勝利によって初戦は幕を閉じたのである。




「ありがとうございます!

 ウティナの街は救われました!!」


 合戦の勝利にウティナ伯が飛んできて私におべんちゃらを言う。

 まだ早いと言おうとして、後ろに控える商人達に視線が行く。


「伯爵。

 彼らはどなた?」


「はい。

 このあたりで商売を行っている奴隷商人達です。

 シボラのお嬢様が得た捕虜を買い取りたいとの事で」


 この時の私の顔は笑顔だったのだろう。

 壮絶に美しく、絶望的に美しく、全世界を呪わんがばかりに嘲笑を浮かべて、ウティナ伯達だけでなく隣に居たエリオスやマリエル、控えていたアルフレッドやサイモンまでドン引きさせていたのだから。

 私はお金持ちだが、万の兵がガチでぶつかる合戦を一人で賄えるほどのお金持ちではない。


「ええ。

 全部あなた方に売却いたしましょう。

 その代わり、現金ではなく、食料と物資を。

 マジックアイテムもあるだけ吐き出してくださいな」

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